11 / 36
11 教官の部屋
しおりを挟む
点滴を打たれて痛み止めを処方してもらい、俺はまた外に出た。
さっきまでぬくぬくの布団の中にいたから夜になった外の空気が冷たくて、目が覚める。
痛み止めは俺の体によく効いて、久々に最高の気分だった。
「何してる」
「わああっ、教官!? ってて」
後ろから突然声をかけられビックリした拍子に変に力が入って傷口が痛んだ。
「医務室で寝ていろ」
「あー。痛み止めも効いてるんで俺はもう平気です。ありがとうございました」
「今は痛くないかもしれないが、それは薬のおかげだろう。ちゃんと医務室にいろ」
「でも、負傷者も多勢います。医務室のベットは1つでも多いに越したことないでしょう?」
「っ……くそ。こい」
「あ、ちょっと」
教官は俺の腕をつかんで引っ張った。
抵抗すると痛み止めも関係なく痛むので俺は仕方なく引っ張られるままに歩く。
連れて行かれたのは教官室だ。
訓練兵は全員で雑魚寝だが、教官は1人1部屋ある。
「俺の部屋だ。ここで休め」
「そんな訳には」
「お前は傷をおしてまで仲間を捜索した。その礼だ」
「え……。俺のこと、信じてくれたんですか」
「お前のことはまだ疑っている。だが、今回黒髪の男の顔は誰にも目撃されていなかった。疑わしきは罰せずだ」
全員が無事で見つかったのに、まだ疑われているのだという事実に打ちのめされそうになった。
「そう、ですか。でも俺、雑魚寝で十分ですから……教官もお疲れでしょう。ゆっくり休んでください。失礼します」
ちっ、と舌打ちが聞こえて、次の瞬間には俺の視界は反転した。
ボフっとベットに倒れたことは分かったが状況はいまいち分からず混乱していると、教官が俺に布団をかけた。
「教官命令だ。今日はここで休め」
低くイラついた声だ。
「でも」
なおも断ろうとすると教官は、ため息をつき上着を脱いで俺の横に入ってきた。
「えっ、あの」
「なんだ、お前は俺のことを好きだと言っていただろう。添い寝しかしてやれないが、これも礼のついでだ」
なんてことないように言ってのける教官に俺の心は張り裂けそうだ。
教官の温もりや匂いは、俺の好きな隊長と同じなのに、俺に何の気持ちもない教官の温もりを感じるのは辛かった。
それでも教官は逃げ出そうとする俺を抱き枕よろしく引き止めるので、抱きつき返してみた。
教官はピクッと体が動いた後、腕の力を少し強めて俺を抱きしめ背中をさすってくれた。
ポンポンと優しく背中を叩かれて変に入っていた力が抜けていくのが分かった。
この人は何がしたいんだろう。
俺を疑っているくせに、俺を甘やかしたりなんかして。
いっそのこと、大好きな隊長とは全く違う人だったならよかったのに。
その後、船は無事訓練基地の港に着いた。
訓練兵は皆、疲れた顔をして訓練基地へ帰還した。
2日後からまた訓練が始まった。
「お疲れ。サバイバル訓練はどうだったの?」
「ああ、ニコル。負傷者が多勢出て大変だったよ」
食堂で昼食をとっていると、俺に唯一気さくに話しかけてくれる一学年上のニコルが同席してきた。
「噂聞いたよ、黒髪の話。君がやったんじゃないかって噂されてるけど、そんなの気にしなくていいと思うよ」
ニッコリと笑ってそう言ったニコルは本当にいいやつだ。
「ああ、ありがとう。ニコルもなんだかやつれてないか?」
「え? そうかな」
ニコルが自分の頬を手で触って確認したとき、袖口から見えた手首が青く変色しているのが分かった。
「ニコル、腕どうしたんだ?」
「えっえ? なにが?」
戸惑ったようなニコルの言葉も無視してニコルの手を取って袖をまくり上げると、誰かに掴まれたのか、手の形でくっきりと青痣になっていた。
「なっ、何するんだよ! 離して! 痛い!!」
青痣に触ってはいないのに、ニコルが突然大声をあげたのでビックリして手を離すと、周りにいた人が何事かと近づいてきた。
さっきまでぬくぬくの布団の中にいたから夜になった外の空気が冷たくて、目が覚める。
痛み止めは俺の体によく効いて、久々に最高の気分だった。
「何してる」
「わああっ、教官!? ってて」
後ろから突然声をかけられビックリした拍子に変に力が入って傷口が痛んだ。
「医務室で寝ていろ」
「あー。痛み止めも効いてるんで俺はもう平気です。ありがとうございました」
「今は痛くないかもしれないが、それは薬のおかげだろう。ちゃんと医務室にいろ」
「でも、負傷者も多勢います。医務室のベットは1つでも多いに越したことないでしょう?」
「っ……くそ。こい」
「あ、ちょっと」
教官は俺の腕をつかんで引っ張った。
抵抗すると痛み止めも関係なく痛むので俺は仕方なく引っ張られるままに歩く。
連れて行かれたのは教官室だ。
訓練兵は全員で雑魚寝だが、教官は1人1部屋ある。
「俺の部屋だ。ここで休め」
「そんな訳には」
「お前は傷をおしてまで仲間を捜索した。その礼だ」
「え……。俺のこと、信じてくれたんですか」
「お前のことはまだ疑っている。だが、今回黒髪の男の顔は誰にも目撃されていなかった。疑わしきは罰せずだ」
全員が無事で見つかったのに、まだ疑われているのだという事実に打ちのめされそうになった。
「そう、ですか。でも俺、雑魚寝で十分ですから……教官もお疲れでしょう。ゆっくり休んでください。失礼します」
ちっ、と舌打ちが聞こえて、次の瞬間には俺の視界は反転した。
ボフっとベットに倒れたことは分かったが状況はいまいち分からず混乱していると、教官が俺に布団をかけた。
「教官命令だ。今日はここで休め」
低くイラついた声だ。
「でも」
なおも断ろうとすると教官は、ため息をつき上着を脱いで俺の横に入ってきた。
「えっ、あの」
「なんだ、お前は俺のことを好きだと言っていただろう。添い寝しかしてやれないが、これも礼のついでだ」
なんてことないように言ってのける教官に俺の心は張り裂けそうだ。
教官の温もりや匂いは、俺の好きな隊長と同じなのに、俺に何の気持ちもない教官の温もりを感じるのは辛かった。
それでも教官は逃げ出そうとする俺を抱き枕よろしく引き止めるので、抱きつき返してみた。
教官はピクッと体が動いた後、腕の力を少し強めて俺を抱きしめ背中をさすってくれた。
ポンポンと優しく背中を叩かれて変に入っていた力が抜けていくのが分かった。
この人は何がしたいんだろう。
俺を疑っているくせに、俺を甘やかしたりなんかして。
いっそのこと、大好きな隊長とは全く違う人だったならよかったのに。
その後、船は無事訓練基地の港に着いた。
訓練兵は皆、疲れた顔をして訓練基地へ帰還した。
2日後からまた訓練が始まった。
「お疲れ。サバイバル訓練はどうだったの?」
「ああ、ニコル。負傷者が多勢出て大変だったよ」
食堂で昼食をとっていると、俺に唯一気さくに話しかけてくれる一学年上のニコルが同席してきた。
「噂聞いたよ、黒髪の話。君がやったんじゃないかって噂されてるけど、そんなの気にしなくていいと思うよ」
ニッコリと笑ってそう言ったニコルは本当にいいやつだ。
「ああ、ありがとう。ニコルもなんだかやつれてないか?」
「え? そうかな」
ニコルが自分の頬を手で触って確認したとき、袖口から見えた手首が青く変色しているのが分かった。
「ニコル、腕どうしたんだ?」
「えっえ? なにが?」
戸惑ったようなニコルの言葉も無視してニコルの手を取って袖をまくり上げると、誰かに掴まれたのか、手の形でくっきりと青痣になっていた。
「なっ、何するんだよ! 離して! 痛い!!」
青痣に触ってはいないのに、ニコルが突然大声をあげたのでビックリして手を離すと、周りにいた人が何事かと近づいてきた。
92
あなたにおすすめの小説
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
運命のアルファ
猫丸
BL
俺、高木颯人は、幼い頃から亮太が好きだった。亮太はずっと俺のヒーローだ。
亮太がアルファだと知った時、自分の第二の性が不明でも、自分はオメガだから将来は大好きな亮太と番婚するのだと信じて疑わなかった。
だが、検査の結果を見て俺の世界が一変した。
まさか自分もアルファだとは……。
二人で交わした番婚の約束など、とっくに破綻しているというのに亮太を手放せない颯人。
オメガじゃなかったから、颯人は自分を必要としていないのだ、と荒れる亮太。
オメガバース/アルファ同士の恋愛。
CP:相手の前でだけヒーローになるクズアルファ ✕ 甘ったれアルファ
※颯人視点は2024/1/30 21:00完結、亮太視点は1/31 21:00完結です。
※話の都合上、途中女性やオメガ男性を貶めるような発言が出てきます(特に亮太視点)。地雷がある方、苦手な方は自衛してください。
※表紙画像は、亮太をイメージして作成したAI画像です。
「じゃあ、別れるか」
万年青二三歳
BL
三十路を過ぎて未だ恋愛経験なし。平凡な御器谷の生活はひとまわり年下の優秀な部下、黒瀬によって破壊される。勤務中のキス、気を失うほどの快楽、甘やかされる週末。もう離れられない、と御器谷は自覚するが、一時の怒りで「じゃあ、別れるか」と言ってしまう。自分を甘やかし、望むことしかしない部下は別れを選ぶのだろうか。
期待の若手×中間管理職。年齢は一回り違い。年の差ラブ。
ケンカップル好きへ捧げます。
ムーンライトノベルズより転載(「多分、じゃない」より改題)。
「君と番になるつもりはない」と言われたのに記憶喪失の夫から愛情フェロモンが溢れてきます
grotta
BL
【フェロモン過多の記憶喪失アルファ×自己肯定感低め深窓の令息オメガ】
オスカー・ブラントは皇太子との縁談が立ち消えになり別の相手――帝国陸軍近衛騎兵隊長ヘルムート・クラッセン侯爵へ嫁ぐことになる。
以前一度助けてもらった彼にオスカーは好感を持っており、新婚生活に期待を抱く。
しかし結婚早々夫から「つがいにはならない」と宣言されてしまった。
予想外の冷遇に落ち込むオスカーだったが、ある日夫が頭に怪我をして記憶喪失に。
すると今まで抑えられていたαのフェロモンが溢れ、夫に触れると「愛しい」という感情まで漏れ聞こえるように…。
彼の突然の変化に戸惑うが、徐々にヘルムートに惹かれて心を開いていくオスカー。しかし彼の記憶が戻ってまた冷たくされるのが怖くなる。
ある日寝ぼけた夫の口から知らぬ女性の名前が出る。彼には心に秘めた相手がいるのだと悟り、記憶喪失の彼から与えられていたのが偽りの愛だと悟る。
夫とすれ違う中、皇太子がオスカーに強引に復縁を迫ってきて…?
夫ヘルムートが隠している秘密とはなんなのか。傷ついたオスカーは皇太子と夫どちらを選ぶのか?
※以前ショートで書いた話を改変しオメガバースにして公募に出したものになります。(結末や設定は全然違います)
※3万8千字程度の短編です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる