13 / 43
13
しおりを挟む
結衣斗が死んでから、四宮は何のために生きているのか分からなくなった。
それでもなお、自分の成長は止められない。
成長するにつれアルファの性が自分の理性を押し潰しそうな感覚に、四宮は抑制剤に頼るようになった。
そのおかげで絶世の美女を見ても、はかなげなオメガを見ても何も感じなくなった。
それは四宮にとってとても都合が良かったけれど、その代わり四宮の体はオメガのように3ヶ月に一度、ラットを起こすようになってしまった。
「坊ちゃんの体はボロボロです。誰でもいい、オメガを番にしてしまえば、ホルモンバランスが変わり坊ちゃんの病気を治してくれるでしょう」
医者はそう言った。
「いやです。それじゃあ、そのオメガはどうなるんです? 俺は結衣斗以外を愛することはできないのに」
「坊ちゃんはまだお若いから、そう思われるかもしれませんが、きっと好きになれる方が現れますよ。身寄りのないオメガにお金を渡せば簡単に了承するでしょう」
その言葉に四宮は医者を睨みつけた。
「俺は他人を物のように扱いたくない。それ以外の方法は何かないのか」
「残念ですが」
「そうか。なら研究してください」
「ですが坊ちゃん、現状、すぐに解決できる問題をわざわざできるか分からない研究の結果を待つ意味が分かりません」
医者は本当に訳がわからないという顔で、四宮に勝手な善意を押し付けた。
「残念ですが、あなたとの付き合いはこれっきりにさせてください。俺は他の医者を当たります」
「なっ、坊ちゃん! 私は坊ちゃんを想って!」
「ええ。それは分かってますよ。ですが、あなたと考えは合わないようですから」
「そんな!」
なぜ簡単に人を下に見ることができるのか、四宮には理解できなかった。
オメガは番ってしまったが最後、相手を変えることもできず、相手から愛されなければヒート中も大変な思いをするというのに、世の中のオメガに対する非情さは薄れていくことを知らない。
四宮の両親は、医者を解雇したことを咎めはしなかったが、四宮の部屋にオメガを送るようになった。男女問わず様々なオメガがヒート中に四宮の部屋を訪れた。
何度やめてくれと言っても聞かない両親に嫌気がさした四宮は、ついには家を飛び出した。
幸いにもその頃両親に隠れて動かしていた企業が波に乗っていて金には困らなかった。
大きな屋敷を建て、使用人を雇った。
3ヶ月に一度屋敷の一室に篭り、それ以外はただ仮面をつけたように笑顔で過ごした。
四宮はただ死ぬ時を待っているだけの存在だった。
だが、ある日取引先の社長の屋敷に接待をしに訪れた帰り、屋敷の外を寒そうに歩く千秋を発見した四宮は声をかけたのだ。
何故だか、直感的に声をかけなければならないのだと思った。
チョーカーをつけていた千秋は四宮を見て怯えたように見えた。
なるべく柔らかい表情を作り、車に乗せ千秋の目的地まで送っていった。
千秋が車から降りるときには離したくないなと思ったほどで、そんな自分にびっくりした。
だが、だめだ。
ーー俺には結衣斗がいるんだから
寒そうな千秋にコートをあげて、屋敷に戻っても四宮は千秋のことを考えていた。
なぜこんなに気になるのか分からなかった。
松岡が千秋にあげたコートを持ち帰ってきたときには嫌な予感で頭がいっぱいになり、四宮はすぐに屋敷を飛び出して、松岡の言っていた場所まで走った。
見つけた千秋は、ぐったりしていて今にも死にそうになっていた。
松岡はこんな千秋をほっておいたのか。
ーーいや、少し知り合ったくらいで助けないのは普通なのか
四宮には何が普通で、何が普通じゃないのかが分からなかった。
例えば、ここでぐったりとしている少年が、チョーカーをつけていなかったのなら、周りの人は助けたのではないのか。
千秋がオメガだから周りは放置しているのではないのか。
そう考え、そして、その考えはあながち間違っていないことを四宮は理解していた。
四宮は千秋の体をそっと抱えて背中に乗せて歩き出した。
ーー軽い。なんて軽いんだ
四宮は千秋のその体の軽さに心臓がギュッと痛くなった。
千秋に部屋で飲もうと誘ったとき、千秋は何故だか結衣斗の名前を知っていた。
ーーまさか、彼もまた両親が送り込んだオメガなのか
信じていたのに。
辛い想いをさせたくないと思ったのに。
そんなふうに数日悶々と考えた。
けれどいくら考えても、彼がそうだとは思えなかった。
取引先の屋敷の前で、千秋に声をかけたのは四宮だ。
その後も、繁華街で死にかけている千秋をおぶって連れ帰って雇ったのも四宮だ。
初めて千秋を見た時から、ふとした時に千秋のことを考えてしまっているのも四宮だった。
ーーこれが両親の差し金なら大した物だ
だが、そうではないだろう。
あまりに深く考えてしまい、ここ数日は千秋に話しかけてもいなかったことに気がついた四宮は慌てて熊井に千秋の居場所を尋ねた。
それでもなお、自分の成長は止められない。
成長するにつれアルファの性が自分の理性を押し潰しそうな感覚に、四宮は抑制剤に頼るようになった。
そのおかげで絶世の美女を見ても、はかなげなオメガを見ても何も感じなくなった。
それは四宮にとってとても都合が良かったけれど、その代わり四宮の体はオメガのように3ヶ月に一度、ラットを起こすようになってしまった。
「坊ちゃんの体はボロボロです。誰でもいい、オメガを番にしてしまえば、ホルモンバランスが変わり坊ちゃんの病気を治してくれるでしょう」
医者はそう言った。
「いやです。それじゃあ、そのオメガはどうなるんです? 俺は結衣斗以外を愛することはできないのに」
「坊ちゃんはまだお若いから、そう思われるかもしれませんが、きっと好きになれる方が現れますよ。身寄りのないオメガにお金を渡せば簡単に了承するでしょう」
その言葉に四宮は医者を睨みつけた。
「俺は他人を物のように扱いたくない。それ以外の方法は何かないのか」
「残念ですが」
「そうか。なら研究してください」
「ですが坊ちゃん、現状、すぐに解決できる問題をわざわざできるか分からない研究の結果を待つ意味が分かりません」
医者は本当に訳がわからないという顔で、四宮に勝手な善意を押し付けた。
「残念ですが、あなたとの付き合いはこれっきりにさせてください。俺は他の医者を当たります」
「なっ、坊ちゃん! 私は坊ちゃんを想って!」
「ええ。それは分かってますよ。ですが、あなたと考えは合わないようですから」
「そんな!」
なぜ簡単に人を下に見ることができるのか、四宮には理解できなかった。
オメガは番ってしまったが最後、相手を変えることもできず、相手から愛されなければヒート中も大変な思いをするというのに、世の中のオメガに対する非情さは薄れていくことを知らない。
四宮の両親は、医者を解雇したことを咎めはしなかったが、四宮の部屋にオメガを送るようになった。男女問わず様々なオメガがヒート中に四宮の部屋を訪れた。
何度やめてくれと言っても聞かない両親に嫌気がさした四宮は、ついには家を飛び出した。
幸いにもその頃両親に隠れて動かしていた企業が波に乗っていて金には困らなかった。
大きな屋敷を建て、使用人を雇った。
3ヶ月に一度屋敷の一室に篭り、それ以外はただ仮面をつけたように笑顔で過ごした。
四宮はただ死ぬ時を待っているだけの存在だった。
だが、ある日取引先の社長の屋敷に接待をしに訪れた帰り、屋敷の外を寒そうに歩く千秋を発見した四宮は声をかけたのだ。
何故だか、直感的に声をかけなければならないのだと思った。
チョーカーをつけていた千秋は四宮を見て怯えたように見えた。
なるべく柔らかい表情を作り、車に乗せ千秋の目的地まで送っていった。
千秋が車から降りるときには離したくないなと思ったほどで、そんな自分にびっくりした。
だが、だめだ。
ーー俺には結衣斗がいるんだから
寒そうな千秋にコートをあげて、屋敷に戻っても四宮は千秋のことを考えていた。
なぜこんなに気になるのか分からなかった。
松岡が千秋にあげたコートを持ち帰ってきたときには嫌な予感で頭がいっぱいになり、四宮はすぐに屋敷を飛び出して、松岡の言っていた場所まで走った。
見つけた千秋は、ぐったりしていて今にも死にそうになっていた。
松岡はこんな千秋をほっておいたのか。
ーーいや、少し知り合ったくらいで助けないのは普通なのか
四宮には何が普通で、何が普通じゃないのかが分からなかった。
例えば、ここでぐったりとしている少年が、チョーカーをつけていなかったのなら、周りの人は助けたのではないのか。
千秋がオメガだから周りは放置しているのではないのか。
そう考え、そして、その考えはあながち間違っていないことを四宮は理解していた。
四宮は千秋の体をそっと抱えて背中に乗せて歩き出した。
ーー軽い。なんて軽いんだ
四宮は千秋のその体の軽さに心臓がギュッと痛くなった。
千秋に部屋で飲もうと誘ったとき、千秋は何故だか結衣斗の名前を知っていた。
ーーまさか、彼もまた両親が送り込んだオメガなのか
信じていたのに。
辛い想いをさせたくないと思ったのに。
そんなふうに数日悶々と考えた。
けれどいくら考えても、彼がそうだとは思えなかった。
取引先の屋敷の前で、千秋に声をかけたのは四宮だ。
その後も、繁華街で死にかけている千秋をおぶって連れ帰って雇ったのも四宮だ。
初めて千秋を見た時から、ふとした時に千秋のことを考えてしまっているのも四宮だった。
ーーこれが両親の差し金なら大した物だ
だが、そうではないだろう。
あまりに深く考えてしまい、ここ数日は千秋に話しかけてもいなかったことに気がついた四宮は慌てて熊井に千秋の居場所を尋ねた。
64
あなたにおすすめの小説
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
【完結】幼馴染から離れたい。
June
BL
隣に立つのは運命の番なんだ。
βの谷口優希にはαである幼馴染の伊賀崎朔がいる。だが、ある日の出来事をきっかけに、幼馴染以上に大切な存在だったのだと気づいてしまう。
番外編 伊賀崎朔視点もあります。
(12月:改正版)
8/16番外編出しました!!!!!
読んでくださった読者の皆様、たくさんの❤️ありがとうございます😭
1/27 1000❤️ありがとうございます😭
3/6 2000❤️ありがとうございます😭
4/29 3000❤️ありがとうございます😭
8/13 4000❤️ありがとうございます😭
平凡な僕が優しい彼氏と別れる方法
あと
BL
「よし!別れよう!」
元遊び人の現爽やか風受けには激重執着男×ちょっとネガティブな鈍感天然アホの子
昔チャラかった癖に手を出してくれない攻めに憤った受けが、もしかしたら他に好きな人がいる!?と思い込み、別れようとする……?みたいな話です。
攻めの女性関係匂わせや攻めフェラがあり、苦手な人はブラウザバックで。
……これはメンヘラなのではないか?という説もあります。
pixivでも投稿しています。
攻め:九條隼人
受け:田辺光希
友人:石川優希
ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグ整理します。ご了承ください。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。
事故つがいの夫は僕を愛さない ~15歳で番になった、オメガとアルファのすれちがい婚~【本編完結】
カミヤルイ
BL
2023.9.19~完結一日目までBL1位、全ジャンル内でも20位以内継続。
2025.4.28にも1位に返り咲きました。
ありがとうございます!
美形アルファと平凡オメガのすれ違い結婚生活
(登場人物)
高梨天音:オメガ性の20歳。15歳の時、電車内で初めてのヒートを起こした。
高梨理人:アルファ性の20歳。天音の憧れの同級生だったが、天音のヒートに抗えずに番となってしまい、罪悪感と責任感から結婚を申し出た。
(あらすじ)*自己設定ありオメガバース
「事故番を対象とした番解消の投与薬がいよいよ完成しました」
ある朝流れたニュースに、オメガの天音の番で、夫でもあるアルファの理人は釘付けになった。
天音は理人が薬を欲しいのではと不安になる。二人は五年前、天音の突発的なヒートにより番となった事故番だからだ。
理人は夫として誠実で優しいが、番になってからの五年間、一度も愛を囁いてくれたこともなければ、発情期以外の性交は無く寝室も別。さらにはキスも、顔を見ながらの性交もしてくれたことがない。
天音は理人が罪悪感だけで結婚してくれたと思っており、嫌われたくないと苦手な家事も頑張ってきた。どうか理人が薬のことを考えないでいてくれるようにと願う。最近は理人の帰りが遅く、ますます距離ができているからなおさらだった。
しかしその夜、別のオメガの匂いを纏わりつけて帰宅した理人に乱暴に抱かれ、翌日には理人が他のオメガと抱き合ってキスする場面を見てしまう。天音ははっきりと感じた、彼は理人の「運命の番」だと。
ショックを受けた天音だが、理人の為には別れるしかないと考え、番解消薬について調べることにするが……。
表紙は天宮叶さん@amamiyakyo0217
孕めないオメガでもいいですか?
月夜野レオン
BL
病院で子供を孕めない体といきなり診断された俺は、どうして良いのか判らず大好きな幼馴染の前から消える選択をした。不完全なオメガはお前に相応しくないから……
オメガバース作品です。
こわがりオメガは溺愛アルファ様と毎日おいかけっこ♡
なお
BL
政略結婚(?)したアルファの旦那様をこわがってるオメガ。
あまり近付かないようにしようと逃げ回っている。発情期も結婚してから来ないし、番になってない。このままじゃ離婚になるかもしれない…。
♡♡♡
恐いけど、きっと旦那様のことは好いてるのかな?なオメガ受けちゃん。ちゃんとアルファ旦那攻め様に甘々どろどろに溺愛されて、たまに垣間見えるアルファの執着も楽しめるように書きたいところだけ書くみたいになるかもしれないのでストーリーは面白くないかもです!!!ごめんなさい!!!
運命のアルファ
猫丸
BL
俺、高木颯人は、幼い頃から亮太が好きだった。亮太はずっと俺のヒーローだ。
亮太がアルファだと知った時、自分の第二の性が不明でも、自分はオメガだから将来は大好きな亮太と番婚するのだと信じて疑わなかった。
だが、検査の結果を見て俺の世界が一変した。
まさか自分もアルファだとは……。
二人で交わした番婚の約束など、とっくに破綻しているというのに亮太を手放せない颯人。
オメガじゃなかったから、颯人は自分を必要としていないのだ、と荒れる亮太。
オメガバース/アルファ同士の恋愛。
CP:相手の前でだけヒーローになるクズアルファ ✕ 甘ったれアルファ
※颯人視点は2024/1/30 21:00完結、亮太視点は1/31 21:00完結です。
※話の都合上、途中女性やオメガ男性を貶めるような発言が出てきます(特に亮太視点)。地雷がある方、苦手な方は自衛してください。
※表紙画像は、亮太をイメージして作成したAI画像です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる