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8.魔王と男女の別れ
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多くの水路が張り巡らされ、石造りの家屋が並ぶ街『アーテルダム』。
ピクトマンサーのユカと手乗り白竜のミカは、この街に留まって紙芝居屋をしている。
ピクトマンサーとは、魔力を用いて絵を描くことで、その絵を動かしたり、不思議な力を使ったりすることのできる、召喚士とテイマーを足して二で割ったような職業だ。
ユカが描く紙芝居はピクトマンサーの術を使って、描かれた絵を動かしている。
そのため、物珍しさも手伝って、子供から大人まで大人気……となるはずが、どうにも上手く行っていないのであった。
「今日こそは、まっとうな話を子供たちに披露せねばなるまいぞ」
手乗りサイズの白竜、ミカは鼻息を荒くしている。
「私はいつだって、良い話を披露しているつもりなのですが……」
◇◆◇
むかし、魔王と呼ばれる存在が、世界を恐怖に陥れていた頃の話です。
「人間など、恐れるに足らぬ。我が魔力を使って、人間どもの絆をばらばらにしてやろう」
魔王はそう言って、ふかくふかく愛し合っていた、一組の男女に目を付けます。
「おとこよ、お前は朝と昼は白馬の姿にしてやろう、せいぜい悲しむのだな」
「おんなよ、お前は昼と夜は白鳥の姿にしてやろう、せいぜい苦悩するのだな」
愛し合っていた男女はそうして、魔王の呪いで白馬と白鳥に姿を変えられてしまいました。
お互いが人の姿で過ごすことの出来ない、辛い辛い日々が始まります。
それでも、深く愛し合っていた男女は、日々励まし合い、慈しんで、お互いを思いやります。
朝はおんなが、白馬となってしまったおとこをかいがいしく世話しました。
昼は仲良く、白馬と白鳥の姿で、草原と大空を駆け巡りました。
夜はおとこが、白鳥となってしまったおんなの羽をやさしく撫でてあげました。
それから、どれくらいの月日が流れたでしょうか。
昼に仲良く草原と大空を駆け巡っていた白馬と白鳥は、魔王の命を受けた狩人に狙われてしまいます。
「動物にされたのに絆が壊れないなんて、おかしいやつらだ。この矢で撃ってやる」
びゅっと矢が射られます。
矢は、白馬を貫いて大地に倒し、血の池を作ります。
白鳥も矢を受け、大空から地面へ落ちて、血の雨を降らせるのでした。
死の淵に近づいたことで呪いは解けたのでしょう。ようやく元の姿に戻った男女は最後の力を振り絞ります。
震える手は血に塗れ、暖かだった体温が少しずつ冷たくなっていきます。
周りの景色がぼやけ、だんだんと目の前にいる大事な人の姿が、見えなくなっていきます。
それでも、決して離すことはない。
二人は最期のさいごまで、互いの手を取って言葉を交わすのでした。
「ぼくは、あなたと過ごせて幸せでした」
「わたしも、あなたと過ごせて幸せでした」
「「思い残すことはありません」」
二人に明けることのない眠りが訪れることを、みなはどう思うのでしょうか。
悲劇、別れ、喪失……きっと、人によって表し方は違うでしょう。
しかし、二人が言葉を交わして息を引き取った時、奇跡が起こっていたのです。
おとことおんなの魂は天へ上ります。ゆっくりと二人で舞うように。
愛し合っていた二人は、お互いの魂をそっと一つまみすると、それを地上に向かって落とします。
ひとかけらだけ地上に落とされた、ふかくふかく愛し合う男女の魂
その魂の欠片は混ざり合い、一つの形を作りました。
白い羽根、白い足、白い胴体、そして、優しい目。
そうです、一頭のペガサスが生まれたのです。
真っ白な美しいペガサスは大地を走り、大空を飛翔して、どこまでもどこまでも遠くへ。
誰にも縛られない、とても自由な姿で、山と大地と雲を越え、果てしなく続く、未来へと進んでいくのでした。
◇◆◇
ぱちぱちぱちぱち
ペガサスが夕焼けに向けて飛んでいく最後のページを子供たちに見せていると、拍手が聞こえてくる。
今日の紙芝居は、ミカの監修で作ったものだったが、評判は上々だったみたいだ。
「みなさん、ありがとうございます。絆を大切に、これからも過ごしてくださいね」
「そうだぞ。あと、この帽子にお代を入れてくれるとありがたい。飴玉ポーションと交換するぞ」
母親に手を引かれた女の子がユカの持つ帽子にお金を入れてくれる。
こうやって穏やかにお代をもらうのは久しぶりだなあ、そんなことをユカは思いながら女の子へ飴玉ポーションを手渡す。
ミカも嬉しそうに、子供たちへ飴玉ポーションを渡している。
上々で終わった紙芝居劇の帰り道、そろそろこの『アーテルダム』でのお披露目もお終いかなあ、とユカは考えていた。
「ミカさま、そろそろ次の街へ行きますか?」
「うーむ。どうするか。場所を変えると言うだけでも良さそうではあるがなあ」
「うーん。少し考えてみましょうかねえ」
道具屋のアーテムに頼んで作ってもらった飴玉ポーションがちょうど無くなり、街を移動するか追加で作ってもらうかユカは迷うところだった。
(とりあえず、今日はゆっくりしようかなあ)
後のことは宿に戻って考えよう、ユカはそう決めてミカと並んで帰り道を進んでいった。
ピクトマンサーのユカと手乗り白竜のミカは、この街に留まって紙芝居屋をしている。
ピクトマンサーとは、魔力を用いて絵を描くことで、その絵を動かしたり、不思議な力を使ったりすることのできる、召喚士とテイマーを足して二で割ったような職業だ。
ユカが描く紙芝居はピクトマンサーの術を使って、描かれた絵を動かしている。
そのため、物珍しさも手伝って、子供から大人まで大人気……となるはずが、どうにも上手く行っていないのであった。
「今日こそは、まっとうな話を子供たちに披露せねばなるまいぞ」
手乗りサイズの白竜、ミカは鼻息を荒くしている。
「私はいつだって、良い話を披露しているつもりなのですが……」
◇◆◇
むかし、魔王と呼ばれる存在が、世界を恐怖に陥れていた頃の話です。
「人間など、恐れるに足らぬ。我が魔力を使って、人間どもの絆をばらばらにしてやろう」
魔王はそう言って、ふかくふかく愛し合っていた、一組の男女に目を付けます。
「おとこよ、お前は朝と昼は白馬の姿にしてやろう、せいぜい悲しむのだな」
「おんなよ、お前は昼と夜は白鳥の姿にしてやろう、せいぜい苦悩するのだな」
愛し合っていた男女はそうして、魔王の呪いで白馬と白鳥に姿を変えられてしまいました。
お互いが人の姿で過ごすことの出来ない、辛い辛い日々が始まります。
それでも、深く愛し合っていた男女は、日々励まし合い、慈しんで、お互いを思いやります。
朝はおんなが、白馬となってしまったおとこをかいがいしく世話しました。
昼は仲良く、白馬と白鳥の姿で、草原と大空を駆け巡りました。
夜はおとこが、白鳥となってしまったおんなの羽をやさしく撫でてあげました。
それから、どれくらいの月日が流れたでしょうか。
昼に仲良く草原と大空を駆け巡っていた白馬と白鳥は、魔王の命を受けた狩人に狙われてしまいます。
「動物にされたのに絆が壊れないなんて、おかしいやつらだ。この矢で撃ってやる」
びゅっと矢が射られます。
矢は、白馬を貫いて大地に倒し、血の池を作ります。
白鳥も矢を受け、大空から地面へ落ちて、血の雨を降らせるのでした。
死の淵に近づいたことで呪いは解けたのでしょう。ようやく元の姿に戻った男女は最後の力を振り絞ります。
震える手は血に塗れ、暖かだった体温が少しずつ冷たくなっていきます。
周りの景色がぼやけ、だんだんと目の前にいる大事な人の姿が、見えなくなっていきます。
それでも、決して離すことはない。
二人は最期のさいごまで、互いの手を取って言葉を交わすのでした。
「ぼくは、あなたと過ごせて幸せでした」
「わたしも、あなたと過ごせて幸せでした」
「「思い残すことはありません」」
二人に明けることのない眠りが訪れることを、みなはどう思うのでしょうか。
悲劇、別れ、喪失……きっと、人によって表し方は違うでしょう。
しかし、二人が言葉を交わして息を引き取った時、奇跡が起こっていたのです。
おとことおんなの魂は天へ上ります。ゆっくりと二人で舞うように。
愛し合っていた二人は、お互いの魂をそっと一つまみすると、それを地上に向かって落とします。
ひとかけらだけ地上に落とされた、ふかくふかく愛し合う男女の魂
その魂の欠片は混ざり合い、一つの形を作りました。
白い羽根、白い足、白い胴体、そして、優しい目。
そうです、一頭のペガサスが生まれたのです。
真っ白な美しいペガサスは大地を走り、大空を飛翔して、どこまでもどこまでも遠くへ。
誰にも縛られない、とても自由な姿で、山と大地と雲を越え、果てしなく続く、未来へと進んでいくのでした。
◇◆◇
ぱちぱちぱちぱち
ペガサスが夕焼けに向けて飛んでいく最後のページを子供たちに見せていると、拍手が聞こえてくる。
今日の紙芝居は、ミカの監修で作ったものだったが、評判は上々だったみたいだ。
「みなさん、ありがとうございます。絆を大切に、これからも過ごしてくださいね」
「そうだぞ。あと、この帽子にお代を入れてくれるとありがたい。飴玉ポーションと交換するぞ」
母親に手を引かれた女の子がユカの持つ帽子にお金を入れてくれる。
こうやって穏やかにお代をもらうのは久しぶりだなあ、そんなことをユカは思いながら女の子へ飴玉ポーションを手渡す。
ミカも嬉しそうに、子供たちへ飴玉ポーションを渡している。
上々で終わった紙芝居劇の帰り道、そろそろこの『アーテルダム』でのお披露目もお終いかなあ、とユカは考えていた。
「ミカさま、そろそろ次の街へ行きますか?」
「うーむ。どうするか。場所を変えると言うだけでも良さそうではあるがなあ」
「うーん。少し考えてみましょうかねえ」
道具屋のアーテムに頼んで作ってもらった飴玉ポーションがちょうど無くなり、街を移動するか追加で作ってもらうかユカは迷うところだった。
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