556 / 603
第7章
67.イデナウアーの過去
しおりを挟む
葬邪神からあらかじめ聞いていた。隠すことでもない上、遊運命神とイデナウアーがどちらも覚醒した以上、遅かれ早かれ明らかになることだからと。
『イデナウアー、人間の伴侶、別にいた。アリステル、フルード、アマーリエ、そっちの子孫』
『ああ。ハーティは15歳の誕生日に人間の伴侶と結婚させられ、初夜の交わりで子を得た。酷い初夜だったそうだ。伴侶以外に大人たちが幾人も寝所に詰めており、力ずくで押さえ込まれて初体験をさせられたと。暴力もたくさん振るわれたと聞いた』
イデナウアーは元々、その結婚に消極的だったという。親の意向で決められた縁組みであったため、断ることはできなかったが、せめてもの抵抗として最後まで好い反応を見せなかった。
この様子では初夜の夜もどうにかして茶を濁そうとするかもしれないと思い、実家と婚家の大人たちが示し合わせて閨の場に同席し、総出でイデナウアーをねじ伏せて事に及ばせた。
『ありゃ。そこまで、我に話して良かった?』
『ハーティは既にあの夜のことを割り切っておる。同胞にならば話して良いと、かなり前から承諾を得ている』
当事者の了承済みであることを伝えた遊運命神は、淡々と言の葉を紡ぐ。
『初夜から十月十日の後に生まれた子が、レシスの家を継いだ。その子が生まれた直後、神々が初めて人間から愛し子を選んだ。イステンド、ノルギアス、宗基、唯全……現在の大公家と一位貴族の遠き先祖たちも、この時に見初められた』
『知ってる。雛たちのこと、たくさんお勉強したから。原初の聖威師の誕生』
『ハーティもまた、毒神様を魅了し、寵を得て最初の奇跡の聖威師となった。同時期に私と出会い、人間の伴侶との婚姻を解除させて我が妻にした。私との間に御子神もおる』
それらはイデナウアーが16歳になるかならないかのタイミングだったそうだ。夫婦の契りもまた、愛し子や包珠、家族神の契約に等しい意味と重みを持つ。
『人間の伴侶、納得した?』
『しておらずとも、神の意向には逆らえぬ。了承するしかなかったであろう。ハーティは実家と婚家の親共々、人間の伴侶を強制的に隠居させ、遠方の僻地に送った。生まれた赤子を新たな当主とし、成人するまではまともな後見と当主代理を付けて教育させていたようだ』
奇跡の聖威師となり、神の仲間入りを果たしたイデナウアーには、生家の者も婚家の者も逆らえなかった。初夜の経緯を聞くだけでも、人間の基準では碌でもない愚物たちだっのだろうから、自業自得だ。
『子どものこと、ちゃんと考えてたんだ』
『人間の伴侶への愛は無くとも、生まれた子への情はあったようだ。まだ赤子であるこの子に罪はないと言うて、我が間に授かった御子神と同様に心を砕いておった』
『ほへ~、そう』
『月日が流れ、その子は成長して自らも親となった。しかし、彼らはついぞ神に見初められることはなかった。彼らとしては、心のどこかで期待していたであろう。他ならぬハーティが自分たちに寵を与えてくれるのではないかと。むろん、生き餌としてではなく、正真正銘の愛し子の方だ』
そういうことも稀にある。祖神が末裔を見初めて寵を与えるのだ。大公家や一位貴族の歴史上ではたまにあった。だが、イデナウアーは自身の子と孫を可愛がりはしたが、決して寵を与えはしなかった。
『結局、彼らは我が神器を賜り、表舞台から消えていった。……そして、後にその子孫が盛大にしでかしてくれるのだ』
唇を歪めて仄暗く嗤う遊運命神。イデナウアーが心から想っている者であったからこそ、超絶級に強力な幸福の神器を創ってやったのだろうに、結果はアレだ。届かぬ栄光に取り憑かれたレシスの子孫は欲望に呑まれて禁忌を犯し、この神の怒りを買うことになった。
『私がレシスの子孫に神罰を刻んだ際の反応と、現在の様子を見るに、ハーティは人間の裔への想いも持っているかと。末代まで継がれているかもしれぬ神罰と神器の行方を気にして調べようとしていた程だ』
イデナウアーの悪神化は既に完了しており、人への愛着は果てているが、血族の者への情はかろうじて残っているようだ。
『毒神様も、愛し子が子孫への思い入れを捨てていないことを気にしておった。人間のことなど捨て置けば良いものを、と』
『きっと、愛し子が余所見してる、思って、気に入らなかった。……そう言えば、イデナウアーとフウ、よく出会ったね。見初めた、言うけど、悪神あんまり姿見せないのに』
『当時は天地と神人が分かれておらなんだゆえ、悪神も現在よりは人前に出る頻度が多かったのだ』
『イデナウアー、人間の伴侶、別にいた。アリステル、フルード、アマーリエ、そっちの子孫』
『ああ。ハーティは15歳の誕生日に人間の伴侶と結婚させられ、初夜の交わりで子を得た。酷い初夜だったそうだ。伴侶以外に大人たちが幾人も寝所に詰めており、力ずくで押さえ込まれて初体験をさせられたと。暴力もたくさん振るわれたと聞いた』
イデナウアーは元々、その結婚に消極的だったという。親の意向で決められた縁組みであったため、断ることはできなかったが、せめてもの抵抗として最後まで好い反応を見せなかった。
この様子では初夜の夜もどうにかして茶を濁そうとするかもしれないと思い、実家と婚家の大人たちが示し合わせて閨の場に同席し、総出でイデナウアーをねじ伏せて事に及ばせた。
『ありゃ。そこまで、我に話して良かった?』
『ハーティは既にあの夜のことを割り切っておる。同胞にならば話して良いと、かなり前から承諾を得ている』
当事者の了承済みであることを伝えた遊運命神は、淡々と言の葉を紡ぐ。
『初夜から十月十日の後に生まれた子が、レシスの家を継いだ。その子が生まれた直後、神々が初めて人間から愛し子を選んだ。イステンド、ノルギアス、宗基、唯全……現在の大公家と一位貴族の遠き先祖たちも、この時に見初められた』
『知ってる。雛たちのこと、たくさんお勉強したから。原初の聖威師の誕生』
『ハーティもまた、毒神様を魅了し、寵を得て最初の奇跡の聖威師となった。同時期に私と出会い、人間の伴侶との婚姻を解除させて我が妻にした。私との間に御子神もおる』
それらはイデナウアーが16歳になるかならないかのタイミングだったそうだ。夫婦の契りもまた、愛し子や包珠、家族神の契約に等しい意味と重みを持つ。
『人間の伴侶、納得した?』
『しておらずとも、神の意向には逆らえぬ。了承するしかなかったであろう。ハーティは実家と婚家の親共々、人間の伴侶を強制的に隠居させ、遠方の僻地に送った。生まれた赤子を新たな当主とし、成人するまではまともな後見と当主代理を付けて教育させていたようだ』
奇跡の聖威師となり、神の仲間入りを果たしたイデナウアーには、生家の者も婚家の者も逆らえなかった。初夜の経緯を聞くだけでも、人間の基準では碌でもない愚物たちだっのだろうから、自業自得だ。
『子どものこと、ちゃんと考えてたんだ』
『人間の伴侶への愛は無くとも、生まれた子への情はあったようだ。まだ赤子であるこの子に罪はないと言うて、我が間に授かった御子神と同様に心を砕いておった』
『ほへ~、そう』
『月日が流れ、その子は成長して自らも親となった。しかし、彼らはついぞ神に見初められることはなかった。彼らとしては、心のどこかで期待していたであろう。他ならぬハーティが自分たちに寵を与えてくれるのではないかと。むろん、生き餌としてではなく、正真正銘の愛し子の方だ』
そういうことも稀にある。祖神が末裔を見初めて寵を与えるのだ。大公家や一位貴族の歴史上ではたまにあった。だが、イデナウアーは自身の子と孫を可愛がりはしたが、決して寵を与えはしなかった。
『結局、彼らは我が神器を賜り、表舞台から消えていった。……そして、後にその子孫が盛大にしでかしてくれるのだ』
唇を歪めて仄暗く嗤う遊運命神。イデナウアーが心から想っている者であったからこそ、超絶級に強力な幸福の神器を創ってやったのだろうに、結果はアレだ。届かぬ栄光に取り憑かれたレシスの子孫は欲望に呑まれて禁忌を犯し、この神の怒りを買うことになった。
『私がレシスの子孫に神罰を刻んだ際の反応と、現在の様子を見るに、ハーティは人間の裔への想いも持っているかと。末代まで継がれているかもしれぬ神罰と神器の行方を気にして調べようとしていた程だ』
イデナウアーの悪神化は既に完了しており、人への愛着は果てているが、血族の者への情はかろうじて残っているようだ。
『毒神様も、愛し子が子孫への思い入れを捨てていないことを気にしておった。人間のことなど捨て置けば良いものを、と』
『きっと、愛し子が余所見してる、思って、気に入らなかった。……そう言えば、イデナウアーとフウ、よく出会ったね。見初めた、言うけど、悪神あんまり姿見せないのに』
『当時は天地と神人が分かれておらなんだゆえ、悪神も現在よりは人前に出る頻度が多かったのだ』
0
あなたにおすすめの小説
結婚十年目の夫から「結婚契約更新書」なるものが届いた。彼は「送り間違えた」というけれど、それはそれで問題なのでは?
ぽんた
恋愛
レミ・マカリスター侯爵夫人は、夫と政略結婚をして十年目。侯爵夫人として、義父母の介護や領地経営その他もろもろを完ぺきにこなしている。そんなある日、王都に住む夫から「結婚契約更新書」なるものが届いた。義弟を通じ、夫を追求するも夫は「送り間違えた。ほんとうは金を送れというメモを送りたかった」という。レミは、心から思った。「それはそれで問題なのでは?」、と。そして、彼女の夫にたいするざまぁがはじまる。
※ハッピーエンド確約。ざまぁあり。ご都合主義のゆるゆる設定はご容赦願います。
侯爵令嬢ソフィアの結婚
今野綾
恋愛
ソフィアは希少なグリーンアイを持つヴィンセントと結婚したが、これは金が欲しいソフィアの父の思惑と高い爵位が欲しいヴィンセントの思惑が一致したからに過ぎない
そもそもヴィンセントには美しい恋人がいる
美男美女と名高いヴィンセントとその恋人は身分に大きな差があるために結婚することは叶わないのだ
その事をソフィアも耳にしており、この結婚が形ばかりのものであることを知っていた
結婚して早々、ソフィアは実家から連れてきた侍女夫婦とあばら家に住むように言われて…
表紙はかなさんです✨
ありがとうございます😊
2024.07.05
婚約破棄から50年後
あんど もあ
ファンタジー
王立学園の卒業パーティーで、王子が婚約者に婚約破棄を宣言した。王子は真に愛する女性と結ばれ、めでたしめでたし。
そして50年後、王子の孫の王子は、婚約破棄された女性の孫と婚約する事に。そこで明かされた婚約破棄の真実とは。
幼馴染みの婚約者が「学生時代は愛する恋人と過ごさせてくれ」と言ってきたので、秒で婚約解消を宣言した令嬢の前世が、社畜のおっさんだった件。
灯乃
ファンタジー
子爵家の総領娘である令嬢の前に、巨乳美少女と腕を組んだ婚約者がやってきた。
曰く、「学生時代くらいは、心から愛する恋人と自由に過ごしたい。それくらい、黙って許容しろ」と。
婚約者を甘やかし過ぎていたことに気付いた彼女は、その場で婚約解消を宣言する。
前半はたぶん普通の令嬢もの、後半はおっさんコメディーです。
ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。
旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。
前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。
ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。
「この家は、もうすぐ潰れます」
家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。
手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。
最初からここに私の居場所はなかった
kana
恋愛
死なないために媚びても駄目だった。
死なないために努力しても認められなかった。
死なないためにどんなに辛くても笑顔でいても無駄だった。
死なないために何をされても怒らなかったのに⋯⋯
だったら⋯⋯もう誰にも媚びる必要も、気を使う必要もないでしょう?
だから虚しい希望は捨てて生きるための準備を始めた。
二度目は、自分らしく生きると決めた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
いつも稚拙な小説を読んでいただきありがとうございます。
私ごとですが、この度レジーナブックス様より『後悔している言われても⋯⋯ねえ?今さらですよ?』が1月31日頃に書籍化されることになりました~
これも読んでくださった皆様のおかげです。m(_ _)m
これからも皆様に楽しんでいただける作品をお届けできるように頑張ってまいりますので、よろしくお願いいたします(>人<;)
できない子に転生しましたが、家族と食卓があれば十分です ―人間不信だった私が、ゆっくり育つ異世界生活―
愛朱ひいろ
ファンタジー
人の顔色ばかり伺い、心を壊した26歳の会社員女性。
彼女は死後、異世界で「できない子」として転生する。
魔法は使えない。
体は不器用で、成長も人より遅い。
前世の記憶のせいで、人と関わることが少し怖い。
けれどこの世界には、
見守り支えてくれる両親と、
あたたかい食卓があった。
泣いて、つまずいて、できないことに落ち込みながら、
彼女は少しずつ「できないままでも、生きていていい」と知っていく。
これは、
最強でもチートでもない主人公が、
家族と食事に支えられながら、ゆっくり育ち直す
生活密着型・異世界転生×成長×グルメファンタジー。
……の、予定です。
毎日更新できるように執筆がんばります!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる