羽柴弁護士の愛はいろいろと重すぎるので返品したい。

泉野あおい

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16章:俺と彼女と彼女の父親(side羽柴)

16-2

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*****


―――俺は昔、人助けをしたことがある。自分でもすっかり忘れていたけど。


 その日、俺は、母親に連れられて歩いていた。
母親の表情は不安に満ちていて、その日は、父親とこれから離婚についての話し合いに行く、と聞かされていた。

 浮かない気分で歩いていると、俺より少し小さな女の子が男に連れられて横を通り過ぎた。

 一見男はその子の父親かと思ったけど、あきらかに女の子はおびえた様子で、俺はそれを見て、「ちょっとだけ待ってて」と母親に告げると、男の隙をついて女の子の手を握って走ったのだ。


「走って!」

 周りの大人も気づいていたかもしれない。でも、『間違っていたら……』と思ったのか、誰も動かなかった。女の子が泣き叫べばわかったのかもしれないが、実際に恐怖の中にいる子がそんなことはなかなかできないものだろう。

 ただ、小学生の自分がその子の手を引く分には、間違っていても怒られない。そんな風に思ったような気がする。

 女の子は俺の声に弾かれたように走り出した。

「速いじゃん! もっとこう、手を振ったほうがもっと速く走れるよ! やってみて!」

 緊張させないように、そんな言葉を言ったような気がする。
 女の子は泣きそうな顔で、でも一生懸命走っていた。



 子どもの足とはいえ、その子も速かったし、細い路地にも小さな体は入りやすかったので、細い路地を何本か通ると、男の姿はすっかり見えなくなっていた。男の方も、日中、子どもを追いかけまわすなんてできなかったのだろう。

 俺は路地裏で止まって、男がいないことを確認してから息を吐いた。久しぶりに全力疾走して、自分の気分もいくらかましになっていることに気づいた。

「一緒にいたの、お父さん?」
「しらないひと」

 女の子は、やっとのようにそれだけ言葉にしてくれた。

 路地裏に小さなお店を見つけて、一緒に入る。そこの店番のおばあさんに事情を話して、警察に連絡を入れてもらった。

「もう大丈夫だから」

 震える女の子の肩を撫でる。
 駆けつけた刑事たちの中の一人が、女の子の名を呼んで抱きしめていた。俺はその刑事にその子を見かけた場所を伝えると、自分の母親の不安そうな顔を思い出し、その場を走り去った。


 その日は結局、両親の離婚が決まり引っ越しの手続きなどバタバタとしていたのだけど、夜にニュースで見ると、あの日、あそこで見た男はつかまっていた。捕まえて連行する映像には、あの刑事が犯人の肩を掴んで映っていた。

 ちなみに、女の子を誘拐したその男は、誘拐だけでなく、殺人を含む多くの罪を犯していたらしい。もしあのままあの子が連れ去られていたら……。
 俺はあの時、あの子が無事でよかった、と心から思っていた。


*****

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