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2 入学
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俺は困惑した頭のまま、歯を磨いて居間に向かった。
居間にはおじさんとおばさんが居て、不機嫌そうに俺を見た。
「ジル。早く軍に入って家にお金を入れてもらえないと困りますよ」
「すみません、おばさん」
「お前を養うのに1年も無駄金を使わされたんだ。これからは今まで育ててやった分も含めてきっちり払えよ」
「はい。もちろんです」
俺が2人に笑顔を作って答えると、横でマルセルが不機嫌な顔をした。
幼い頃に両親が死んだ俺を近所のよしみで引き取り育ててくれたおじさんとおばさんは、昔から俺を厄介者扱いする。そんな2人に対して、マルセルは間に入って庇ってくれたりしたのだ。
だが、その度に2人の機嫌はさらに悪くなり、俺へのあたりが強くなる。
マルセルがそれに気が付いてからは、2人の前で俺を庇うことはやめた。
だが、俺とマルセルしか居ない場所だとマルセルは普通の家族みたいに接してくれて俺はこの家にマルセルが居てくれて本当に良かったと思っていた。
この夢の中では俺は怪我をして1年遅れて入学することになってしまったらしい。エドガー隊長の受け持つクラスは1学年上になってしまうので、前のようにエドガー隊長の授業は受けられないということだ。
この夢は一体いつまで続くんだろう。
懐かしい校舎を見上げて学校の敷地内に足を踏み入れると、自然とシャキッと背筋が伸びる。
入学式で整列し前を見ると教官の中にエドガー隊長がいた。
凛としたただずまいで他の教官と比べると体も大きくオーラが違う。
やっぱ、かっこいいな。
入学式が終わり、エドガー隊長が体育館を出て行ったので俺は後を追いかけた。
「教官!」
エドガー隊長に呼びかけると彼は訝しげに振り向いた。
だが、冷たい目で俺の階級章を一瞥して無言で去って行ってしまった。
隊長のあんな冷たい顔を見るのは初めてだった。
心臓がバクバクと鳴ってショックを抑えられない。
その後はとぼとぼと教室までの道を歩いた。
その歩く間に昔、同僚に教えられたパラレルワールドの話を思い出していた。
人が選んだ選択肢の数だけ世界は無数に割れていて、例えば今ここでお茶を飲むか、水を飲むかだけでも違う世界になって、その小さな積み重ねで大きく違う世界が広がっているんだと教えられた。
俺はその時はあまり興味はなかったけど、その同僚は嬉しそうに俺に話してたっけ。
ここは俺の走馬灯でも何でもなくそのパラレルワールドなのだろうか。
手に触れるもの、全ての生々しい感覚に俺はそう思わざるを得なかった。
隊長は誰にだって優しくて、あんな顔をする人じゃなかったのに、この世界のエドガー隊長にはそうなってしまっただけの過去があるんだろうか。
俺に助けてあげられることは無いんだろうか。
教室に入って一番後ろの窓側の席に座った。
しばらくして教室のドアが開き、教官が入ってくるのが分かった。
「……なんで……」
思わず呟いた。
教卓の前まで背筋を伸ばして歩いているのはエドガーだった。
前の世界でいけば1学年上の担当をしているはずだ。
「君たちの教官を務めるエドガー・フォン・ドランザーだ。よろしく」
自己紹介をしたエドガーは、前の世界の時とそう変わらないように見えた。
だが、教室を見渡して俺と目が合うと引きつった顔をした。
「なぜ……こいつがこのクラスにいる」
「え……?」
先ほどの冷たい目で問われて、俺は戸惑った。
「ここは士官クラスだ。平民は隣の一般だろう」
「あ、俺は首席合格だったためこのクラスに」
姿勢を正してそう言うとエドガーは一応納得したように「そうか」と言って何事も無かったように授業で使う資料などを配り始めた。
居間にはおじさんとおばさんが居て、不機嫌そうに俺を見た。
「ジル。早く軍に入って家にお金を入れてもらえないと困りますよ」
「すみません、おばさん」
「お前を養うのに1年も無駄金を使わされたんだ。これからは今まで育ててやった分も含めてきっちり払えよ」
「はい。もちろんです」
俺が2人に笑顔を作って答えると、横でマルセルが不機嫌な顔をした。
幼い頃に両親が死んだ俺を近所のよしみで引き取り育ててくれたおじさんとおばさんは、昔から俺を厄介者扱いする。そんな2人に対して、マルセルは間に入って庇ってくれたりしたのだ。
だが、その度に2人の機嫌はさらに悪くなり、俺へのあたりが強くなる。
マルセルがそれに気が付いてからは、2人の前で俺を庇うことはやめた。
だが、俺とマルセルしか居ない場所だとマルセルは普通の家族みたいに接してくれて俺はこの家にマルセルが居てくれて本当に良かったと思っていた。
この夢の中では俺は怪我をして1年遅れて入学することになってしまったらしい。エドガー隊長の受け持つクラスは1学年上になってしまうので、前のようにエドガー隊長の授業は受けられないということだ。
この夢は一体いつまで続くんだろう。
懐かしい校舎を見上げて学校の敷地内に足を踏み入れると、自然とシャキッと背筋が伸びる。
入学式で整列し前を見ると教官の中にエドガー隊長がいた。
凛としたただずまいで他の教官と比べると体も大きくオーラが違う。
やっぱ、かっこいいな。
入学式が終わり、エドガー隊長が体育館を出て行ったので俺は後を追いかけた。
「教官!」
エドガー隊長に呼びかけると彼は訝しげに振り向いた。
だが、冷たい目で俺の階級章を一瞥して無言で去って行ってしまった。
隊長のあんな冷たい顔を見るのは初めてだった。
心臓がバクバクと鳴ってショックを抑えられない。
その後はとぼとぼと教室までの道を歩いた。
その歩く間に昔、同僚に教えられたパラレルワールドの話を思い出していた。
人が選んだ選択肢の数だけ世界は無数に割れていて、例えば今ここでお茶を飲むか、水を飲むかだけでも違う世界になって、その小さな積み重ねで大きく違う世界が広がっているんだと教えられた。
俺はその時はあまり興味はなかったけど、その同僚は嬉しそうに俺に話してたっけ。
ここは俺の走馬灯でも何でもなくそのパラレルワールドなのだろうか。
手に触れるもの、全ての生々しい感覚に俺はそう思わざるを得なかった。
隊長は誰にだって優しくて、あんな顔をする人じゃなかったのに、この世界のエドガー隊長にはそうなってしまっただけの過去があるんだろうか。
俺に助けてあげられることは無いんだろうか。
教室に入って一番後ろの窓側の席に座った。
しばらくして教室のドアが開き、教官が入ってくるのが分かった。
「……なんで……」
思わず呟いた。
教卓の前まで背筋を伸ばして歩いているのはエドガーだった。
前の世界でいけば1学年上の担当をしているはずだ。
「君たちの教官を務めるエドガー・フォン・ドランザーだ。よろしく」
自己紹介をしたエドガーは、前の世界の時とそう変わらないように見えた。
だが、教室を見渡して俺と目が合うと引きつった顔をした。
「なぜ……こいつがこのクラスにいる」
「え……?」
先ほどの冷たい目で問われて、俺は戸惑った。
「ここは士官クラスだ。平民は隣の一般だろう」
「あ、俺は首席合格だったためこのクラスに」
姿勢を正してそう言うとエドガーは一応納得したように「そうか」と言って何事も無かったように授業で使う資料などを配り始めた。
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