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ここを出る時までなるべく四宮の視線に映らない範囲で仕事しようと、千秋はコソコソとするようになった。
あれから何故だか五十嵐やその取り巻きにはニヤニヤと見られて千秋は居心地が悪かった。
だが、その度に熊井が気づいてくれ、五十嵐を叱責する場面をよく見た。
そろそろ千秋も熊井に申しわけがなくなったのと加えて、四宮の視界になるべく映らないように、熊井に配置換えを相談して、庭の草むしりに回してもらえるようにした。
庭の草むしりは1番人気のない仕事で、他の従業員は喜んで千秋の専属に賛成してくれた。
四宮はわざわざ庭に出てくることもない。
だからこの屋敷を出るまでの間、四宮に顔を見せずに済むと思ったのだ。
そんな日々が2週間は過ぎた。
相変わらず仕事中は庭の草を黙々と抜いていた千秋は腕に少し力がついてきたかもと、若干喜びながら仕事していた。
「精がでますね」
遠くの方から近づいてきている薔薇の匂いには気がついていた。
泉の匂いとは違い、嗅いでいるだけでドキドキそわそわする匂いだ。
けれど、庭に来るとは思っておらず声をかけられて千秋はびっくりした。
「四宮様、ありがとうございます」
違和感なく笑えただろうかと気になりながら四宮の方を向くと、四宮は困ったような顔で微笑んでいた。
「ここ最近は、大人気ない態度を取ってしまってすみませんでした。君の方が遥かに年下なのに、お恥ずかしいです。ここ最近千秋くんが草むしりをしていると熊井から聞きました。それは僕に顔を見せないように?」
「いえ、僕は草むしりが好きなだけです」
千秋は笑ってそう答えた。
そうしたら四宮はすぐに納得して去っていくと思っていた。
けれど四宮は動かなかった。
「僕もたまには草むしりをしようかな」
「え?」
「僕に顔を合わせないようにじゃないんですよね? なら僕も一緒に草むしりをしても良いですか?」
「なっ、ダメです。四宮様が草むしりなんてする必要は全くないんですから!」
「でも僕は今とっても草をむしりたい気分なんです。お願いします」
そこまで言われてしまえば、千秋には拒否することなどできなかった。
四宮は千秋の横で静かに草をむしり始めたので、千秋も屈んでまた草むしりを再開した。
「千秋くんと話すのは、何だか落ち着くんです。千秋くんとの出会いの時だって、僕から話しかけたのに、僕は千秋くんがここに来たのは両親の差し金だと考えてしまいました。あれから冷静になって考えて、そんなことはあるはずがないと気がつきました。不快な思いも、居心地の悪い思いをさせたでしょう。本当にすみません」
「き、気にしないでください。僕は本当に大丈夫ですから」
「僕は……ご存知かもしれませんが、アルファなんです。言い訳になるのですが、両親が僕に番を作らせたがってオメガを送り込まれることも多くて。けれどこの間もお話しした通り、僕はいまだに結衣斗が忘れられない。だから番以前に、どなたともお付き合いもする気はなかったんですよ」
その話は泉に聞いていた通りだった。
さすがに友人だけあって、泉は四宮のことをよく知っているのだなと千秋は感心した。
そして、結衣斗を忘れられないのだと言う四宮の言葉にまた、傷つき、そして嫉妬心のような心が芽生え頭を振ってその考えを飛ばした。
これを今、千秋にもう一度伝えるということは、四宮は千秋を牽制しているのだろうと解釈した。“自分を好きになっても答える気はない”と。
千秋とて、そんなことは分かっていた。
今までの人生の全てにおいて千秋が選ばれたことはない。
けれど、好きな人に何のアピールもする前に気持ちを否定されるのはとても悲しいことだと思った。それでも、このままで居ることが他でもない四宮の願いならば、千秋は答えるだけだ。
「はい。僕は、そのように深い愛を持っておられる四宮様の元で働けて、幸せです」
なんとか絞り出したそんなセリフに、四宮は少しだけ目を丸くして困ったように笑った。
「今までは番を持つ気はなかったけれど、何故だかすごく気になっている人はいるんです」
「そ、そうなんですか?」
まさかそんな人がいるなんて思いもしなかった千秋の声は裏返った。
ーーいいなぁ、その人。一体前世でどれほどの徳を積めば四宮様に気になってもらえるんだろう
千秋は羨ましさで心をいっぱいにしながら、目の前の草をむしった。
「そうなんです。でも、今のところ脈はないかもしれません」
四宮が戯けたように言った言葉に、千秋は驚いた。
「えっ、四宮様が好きだって伝えたら、どんな相手でもイチコロだと思います」
「そう思う?」
千秋の目をジッと見つめ四宮は真剣な声でそう尋ねた。
千秋がこれでもかというほど大きくうなずき「当たり前です」と答えると四宮は嬉しそうな顔で笑った。
「なら、どうかな。どこか一緒にお出かけしませんか?」
「え?」
急な話題の変化についていけず千秋は間抜けな声がでた。
「どこか行きたいところはありませんか? 千秋くんの行きたいと思うところに行きましょう」
ニコニコと続けた四宮の言葉を千秋は測りかねて、ついには首を傾げた。
「僕が行きたいところ? なんで……あ」
ーーそうか。四宮様の気になっている相手というのは、僕と同じ歳くらいの人なのかも。
千秋は四宮の気になっている相手を勝手に想像して勝手に凹んだ。
「どうしました? 僕と一緒に出かけるのは嫌?」
「いえ、とんでもないです。でも、僕でお役に立てるかどうか。遊べるところとかあんまり知らなくて」
「千秋くんが一緒に出かけてくれるだけで僕は嬉しいですよ。ではまずはドライブなんかはどうでしょうか」
「ドライブ、行ってみたいです」
「じゃあ、今度の休みに行きましょう。ふふ。楽しみですね」
「はい」
四宮とのドライブは楽しみすぎて、千秋は当日までソワソワしながら過ごした。
あれから何故だか五十嵐やその取り巻きにはニヤニヤと見られて千秋は居心地が悪かった。
だが、その度に熊井が気づいてくれ、五十嵐を叱責する場面をよく見た。
そろそろ千秋も熊井に申しわけがなくなったのと加えて、四宮の視界になるべく映らないように、熊井に配置換えを相談して、庭の草むしりに回してもらえるようにした。
庭の草むしりは1番人気のない仕事で、他の従業員は喜んで千秋の専属に賛成してくれた。
四宮はわざわざ庭に出てくることもない。
だからこの屋敷を出るまでの間、四宮に顔を見せずに済むと思ったのだ。
そんな日々が2週間は過ぎた。
相変わらず仕事中は庭の草を黙々と抜いていた千秋は腕に少し力がついてきたかもと、若干喜びながら仕事していた。
「精がでますね」
遠くの方から近づいてきている薔薇の匂いには気がついていた。
泉の匂いとは違い、嗅いでいるだけでドキドキそわそわする匂いだ。
けれど、庭に来るとは思っておらず声をかけられて千秋はびっくりした。
「四宮様、ありがとうございます」
違和感なく笑えただろうかと気になりながら四宮の方を向くと、四宮は困ったような顔で微笑んでいた。
「ここ最近は、大人気ない態度を取ってしまってすみませんでした。君の方が遥かに年下なのに、お恥ずかしいです。ここ最近千秋くんが草むしりをしていると熊井から聞きました。それは僕に顔を見せないように?」
「いえ、僕は草むしりが好きなだけです」
千秋は笑ってそう答えた。
そうしたら四宮はすぐに納得して去っていくと思っていた。
けれど四宮は動かなかった。
「僕もたまには草むしりをしようかな」
「え?」
「僕に顔を合わせないようにじゃないんですよね? なら僕も一緒に草むしりをしても良いですか?」
「なっ、ダメです。四宮様が草むしりなんてする必要は全くないんですから!」
「でも僕は今とっても草をむしりたい気分なんです。お願いします」
そこまで言われてしまえば、千秋には拒否することなどできなかった。
四宮は千秋の横で静かに草をむしり始めたので、千秋も屈んでまた草むしりを再開した。
「千秋くんと話すのは、何だか落ち着くんです。千秋くんとの出会いの時だって、僕から話しかけたのに、僕は千秋くんがここに来たのは両親の差し金だと考えてしまいました。あれから冷静になって考えて、そんなことはあるはずがないと気がつきました。不快な思いも、居心地の悪い思いをさせたでしょう。本当にすみません」
「き、気にしないでください。僕は本当に大丈夫ですから」
「僕は……ご存知かもしれませんが、アルファなんです。言い訳になるのですが、両親が僕に番を作らせたがってオメガを送り込まれることも多くて。けれどこの間もお話しした通り、僕はいまだに結衣斗が忘れられない。だから番以前に、どなたともお付き合いもする気はなかったんですよ」
その話は泉に聞いていた通りだった。
さすがに友人だけあって、泉は四宮のことをよく知っているのだなと千秋は感心した。
そして、結衣斗を忘れられないのだと言う四宮の言葉にまた、傷つき、そして嫉妬心のような心が芽生え頭を振ってその考えを飛ばした。
これを今、千秋にもう一度伝えるということは、四宮は千秋を牽制しているのだろうと解釈した。“自分を好きになっても答える気はない”と。
千秋とて、そんなことは分かっていた。
今までの人生の全てにおいて千秋が選ばれたことはない。
けれど、好きな人に何のアピールもする前に気持ちを否定されるのはとても悲しいことだと思った。それでも、このままで居ることが他でもない四宮の願いならば、千秋は答えるだけだ。
「はい。僕は、そのように深い愛を持っておられる四宮様の元で働けて、幸せです」
なんとか絞り出したそんなセリフに、四宮は少しだけ目を丸くして困ったように笑った。
「今までは番を持つ気はなかったけれど、何故だかすごく気になっている人はいるんです」
「そ、そうなんですか?」
まさかそんな人がいるなんて思いもしなかった千秋の声は裏返った。
ーーいいなぁ、その人。一体前世でどれほどの徳を積めば四宮様に気になってもらえるんだろう
千秋は羨ましさで心をいっぱいにしながら、目の前の草をむしった。
「そうなんです。でも、今のところ脈はないかもしれません」
四宮が戯けたように言った言葉に、千秋は驚いた。
「えっ、四宮様が好きだって伝えたら、どんな相手でもイチコロだと思います」
「そう思う?」
千秋の目をジッと見つめ四宮は真剣な声でそう尋ねた。
千秋がこれでもかというほど大きくうなずき「当たり前です」と答えると四宮は嬉しそうな顔で笑った。
「なら、どうかな。どこか一緒にお出かけしませんか?」
「え?」
急な話題の変化についていけず千秋は間抜けな声がでた。
「どこか行きたいところはありませんか? 千秋くんの行きたいと思うところに行きましょう」
ニコニコと続けた四宮の言葉を千秋は測りかねて、ついには首を傾げた。
「僕が行きたいところ? なんで……あ」
ーーそうか。四宮様の気になっている相手というのは、僕と同じ歳くらいの人なのかも。
千秋は四宮の気になっている相手を勝手に想像して勝手に凹んだ。
「どうしました? 僕と一緒に出かけるのは嫌?」
「いえ、とんでもないです。でも、僕でお役に立てるかどうか。遊べるところとかあんまり知らなくて」
「千秋くんが一緒に出かけてくれるだけで僕は嬉しいですよ。ではまずはドライブなんかはどうでしょうか」
「ドライブ、行ってみたいです」
「じゃあ、今度の休みに行きましょう。ふふ。楽しみですね」
「はい」
四宮とのドライブは楽しみすぎて、千秋は当日までソワソワしながら過ごした。
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