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10 船
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全員が船に乗り込んで、訓練基地へ向けて出航した。
元から俺に話しかける生徒は少なかったが、いつもにまして遠巻きにされている。
船内にいるとヒソヒソとこれみよがしに悪口を言われるので、肌寒さを我慢して外に出た。
外は風が強く、波も荒れていて、時折水しぶきが体にかかるのがうっとおしかったがそのおかげで誰もいなかった。
海の風は冷たく、体は冷えるのに腹の傷はジクジクと痛み熱を発していて、冷え切った手を服の中に突っ込み傷口を抑える。すぐに手は熱を持ち、今度は逆の手を当てた。
「捜索している時は痛まなかったのにな」
ポツリと呟いてみた声は、船が進む音でかき消され自分にすら聞こえなかった。
寒いはずなのに、じわじわと額に汗が出てきたあたりで、やっと自分の体の異常に気がついた。
かといってどうすることも出来ずにただ腹の痛みをやり過ごそうとジッとしていると目の前に軍靴が見えた。
顔を上げるのも億劫な俺に対して、軍靴の男は膝を曲げ俺の目線に合わせてきて、それがエドガー教官だったことが分かった。
波の音にかき消されないよう、顔を近づけ声を発した。
「どうした」
冷たい瞳の中にわずかに心配そうな気持ちが見える。
「……なんでもありません」
俺は今出せる精一杯の声を出したつもりだが、実際に発したそれは蚊の泣くような弱々しい声だった。
「熱があるのか。同行している保険医に診せろ」
「いえ……少し……休んでいれば大丈夫ですから。お気遣いありがとうございます」
今は一刻も早くここから立ち去って欲しかった。
教官に好きになってもらいたいのに、こんな弱々しい姿じゃ惨めなだけだ。
「無理に動かすのは良くないのかもしれないが、自分で診せる気がないのならこうするしかないな」
膝の下に腕を差し込まれて、状況を理解するより前に俺は教官の腕の中に収まった。
物語に出てくるお姫様のように横抱きにされた俺は、周りから見たらさぞ滑稽に見えるだろう。
こんなこと前の世界で付き合っていたときでさえされたことがない。
「っ……降ろしてください。自分で、歩けますから」
「無理をするな」
力も出ず、まともな抵抗をすることも出来なくなっていた俺は大人しく運ばれることにした。
目を閉じて、なるべく痛みを忘れるように運ばれている揺れだけを感じようと意識した。
いつの間に寝ていたのか話し声で目を開けると、俺は簡易ベットに寝かされていて、見えはしないが足元の辺りで教官と保険医が話していた。
『彼の不調は、おそらく腹部の刺し傷の影響でしょう』
『刺し傷?』
『ええ。この訓練中の期間に誰かに刺されて、その傷口を焼いて塞いだのだと思います』
『焼いて……なぜそんなことを……。一体いつから……』
『正確な日数は分かりませんが、おそらく捜索が始まった辺り……、4、5日前くらいからの傷だと思います』
『4、5日、も』
『ええ。それにしても、そんな傷をおしてまで彼はどうして捜索に参加したのでしょう』
保険医は不思議そうに呟いた。
教官は何も言わなかった。
『とりあえず彼には点滴を打って様子を見ます。エドガーさんも休まれたほうが良いですよ。顔色が悪いですから』
『……ああ……また、あとで様子を見にくる』
そう言い残して部屋を出て行ったようだ。
元から俺に話しかける生徒は少なかったが、いつもにまして遠巻きにされている。
船内にいるとヒソヒソとこれみよがしに悪口を言われるので、肌寒さを我慢して外に出た。
外は風が強く、波も荒れていて、時折水しぶきが体にかかるのがうっとおしかったがそのおかげで誰もいなかった。
海の風は冷たく、体は冷えるのに腹の傷はジクジクと痛み熱を発していて、冷え切った手を服の中に突っ込み傷口を抑える。すぐに手は熱を持ち、今度は逆の手を当てた。
「捜索している時は痛まなかったのにな」
ポツリと呟いてみた声は、船が進む音でかき消され自分にすら聞こえなかった。
寒いはずなのに、じわじわと額に汗が出てきたあたりで、やっと自分の体の異常に気がついた。
かといってどうすることも出来ずにただ腹の痛みをやり過ごそうとジッとしていると目の前に軍靴が見えた。
顔を上げるのも億劫な俺に対して、軍靴の男は膝を曲げ俺の目線に合わせてきて、それがエドガー教官だったことが分かった。
波の音にかき消されないよう、顔を近づけ声を発した。
「どうした」
冷たい瞳の中にわずかに心配そうな気持ちが見える。
「……なんでもありません」
俺は今出せる精一杯の声を出したつもりだが、実際に発したそれは蚊の泣くような弱々しい声だった。
「熱があるのか。同行している保険医に診せろ」
「いえ……少し……休んでいれば大丈夫ですから。お気遣いありがとうございます」
今は一刻も早くここから立ち去って欲しかった。
教官に好きになってもらいたいのに、こんな弱々しい姿じゃ惨めなだけだ。
「無理に動かすのは良くないのかもしれないが、自分で診せる気がないのならこうするしかないな」
膝の下に腕を差し込まれて、状況を理解するより前に俺は教官の腕の中に収まった。
物語に出てくるお姫様のように横抱きにされた俺は、周りから見たらさぞ滑稽に見えるだろう。
こんなこと前の世界で付き合っていたときでさえされたことがない。
「っ……降ろしてください。自分で、歩けますから」
「無理をするな」
力も出ず、まともな抵抗をすることも出来なくなっていた俺は大人しく運ばれることにした。
目を閉じて、なるべく痛みを忘れるように運ばれている揺れだけを感じようと意識した。
いつの間に寝ていたのか話し声で目を開けると、俺は簡易ベットに寝かされていて、見えはしないが足元の辺りで教官と保険医が話していた。
『彼の不調は、おそらく腹部の刺し傷の影響でしょう』
『刺し傷?』
『ええ。この訓練中の期間に誰かに刺されて、その傷口を焼いて塞いだのだと思います』
『焼いて……なぜそんなことを……。一体いつから……』
『正確な日数は分かりませんが、おそらく捜索が始まった辺り……、4、5日前くらいからの傷だと思います』
『4、5日、も』
『ええ。それにしても、そんな傷をおしてまで彼はどうして捜索に参加したのでしょう』
保険医は不思議そうに呟いた。
教官は何も言わなかった。
『とりあえず彼には点滴を打って様子を見ます。エドガーさんも休まれたほうが良いですよ。顔色が悪いですから』
『……ああ……また、あとで様子を見にくる』
そう言い残して部屋を出て行ったようだ。
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