6 / 27
おばさんからの呼び出し
しおりを挟む「何で愛されることを諦めてんの?」
久しぶりにおばさんに呼び出されて一言目に言われた。
「諦めてるって言うか、彼は春樹くんを愛してるのでそもそも僕がでしゃばったところで」
「あのさぁ、菜月。身を引くのがきれいなことだとでも思ってんの?」
おばさんの言葉には容赦がない。
「きれいなことって言うか、そもそも迅英さんと春樹くんの間を引き裂いたのは僕ですから」
「それで菜月は諦め切れるの? 春樹って子が日本に戻ってくるのはもうすぐなんだろ? 菜月は迅英と別れてそいつらの幸せを見てるだけでいいの?」
「僕は、迅英さんと別れたらどこか、ここじゃない場所で新しく人生を始めてみようと思っています。それに」
僕は広角が上がるのを抑えられずに少し笑うとおばさんは目を見開いた。
「何だい。今笑うとこがあったかい」
「いえ、ふふ。最近はなぜだか迅英さんが優しくなって。僕、もうすぐ別れることになるけど、最後に思い出ができて良かったなって思ってるんです」
「…………はぁ。何で優しくなったと思う?」
「少し乱暴に扱われたのでその罪滅ぼしでしょう。でも僕にとったらそれさえも嬉しい出来事でしたから、最近はいいこと尽くめです」
そう笑うとおばさんは頭を抱えて大きなため息をついた。
「薬の効果が切れたとは思わなかったのかい」
「そんなこと、きっとないです。期待なんてしないほうがいいんです。現に僕は好きだとも何とも言われてない」
「迅英と話し合ってみたらいいじゃないか」
「いえ。話し合うつもりはありません。今の迅英さんは以前までと違って僕を見る目が優しくなった。今の迅英さんは僕のことが嫌いじゃないと思うんです。でも、だからこそ、話し合いをして僕の本音を話したりして、万が一にでも嫌いに逆戻りになりたくない。また嫌われるくらいだったら、またあんな冷たい目を向けられるくらいだったら、僕は大人しく身をひきます。嫌われる前に僕から離れる」
「随分と拗れた考え方だね」
「何とでも言ってください。僕はこれでいいんです。これが僕の性分だから仕方ない。僕は身を引くのがきれいだと思ってるわけじゃなくて、ただただ自分が傷つきたくないだけなんです」
「そうかい」
「おばさんや家には迷惑をおかけしないと約束します。それでは失礼いたします」
おばさんは何も言わなかった。
ただ困った子を見る目で僕を見送った。
ここ最近は毎日一緒にご飯を食べていて今日の夕食も迅英さんに誘われていた。
迅英さんの帰宅時間に合わせて何品か準備して机に並べて待っていると程なくして迅英さんが帰ってきた。
「ただいま、菜月くん」
「おかえりなさい、迅英さん」
微笑む迅英さんをみるこの瞬間が好きだ。
だって何だか新婚さんみたいだと思った。
「今日の夕食は何かな」
「今日はほうれん草のお浸しとなめこのお味噌汁と竹の子の金平と肉じゃがです」
「どれも好きなメニューだ。いつもありがとう」
「いえ。食事代も出していただいていますのでこれくらいは」
「……そうか」
迅英さんは美味しい美味しいと言って食べてくれるので、最近は作るのが前よりも楽しい。
夕食を食べ終わってお風呂を勧めるといつも菜月が先に入っておいでと言われる。
でも僕が先に入っていると必ず後から乱入してくるようになった。
「迅英さん、そんなに待ち切れないなら迅英さんが先に入ってくれればいいんですよ」
「それじゃダメだ。俺は菜月をくまなく洗ってあげたいんだよ」
「自分の体くらい自分で洗えますから大丈夫です」
この会話ももう何度したか分からない。
僕は何だかんだと言いくるめられていつも全身を丁寧に洗われる。
「気持ちいいか?」
「……気持ちいいです」
気持ちいいけど、こんなことを覚えさせられたら困る。
愛されてると勘違いしそうになるし、この日々が続くかもしれないと期待を抱きそうになる。
だから僕はいつもギリギリまで拒否していた。
177
あなたにおすすめの小説
運命じゃない人
万里
BL
旭は、7年間連れ添った相手から突然別れを告げられる。「運命の番に出会ったんだ」と語る彼の言葉は、旭の心を深く傷つけた。積み重ねた日々も未来の約束も、その一言で崩れ去り、番を解消される。残された部屋には彼の痕跡はなく、孤独と喪失感だけが残った。
理解しようと努めるも、涙は止まらず、食事も眠りもままならない。やがて「番に捨てられたΩは死ぬ」という言葉が頭を支配し、旭は絶望の中で自らの手首を切る。意識が遠のき、次に目覚めたのは病院のベッドの上だった。
彼の理想に
いちみやりょう
BL
あの人が見つめる先はいつも、優しそうに、幸せそうに笑う人だった。
人は違ってもそれだけは変わらなかった。
だから俺は、幸せそうに笑う努力をした。
優しくする努力をした。
本当はそんな人間なんかじゃないのに。
俺はあの人の恋人になりたい。
だけど、そんなことノンケのあの人に頼めないから。
心は冗談の中に隠して、少しでもあの人に近づけるようにって笑った。ずっとずっと。そうしてきた。
【完結】幼馴染から離れたい。
June
BL
隣に立つのは運命の番なんだ。
βの谷口優希にはαである幼馴染の伊賀崎朔がいる。だが、ある日の出来事をきっかけに、幼馴染以上に大切な存在だったのだと気づいてしまう。
番外編 伊賀崎朔視点もあります。
(12月:改正版)
8/16番外編出しました!!!!!
読んでくださった読者の皆様、たくさんの❤️ありがとうございます😭
1/27 1000❤️ありがとうございます😭
3/6 2000❤️ありがとうございます😭
4/29 3000❤️ありがとうございます😭
8/13 4000❤️ありがとうございます😭
12/10 5000❤️ありがとうございます😭
わたし5は好きな数字です💕
お気に入り登録が500を超えているだと???!嬉しすぎますありがとうございます😭
《一時完結》僕の彼氏は僕のことを好きじゃないⅠ
MITARASI_
BL
彼氏に愛されているはずなのに、どうしてこんなに苦しいんだろう。
「好き」と言ってほしくて、でも返ってくるのは沈黙ばかり。
揺れる心を支えてくれたのは、ずっと隣にいた幼なじみだった――。
不器用な彼氏とのすれ違い、そして幼なじみの静かな想い。
すべてを失ったときに初めて気づく、本当に欲しかった温もりとは。
切なくて、やさしくて、最後には救いに包まれる救済BLストーリー。
続編執筆中
流れる星、どうかお願い
ハル
BL
羽水 結弦(うすい ゆずる)
オメガで高校中退の彼は国内の財閥の一つ、羽水本家の次男、羽水要と番になって約8年
高層マンションに住み、気兼ねなくスーパーで買い物をして好きな料理を食べられる。同じ性の人からすれば恵まれた生活をしている彼
そんな彼が夜、空を眺めて流れ星に祈る願いはただ一つ
”要が幸せになりますように”
オメガバースの世界を舞台にしたアルファ×オメガ
王道な関係の二人が織りなすラブストーリーをお楽しみに!
一応、更新していきますが、修正が入ることは多いので
ちょっと読みづらくなったら申し訳ないですが
お付き合いください!
僕の幸せは
春夏
BL
【完結しました】
【エールいただきました。ありがとうございます】
【たくさんの“いいね”ありがとうございます】
【たくさんの方々に読んでいただけて本当に嬉しいです。ありがとうございます!】
恋人に捨てられた悠の心情。
話は別れから始まります。全編が悠の視点です。
【本編完結】αに不倫されて離婚を突き付けられているけど別れたくない男Ωの話
雷尾
BL
本人が別れたくないって言うんなら仕方ないですよね。
一旦本編完結、気力があればその後か番外編を少しだけ書こうかと思ってます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる