器量なしのオメガの僕は

いちみやりょう

文字の大きさ
14 / 43

14

しおりを挟む
ここを出る時までなるべく四宮の視線に映らない範囲で仕事しようと、千秋はコソコソとするようになった。
あれから何故だか五十嵐やその取り巻きにはニヤニヤと見られて千秋は居心地が悪かった。
だが、その度に熊井が気づいてくれ、五十嵐を叱責する場面をよく見た。
そろそろ千秋も熊井に申しわけがなくなったのと加えて、四宮の視界になるべく映らないように、熊井に配置換えを相談して、庭の草むしりに回してもらえるようにした。
庭の草むしりは1番人気のない仕事で、他の従業員は喜んで千秋の専属に賛成してくれた。
四宮はわざわざ庭に出てくることもない。
だからこの屋敷を出るまでの間、四宮に顔を見せずに済むと思ったのだ。
そんな日々が2週間は過ぎた。
相変わらず仕事中は庭の草を黙々と抜いていた千秋は腕に少し力がついてきたかもと、若干喜びながら仕事していた。

「精がでますね」

遠くの方から近づいてきている薔薇の匂いには気がついていた。
泉の匂いとは違い、嗅いでいるだけでドキドキそわそわする匂いだ。
けれど、庭に来るとは思っておらず声をかけられて千秋はびっくりした。

「四宮様、ありがとうございます」

違和感なく笑えただろうかと気になりながら四宮の方を向くと、四宮は困ったような顔で微笑んでいた。

「ここ最近は、大人気ない態度を取ってしまってすみませんでした。君の方が遥かに年下なのに、お恥ずかしいです。ここ最近千秋くんが草むしりをしていると熊井から聞きました。それは僕に顔を見せないように?」
「いえ、僕は草むしりが好きなだけです」

千秋は笑ってそう答えた。
そうしたら四宮はすぐに納得して去っていくと思っていた。
けれど四宮は動かなかった。

「僕もたまには草むしりをしようかな」
「え?」
「僕に顔を合わせないようにじゃないんですよね? なら僕も一緒に草むしりをしても良いですか?」
「なっ、ダメです。四宮様が草むしりなんてする必要は全くないんですから!」
「でも僕は今とっても草をむしりたい気分なんです。お願いします」

そこまで言われてしまえば、千秋には拒否することなどできなかった。

四宮は千秋の横で静かに草をむしり始めたので、千秋も屈んでまた草むしりを再開した。

「千秋くんと話すのは、何だか落ち着くんです。千秋くんとの出会いの時だって、僕から話しかけたのに、僕は千秋くんがここに来たのは両親の差し金だと考えてしまいました。あれから冷静になって考えて、そんなことはあるはずがないと気がつきました。不快な思いも、居心地の悪い思いをさせたでしょう。本当にすみません」
「き、気にしないでください。僕は本当に大丈夫ですから」
「僕は……ご存知かもしれませんが、アルファなんです。言い訳になるのですが、両親が僕に番を作らせたがってオメガを送り込まれることも多くて。けれどこの間もお話しした通り、僕はいまだに結衣斗が忘れられない。だから番以前に、どなたともお付き合いもする気はなかったんですよ」

その話は泉に聞いていた通りだった。
さすがに友人だけあって、泉は四宮のことをよく知っているのだなと千秋は感心した。

そして、結衣斗を忘れられないのだと言う四宮の言葉にまた、傷つき、そして嫉妬心のような心が芽生え頭を振ってその考えを飛ばした。
これを今、千秋にもう一度伝えるということは、四宮は千秋を牽制しているのだろうと解釈した。“自分を好きになっても答える気はない”と。

千秋とて、そんなことは分かっていた。
今までの人生の全てにおいて千秋が選ばれたことはない。
けれど、好きな人に何のアピールもする前に気持ちを否定されるのはとても悲しいことだと思った。それでも、このままで居ることが他でもない四宮の願いならば、千秋は答えるだけだ。

「はい。僕は、そのように深い愛を持っておられる四宮様の元で働けて、幸せです」

なんとか絞り出したそんなセリフに、四宮は少しだけ目を丸くして困ったように笑った。

「今までは番を持つ気はなかったけれど、何故だかすごく気になっている人はいるんです」
「そ、そうなんですか?」

まさかそんな人がいるなんて思いもしなかった千秋の声は裏返った。

ーーいいなぁ、その人。一体前世でどれほどの徳を積めば四宮様に気になってもらえるんだろう

千秋は羨ましさで心をいっぱいにしながら、目の前の草をむしった。

「そうなんです。でも、今のところ脈はないかもしれません」

四宮が戯けたように言った言葉に、千秋は驚いた。

「えっ、四宮様が好きだって伝えたら、どんな相手でもイチコロだと思います」
「そう思う?」

千秋の目をジッと見つめ四宮は真剣な声でそう尋ねた。
千秋がこれでもかというほど大きくうなずき「当たり前です」と答えると四宮は嬉しそうな顔で笑った。

「なら、どうかな。どこか一緒にお出かけしませんか?」
「え?」

急な話題の変化についていけず千秋は間抜けな声がでた。

「どこか行きたいところはありませんか? 千秋くんの行きたいと思うところに行きましょう」

ニコニコと続けた四宮の言葉を千秋は測りかねて、ついには首を傾げた。

「僕が行きたいところ? なんで……あ」

ーーそうか。四宮様の気になっている相手というのは、僕と同じ歳くらいの人なのかも。

千秋は四宮の気になっている相手を勝手に想像して勝手に凹んだ。

「どうしました? 僕と一緒に出かけるのは嫌?」
「いえ、とんでもないです。でも、僕でお役に立てるかどうか。遊べるところとかあんまり知らなくて」
「千秋くんが一緒に出かけてくれるだけで僕は嬉しいですよ。ではまずはドライブなんかはどうでしょうか」
「ドライブ、行ってみたいです」
「じゃあ、今度の休みに行きましょう。ふふ。楽しみですね」
「はい」

四宮とのドライブは楽しみすぎて、千秋は当日までソワソワしながら過ごした。
しおりを挟む
感想 26

あなたにおすすめの小説

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

【完結】幼馴染から離れたい。

June
BL
隣に立つのは運命の番なんだ。 βの谷口優希にはαである幼馴染の伊賀崎朔がいる。だが、ある日の出来事をきっかけに、幼馴染以上に大切な存在だったのだと気づいてしまう。 番外編 伊賀崎朔視点もあります。 (12月:改正版) 8/16番外編出しました!!!!! 読んでくださった読者の皆様、たくさんの❤️ありがとうございます😭 1/27 1000❤️ありがとうございます😭 3/6 2000❤️ありがとうございます😭 4/29 3000❤️ありがとうございます😭 8/13 4000❤️ありがとうございます😭

平凡な僕が優しい彼氏と別れる方法

あと
BL
「よし!別れよう!」 元遊び人の現爽やか風受けには激重執着男×ちょっとネガティブな鈍感天然アホの子 昔チャラかった癖に手を出してくれない攻めに憤った受けが、もしかしたら他に好きな人がいる!?と思い込み、別れようとする……?みたいな話です。 攻めの女性関係匂わせや攻めフェラがあり、苦手な人はブラウザバックで。    ……これはメンヘラなのではないか?という説もあります。 pixivでも投稿しています。 攻め:九條隼人 受け:田辺光希 友人:石川優希 ひよったら消します。 誤字脱字はサイレント修正します。 また、内容もサイレント修正する時もあります。 定期的にタグ整理します。ご了承ください。 批判・中傷コメントはお控えください。 見つけ次第削除いたします。

事故つがいの夫は僕を愛さない  ~15歳で番になった、オメガとアルファのすれちがい婚~【本編完結】

カミヤルイ
BL
2023.9.19~完結一日目までBL1位、全ジャンル内でも20位以内継続。 2025.4.28にも1位に返り咲きました。 ありがとうございます! 美形アルファと平凡オメガのすれ違い結婚生活 (登場人物) 高梨天音:オメガ性の20歳。15歳の時、電車内で初めてのヒートを起こした。  高梨理人:アルファ性の20歳。天音の憧れの同級生だったが、天音のヒートに抗えずに番となってしまい、罪悪感と責任感から結婚を申し出た。 (あらすじ)*自己設定ありオメガバース 「事故番を対象とした番解消の投与薬がいよいよ完成しました」 ある朝流れたニュースに、オメガの天音の番で、夫でもあるアルファの理人は釘付けになった。 天音は理人が薬を欲しいのではと不安になる。二人は五年前、天音の突発的なヒートにより番となった事故番だからだ。 理人は夫として誠実で優しいが、番になってからの五年間、一度も愛を囁いてくれたこともなければ、発情期以外の性交は無く寝室も別。さらにはキスも、顔を見ながらの性交もしてくれたことがない。 天音は理人が罪悪感だけで結婚してくれたと思っており、嫌われたくないと苦手な家事も頑張ってきた。どうか理人が薬のことを考えないでいてくれるようにと願う。最近は理人の帰りが遅く、ますます距離ができているからなおさらだった。 しかしその夜、別のオメガの匂いを纏わりつけて帰宅した理人に乱暴に抱かれ、翌日には理人が他のオメガと抱き合ってキスする場面を見てしまう。天音ははっきりと感じた、彼は理人の「運命の番」だと。 ショックを受けた天音だが、理人の為には別れるしかないと考え、番解消薬について調べることにするが……。 表紙は天宮叶さん@amamiyakyo0217

孕めないオメガでもいいですか?

月夜野レオン
BL
病院で子供を孕めない体といきなり診断された俺は、どうして良いのか判らず大好きな幼馴染の前から消える選択をした。不完全なオメガはお前に相応しくないから…… オメガバース作品です。

こわがりオメガは溺愛アルファ様と毎日おいかけっこ♡

なお
BL
政略結婚(?)したアルファの旦那様をこわがってるオメガ。 あまり近付かないようにしようと逃げ回っている。発情期も結婚してから来ないし、番になってない。このままじゃ離婚になるかもしれない…。 ♡♡♡ 恐いけど、きっと旦那様のことは好いてるのかな?なオメガ受けちゃん。ちゃんとアルファ旦那攻め様に甘々どろどろに溺愛されて、たまに垣間見えるアルファの執着も楽しめるように書きたいところだけ書くみたいになるかもしれないのでストーリーは面白くないかもです!!!ごめんなさい!!!

運命のアルファ

猫丸
BL
俺、高木颯人は、幼い頃から亮太が好きだった。亮太はずっと俺のヒーローだ。 亮太がアルファだと知った時、自分の第二の性が不明でも、自分はオメガだから将来は大好きな亮太と番婚するのだと信じて疑わなかった。 だが、検査の結果を見て俺の世界が一変した。 まさか自分もアルファだとは……。 二人で交わした番婚の約束など、とっくに破綻しているというのに亮太を手放せない颯人。 オメガじゃなかったから、颯人は自分を必要としていないのだ、と荒れる亮太。 オメガバース/アルファ同士の恋愛。 CP:相手の前でだけヒーローになるクズアルファ ✕ 甘ったれアルファ ※颯人視点は2024/1/30 21:00完結、亮太視点は1/31 21:00完結です。 ※話の都合上、途中女性やオメガ男性を貶めるような発言が出てきます(特に亮太視点)。地雷がある方、苦手な方は自衛してください。 ※表紙画像は、亮太をイメージして作成したAI画像です。

処理中です...