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死神に連れて行かれたのは、趣味の悪い赤い建物で、中に入るとそれなりに混雑していた。
赤ら顔の、形容するなら鬼みたいな男の前に座らされると、鬼はまじめ腐った顔で書類を確認しはじめた。
「磯村青砥様」
「はい」
「まぁ、あなたなら天国行きで行けると思いますよ」
「え!? 俺が天国ですか?」
「ええ。特に違反もしていませんし、規定以上の恨みも買っていないようですから天国で数年過ごした後、また魂のサイクルに向かっていただくことになりますね」
「そう、ですか」
「何か質問などなければ、説明後すぐに向かっていただきますが」
軽い調子で聞いてくる鬼に、俺は拍子抜けした。
「あ、あの、知り合いが今どうしているのか知りたいんですが」
「お知り合いですか。お名前は?」
「千景……篠田千景です」
そう伝えると、鬼は机上のパソコンを操作して調べ始めた。
「んー、ああ、トート様とこの千景様ですね……ああ、でも千景様へのご面会は、磯村青砥様には許可が降りていませんのでこちらでは何も出来かねますね」
「そこをなんとかお願いできませんか」
「ご希望に添えかねます。千景様の旦那様は私共などより遥かに上の方ですので、取り次ぐことすらできないのですよ」
「そんな……」
無情にも簡単に断られ、目の前の鬼は俺の天国行きについての説明を淡々と始めた。
天国には数段階あって俺の行く場所はその一番下なのだとか、この場所から天国への扉まで行くけれど、一方通行だから戻っては来れないだとか、俺にとってはどうでも良いことばかりだ。
俺が死んだら千景が迎えにきてくれると思っていたのに。
期間内であればすぐに向かわなくても良いと言うことだったので、俺はがっかりとした気持ちのまま、休憩室まで向かった。
そこは質の高いおしゃれなカフェみたいな空間で、自販機みたいなものがいくつも並んでいた。
金は持ち合わせていなかったけれど、死者無料と書いてあったのでボタンを押してみると普通に飲み物のペットボトルが出てきた。
カフェには人が少なかった。それでもほとんど人のいない端っこの方に移動して座る。
蓋を開け一口飲むと、それなりに美味しいコーヒーだった。
そうしてボーッと数時間過ごしたけれど、自分がどうするべきなのかは考え付かなかった。
ふと、静かな空間だったカフェが騒がしくなり、俺はカフェの入り口を見た。
そこには銀髪赤目で長身の美しい男がいた。
随分昔、カフェで一度白昼夢のように見たことのある男だった。
その男がこちらを見て薄く笑ったのが、遠巻きでも分かった。
どうやら男は人気者のようであちこちで持て囃されているのが、カフェが騒がしくなった原因らしい。
男は嫌味なほど紳士な立ち振る舞いで俺の近くまで寄ってきて、にこりと笑った。
「どうも、初めまして。フェルレント・トートと申します」
トートということはやはり、あの時千景と一緒にいた男で間違い無いのだろう。
先ほどの鬼が取り次げないほどの遥かに上の地位にいるという男が、俺の前に簡単に現れたのだ。
「……はじめまして。何か俺に御用ですか」
「もちろん。私はこの時を随分長いこと待っていたのですよ。あなたのかつてのお連れ様と違いあなたはなかなかにしぶとかったですので」
「俺のかつてのお連れ様……? それにしぶといって。あんた千景に何かしたのか?」
不穏な言葉に心臓がどくどくと音を立てる。
けれど男はこちらを馬鹿にしたように小さく笑った。
「私が愛しい千景に悪さをするわけないでしょう。それに、あなたのかつてのお連れ様、というのは千景ではありませんよ。千景は今も昔も私の妻ですから。あなたのかつてのお連れ様は和樹という名前の方です」
そう言われて、一瞬なんのことだかわからなかった。
だがすぐに思い出した。俺が千景とすれ違ってしまう原因を作ったオメガの名前だ。
「……ああ。あれは俺のつれじゃない」
「そうですか。まぁどうでも良いことです。さあ、天国への扉へご案内しましょう」
「俺は……、まだ行かない。なぁ、千景に会わせてよ」
「私が笑顔のうちに千景のことは諦めたほうが良いでしょうね」
笑顔だけれど圧を感じるのは、目の前の男が圧倒的美形だからなのだろうか。
けれど俺だって簡単に諦めるわけにはいかない。
「俺は、ずっと千景だけを想い続けて生きてきて……やっと、この時が来たってのに、会わないでなんて終われない。だって、俺は扉を出ればもうここには帰ってこれないんだろ? そしたら千景に会えないんだろ?」
「もちろんそうです。ですがだからと言って私があなたを千景に会わせて差し上げる義理もありませんよ」
「頼む」
「磯村青砥様。私はあなたを地獄に落としてやりたいと思っているのですよ。ですがそう行動するのは色々な問題があって少しばかりめんどくさい作業が必要になります。けれどやろうと思えば出来るんです。ですがあなたが今すぐに天国への扉から先へ進んで、二度と千景に関わらない場所に行くなら手を引きましょう。分かりますか? あなたが無事生まれ変わろうと思うならば、私の言うことを聞き、大人しく天国への扉へ向かうことをお勧めします」
にっこりと笑った男の目は赤く、毒々しく見えた。
赤ら顔の、形容するなら鬼みたいな男の前に座らされると、鬼はまじめ腐った顔で書類を確認しはじめた。
「磯村青砥様」
「はい」
「まぁ、あなたなら天国行きで行けると思いますよ」
「え!? 俺が天国ですか?」
「ええ。特に違反もしていませんし、規定以上の恨みも買っていないようですから天国で数年過ごした後、また魂のサイクルに向かっていただくことになりますね」
「そう、ですか」
「何か質問などなければ、説明後すぐに向かっていただきますが」
軽い調子で聞いてくる鬼に、俺は拍子抜けした。
「あ、あの、知り合いが今どうしているのか知りたいんですが」
「お知り合いですか。お名前は?」
「千景……篠田千景です」
そう伝えると、鬼は机上のパソコンを操作して調べ始めた。
「んー、ああ、トート様とこの千景様ですね……ああ、でも千景様へのご面会は、磯村青砥様には許可が降りていませんのでこちらでは何も出来かねますね」
「そこをなんとかお願いできませんか」
「ご希望に添えかねます。千景様の旦那様は私共などより遥かに上の方ですので、取り次ぐことすらできないのですよ」
「そんな……」
無情にも簡単に断られ、目の前の鬼は俺の天国行きについての説明を淡々と始めた。
天国には数段階あって俺の行く場所はその一番下なのだとか、この場所から天国への扉まで行くけれど、一方通行だから戻っては来れないだとか、俺にとってはどうでも良いことばかりだ。
俺が死んだら千景が迎えにきてくれると思っていたのに。
期間内であればすぐに向かわなくても良いと言うことだったので、俺はがっかりとした気持ちのまま、休憩室まで向かった。
そこは質の高いおしゃれなカフェみたいな空間で、自販機みたいなものがいくつも並んでいた。
金は持ち合わせていなかったけれど、死者無料と書いてあったのでボタンを押してみると普通に飲み物のペットボトルが出てきた。
カフェには人が少なかった。それでもほとんど人のいない端っこの方に移動して座る。
蓋を開け一口飲むと、それなりに美味しいコーヒーだった。
そうしてボーッと数時間過ごしたけれど、自分がどうするべきなのかは考え付かなかった。
ふと、静かな空間だったカフェが騒がしくなり、俺はカフェの入り口を見た。
そこには銀髪赤目で長身の美しい男がいた。
随分昔、カフェで一度白昼夢のように見たことのある男だった。
その男がこちらを見て薄く笑ったのが、遠巻きでも分かった。
どうやら男は人気者のようであちこちで持て囃されているのが、カフェが騒がしくなった原因らしい。
男は嫌味なほど紳士な立ち振る舞いで俺の近くまで寄ってきて、にこりと笑った。
「どうも、初めまして。フェルレント・トートと申します」
トートということはやはり、あの時千景と一緒にいた男で間違い無いのだろう。
先ほどの鬼が取り次げないほどの遥かに上の地位にいるという男が、俺の前に簡単に現れたのだ。
「……はじめまして。何か俺に御用ですか」
「もちろん。私はこの時を随分長いこと待っていたのですよ。あなたのかつてのお連れ様と違いあなたはなかなかにしぶとかったですので」
「俺のかつてのお連れ様……? それにしぶといって。あんた千景に何かしたのか?」
不穏な言葉に心臓がどくどくと音を立てる。
けれど男はこちらを馬鹿にしたように小さく笑った。
「私が愛しい千景に悪さをするわけないでしょう。それに、あなたのかつてのお連れ様、というのは千景ではありませんよ。千景は今も昔も私の妻ですから。あなたのかつてのお連れ様は和樹という名前の方です」
そう言われて、一瞬なんのことだかわからなかった。
だがすぐに思い出した。俺が千景とすれ違ってしまう原因を作ったオメガの名前だ。
「……ああ。あれは俺のつれじゃない」
「そうですか。まぁどうでも良いことです。さあ、天国への扉へご案内しましょう」
「俺は……、まだ行かない。なぁ、千景に会わせてよ」
「私が笑顔のうちに千景のことは諦めたほうが良いでしょうね」
笑顔だけれど圧を感じるのは、目の前の男が圧倒的美形だからなのだろうか。
けれど俺だって簡単に諦めるわけにはいかない。
「俺は、ずっと千景だけを想い続けて生きてきて……やっと、この時が来たってのに、会わないでなんて終われない。だって、俺は扉を出ればもうここには帰ってこれないんだろ? そしたら千景に会えないんだろ?」
「もちろんそうです。ですがだからと言って私があなたを千景に会わせて差し上げる義理もありませんよ」
「頼む」
「磯村青砥様。私はあなたを地獄に落としてやりたいと思っているのですよ。ですがそう行動するのは色々な問題があって少しばかりめんどくさい作業が必要になります。けれどやろうと思えば出来るんです。ですがあなたが今すぐに天国への扉から先へ進んで、二度と千景に関わらない場所に行くなら手を引きましょう。分かりますか? あなたが無事生まれ変わろうと思うならば、私の言うことを聞き、大人しく天国への扉へ向かうことをお勧めします」
にっこりと笑った男の目は赤く、毒々しく見えた。
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