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結衣斗が死んでから、四宮は何のために生きているのか分からなくなった。
それでもなお、自分の成長は止められない。
成長するにつれアルファの性が自分の理性を押し潰しそうな感覚に、四宮は抑制剤に頼るようになった。
そのおかげで絶世の美女を見ても、はかなげなオメガを見ても何も感じなくなった。
それは四宮にとってとても都合が良かったけれど、その代わり四宮の体はオメガのように3ヶ月に一度、ラットを起こすようになってしまった。
「坊ちゃんの体はボロボロです。誰でもいい、オメガを番にしてしまえば、ホルモンバランスが変わり坊ちゃんの病気を治してくれるでしょう」
医者はそう言った。
「いやです。それじゃあ、そのオメガはどうなるんです? 俺は結衣斗以外を愛することはできないのに」
「坊ちゃんはまだお若いから、そう思われるかもしれませんが、きっと好きになれる方が現れますよ。身寄りのないオメガにお金を渡せば簡単に了承するでしょう」
その言葉に四宮は医者を睨みつけた。
「俺は他人を物のように扱いたくない。それ以外の方法は何かないのか」
「残念ですが」
「そうか。なら研究してください」
「ですが坊ちゃん、現状、すぐに解決できる問題をわざわざできるか分からない研究の結果を待つ意味が分かりません」
医者は本当に訳がわからないという顔で、四宮に勝手な善意を押し付けた。
「残念ですが、あなたとの付き合いはこれっきりにさせてください。俺は他の医者を当たります」
「なっ、坊ちゃん! 私は坊ちゃんを想って!」
「ええ。それは分かってますよ。ですが、あなたと考えは合わないようですから」
「そんな!」
なぜ簡単に人を下に見ることができるのか、四宮には理解できなかった。
オメガは番ってしまったが最後、相手を変えることもできず、相手から愛されなければヒート中も大変な思いをするというのに、世の中のオメガに対する非情さは薄れていくことを知らない。
四宮の両親は、医者を解雇したことを咎めはしなかったが、四宮の部屋にオメガを送るようになった。男女問わず様々なオメガがヒート中に四宮の部屋を訪れた。
何度やめてくれと言っても聞かない両親に嫌気がさした四宮は、ついには家を飛び出した。
幸いにもその頃両親に隠れて動かしていた企業が波に乗っていて金には困らなかった。
大きな屋敷を建て、使用人を雇った。
3ヶ月に一度屋敷の一室に篭り、それ以外はただ仮面をつけたように笑顔で過ごした。
四宮はただ死ぬ時を待っているだけの存在だった。
だが、ある日取引先の社長の屋敷に接待をしに訪れた帰り、屋敷の外を寒そうに歩く千秋を発見した四宮は声をかけたのだ。
何故だか、直感的に声をかけなければならないのだと思った。
チョーカーをつけていた千秋は四宮を見て怯えたように見えた。
なるべく柔らかい表情を作り、車に乗せ千秋の目的地まで送っていった。
千秋が車から降りるときには離したくないなと思ったほどで、そんな自分にびっくりした。
だが、だめだ。
ーー俺には結衣斗がいるんだから
寒そうな千秋にコートをあげて、屋敷に戻っても四宮は千秋のことを考えていた。
なぜこんなに気になるのか分からなかった。
松岡が千秋にあげたコートを持ち帰ってきたときには嫌な予感で頭がいっぱいになり、四宮はすぐに屋敷を飛び出して、松岡の言っていた場所まで走った。
見つけた千秋は、ぐったりしていて今にも死にそうになっていた。
松岡はこんな千秋をほっておいたのか。
ーーいや、少し知り合ったくらいで助けないのは普通なのか
四宮には何が普通で、何が普通じゃないのかが分からなかった。
例えば、ここでぐったりとしている少年が、チョーカーをつけていなかったのなら、周りの人は助けたのではないのか。
千秋がオメガだから周りは放置しているのではないのか。
そう考え、そして、その考えはあながち間違っていないことを四宮は理解していた。
四宮は千秋の体をそっと抱えて背中に乗せて歩き出した。
ーー軽い。なんて軽いんだ
四宮は千秋のその体の軽さに心臓がギュッと痛くなった。
千秋に部屋で飲もうと誘ったとき、千秋は何故だか結衣斗の名前を知っていた。
ーーまさか、彼もまた両親が送り込んだオメガなのか
信じていたのに。
辛い想いをさせたくないと思ったのに。
そんなふうに数日悶々と考えた。
けれどいくら考えても、彼がそうだとは思えなかった。
取引先の屋敷の前で、千秋に声をかけたのは四宮だ。
その後も、繁華街で死にかけている千秋をおぶって連れ帰って雇ったのも四宮だ。
初めて千秋を見た時から、ふとした時に千秋のことを考えてしまっているのも四宮だった。
ーーこれが両親の差し金なら大した物だ
だが、そうではないだろう。
あまりに深く考えてしまい、ここ数日は千秋に話しかけてもいなかったことに気がついた四宮は慌てて熊井に千秋の居場所を尋ねた。
それでもなお、自分の成長は止められない。
成長するにつれアルファの性が自分の理性を押し潰しそうな感覚に、四宮は抑制剤に頼るようになった。
そのおかげで絶世の美女を見ても、はかなげなオメガを見ても何も感じなくなった。
それは四宮にとってとても都合が良かったけれど、その代わり四宮の体はオメガのように3ヶ月に一度、ラットを起こすようになってしまった。
「坊ちゃんの体はボロボロです。誰でもいい、オメガを番にしてしまえば、ホルモンバランスが変わり坊ちゃんの病気を治してくれるでしょう」
医者はそう言った。
「いやです。それじゃあ、そのオメガはどうなるんです? 俺は結衣斗以外を愛することはできないのに」
「坊ちゃんはまだお若いから、そう思われるかもしれませんが、きっと好きになれる方が現れますよ。身寄りのないオメガにお金を渡せば簡単に了承するでしょう」
その言葉に四宮は医者を睨みつけた。
「俺は他人を物のように扱いたくない。それ以外の方法は何かないのか」
「残念ですが」
「そうか。なら研究してください」
「ですが坊ちゃん、現状、すぐに解決できる問題をわざわざできるか分からない研究の結果を待つ意味が分かりません」
医者は本当に訳がわからないという顔で、四宮に勝手な善意を押し付けた。
「残念ですが、あなたとの付き合いはこれっきりにさせてください。俺は他の医者を当たります」
「なっ、坊ちゃん! 私は坊ちゃんを想って!」
「ええ。それは分かってますよ。ですが、あなたと考えは合わないようですから」
「そんな!」
なぜ簡単に人を下に見ることができるのか、四宮には理解できなかった。
オメガは番ってしまったが最後、相手を変えることもできず、相手から愛されなければヒート中も大変な思いをするというのに、世の中のオメガに対する非情さは薄れていくことを知らない。
四宮の両親は、医者を解雇したことを咎めはしなかったが、四宮の部屋にオメガを送るようになった。男女問わず様々なオメガがヒート中に四宮の部屋を訪れた。
何度やめてくれと言っても聞かない両親に嫌気がさした四宮は、ついには家を飛び出した。
幸いにもその頃両親に隠れて動かしていた企業が波に乗っていて金には困らなかった。
大きな屋敷を建て、使用人を雇った。
3ヶ月に一度屋敷の一室に篭り、それ以外はただ仮面をつけたように笑顔で過ごした。
四宮はただ死ぬ時を待っているだけの存在だった。
だが、ある日取引先の社長の屋敷に接待をしに訪れた帰り、屋敷の外を寒そうに歩く千秋を発見した四宮は声をかけたのだ。
何故だか、直感的に声をかけなければならないのだと思った。
チョーカーをつけていた千秋は四宮を見て怯えたように見えた。
なるべく柔らかい表情を作り、車に乗せ千秋の目的地まで送っていった。
千秋が車から降りるときには離したくないなと思ったほどで、そんな自分にびっくりした。
だが、だめだ。
ーー俺には結衣斗がいるんだから
寒そうな千秋にコートをあげて、屋敷に戻っても四宮は千秋のことを考えていた。
なぜこんなに気になるのか分からなかった。
松岡が千秋にあげたコートを持ち帰ってきたときには嫌な予感で頭がいっぱいになり、四宮はすぐに屋敷を飛び出して、松岡の言っていた場所まで走った。
見つけた千秋は、ぐったりしていて今にも死にそうになっていた。
松岡はこんな千秋をほっておいたのか。
ーーいや、少し知り合ったくらいで助けないのは普通なのか
四宮には何が普通で、何が普通じゃないのかが分からなかった。
例えば、ここでぐったりとしている少年が、チョーカーをつけていなかったのなら、周りの人は助けたのではないのか。
千秋がオメガだから周りは放置しているのではないのか。
そう考え、そして、その考えはあながち間違っていないことを四宮は理解していた。
四宮は千秋の体をそっと抱えて背中に乗せて歩き出した。
ーー軽い。なんて軽いんだ
四宮は千秋のその体の軽さに心臓がギュッと痛くなった。
千秋に部屋で飲もうと誘ったとき、千秋は何故だか結衣斗の名前を知っていた。
ーーまさか、彼もまた両親が送り込んだオメガなのか
信じていたのに。
辛い想いをさせたくないと思ったのに。
そんなふうに数日悶々と考えた。
けれどいくら考えても、彼がそうだとは思えなかった。
取引先の屋敷の前で、千秋に声をかけたのは四宮だ。
その後も、繁華街で死にかけている千秋をおぶって連れ帰って雇ったのも四宮だ。
初めて千秋を見た時から、ふとした時に千秋のことを考えてしまっているのも四宮だった。
ーーこれが両親の差し金なら大した物だ
だが、そうではないだろう。
あまりに深く考えてしまい、ここ数日は千秋に話しかけてもいなかったことに気がついた四宮は慌てて熊井に千秋の居場所を尋ねた。
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