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16章:俺と彼女と彼女の父親(side羽柴)
16-1
しおりを挟む―――私、このまま先輩とずっと一緒にいたい。
眠りに入る前、彼女がつぶやいて、
その言葉に思わず泣きそうになった。
高校3年生の時。
思い出したのは、あの時、あの瞬間。
高校生の頃の自分は、モテてるって自覚もあったし、自分の父親のことでイラつくことも多くて、女の子に誘われれば手を出すくらいのことは当たり前にしていた。
どこか世間を斜めに見ていた。どうせ大学を卒業すれば父の一族の会社に入ると決まっていることも知っていたから、余計だったのかもしれない。
自分では『自分はとっくに大人になっている。』と思ってて、かわいげもない高校生だったと思う。外面はいいくせに、内面では毎日やけにイライラしていた。
女の子とそういう事をする以外に、ストレス発散になったことと言えば、走ることくらいだった。だから陸上部にいたのだ。昔から走ることだけはなぜか好きだった。その時は単純に、何も考えないでいられるから走ることが好きなのだと思っていた。
3年になった時、1年のみゆが陸上部に入ってきて、最初はみゆの走る姿を見て気になった。きれいなフォームだな、と思った。どこか、自分のそれに似ている気がした。
自分から誰かに興味を持つははじめてだったので戸惑いがあったのは事実だ。
ただ、みゆのほうも俺のことが好きだろうって思ってた。俺は外面だけは良かったし、顔も整ってると自覚している。でも、みゆは周りの目ばかり気にして、絶対にみゆから近づいてこなかった。
少々強引にいけば……無理やりにでも身体を重ねれば、きっと彼女が落ちるのは時間の問題だろうと、今思えば、そんな最低なことを考えていたと思う。
そしてあの日。
強引に行こうとして、飛び蹴りされて、入院したあの日。
あの瞬間。
俺の脳裏には、ある一つのシーンが流れていた。
―――女の子と手をつないで必死に走ったあの日のことだ。
どうしてあんなものを急に思い出したのだろう。
悩んでいたが、答えは案外すぐに見つかった。
「みゆが……本当に、申し訳ありませんでした」
みゆの飛び蹴りでけがをして入院している時、そう言って俺の入院先の病院にやってきたのは、みゆの父親で刑事の柊風太だった。
「……いや、みゆが悪いんじゃないですから」
みゆの飛び蹴りが原因の事故だなんて、誰にも言ってなかった。みゆもたぶん誰にも言わないだろうと思った。自分は慌てる彼女に口止めをしたのだ。
それにみゆが悪いんじゃないって、俺自身はわかっていたから。
強引にみゆを抱こうとした自分が完全に悪い。
でも、みゆの様子からわかったらしいみゆの父は、みゆに告げずに、俺の入院先の病院に現れたのだ。
刑事と言うのは、勘が鋭いものなんだろうと、その時、そんなことを思った。
「俺が悪いんです」
そう言った俺に、でも入院費だけは出させて、親御さんにも話はつけてあるから、とみゆの父はなおも頭を下げた。
「わかりましたけど……本当に、それ以上はやめてください」
「あぁ、ありがとう」
そう言って顔を上げたみゆの父親の顔をまっすぐ見たとき、思い出したのだ。
「あなた……あのときの? 会ったこと、ありますよね……」
混乱して、そんなことを言ったと思う。「昔……一度お見かけしたことがあって。小学生の時です。そのあと、テレビで見て……」
混乱したように俺が言うと、みゆの父は本当に驚いた顔をした。
「……もしかして、覚えてたの? 忘れてるんだと……」
「正確には、怪我をした時に思い出したんです」
ちょうど飛び蹴りされた時に見た夢。
女の子の手をつないで必死に走ってた小学生の自分。
「僕も君が、毎日みゆを家まで送ってきてくれてるのを見て、気づいて驚いた。あの時、君は自分から名乗り出ることはなかったし、どこのだれかもわからなかったから。それに、みゆは、本当にあの時のことを覚えてないし。それが理由にはならないだろうけど、なかなかお礼を言えなくて、申し訳なかった。だからきちんと言わせて。本当にありがとう……」
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