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第6章
64.悪神兄たちの娯遊 後編
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5年前、滞留書を更新するためのペンに騙し討ちで神威を補充させた時。禍神はわざわざ『ディスは帰還賛成派だから油断した』と発言し、これ見よがしに騙された~と白々しい泣き真似なんぞをしていた。そして、うっそりと笑みを浮かべて言ったのだ。『もはや尊重派そのものだ』と。
あの時、禍神は本当に気付いておらず騙されたのか。半信半疑であり、確かめるためならば騙されても良いと思って来たのか。
それとも――ほぼ確信しており、本音を偽る息子たちに慈悲を与えるために騙されてくれたのか。……あるいは、ただ息子たちの芝居を面白がり、一緒に踊っていただけなのか。
真相は禍神のみが知る。親神の深慮は、息子たちでも読み切れない。
『父神だけではないぞ。荒神たちも察しておるように感じる』
さらりと述べた疫神の脳裏に、かつてフレイム、ラミルファ、戦神、闘神が漏らしていた言葉がよぎる。
――ふ~ん、そうですか。強硬派なんですか、へぇ~
……どういうつもりですか、疫神様。どうして――
――おやめ下さい兄上! 何故あなたが……お返し下さい!
――そんなはずない……あなたが……返して、下さい……!
――あのぅ、ディス様。ちょっと気になってるんですけど
――あなた様はもしや――
『生来の荒神はとかく勘が鋭い。アイにセラ、ハルアもだ。朧げにでも、我が本当は尊重派だと嗅ぎ取っておるやもしれん。……だが、事実がどうだとしても、最終的な票数に影響はない。我とお前が交代したというだけだからな』
その場で槍を回して遊びながら、疫神は現実的な意見を述べた。
『はは、まあそうだなぁ』
暴れ神が動かないと悟り、葬邪神は未練なく挑発を止めた。剣を降ろし、ダラリと下げるようにして下段に構える。
膠着した神威が絶対的な無を生み出し、武器を携えた二神が再び交錯しようとした時。
《兄上方》
末弟から念話が届いた。双子神が同時に動きを止める。
《どうしたラミ?》
葬邪神に対する尊大な態度から一転し、優しい口調で問いかけるのは疫神だ。
《兄上方とお話ししたいのです。皆で一緒にお茶を飲みませんか?》
なお、この三兄弟は生粋の悪神なので、三柱だけで飲食をする場合は悪神仕様の料理や茶菓になる。アマーリエが見れば一生のトラウマになるような代物だ。
『ディス、どうする……』
《分かった、行こう》
葬邪神の問いかけが終わる前に、疫神が即答した。滅多に遊びに付き合ってくれない片割れが、珍しく乗ってくれた――その貴重な時間を、躊躇なく打ち捨てる。
《じゃあ俺もお邪魔しようかな~》
暴神の態度に一瞬驚きを見せた葬邪神だが、すぐに気を取り直して返事を送る。待っています、と嬉しそうな声が響き、念話が切れた。
『アレクと茶など飲みたくないが、あの子が三神でと望むなら仕方ない』
疫神が結界内でせめぎ合っていた自身の力を全て消す。一気に拮抗状態が崩れ、葬邪神の御稜威が場に溢れる寸前、それも幻のように消失した。
『おっと危ない……お前、本当にラミに甘いな』
『当然だ。小さくか弱いあの子は、我が守ってやらねば』
『お前は幾度もそう言うが、ラミは俺たちと対等な生来の荒神だ。かつてフルードが危機に陥った際、激昂して枷を外しかけたあの子を直に見て、俺はそれを確信した。その時寝ていたお前には分からんだろうがな。――良いか、ラミはお前が思っているよりずっと強い。見誤るなよ』
さっさと踵を返した疫神に、葬邪神が静かに語りかける。当時を回想している双眸には、紛れもなく畏怖の気配が滲んでいた。末弟を自身に匹敵する存在だと認めている。
『我が思っているより遥かに強い、か。そうであろうな』
歩き出そうとしていた足を止め、呟くように言った疫神は、つと首を巡らせて片割れを省みた。
『だが逆に、我だけが知っているラミもいる。おそらくお前は見たことがない姿だ。……あの子はお前が思っているよりずっと弱い。お前こそ見誤るでない』
何かを思い出すように細められた瞳に宿るのは、究極の慈愛。末弟を庇護すべき儚い存在として認識している。
『それより、そろそろ神々をまとめねば。分かっているだろう、雛たちが一時昇天している現在が好機だ。それも考慮し、最高神と我らは雛たちを帰天させることにしたのだからな』
『もちろんだとも。今がちょうど頃合いだ。ブレイとも打ち合わせて動く』
『ならば良い。では、我はラミの所へ行く』
『あ、待てディス。俺も行くぞ~』
確認したいことが済むなりスタスタ出て行く片割れを、葬邪神も追いかけた。
神域に展開されていた結界が失せる。完全に制御されていた二つの荒ぶる神威は、残り香の欠片すらも漂わせることなく消え去っていた。
あの時、禍神は本当に気付いておらず騙されたのか。半信半疑であり、確かめるためならば騙されても良いと思って来たのか。
それとも――ほぼ確信しており、本音を偽る息子たちに慈悲を与えるために騙されてくれたのか。……あるいは、ただ息子たちの芝居を面白がり、一緒に踊っていただけなのか。
真相は禍神のみが知る。親神の深慮は、息子たちでも読み切れない。
『父神だけではないぞ。荒神たちも察しておるように感じる』
さらりと述べた疫神の脳裏に、かつてフレイム、ラミルファ、戦神、闘神が漏らしていた言葉がよぎる。
――ふ~ん、そうですか。強硬派なんですか、へぇ~
……どういうつもりですか、疫神様。どうして――
――おやめ下さい兄上! 何故あなたが……お返し下さい!
――そんなはずない……あなたが……返して、下さい……!
――あのぅ、ディス様。ちょっと気になってるんですけど
――あなた様はもしや――
『生来の荒神はとかく勘が鋭い。アイにセラ、ハルアもだ。朧げにでも、我が本当は尊重派だと嗅ぎ取っておるやもしれん。……だが、事実がどうだとしても、最終的な票数に影響はない。我とお前が交代したというだけだからな』
その場で槍を回して遊びながら、疫神は現実的な意見を述べた。
『はは、まあそうだなぁ』
暴れ神が動かないと悟り、葬邪神は未練なく挑発を止めた。剣を降ろし、ダラリと下げるようにして下段に構える。
膠着した神威が絶対的な無を生み出し、武器を携えた二神が再び交錯しようとした時。
《兄上方》
末弟から念話が届いた。双子神が同時に動きを止める。
《どうしたラミ?》
葬邪神に対する尊大な態度から一転し、優しい口調で問いかけるのは疫神だ。
《兄上方とお話ししたいのです。皆で一緒にお茶を飲みませんか?》
なお、この三兄弟は生粋の悪神なので、三柱だけで飲食をする場合は悪神仕様の料理や茶菓になる。アマーリエが見れば一生のトラウマになるような代物だ。
『ディス、どうする……』
《分かった、行こう》
葬邪神の問いかけが終わる前に、疫神が即答した。滅多に遊びに付き合ってくれない片割れが、珍しく乗ってくれた――その貴重な時間を、躊躇なく打ち捨てる。
《じゃあ俺もお邪魔しようかな~》
暴神の態度に一瞬驚きを見せた葬邪神だが、すぐに気を取り直して返事を送る。待っています、と嬉しそうな声が響き、念話が切れた。
『アレクと茶など飲みたくないが、あの子が三神でと望むなら仕方ない』
疫神が結界内でせめぎ合っていた自身の力を全て消す。一気に拮抗状態が崩れ、葬邪神の御稜威が場に溢れる寸前、それも幻のように消失した。
『おっと危ない……お前、本当にラミに甘いな』
『当然だ。小さくか弱いあの子は、我が守ってやらねば』
『お前は幾度もそう言うが、ラミは俺たちと対等な生来の荒神だ。かつてフルードが危機に陥った際、激昂して枷を外しかけたあの子を直に見て、俺はそれを確信した。その時寝ていたお前には分からんだろうがな。――良いか、ラミはお前が思っているよりずっと強い。見誤るなよ』
さっさと踵を返した疫神に、葬邪神が静かに語りかける。当時を回想している双眸には、紛れもなく畏怖の気配が滲んでいた。末弟を自身に匹敵する存在だと認めている。
『我が思っているより遥かに強い、か。そうであろうな』
歩き出そうとしていた足を止め、呟くように言った疫神は、つと首を巡らせて片割れを省みた。
『だが逆に、我だけが知っているラミもいる。おそらくお前は見たことがない姿だ。……あの子はお前が思っているよりずっと弱い。お前こそ見誤るでない』
何かを思い出すように細められた瞳に宿るのは、究極の慈愛。末弟を庇護すべき儚い存在として認識している。
『それより、そろそろ神々をまとめねば。分かっているだろう、雛たちが一時昇天している現在が好機だ。それも考慮し、最高神と我らは雛たちを帰天させることにしたのだからな』
『もちろんだとも。今がちょうど頃合いだ。ブレイとも打ち合わせて動く』
『ならば良い。では、我はラミの所へ行く』
『あ、待てディス。俺も行くぞ~』
確認したいことが済むなりスタスタ出て行く片割れを、葬邪神も追いかけた。
神域に展開されていた結界が失せる。完全に制御されていた二つの荒ぶる神威は、残り香の欠片すらも漂わせることなく消え去っていた。
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