16 / 57
5章:その手のぬくもり
5-3
しおりを挟む私が選んでいたのは、法廷コメディ。今話題なのだ。
決して先輩を意識したわけではない。
見終わった後、外に出ると、外はもう暗くなっていた。スマホをつけると、父から、『少し遅くなりそうだから、羽柴先生によろしく』とメールが入っている。
(何をよろしくするんだ、なにを!)
そんなことを思っていると、
「面白かったね。コメディなのに法廷のシーンもなかなか迫力あった」
と、先輩が隣で笑う。
そういえば先輩は裁判には慣れているだろうと、
「ああいった事、実際にあるんですか?」
と聞いてみた。
「あんな風になることはまずないけど、でも、心情としてはきっとそうなんだろうなぁって思ったよ」
先輩は何かを思い出したように微笑む。その顔は、俳優が演じていたものより、何倍も弁護士に見えた。
「先輩って……やっぱり弁護士だったんですね」
「今までなんだと思ってたの?」
「うーん……なんでしょう」
「はは。そこで悩むんだ」
先輩は楽しそうに笑う。「ついでにさ、行きたいところがあるんだけどちょっとだけいい?」
私は私で父に頼まれて、わざわざ来てくれている先輩に対して、ちょっとした後ろ暗さもありそれに頷いた。
先輩が連れて行ってくれたのは、先輩の法律事務所の入っているビルの屋上。
そこには花々が埋められ、イルミネーションとまでは行かないが、その花を大事に慈しむように、かわいい電気がいくつも点いていた。
「わぁ! かわいい!」
「ここ、みゆにも見せたかったんだ。うちのビルのオーナーが女性で、センス良くてね。ギラギラしたものじゃなくて、ほっとする空間を作りたいってコンセプトみたい」
「ほんとステキ!」
私がその花を見て微笑むと、先輩はくすっと笑って、私の右手をすっと手に取ってそのまま手をつなぐ。
私は慌てて先輩を見上げた。
「せ、先輩……?」
「ごめん。笑ってるみゆが、かわいすぎて」
「なっ……!」
(かわいいとか平然と言わないで!)
絶対今、顔が赤い。あたりが暗くて良かった……。
そんなことを考えて押し黙ると、先輩は話し出した。
「この前はごめんね。突然あんなこと言われても困ったよね」
『あんなこと』とは、私にしか反応しないってことだろう。
「……いえ」
私は思わずつぶやく。だって、どう返事していいのか、今でも全く分からないのだ。
「でもね、俺がみゆと結婚したいって言ったのは、身体が反応するからっていう理由だけじゃないからね」
先輩がそう言い、驚いて先輩を見上げると、先輩はこちらをじっと見つめていた。
「俺はみゆとしか、愛し合いたいと思わないんだよ」
その言葉に、私は息が止まる。「だから、身体まで素直にそう反応してるだけなんだと思うんだ……。みゆのためなら俺は全部みゆに捧げられる」
私は先ほどの父の言葉を思い出していた。
父も、ママとしか愛し合いたいって思わない、って言ってた。私はそんな父と母に憧れた。
この先輩の変な愛情は、
私の憧れた……父と母のような愛情と同じなの……?
先輩の手に力が入る。先輩の手は私の手より熱かった。
「みゆ。このまま、手、握っててもいい?」
「……」
そんなの、答えられるはずない。私だって、答えが分からないんだから……。
そんな風に思っていると、
「答えないと、このまま手を離さないよ」
と先輩は言う。
私は泣きそうになりながらそのまま下を向いた。
それだけなのに、先輩は嬉しそうに笑うと、
「ありがとう、みゆ」
と、また強く、大事そうに、私の手を握り締めた。
13
あなたにおすすめの小説
行き遅れのお節介令嬢、氷の公爵様と結婚したら三人娘の母になりました
鳥柄ささみ
恋愛
お節介焼きで困っている人を放っておけないシアは、数多のご令嬢達から人気の令嬢だ。毎日ファンレターが届き、社交界に出れば令嬢に取り囲まれるほどである。
けれど、それに反比例するように男性からの人気はなく、二十七だというのに嫁の貰い手もないため、毎日母から小言をもらっていた。
そんなある日のこと、突然公爵家から縁談の話が。
シアは公爵家がなぜ自分に縁談など持ち掛けるのかと訝しく思いつつ話を受けると、なんと公爵の後妻として三人の娘の母代わりになれと言われる。
困惑するも、自分へ縁談を持ちかけた理由を聞いて、お節介なシアは嫁ぐこと決めたのだった。
夫になるレオナルドはイケメンなのに無表情で高圧的。三人の娘も二女のアンナを除いて長女のセレナも三女のフィオナもとても反抗的。
そんな中でもお節介パワーを発揮して、前向きに奮闘するシアの物語。
※他投稿サイトにも掲載中
腹黒外科医に唆された件~恋人(仮)のはずが迫られています~
有木珠乃
恋愛
両親を亡くし、二人だけの姉妹になった一ノ瀬栞と琴美。
ある日、栞は轢き逃げ事故に遭い、姉の琴美が務める病院に入院することになる。
そこで初めて知る、琴美の婚約者の存在。
彼らの逢引きを確保するために利用される栞と外科医の岡。
「二人で自由にならないか?」を囁かれて……。
身代りの花嫁は25歳年上の海軍士官に溺愛される
絵麻
恋愛
桐島花は父が病没後、継母義妹に虐げられて、使用人同然の生活を送っていた。
父の財産も尽きかけた頃、義妹に縁談が舞い込むが継母は花を嫁がせた。
理由は多額の結納金を手に入れるため。
相手は二十五歳も歳上の、海軍の大佐だという。
放り出すように、嫁がされた花を待っていたものは。
地味で冴えないと卑下された日々、花の真の力が時東邸で活かされる。
子供が可愛いすぎて伯爵様の溺愛に気づきません!
屋月 トム伽
恋愛
私と婚約をすれば、真実の愛に出会える。
そのせいで、私はラッキージンクスの令嬢だと呼ばれていた。そんな噂のせいで、何度も婚約破棄をされた。
そして、9回目の婚約中に、私は夜会で襲われてふしだらな令嬢という二つ名までついてしまった。
ふしだらな令嬢に、もう婚約の申し込みなど来ないだろうと思っていれば、お父様が氷の伯爵様と有名なリクハルド・マクシミリアン伯爵様に婚約を申し込み、邸を売って海外に行ってしまう。
突然の婚約の申し込みに断られるかと思えば、リクハルド様は婚約を受け入れてくれた。婚約初日から、マクシミリアン伯爵邸で住み始めることになるが、彼は未婚のままで子供がいた。
リクハルド様に似ても似つかない子供。
そうして、マクリミリアン伯爵家での生活が幕を開けた。
【完結】俺様御曹司の隠された溺愛野望 〜花嫁は蜜愛から逃れられない〜
椿かもめ
恋愛
「こはる、俺の妻になれ」その日、大女優を母に持つ2世女優の花宮こはるは自分の所属していた劇団の解散に絶望していた。そんなこはるに救いの手を差し伸べたのは年上の幼馴染で大企業の御曹司、月ノ島玲二だった。けれど代わりに妻になることを強要してきて──。花嫁となったこはるに対し、俺様な玲二は独占欲を露わにし始める。
【幼馴染の俺様御曹司×大物女優を母に持つ2世女優】
☆☆☆ベリーズカフェで日間4位いただきました☆☆☆
※ベリーズカフェでも掲載中
※推敲、校正前のものです。ご注意下さい
『冷徹社長の秘書をしていたら、いつの間にか専属の妻に選ばれました』
鍛高譚
恋愛
秘書課に異動してきた相沢結衣は、
仕事一筋で冷徹と噂される社長・西園寺蓮の専属秘書を務めることになる。
厳しい指示、膨大な業務、容赦のない会議――
最初はただ必死に食らいつくだけの日々だった。
だが、誰よりも真剣に仕事と向き合う蓮の姿に触れるうち、
結衣は秘書としての誇りを胸に、確かな成長を遂げていく。
そして、蓮もまた陰で彼女を支える姿勢と誠実な仕事ぶりに心を動かされ、
次第に結衣は“ただの秘書”ではなく、唯一無二の存在になっていく。
同期の嫉妬による妨害、ライバル会社の不正、社内の疑惑。
数々の試練が二人を襲うが――
蓮は揺るがない意志で結衣を守り抜き、
結衣もまた社長としてではなく、一人の男性として蓮を信じ続けた。
そしてある夜、蓮がようやく口にした言葉は、
秘書と社長の関係を静かに越えていく。
「これからの人生も、そばで支えてほしい。」
それは、彼が初めて見せた弱さであり、
結衣だけに向けた真剣な想いだった。
秘書として。
一人の女性として。
結衣は蓮の差し伸べた未来を、涙と共に受け取る――。
仕事も恋も全力で駆け抜ける、
“冷徹社長×秘書”のじれ甘オフィスラブストーリー、ここに完結。
【完結】あなた専属になります―借金OLは副社長の「専属」にされた―
七転び八起き
恋愛
『借金を返済する為に働いていたラウンジに現れたのは、勤務先の副社長だった。
彼から出された取引、それは『専属』になる事だった。』
実家の借金返済のため、昼は会社員、夜はラウンジ嬢として働く優美。
ある夜、一人でグラスを傾ける謎めいた男性客に指名される。
口数は少ないけれど、なぜか心に残る人だった。
「また来る」
そう言い残して去った彼。
しかし翌日、会社に現れたのは、なんと店に来た彼で、勤務先の副社長の河内だった。
「俺専属の嬢になって欲しい」
ラウンジで働いている事を秘密にする代わりに出された取引。
突然の取引提案に戸惑う優美。
しかし借金に追われる現状では、断る選択肢はなかった。
恋愛経験ゼロの優美と、完璧に見えて不器用な副社長。
立場も境遇も違う二人が紡ぐラブストーリー。
会社のイケメン先輩がなぜか夜な夜な私のアパートにやって来る件について(※付き合っていません)
久留茶
恋愛
地味で陰キャでぽっちゃり体型の小森菜乃(24)は、会社の飲み会で女子一番人気のイケメン社員・五十嵐大和(26)を、ひょんなことから自分のアパートに泊めることに。
しかし五十嵐は表の顔とは別に、腹黒でひと癖もふた癖もある男だった。
「お前は俺の恋愛対象外。ヤル気も全く起きない安全地帯」
――酷い言葉に、菜乃は呆然。二度と関わるまいと決める。
なのに、それを境に彼は夜な夜な菜乃のもとへ現れるようになり……?
溺愛×性格に難ありの執着男子 × 冴えない自分から変身する健気ヒロイン。
王道と刺激が詰まったオフィスラブコメディ!
*全28話完結
*辛口で過激な発言あり。苦手な方はご注意ください。
*他誌にも掲載中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる