7 / 27
春樹到来
しおりを挟む
風呂から上がって迅英さんは僕のことを丁寧に拭いてくれて、膝に手を差し込んで抱き抱えられた。
これも最近のいつものパターンで、迅英さんは僕を迅英さんのベットに運んでそのまま抱きかかえて眠ってしまう。
迅英さんは僕のことを1人で生きられない体にするつもりだろうか、と最近常々思う。
このぬるま湯のように心地いい空間にずっと居たい。好きな人に愛されているみたいな感覚をずっと感じていたい。
だけどそんな僕の浅ましい考えを嘲笑うかのように突然の終わりがやってきた。
「おいっ」
僕がバイトに向かおうと家を出た時に小柄で、見るからにΩの男の子から声をかけられた。
「ん? あ、何でしょうか」
「えっと、俺、春樹っていうんだけど」
「あぁ。そっか……君が」
終わりが来てしまった。
「お前と結婚する時に、迅からお前に話したと思うんだけどさ、俺、昨日海外から帰ってきたからそろそろ離婚してくんねぇ?」
「分かりました」
「は?」
僕が即答したからか春樹くんは鳩が豆鉄砲を食らったような顔をした。
「実はもう離婚届には記入してあるんです。あとは、迅英さんに渡すだけですので、春樹くんから渡しておいてもらえますか?」
僕は荷物の中から、いつこの時が来てもいいように準備しておいた記入済みの離婚届を春樹くんに渡した。
春樹くんはそれを受け取って呆然としたように呟いた。
「お前、迅が好きじゃなかったのか?」
「僕が迅英さんを好きだったとして、それが何の関係があるんですか?」
「関係って……」
「だってそうでしょう。僕が迅英さんを好きだとしても、彼はそうじゃない。ここで迅英さんにすがったりして、うざがられたり、気持ち悪いと思われるほうが、僕には辛い。ああ、それとも、ここで騒ぎでも起こすつもりでしたか。かわいそうな春樹くん」
「なに?」
「幼い頃、暴漢に襲われた君を助けてくれた人たちを亡くしたんでしょう? それで、君は心に傷をおっていて、守らなきゃいけない存在なんだって聞きましたよ」
「迅、そんなこと言ってたのか?」
春樹くんの頬が嬉しそうに赤く染まった。
「君は助けてくれた人たちを亡くしたことを利用しているだけだ」
「っなに!? お前! よくもそんなことが言えるな!!!」
春樹くんの顔がみるみると怒りに染まった。
「だってそうでしょう。君はうちに線香の一本もあげに来たことはないのに」
「は……何言ってんだよ」
「春樹くんのことを助けて死んだ人たちは、僕の両親だ」
「は……?」
「僕の旧姓は篠原だよ。それとも、助けた人たちの苗字すら知らない?」
「そんなの嘘だ! お前があの人たちの子供なわけない!!」
「君が信じなくても構わない。僕はこれから荷物をまとめないといけないから失礼していいかな」
「待てよっ!」
「なに?」
「αに捨てられたΩは悲惨だぞ! あの人たちの息子だなんて嘘つくからそんな人生を歩むことになるんだ!!」
「君は何を言ってるの? 迅英さんは君のどこを見て好きになったんだろう」
「はぁ!? うざいよお前!! 何なんだよ!!」
「家の前で大声出さないで欲しいんだけど」
「おーほっ、春樹くんじゃーん!! また相手してよ!」
春樹に道の反対側から声がかかった。
男性5人のグループで他の人たちも俺も俺もと騒いでいる。
「なに、言ってんだよ。またって何だよ」
春樹は明らかに動揺したように男たちと僕とを交互に見やった。
「ううっ」
口を押さえて春樹が蹲った。
「うぉーい! 妊娠かー?」
男たちはゲラゲラと笑いながらこちらを見ている。
僕は蹲った春樹の背中をさすりながら小声で聞いた。
「妊娠、してるの?」
しばらく止まった春樹がコクコクとうなずいた。
「そうか……。迅英さんの子?」
またコクコクとうなずく。
そうか。
そうか……。
じゃあ守らないといけないか。
これも最近のいつものパターンで、迅英さんは僕を迅英さんのベットに運んでそのまま抱きかかえて眠ってしまう。
迅英さんは僕のことを1人で生きられない体にするつもりだろうか、と最近常々思う。
このぬるま湯のように心地いい空間にずっと居たい。好きな人に愛されているみたいな感覚をずっと感じていたい。
だけどそんな僕の浅ましい考えを嘲笑うかのように突然の終わりがやってきた。
「おいっ」
僕がバイトに向かおうと家を出た時に小柄で、見るからにΩの男の子から声をかけられた。
「ん? あ、何でしょうか」
「えっと、俺、春樹っていうんだけど」
「あぁ。そっか……君が」
終わりが来てしまった。
「お前と結婚する時に、迅からお前に話したと思うんだけどさ、俺、昨日海外から帰ってきたからそろそろ離婚してくんねぇ?」
「分かりました」
「は?」
僕が即答したからか春樹くんは鳩が豆鉄砲を食らったような顔をした。
「実はもう離婚届には記入してあるんです。あとは、迅英さんに渡すだけですので、春樹くんから渡しておいてもらえますか?」
僕は荷物の中から、いつこの時が来てもいいように準備しておいた記入済みの離婚届を春樹くんに渡した。
春樹くんはそれを受け取って呆然としたように呟いた。
「お前、迅が好きじゃなかったのか?」
「僕が迅英さんを好きだったとして、それが何の関係があるんですか?」
「関係って……」
「だってそうでしょう。僕が迅英さんを好きだとしても、彼はそうじゃない。ここで迅英さんにすがったりして、うざがられたり、気持ち悪いと思われるほうが、僕には辛い。ああ、それとも、ここで騒ぎでも起こすつもりでしたか。かわいそうな春樹くん」
「なに?」
「幼い頃、暴漢に襲われた君を助けてくれた人たちを亡くしたんでしょう? それで、君は心に傷をおっていて、守らなきゃいけない存在なんだって聞きましたよ」
「迅、そんなこと言ってたのか?」
春樹くんの頬が嬉しそうに赤く染まった。
「君は助けてくれた人たちを亡くしたことを利用しているだけだ」
「っなに!? お前! よくもそんなことが言えるな!!!」
春樹くんの顔がみるみると怒りに染まった。
「だってそうでしょう。君はうちに線香の一本もあげに来たことはないのに」
「は……何言ってんだよ」
「春樹くんのことを助けて死んだ人たちは、僕の両親だ」
「は……?」
「僕の旧姓は篠原だよ。それとも、助けた人たちの苗字すら知らない?」
「そんなの嘘だ! お前があの人たちの子供なわけない!!」
「君が信じなくても構わない。僕はこれから荷物をまとめないといけないから失礼していいかな」
「待てよっ!」
「なに?」
「αに捨てられたΩは悲惨だぞ! あの人たちの息子だなんて嘘つくからそんな人生を歩むことになるんだ!!」
「君は何を言ってるの? 迅英さんは君のどこを見て好きになったんだろう」
「はぁ!? うざいよお前!! 何なんだよ!!」
「家の前で大声出さないで欲しいんだけど」
「おーほっ、春樹くんじゃーん!! また相手してよ!」
春樹に道の反対側から声がかかった。
男性5人のグループで他の人たちも俺も俺もと騒いでいる。
「なに、言ってんだよ。またって何だよ」
春樹は明らかに動揺したように男たちと僕とを交互に見やった。
「ううっ」
口を押さえて春樹が蹲った。
「うぉーい! 妊娠かー?」
男たちはゲラゲラと笑いながらこちらを見ている。
僕は蹲った春樹の背中をさすりながら小声で聞いた。
「妊娠、してるの?」
しばらく止まった春樹がコクコクとうなずいた。
「そうか……。迅英さんの子?」
またコクコクとうなずく。
そうか。
そうか……。
じゃあ守らないといけないか。
126
あなたにおすすめの小説
運命じゃない人
万里
BL
旭は、7年間連れ添った相手から突然別れを告げられる。「運命の番に出会ったんだ」と語る彼の言葉は、旭の心を深く傷つけた。積み重ねた日々も未来の約束も、その一言で崩れ去り、番を解消される。残された部屋には彼の痕跡はなく、孤独と喪失感だけが残った。
理解しようと努めるも、涙は止まらず、食事も眠りもままならない。やがて「番に捨てられたΩは死ぬ」という言葉が頭を支配し、旭は絶望の中で自らの手首を切る。意識が遠のき、次に目覚めたのは病院のベッドの上だった。
【完結】幼馴染から離れたい。
June
BL
隣に立つのは運命の番なんだ。
βの谷口優希にはαである幼馴染の伊賀崎朔がいる。だが、ある日の出来事をきっかけに、幼馴染以上に大切な存在だったのだと気づいてしまう。
番外編 伊賀崎朔視点もあります。
(12月:改正版)
8/16番外編出しました!!!!!
読んでくださった読者の皆様、たくさんの❤️ありがとうございます😭
1/27 1000❤️ありがとうございます😭
3/6 2000❤️ありがとうございます😭
4/29 3000❤️ありがとうございます😭
8/13 4000❤️ありがとうございます😭
12/10 5000❤️ありがとうございます😭
わたし5は好きな数字です💕
お気に入り登録が500を超えているだと???!嬉しすぎますありがとうございます😭
彼の理想に
いちみやりょう
BL
あの人が見つめる先はいつも、優しそうに、幸せそうに笑う人だった。
人は違ってもそれだけは変わらなかった。
だから俺は、幸せそうに笑う努力をした。
優しくする努力をした。
本当はそんな人間なんかじゃないのに。
俺はあの人の恋人になりたい。
だけど、そんなことノンケのあの人に頼めないから。
心は冗談の中に隠して、少しでもあの人に近づけるようにって笑った。ずっとずっと。そうしてきた。
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
《一時完結》僕の彼氏は僕のことを好きじゃないⅠ
MITARASI_
BL
彼氏に愛されているはずなのに、どうしてこんなに苦しいんだろう。
「好き」と言ってほしくて、でも返ってくるのは沈黙ばかり。
揺れる心を支えてくれたのは、ずっと隣にいた幼なじみだった――。
不器用な彼氏とのすれ違い、そして幼なじみの静かな想い。
すべてを失ったときに初めて気づく、本当に欲しかった温もりとは。
切なくて、やさしくて、最後には救いに包まれる救済BLストーリー。
続編執筆中
僕の幸せは
春夏
BL
【完結しました】
【エールいただきました。ありがとうございます】
【たくさんの“いいね”ありがとうございます】
【たくさんの方々に読んでいただけて本当に嬉しいです。ありがとうございます!】
恋人に捨てられた悠の心情。
話は別れから始まります。全編が悠の視点です。
【本編完結】αに不倫されて離婚を突き付けられているけど別れたくない男Ωの話
雷尾
BL
本人が別れたくないって言うんなら仕方ないですよね。
一旦本編完結、気力があればその後か番外編を少しだけ書こうかと思ってます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる