器量なしのオメガの僕は

いちみやりょう

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「おはよう。さあ、出発しますよ、乗ってください」

ドライブ当日の朝、門のところで待っていてと言われて待っていると、四宮が車に乗って現れた。

「今日はよろしくお願いします!」

こういう場合、ドアを自分で開けてもいいのか不安に思いながらも、千秋はガチャリとドアを開け、乗り込んでからそう言った。
けれど四宮は千秋と入れ替わりで降りてしまった。

「え……?」
「え? じゃないです。さあ、降りて。乗る場所はそこじゃないでしょう?」

今千秋が乗り込んだばかりのドアを開け、車の屋根に片手をついて中を覗き込んだ四宮に困り顔でそう言われ千秋は困惑した。

「後部座席と運転席じゃ、話し辛いでしょう? 前に乗ってください」
「で、でも、助手席は大切な人を乗せたいものだと昔小説で読みました」
「うん。だから乗せたがっているでしょう?」
「わあっ、え!?」

四宮は困惑したままの千秋をいきなり横抱きにして、後部座席からおろすと助手席のドアを開けて座らせた。そのまま千秋の体を抱きしめそうな勢いの近さで千秋にシートベルトをつけると、四宮は運転席側に戻って乗り込んだ。

そのあまりの近さにドッドッと心臓が鳴る。

千秋は抑制剤も、嗅覚の薬も少し多めに飲んだけれどそれが果たしてこのドライブ中ずっと効いていてくれるのかと、早くも不安を感じた。
車はゆっくりと進み出し、四宮はまだ屋敷の近くを走っている時から近くの建物の説明をしてれた。

「四宮様が気になっている方は、どんな方なんですか?」

自分が傷つくだけだと分かっていても興味は抑えられず、千秋は質問してしまった。

「んー? かわいい人ですよ。僕がその人のことを好きだなんてかけらも気が付いていなくてね、警戒心のかけらも持っていないんです」

気になる人、と言っていたのが、好きな人になっていることに気がつき千秋はズキと胸が痛んだ。

「四宮様に好きになってもらえたのに、気が付いていないなんて、その人はもったいないですね」
「ふふ、そうですね」

四宮が好きな人を思い出し、本当に楽しそうに笑うので千秋はまた胸が痛くなった。

「あとは、好きだと言っておきながらあまり相手のことを知らないのですが、真面目で人が嫌がる仕事も一生懸命やっています。肌は白くて可愛らしい。優しいし素敵な子だなぁと思いました。けど、そんなところもだけど、もっと、なんだろう、この子を手放しちゃいけないと思わせる、本能のような……そんな感じです」
「なんだか、すごい人なんですね」

四宮にここまで思わせることができるのだ。
それは間違いなく凄い人なのだろうと千秋は思った。

ーー僕なんて、肌が白めなことくらいしかかぶってない

そう考えてから自分の考えに自分で傷ついた。

「そうなんです。けれど、怖がらせたくないし、変な勘違いをして欲しくないんです。僕の病気を治すために嘘で好きだと言ったのだと思われたくない」

四宮の声は真剣だった。
四宮の病気とは、3ヶ月に1度来るラットの話だろうか。
千秋は泉にその話を聞いて知っていたけど、四宮は千秋が知っていることを知らないから病気だと濁して言ったのだろう。

ーーでも、好きって伝えることが病気を治すための嘘だと思われるかもってことは、相手の人はオメガなんだ……

千秋はそのことに気がつき、またツキと胸が痛んだ。

ーーオメガで良かったのなら、僕でも良かったじゃん

と、千秋は随分勝手だと自覚しながら思った。
千秋が万が一にも四宮に選ばれることなどないと分かっているけれどドライブ中の四宮はいつにも増して優しくて、勘違いをしそうになるのを止めるのに必死だった。

「四宮様が、嘘で好きだと言うはずなんてないって、四宮様が好きになった相手の方は思ってくださるはずです。だって、素敵でかっこよくて紳士で、そんな四宮様が好きになった方ですから。そしてそんな素敵な人にアピールされたら絶対に好きになります」
「そうか。そうだといいなぁ」
「きっとそうです」
「まぁ、とりあえず体の問題を何とかしてからもっとアピールしてみます」
「……頑張ってください!」

千秋は精一杯の笑顔を作り、四宮の恋を応援した。

ーー四宮様の恋がうまくいくといいな

千秋は本気でそう願った。
四宮の相手の人が20年以上もずっと悲しみに暮れて生きてきた四宮の孤独に気が付いて、そして四宮に愛を返してくれれば良いと、願った。
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