神様に嫌われた神官でしたが、高位神に愛されました

土広真丘

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第6章

63.悪神兄たちの娯遊 中編

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 天界最強の荒神の正面衝突により、凄まじい爆音と衝撃波、神威の火花が発生――――しなかった。
 真実強大な神威が全くの互角でぶつかり合った際には、音や風、光すらも出ないのだ。もはやそんな次元の話ではないからだ。無音かつ無風の中で、ただ純然たる御稜威だけが完璧な均衡を保って押し合っている。
 互いの力が真に壮絶であり、かつ完全に拮抗しているからこそ起こる現象だ。どちらか一方が僅かに欠けていれば、バランスが崩れ、轟音や爆光がこの場を蹂躙しているだろう。

『現状は中々に面白い。最初は面倒だと思ったが、一周回って痛快だ』

 疫神の手中で槍が煌めく。半円を描いて打ち下ろされたそれを、葬邪神が剣を一閃して受け止めた。十字に組み合う獲物が鳴動し、熾烈なる神威が場を駆け巡る。

『アレク、お前は本当は穏健派だ。限りなく尊重派に近いがな。聖威師の意思を汲み取り、その心を限界まで大切にしたいと思ってはいる。だが、それはそれとして、神格を持つ者は天に在るべきと考えている』

 堅物なお前らしいことだ、と、疫神が嗤う。その肢体から迸った高電圧の稲妻を、葬邪神の長身から出現した長大な棘を持つ荊が弾き返す。

『ああ。神は天へ、人は地へ。これが大原則にして基本中の基本だ。例外や特例が定められているとはいえ、それは変わらん』
『ははっ。堅い堅い、お堅いなぁ』

 疫神が半歩足を引き、槍を旋転させて剣を弾いた。軽やかに身を翻して獲物ごと回転し、間合いを取る様は、まさしく遊んでいる。そう、この神は遊んでいるだけだ。双子神共々、喧嘩しているつもりすらない。

 この空間に満ちる神威が芥子粒一つ分でも結界の外に飛び出せば、無数にある次元や宇宙の全てが瞬く間に消失する威力だというのに。それでもなお、ただじゃれ合っているだけの感覚でいる。視線を交わし合う二神にとって、これしき力を出した内にも入らない。

『うるさい。……前にも説明したがなぁ、天の神に逆らえない聖威師は、圧倒的に立場が弱いだろ。数だって帰還派が勝っている。だから俺は自分の本音を隠して尊重派に付き、帰還派が勢い付かないよう宥めることにしたんだ』

 聖威師の心に斟酌したいという意思自体は本物だったためだ。葬邪神はどこまでも相手の意思と心を重んじ、大切にする。神限定だが。

 弾丸のような迫撃と共に突き出された閃きを紙一重で回避し、葬邪神が一気に片割れに急迫した。

『神々をまとめる俺とブレイがどちらも尊重派になったことで、どうにかバランスが取れた。比重が偏りすぎんよう、俺は中立に近い言動もしていたしなぁ』
『そして、その最中に我が目覚めた』

 鋭い牙を見せて笑った暴れ神が上体を翻し、至近距離へ肉薄して来た葬邪神が放つ一閃を回避しながら、その鳩尾に豪快な蹴りをぶち込んだ。フンと鼻を鳴らした葬邪神は、ダメージを受けた気配もなく、打撃の勢いに乗る形で後方へ下がった。距離が開いた片割れを見据え、疫神が槍を半身中段に構える。

『我までが尊重派に回れば、今度は逆に帰還派の神々の立場がなくなってしまう。それは好ましくない。あの子たちの想いと言い分にも正当性と理がある。ゆえに均衡を維持するため、我は帰還派になった。穏健派は元から最大規模であったゆえ、強硬派にいったのだ』

 葬邪神、ブレイズ、そして疫神は、親神に成り代わった経験と実績を持つ神であり、天界でも特別視されている。この三神が一つの派閥に集合すれば、パワーバランスが崩れてしまいかねない。かといって、今まで尊重派として聖威師を庇って来た葬邪神が、いきなり帰還賛成派に転向するのも奇妙な話だ。
 そこで、疫神が自身の立ち位置で調整を取ることにした。覚醒時に失敗した詫びに尊重派の真似事をしている、という言い分は、疫神が帰還賛成に回ったことで強硬派が勢いを増してしまわぬよう、抑えをかける意図も含まれていた。

 客観的に見ても、苛烈な暴れ神たる疫神が帰還派で、相手を思いやる葬邪神が尊重派というのは納得できるため、多くの神々は疑問を抱いていない。

 ――影からの調整役。これが疫神の役割だ。葬邪神とブレイズは、神々のまとめ役という立ち位置にあるがゆえに、自由に動けないこともある。二神では均衡が取り切れない事態になれば、疫神がそれとなく動く。彼が神々のまとめ役に付いていないのは、実はあえてのことだ。
 目の前の片割れと喧嘩してふて寝していた間も、緊急連絡用の念話回路だけは開けていたが、それも調整の役割が必要になれば起きるつもりだったためだ。

『先程も言ったが、お前には申し訳ないことをしている』
『我も繰り返すが、やむを得ん。天界と神々のバランスは考慮せねば。父神も同様の理由により、高次会議では滞留廃止に入れると仰せであった』
『俺もそう聞いた』

 葬邪神が剣を引き、肩に担いだ。トントンと刃を鳴らし、明後日の方を見てやれやれと息を吐き出す。

『帰還賛成派であった風神様が、ご自身の天馬がアマーリエを危機に追い込んだ詫びにと、表決を放棄するご意向を示されている。火神様と地神様は尊重派、水神様は帰還派だ』

 明確に隙を見せたように見える双子の姿に、しかし、疫神は薄い笑みを纏ったまま動かない。片割れははっきりと煽っているからだ。ここで突っ込んではならないと、荒神の勘が告げている。

『アレクとブレイが尊重に回り、我が均衡を取ったとはいえ二対一の現状だ。ここで最高神まで尊重多数にはせんだろう。父神が帰還に入れ、同数になさる。実際、帰還派であられるしな』

 そう告げた疫神はふと黙り込み、ひとりごちるように言う。

『……父神は、我が本当は尊重派であると勘付いておられるやもしれん。あの方ならば、己の御子神たちが抱える事情を最奥まで看破なさっていても不思議ではない』
『有り得るな~。なんせ俺たちの親神だ。かといって、本心とは違う派閥に付いてます、なんて正直に言えんしなぁ。バランスは最高神が取るから、余計な気を回さず自分が思うところに行けと言われるに決まっている』

 親神としてはそう言うだろう。だが、葬邪神と疫神はあまりに神々への影響力がありすぎる。全体の均衡を考えながら動かねばならない。ゆえに禍神には告げず、密かに派閥を調整している……ことを、その禍神は分かっていてもおかしくない。
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