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第7章
24.仕掛けて来た者は
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愉快そうに語る邪神の目には、面白そうなことが始まった、と書いてある。
『ラミ様……』
狼神ベッドから降りたフルードが、アマーリエを庇うように口を挟もうとしたが、少年姿の神は言葉を続けた。
『ああ不思議だなぁ。大神官アマーリエ、君はどう思う?』
「……神器を用いている者が――この攻撃を仕掛けて来ている存在が、そもそも神ではないのだと思います」
『そうだな、穴の向こうから人間の気配がする。それも二匹。人間基準ではそれなりの霊威を持っているようだ。ならば神官だろう。毒の花の神器を使う神官となれば、ピッタリの候補がいるのだがね』
そう、毒華神に見初められた神官が二名、ちょうどこの天界にいる。
『僕は直に彼らと会ったことはないが、これはエアニーヌと慧音とかいう人間共の仕業ではないかと思うのだが?』
「……私も同意見です……」
何故神官ともあろう者が、神の領域に特攻なんぞかけるのか。懇々と問い詰めたい心情を押し殺していると、邪神はくすりと艶やかに口角を上げて続けた。
『そして僕の目が確かなら、この花びらはどうも君を狙っている気がするがね、アマーリエ。今はフレイムが牽制しているから、積極的に動いてはいないようだが』
「はい……」
それも薄々察していた。刺々しい神威はこの場全体に満ちているが、特にアマーリエに対して強く向けられている。
(あの二人に恨まれる覚えは……あるわね)
ミンディ、アンディ、大樹、高芽、美種。新米聖威師たちを贔屓し、自分たちが左遷される際にも庇ってくれなかった。向こうの立場からすれば、そう認識されていたとしても不思議ではない。
『イデナウアーは何やってんだ、自分の愛し子のことだろ』
『ふふふ、君こそ何を言っているんだいフレイム。神官共はただの生き餌じゃないか』
『それくらい分かってるわ! 本物の愛し子だろうが生き餌だろうが、自分がホールドした奴くらいしっかり抱えといてくれって言ってんだよ』
『悪神が生き餌のために手間暇なんかかけるはずないだろう』
『神官たちを何かの駒として使うつもりなんじゃねえのか? ならまだ利用価値はあるはずだろ。なのに、狼神様の不興を買うような真似なんかさせてどうすんだよ』
『それはイデナウアーに聞かないと分からないよ。だが、その前に――』
フレイムと掛け合いをしていたラミルファが酷薄な嗤笑を刷き、舞い狂う花弁を見た。
『こちらを何とかしなくてはな。……おや、どうされました狼神様?』
わざらしく小首を傾げて問いかける先では、灰銀の塊が巨大な毛玉と化して丸まっていた。
『いや、最近は四六時中眠いのですよ。目も耳もすっかり遠くなってしまいまして。歳ですかなぁ』
『おやおや、それは大変だ。昼寝代わりに何千年か入眠なさってはいかがです』
『そうですかー、まあ最古神ですからねぇ、超長生きなさってますからねー』
狼神とラミルファの白々しい会話に、フレイムが棒読みで相槌を打つ。なお、姿を変幻自在に変えられる神に、目や耳という器官はない。それらに似せたものを貼り付けているだけだ。だが、ツッコむのは野暮だと思ったのか、その点には触れない。
『それにですなぁ、この頃は物忘れも酷いのですよ。何かあってもすぐに忘れてしまうのです』
『ふふ、自分にとって都合の悪いことをリリースしてしまえるなら良いではありませんか』
『周りはちっとも良くねえわ。……まぁお大事に』
(……皆、さっきから何を言っているの?)
やる気のない言葉を交わす神々に、真意が読めないアマーリエが立ち尽くしていると、フルードがこっそり念話で囁いた。
《狼神様のご温情です。お慈悲というお言葉は本心なのでしょう》
それに被せるように、狼神があくびをした。動きに合わせ、大きな毛玉がモサッと揺れる。
『おかげで意識もぼぅっとしておりまして。何だか自領が騒がしい気がしますが、まぁ気のせいかもしれませんなぁ。お客方が何やら話している声もとんと遠くて聞き流してしまいましたし。一瞬ウトウトしていれば全部まるっと忘れてしまうような気がしますなぁ~』
あー眠い眠い、と聞こえよがしに呟き、顔を毛の中に埋めたまま述べる。
『ところでアマーリエ。そろそろこの客間の内装も飽いて来てな、近々模様替えをしようと思っているのだ』
「あ、はい……?」
『良さそうな配置がないか考えてみておくれ。若い娘ならば、年寄りとは違う発想も持っているかもしれん。ある程度であれば、実際に領域内を触ってみても良いぞ』
打てば響くと言った反応を返したのはフルードだ。麗しい笑みで即答する。
『それは良うございますね、狼神様。物を動かしたりする際、少々音が出るかもしれませんがよろしいのですね?』
『構わん。私はこんな状態だし、きっと気付かずうつらうつらしているだろう』
(狼神様……)
ようやくアマーリエにも巨狼の意図が呑み込めた。何も聞かず、見ず、そして気付かなかったことにしてやると、そう言っているのだ。自分が目と耳を塞いでいる間にこちらで対処すれば、そのまま忘れてやると。
『ラミ様……』
狼神ベッドから降りたフルードが、アマーリエを庇うように口を挟もうとしたが、少年姿の神は言葉を続けた。
『ああ不思議だなぁ。大神官アマーリエ、君はどう思う?』
「……神器を用いている者が――この攻撃を仕掛けて来ている存在が、そもそも神ではないのだと思います」
『そうだな、穴の向こうから人間の気配がする。それも二匹。人間基準ではそれなりの霊威を持っているようだ。ならば神官だろう。毒の花の神器を使う神官となれば、ピッタリの候補がいるのだがね』
そう、毒華神に見初められた神官が二名、ちょうどこの天界にいる。
『僕は直に彼らと会ったことはないが、これはエアニーヌと慧音とかいう人間共の仕業ではないかと思うのだが?』
「……私も同意見です……」
何故神官ともあろう者が、神の領域に特攻なんぞかけるのか。懇々と問い詰めたい心情を押し殺していると、邪神はくすりと艶やかに口角を上げて続けた。
『そして僕の目が確かなら、この花びらはどうも君を狙っている気がするがね、アマーリエ。今はフレイムが牽制しているから、積極的に動いてはいないようだが』
「はい……」
それも薄々察していた。刺々しい神威はこの場全体に満ちているが、特にアマーリエに対して強く向けられている。
(あの二人に恨まれる覚えは……あるわね)
ミンディ、アンディ、大樹、高芽、美種。新米聖威師たちを贔屓し、自分たちが左遷される際にも庇ってくれなかった。向こうの立場からすれば、そう認識されていたとしても不思議ではない。
『イデナウアーは何やってんだ、自分の愛し子のことだろ』
『ふふふ、君こそ何を言っているんだいフレイム。神官共はただの生き餌じゃないか』
『それくらい分かってるわ! 本物の愛し子だろうが生き餌だろうが、自分がホールドした奴くらいしっかり抱えといてくれって言ってんだよ』
『悪神が生き餌のために手間暇なんかかけるはずないだろう』
『神官たちを何かの駒として使うつもりなんじゃねえのか? ならまだ利用価値はあるはずだろ。なのに、狼神様の不興を買うような真似なんかさせてどうすんだよ』
『それはイデナウアーに聞かないと分からないよ。だが、その前に――』
フレイムと掛け合いをしていたラミルファが酷薄な嗤笑を刷き、舞い狂う花弁を見た。
『こちらを何とかしなくてはな。……おや、どうされました狼神様?』
わざらしく小首を傾げて問いかける先では、灰銀の塊が巨大な毛玉と化して丸まっていた。
『いや、最近は四六時中眠いのですよ。目も耳もすっかり遠くなってしまいまして。歳ですかなぁ』
『おやおや、それは大変だ。昼寝代わりに何千年か入眠なさってはいかがです』
『そうですかー、まあ最古神ですからねぇ、超長生きなさってますからねー』
狼神とラミルファの白々しい会話に、フレイムが棒読みで相槌を打つ。なお、姿を変幻自在に変えられる神に、目や耳という器官はない。それらに似せたものを貼り付けているだけだ。だが、ツッコむのは野暮だと思ったのか、その点には触れない。
『それにですなぁ、この頃は物忘れも酷いのですよ。何かあってもすぐに忘れてしまうのです』
『ふふ、自分にとって都合の悪いことをリリースしてしまえるなら良いではありませんか』
『周りはちっとも良くねえわ。……まぁお大事に』
(……皆、さっきから何を言っているの?)
やる気のない言葉を交わす神々に、真意が読めないアマーリエが立ち尽くしていると、フルードがこっそり念話で囁いた。
《狼神様のご温情です。お慈悲というお言葉は本心なのでしょう》
それに被せるように、狼神があくびをした。動きに合わせ、大きな毛玉がモサッと揺れる。
『おかげで意識もぼぅっとしておりまして。何だか自領が騒がしい気がしますが、まぁ気のせいかもしれませんなぁ。お客方が何やら話している声もとんと遠くて聞き流してしまいましたし。一瞬ウトウトしていれば全部まるっと忘れてしまうような気がしますなぁ~』
あー眠い眠い、と聞こえよがしに呟き、顔を毛の中に埋めたまま述べる。
『ところでアマーリエ。そろそろこの客間の内装も飽いて来てな、近々模様替えをしようと思っているのだ』
「あ、はい……?」
『良さそうな配置がないか考えてみておくれ。若い娘ならば、年寄りとは違う発想も持っているかもしれん。ある程度であれば、実際に領域内を触ってみても良いぞ』
打てば響くと言った反応を返したのはフルードだ。麗しい笑みで即答する。
『それは良うございますね、狼神様。物を動かしたりする際、少々音が出るかもしれませんがよろしいのですね?』
『構わん。私はこんな状態だし、きっと気付かずうつらうつらしているだろう』
(狼神様……)
ようやくアマーリエにも巨狼の意図が呑み込めた。何も聞かず、見ず、そして気付かなかったことにしてやると、そう言っているのだ。自分が目と耳を塞いでいる間にこちらで対処すれば、そのまま忘れてやると。
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