パラレルワールドの世界で俺はあなたに嫌われている

いちみやりょう

文字の大きさ
31 / 36

29 エドガーサイド

しおりを挟む
ジルへ軍から来た手紙を読んで俺は憤っていた。

なぜまたジルが行かなければならないんだ。
俺を含め今までジルを傷つけてきた人間と、これから傷つけようとする人間を全て制裁して周りたい。

手紙には最もらしい書き方で前戦へ向かうよう指示が書かれていた。
ジルは本調子ではない自分が行けば迷惑がかかるからと乗り気ではないようだが、結局は諦めて向かいそうな気配で、それもまたもどかしく感じた。

「今は、あなたは万全の状態ではありません。俺が行ってまいります」

そう言った俺に対してジルは目を丸くした。
だが、今の俺は自分にはジルしかいないと気がついてしまっている。
ジルが居なくなるのならば、俺の命など何の意味も持たない。
ジルが居てこそ俺は生きていけるんだ。

エンバルトリアへ向かう間に俺は死ぬほど後悔し、そのことに気がついた。

「こんなところに行けば死ぬかもしればいんだぞ」

絞り出すようにそう言ったジルに俺は笑って答えた。

「あなたが死ぬよりはその方が良いと思います」
「なに……?」

困惑した声を発したジルは、青白い顔をしていた。

国に誓った忠誠心は、もはや今は持ち合わせていない。
国に、軍に、そう誓っても、それらはジルを守ってくれはしないのだから。

いっそのこと、全て投げ出して遠い国へジルを連れ去ってそこで生活してもいいかもしれない。

「いっそ、国を捨てようか」

ポツリと呟かれたその言葉は、俺の口から出たものではなかった。
驚いてジルを見ると目を瞑って何かに思いを馳せているように微笑んでいた。

「国を捨てて、どこか遠い場所で穏やかに生活してみるのも良いかもしれない。幸い俺はサバイバルには慣れてるしな」
「ジル……様」
「……様なんてつけなくていい。エドガー教官」

ジルは目を開いて俺の目をまっすぐ見据えてそう言った。

「ジル……気付いて……?」

困惑した俺を見てジルは諦めたように息を吐き出し口の端を上げて笑った。

「今日の昼間、ニコルと会ってるエドガー教官を見たよ。まだ付き合っていたんだね」
「なっ! 違う!! 今日はたまたま会っただけで、あいつとはもう……」
「俺、何もかも上手くいかないんだ。ルノーのことも信じそうになっていたけどダメだった。みんな俺を嫌う。エドガー教官、ニコルと共謀して俺を陥れようとしていた? でも、それは失敗でしたね。ニコルと落ち合うならもっと遠くにするべきだった」
「違う! ジル、俺は……俺はジルが好きなんだ。ずっと認めるのが怖かったが、一度認めてしまえば、今度はジルを失うのが怖くなった。ジルが俺を別の人間だと思っていることを利用して側にいた。ただ側にいるだけで楽しくて幸せで、だけど騙している罪悪感でいっぱいで、こんなのはジルが初めてだったんだ。覚えてないかもしれないが前に話した傷つけてしまった大切な相手というのはジルのことだ!!」

ジルは目を見開いて固まった。

「……覚えている。もちろん……覚えてるよ。あの時俺は、愛されているルノーの相手が羨ましいと思ったんだ」
「ジル……、バカですまなかった。ジルが悪いことをするわけがないのだと、今なら簡単に分かるのに正常な判断もできずに長いことジルを傷つけた」
「いえ……もう、過ぎたことですから」

拒絶するようにそう言ったジルの手を取って椅子に座るジルの目線に合うように膝をついた。

「許してもらえるとは思っていない。だが、俺は本当にジルを愛してる。散々傷つけておいて勝手な話だがそれだけは知っておいてほしい」

ジルがこの先、国を捨て逃亡するならば、どこかできっとひっそりと暮らしてそこで良い相手が見つかるのだろう。
それならば俺はこの国に残り、ジルがどこかで幸せに暮らすのを応援するしかないのだ。

「……れも、俺もまだ愛してる」
「っ!!」

小声でも何と言ったのかははっきりと分かった。

「っ、はは。エドガー教官、泣いてるの?」
「嬉しくて……すまない」

俺の頬を後から後から流れてくる涙が濡らし続ける。

「でも、泣いて喜んでくれるならもう一度だけ、信じてみてもいいかもな」

その言葉を聞いて、ジルがどれほどの覚悟を持って俺に「愛してる」と伝えてくれたのかを知った。ジルは愛してると言った瞬間裏切られるのではないかと不安だったんだ。
ホッとした様子のジルを見て無性に触れたくなって、抱き寄せた。

微かに震えるその体を抱きしめているとしばらくして寝息が聞こえ始めた。
しおりを挟む
感想 15

あなたにおすすめの小説

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

ラベンダーに想いを乗せて

光海 流星
BL
付き合っていた彼氏から突然の別れを告げられ ショックなうえにいじめられて精神的に追い詰められる 数年後まさかの再会をし、そしていじめられた真相を知った時

運命のアルファ

猫丸
BL
俺、高木颯人は、幼い頃から亮太が好きだった。亮太はずっと俺のヒーローだ。 亮太がアルファだと知った時、自分の第二の性が不明でも、自分はオメガだから将来は大好きな亮太と番婚するのだと信じて疑わなかった。 だが、検査の結果を見て俺の世界が一変した。 まさか自分もアルファだとは……。 二人で交わした番婚の約束など、とっくに破綻しているというのに亮太を手放せない颯人。 オメガじゃなかったから、颯人は自分を必要としていないのだ、と荒れる亮太。 オメガバース/アルファ同士の恋愛。 CP:相手の前でだけヒーローになるクズアルファ ✕ 甘ったれアルファ ※颯人視点は2024/1/30 21:00完結、亮太視点は1/31 21:00完結です。 ※話の都合上、途中女性やオメガ男性を貶めるような発言が出てきます(特に亮太視点)。地雷がある方、苦手な方は自衛してください。 ※表紙画像は、亮太をイメージして作成したAI画像です。

「じゃあ、別れるか」

万年青二三歳
BL
 三十路を過ぎて未だ恋愛経験なし。平凡な御器谷の生活はひとまわり年下の優秀な部下、黒瀬によって破壊される。勤務中のキス、気を失うほどの快楽、甘やかされる週末。もう離れられない、と御器谷は自覚するが、一時の怒りで「じゃあ、別れるか」と言ってしまう。自分を甘やかし、望むことしかしない部下は別れを選ぶのだろうか。  期待の若手×中間管理職。年齢は一回り違い。年の差ラブ。  ケンカップル好きへ捧げます。  ムーンライトノベルズより転載(「多分、じゃない」より改題)。

「君と番になるつもりはない」と言われたのに記憶喪失の夫から愛情フェロモンが溢れてきます

grotta
BL
【フェロモン過多の記憶喪失アルファ×自己肯定感低め深窓の令息オメガ】 オスカー・ブラントは皇太子との縁談が立ち消えになり別の相手――帝国陸軍近衛騎兵隊長ヘルムート・クラッセン侯爵へ嫁ぐことになる。 以前一度助けてもらった彼にオスカーは好感を持っており、新婚生活に期待を抱く。 しかし結婚早々夫から「つがいにはならない」と宣言されてしまった。 予想外の冷遇に落ち込むオスカーだったが、ある日夫が頭に怪我をして記憶喪失に。 すると今まで抑えられていたαのフェロモンが溢れ、夫に触れると「愛しい」という感情まで漏れ聞こえるように…。 彼の突然の変化に戸惑うが、徐々にヘルムートに惹かれて心を開いていくオスカー。しかし彼の記憶が戻ってまた冷たくされるのが怖くなる。   ある日寝ぼけた夫の口から知らぬ女性の名前が出る。彼には心に秘めた相手がいるのだと悟り、記憶喪失の彼から与えられていたのが偽りの愛だと悟る。 夫とすれ違う中、皇太子がオスカーに強引に復縁を迫ってきて…? 夫ヘルムートが隠している秘密とはなんなのか。傷ついたオスカーは皇太子と夫どちらを選ぶのか? ※以前ショートで書いた話を改変しオメガバースにして公募に出したものになります。(結末や設定は全然違います) ※3万8千字程度の短編です

忘れ物

うりぼう
BL
記憶喪失もの 事故で記憶を失った真樹。 恋人である律は一番傍にいながらも自分が恋人だと言い出せない。 そんな中、真樹が昔から好きだった女性と付き合い始め…… というお話です。

ただ愛されたいと願う

藤雪たすく
BL
自分の居場所を求めながら、劣等感に苛まれているオメガの清末 海里。 やっと側にいたいと思える人を見つけたけれど、その人は……

彼は罰ゲームでおれと付き合った

和泉奏
BL
「全部嘘だったなんて、知りたくなかった」

処理中です...