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4.靴磨きとの約束
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多くの水路が張り巡らされ、石造りの家屋が並ぶ街『アーテルダム』。
ピクトマンサーのユカと手乗り白竜のミカは、この街で紙芝居をし路銭を稼いでいる。
ユカとミカは道具屋へお金の相談に行き、当面の支払いを猶予してもらった。
とはいえ、なんとかお代をもらわなければ、日々の宿にも困ってしまう。
貧乏生活から抜け出そうと、いつもの公園にあるレンガ壁の前へと赴くのだった。
◇◆◇
あるところに、靴磨きの娘がいました。
その娘は長く伸ばしたきれいな髪をしています。
どういう訳か、俯いてお客さんを待っています。
他の靴磨きたちは愛想良く、お客さんを呼び込んでいるのです。
だからでしょうか、その娘の前には、なかなかお客さんはやって来ません。
「靴磨きはいりませんか? 靴磨きですよ、鏡のようにとてもぴかぴかになりますよ」
消え入りそうな声で靴磨きの娘は声をかけています。
隣の靴磨き、そのまた隣の靴磨き、彼らの前にはお客さんがいて、せっせと靴を磨いています。
どれくらいそうしていたでしょうか。隣の靴磨きが乱暴な言葉をかけてきます。
「おい、お前がいると雰囲気が暗くて困るんだ! あっちへ行け!」
困った靴磨きの娘は道の端っこ、誰も人の通らないようなところへ移動するのでした。
人通りの少ない場所で、その娘はどうしたら良いのでしょう? 勇気を出して、顔をあげるのでしょうか?
しかし、靴磨きの娘は顔を伏せて俯いたままです。
たまに通る人も、不機嫌そうに声を投げていきます。すると、「何をしているのだ」と靴磨きの娘は男たちに取り囲まれてしまいました。
靴磨きの娘は悲しくなって、ただ、顔を隠して泣くばかりです。
「君たち、やめないか!」
そんな様子を見かねたのでしょう。一人の若者が靴磨きの娘をかばいます。散り散りになって逃げていく男たち。
安心した靴磨きの娘はようやく泣き止み、こう言いました。
「ありがとうございます。親切なお人。良ければ、私に靴を磨かせてくれないですか? お代はいりません」
優しい若者は、頬を掻くと「わかった、お願いしよう」と答えます。
靴磨きの娘は、俯いたまま言いました。
「ありがとうございます。でも、磨いている最中は、絶対に靴と私を見ないでくださいね。ピカピカにしますから、お願いします」
不思議に思った優しい若者でしたが、差し出された靴台に足を置きます。靴磨きの娘はゆっくりと、磨くためのクリーム、それから布を取り出すと、一生懸命、優しい若者の靴を磨きます。
「はい、出来ました。とてもきれいになりましたよ」
靴磨きの娘の言われた通り、靴と娘を見なかった優しい若者は、その声を合図に自分の靴を見ます。するとびっくり、そこには新品よりもきれいに光る、自分の靴がありました。
「こりゃあ、すごい。君はすごい靴磨きだね!」
若者は驚きのあまり、声をあげてくるくる回ります。その声と優しい若者のぴかぴかの靴に、何人かの人たちが集まってきます。
『私もやってくれ』そんな言葉に、靴磨きの娘は嬉しそうに靴を磨きます。
「精一杯きれいにします。でも、磨いているときは絶対に靴と私を見ないでくださいね」
どれくらいの靴を磨いたでしょうか。みんながぴかぴかになった靴に喜ぶ声をあげる中、さっきの乱暴な靴磨きがやってきます。
「おい、俺の靴も磨いてくれ! すごくきれいにしてくれよ!」
「いいですよ。その代わり、磨いているときは、絶対に靴と私をみないでくださいね」
この娘があまりにきれいに靴を磨くので、乱暴な靴磨きの男は、秘密を突き止めようとしに来たのです。「絶対に靴を見てはいけない」そう言われていたのに、ちらっと視線を下に向け、靴を眺めます。
すると、どうでしょう。ぴかぴかに磨き上げられていく自分の靴に、娘の目が映ります。
乱暴な男は、最後にこう言いました。
「おい、靴磨きの娘。お前はすごく、目がきれいだな」
靴磨きの娘がはっとする間もなく、乱暴な男は石になってしまいました。
そう、靴磨きの娘はメデューサだったのです。ぴかぴかに磨かれた靴に目が映って、目を見た乱暴な男を石に変えてしまったのでした。
「あぁ、もうここでは靴磨きは出来ないわ」
そう言って、靴磨きの娘は立ち去りました。
あとには、片足を磨き台に乗せた、石像が一つ。つるつるした乱暴な靴磨きの石像は、ぴかぴかの靴を履いているのでした。
◇◆◇
「めでたし、めでたし」
ユカが紙芝居を終えると、ぱちぱちとまばらな拍手が公園の片隅に起きる。ようやく少しは楽しんでもらえた、ユカは満足そうに子供たちへ一礼する。
頭にちょこんと被った帽子を差し出して、周囲の観客へこう告げるのだった。
「皆さんも人に親切にして、言われたことはちゃんと守ると良いですよ」
「おぉ、そうじゃ。それからな、飴玉ポーションを買って行ってくれると我はありがたいぞ」
教訓よりも大事なことがあるだろう、そんなことを言いたげなミカの顔を見て、にっこり微笑むユカであった。
ピクトマンサーのユカと手乗り白竜のミカは、この街で紙芝居をし路銭を稼いでいる。
ユカとミカは道具屋へお金の相談に行き、当面の支払いを猶予してもらった。
とはいえ、なんとかお代をもらわなければ、日々の宿にも困ってしまう。
貧乏生活から抜け出そうと、いつもの公園にあるレンガ壁の前へと赴くのだった。
◇◆◇
あるところに、靴磨きの娘がいました。
その娘は長く伸ばしたきれいな髪をしています。
どういう訳か、俯いてお客さんを待っています。
他の靴磨きたちは愛想良く、お客さんを呼び込んでいるのです。
だからでしょうか、その娘の前には、なかなかお客さんはやって来ません。
「靴磨きはいりませんか? 靴磨きですよ、鏡のようにとてもぴかぴかになりますよ」
消え入りそうな声で靴磨きの娘は声をかけています。
隣の靴磨き、そのまた隣の靴磨き、彼らの前にはお客さんがいて、せっせと靴を磨いています。
どれくらいそうしていたでしょうか。隣の靴磨きが乱暴な言葉をかけてきます。
「おい、お前がいると雰囲気が暗くて困るんだ! あっちへ行け!」
困った靴磨きの娘は道の端っこ、誰も人の通らないようなところへ移動するのでした。
人通りの少ない場所で、その娘はどうしたら良いのでしょう? 勇気を出して、顔をあげるのでしょうか?
しかし、靴磨きの娘は顔を伏せて俯いたままです。
たまに通る人も、不機嫌そうに声を投げていきます。すると、「何をしているのだ」と靴磨きの娘は男たちに取り囲まれてしまいました。
靴磨きの娘は悲しくなって、ただ、顔を隠して泣くばかりです。
「君たち、やめないか!」
そんな様子を見かねたのでしょう。一人の若者が靴磨きの娘をかばいます。散り散りになって逃げていく男たち。
安心した靴磨きの娘はようやく泣き止み、こう言いました。
「ありがとうございます。親切なお人。良ければ、私に靴を磨かせてくれないですか? お代はいりません」
優しい若者は、頬を掻くと「わかった、お願いしよう」と答えます。
靴磨きの娘は、俯いたまま言いました。
「ありがとうございます。でも、磨いている最中は、絶対に靴と私を見ないでくださいね。ピカピカにしますから、お願いします」
不思議に思った優しい若者でしたが、差し出された靴台に足を置きます。靴磨きの娘はゆっくりと、磨くためのクリーム、それから布を取り出すと、一生懸命、優しい若者の靴を磨きます。
「はい、出来ました。とてもきれいになりましたよ」
靴磨きの娘の言われた通り、靴と娘を見なかった優しい若者は、その声を合図に自分の靴を見ます。するとびっくり、そこには新品よりもきれいに光る、自分の靴がありました。
「こりゃあ、すごい。君はすごい靴磨きだね!」
若者は驚きのあまり、声をあげてくるくる回ります。その声と優しい若者のぴかぴかの靴に、何人かの人たちが集まってきます。
『私もやってくれ』そんな言葉に、靴磨きの娘は嬉しそうに靴を磨きます。
「精一杯きれいにします。でも、磨いているときは絶対に靴と私を見ないでくださいね」
どれくらいの靴を磨いたでしょうか。みんながぴかぴかになった靴に喜ぶ声をあげる中、さっきの乱暴な靴磨きがやってきます。
「おい、俺の靴も磨いてくれ! すごくきれいにしてくれよ!」
「いいですよ。その代わり、磨いているときは、絶対に靴と私をみないでくださいね」
この娘があまりにきれいに靴を磨くので、乱暴な靴磨きの男は、秘密を突き止めようとしに来たのです。「絶対に靴を見てはいけない」そう言われていたのに、ちらっと視線を下に向け、靴を眺めます。
すると、どうでしょう。ぴかぴかに磨き上げられていく自分の靴に、娘の目が映ります。
乱暴な男は、最後にこう言いました。
「おい、靴磨きの娘。お前はすごく、目がきれいだな」
靴磨きの娘がはっとする間もなく、乱暴な男は石になってしまいました。
そう、靴磨きの娘はメデューサだったのです。ぴかぴかに磨かれた靴に目が映って、目を見た乱暴な男を石に変えてしまったのでした。
「あぁ、もうここでは靴磨きは出来ないわ」
そう言って、靴磨きの娘は立ち去りました。
あとには、片足を磨き台に乗せた、石像が一つ。つるつるした乱暴な靴磨きの石像は、ぴかぴかの靴を履いているのでした。
◇◆◇
「めでたし、めでたし」
ユカが紙芝居を終えると、ぱちぱちとまばらな拍手が公園の片隅に起きる。ようやく少しは楽しんでもらえた、ユカは満足そうに子供たちへ一礼する。
頭にちょこんと被った帽子を差し出して、周囲の観客へこう告げるのだった。
「皆さんも人に親切にして、言われたことはちゃんと守ると良いですよ」
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