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28 軍からの手紙
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「何かありましたか?」
エドガーは昼間のことを俺が見ているとも知らず、何食わぬ顔で俺にそう聞いた。
「いや、何もないよ。ありがとう」
俺も、普段通りに笑って答えた。
エドガーの目的が俺を絶望させる事だとして俺はこれからどうするのが正解なのだろうか。
味のしない肉を切りながら考えた。
それにしても、と、考える。
俺は結局どこまでいっても、エドガーを好きになってしまうのか。
ルノーのことだって、好きになりかけてた。
エドガーに拘らなくても良いんだと思わせてくれたのが、まさかエドガー自身だったなんて誰が思うだろうか。
「ルノーは……いつまでここにいる気だ?」
ふとそう尋ねるとエドガーは口を引き結び、何かを覚悟するように一度目を閉じてから、ゆっくりと開いた。
「ジル様が、邪魔だと仰せならすぐにでもここを出る覚悟はあります……ですが、居ても邪魔にはならないと仰っていただけるなら、俺はまだここに居たいです」
「……そうか」
悪意の見えない瞳に、出ていけとも、ここに居ろとも言えなかった。
俺がここを出ていけと言えば、素直に出ていくというエドガーは俺へ復讐するつもりなどないのだろうか。そんな風に性懲りもなく期待したくなってしまう。
それとも、俺がここを追い出さないという自信でもあるのだろうか。
俺への復讐じゃないとしても、何が目的なのかまるで見当がつかない。
エドガーの心を測りかねて、俺はどう行動していいのかが分からなくなった。
「そう言えば、手紙がいくつか届いていました」
重い空気を変えるようにエドガーが机の上に何通か手紙を置いた。
「そうか、ありがとう」
俺もワントーン高めにそう返事をして受け取った手紙を確認した。
数通はユリスや他の生き残った兵の近況報告の手紙で、元気そうな様子に頬が緩む。
だがその中の1通に軍からの手紙が入っていた。
内容を要約すると、怪我は粗方治ったのだから次の戦場へ隊長として行く準備を整えるようにとの内容だった。
向かわされる予定地の戦場の名前はまた最前線で、まだ本調子ではない俺が行けば今度こそ死ぬかもしれない危険なエリアだ。
軍人として、死ぬ覚悟はいつもしているつもりだ。
だが、本調子ではない自分が行けば周りに迷惑もかかる可能性もあるし、簡単にうなずくことはできない。
手紙を見ながら難しい顔をしている俺にエドガーは紅茶を差し出した。
「その手紙、軍からですよね」
「ん? ああ」
「見せていただけませんか」
「何で」
「見たところ、守秘義務の判も押されていないようですし、俺が見ても問題ないですよね?」
エドガーの言うように、軍が秘密にしたいような内容であれば手紙の郵送方法も違うし、封筒の内側に守秘義務の判が押されている。
これにはそれがないのでエドガーが見ても何も問題のない内容なのだが、そのようにズケズケと見せろと言われれば見せたくなくなるというものだ。
だが、引かなそうなエドガーの様子に俺は諦めて手紙をエドガーに渡した。
「これ、行くつもりですか」
手紙を読み終わったエドガーは静かにそう聞いた。
「いや、まぁ、考え中。今の俺が行っても迷惑になるだろうし。だけど上層部は許さないだろうな」
軍の上層部は、俺を目の敵にしている節がある。
嫌われるようなことをした覚えも、むしろ上層部に覚えられるようなことをした覚えすらもなかったのに軍学校でのいざこざの犯人を突き止めもせず、俺をエンバルトリアに送ったことも、今思えば変だと思った。
俺の言葉を聞き、しばらく考え込んでいたエドガーは静かに口を開いた。
「ここに……隊長としてあなたが行かなければならないのなら、俺が行きます」
「……は?」
「今は、あなたは万全の状態ではありません。俺が行ってまいります」
俺は理解ができなかった。
エドガーは何を考えているのか、全くと言って良いほど分からなかった。
俺の代わりに最前戦?
「こんなところに行けば死ぬかもしればいんだぞ」
「あなたが死ぬよりはその方が良いと思います」
「なに……?」
エドガーの言葉をだんだんと脳が理解して胸がドキリと跳ねた。
だがすぐに思い直す。信じてはダメだ。
これもエドガーの作戦かもしれない。
だって、これじゃまるで、自分の命よりも俺が大事だと言っているみたいだ。
エドガーは昼間のことを俺が見ているとも知らず、何食わぬ顔で俺にそう聞いた。
「いや、何もないよ。ありがとう」
俺も、普段通りに笑って答えた。
エドガーの目的が俺を絶望させる事だとして俺はこれからどうするのが正解なのだろうか。
味のしない肉を切りながら考えた。
それにしても、と、考える。
俺は結局どこまでいっても、エドガーを好きになってしまうのか。
ルノーのことだって、好きになりかけてた。
エドガーに拘らなくても良いんだと思わせてくれたのが、まさかエドガー自身だったなんて誰が思うだろうか。
「ルノーは……いつまでここにいる気だ?」
ふとそう尋ねるとエドガーは口を引き結び、何かを覚悟するように一度目を閉じてから、ゆっくりと開いた。
「ジル様が、邪魔だと仰せならすぐにでもここを出る覚悟はあります……ですが、居ても邪魔にはならないと仰っていただけるなら、俺はまだここに居たいです」
「……そうか」
悪意の見えない瞳に、出ていけとも、ここに居ろとも言えなかった。
俺がここを出ていけと言えば、素直に出ていくというエドガーは俺へ復讐するつもりなどないのだろうか。そんな風に性懲りもなく期待したくなってしまう。
それとも、俺がここを追い出さないという自信でもあるのだろうか。
俺への復讐じゃないとしても、何が目的なのかまるで見当がつかない。
エドガーの心を測りかねて、俺はどう行動していいのかが分からなくなった。
「そう言えば、手紙がいくつか届いていました」
重い空気を変えるようにエドガーが机の上に何通か手紙を置いた。
「そうか、ありがとう」
俺もワントーン高めにそう返事をして受け取った手紙を確認した。
数通はユリスや他の生き残った兵の近況報告の手紙で、元気そうな様子に頬が緩む。
だがその中の1通に軍からの手紙が入っていた。
内容を要約すると、怪我は粗方治ったのだから次の戦場へ隊長として行く準備を整えるようにとの内容だった。
向かわされる予定地の戦場の名前はまた最前線で、まだ本調子ではない俺が行けば今度こそ死ぬかもしれない危険なエリアだ。
軍人として、死ぬ覚悟はいつもしているつもりだ。
だが、本調子ではない自分が行けば周りに迷惑もかかる可能性もあるし、簡単にうなずくことはできない。
手紙を見ながら難しい顔をしている俺にエドガーは紅茶を差し出した。
「その手紙、軍からですよね」
「ん? ああ」
「見せていただけませんか」
「何で」
「見たところ、守秘義務の判も押されていないようですし、俺が見ても問題ないですよね?」
エドガーの言うように、軍が秘密にしたいような内容であれば手紙の郵送方法も違うし、封筒の内側に守秘義務の判が押されている。
これにはそれがないのでエドガーが見ても何も問題のない内容なのだが、そのようにズケズケと見せろと言われれば見せたくなくなるというものだ。
だが、引かなそうなエドガーの様子に俺は諦めて手紙をエドガーに渡した。
「これ、行くつもりですか」
手紙を読み終わったエドガーは静かにそう聞いた。
「いや、まぁ、考え中。今の俺が行っても迷惑になるだろうし。だけど上層部は許さないだろうな」
軍の上層部は、俺を目の敵にしている節がある。
嫌われるようなことをした覚えも、むしろ上層部に覚えられるようなことをした覚えすらもなかったのに軍学校でのいざこざの犯人を突き止めもせず、俺をエンバルトリアに送ったことも、今思えば変だと思った。
俺の言葉を聞き、しばらく考え込んでいたエドガーは静かに口を開いた。
「ここに……隊長としてあなたが行かなければならないのなら、俺が行きます」
「……は?」
「今は、あなたは万全の状態ではありません。俺が行ってまいります」
俺は理解ができなかった。
エドガーは何を考えているのか、全くと言って良いほど分からなかった。
俺の代わりに最前戦?
「こんなところに行けば死ぬかもしればいんだぞ」
「あなたが死ぬよりはその方が良いと思います」
「なに……?」
エドガーの言葉をだんだんと脳が理解して胸がドキリと跳ねた。
だがすぐに思い直す。信じてはダメだ。
これもエドガーの作戦かもしれない。
だって、これじゃまるで、自分の命よりも俺が大事だと言っているみたいだ。
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