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第8章
20.トライコーンの供述
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「つ、角を切る!?」
アマーリエが瞠目して反芻し、フレイムの山吹色の眼が剣呑さを帯びる。ランドルフが顎に手を当てた。
「ユニコーンやバイコーンの角は、不治の難病に効く妙薬の素材として高値で取り引きされていますねー。上位種であるトライコーンの角になれば、死者を蘇らせる秘薬も作れると言われていますー」
「一角獣と二角獣は、角を取られそうになったら興奮状態が誘発されて、攻撃性が増すのではなかった? 反射的に臨戦態勢に入る上、理性も飛んでしまうから話もできなくなると習ったわ」
(自分から角を差し出すのは、神格を持つ者か自分が認めた者に対してだけなのよね。強引に角を奪おうとした場合は激怒すると聞いたわ。角自体は、切られても抜かれてもすぐに生えて来るから、取られても不都合が生じるわけではないようだけれど)
『お前の話を真実だと仮定するなら、お前がここに駆け込んだのは、角を守ろうとする本能に理性を呑まれたのが理由のようだな』
フレイムが嘆息した。無我夢中で突っ走っている内に森を抜けて神々の共有領域に入り、門が開いていたフレイムの神域に飛び込んだということだろうか。
黙って成り行きを見守っていた聖獣たちが、二頭で顔を見合わせている。その双眸から警戒の色が薄れていた。トライコーンのことを、アマーリエを害そうとする敵だと認識していたものの、どうやら違うようだと思い直したらしい。
『お前の言い分通りだとすれば、最初に押し入って来たのは精霊たちの方だったってことか。けど、何で精霊がそんなことするんだ。神に命令されたのか……いや、地神様の飼い獣だぜ。そもそも、神がトライコーンの角を欲することなんかねえだろうし』
三角獣は強大な力を持つが、それは人間基準での話だ。神の基準で考えれば、ただの繊弱な霊獣でしかない。角の治癒能力にしても、神々の御稜威に及ぶはずもない。死者蘇生ごとき、最下位の神でも造作無くできる芸当だ。わざわざトライコーンの角を求めたりしない。
『仮に何かの理由で角が必要だったとしても、無理矢理奪う必要はない。トライコーンは、神には無条件で角を差し出すんだからな』
「神々は関与も関知もしていない、精霊側の事情が何かあったんじゃないですかねー?」
『俺もそう思うぜ。あくまでコイツの話を鵜呑みにするなら、だが』
『神に対して嘘を申し上げることなどございません。偽りを述べたとしても、神威で視られれば全て分かってしまうのですから』
『分かってる分かってる、お前を疑ってるわけじゃねえよ。けど、嘘は言ってなくても記憶違いとか思い込みとか、精霊側との認識の差異とかはあるかもだろ。精霊の方の話も聞かねえとな』
懸命に言い募るトライコーンを片手を振って宥め、フレイムは右目をキラリと光らせた。
『今、お前の記憶を少しだけ覗いた。角を取られそうになったってのは本当みたいだな。襲った精霊たちの顔も確認した。ビドスとコリール、センディアとトウキだ。俺の従神と精霊たちに話を聞いて来させる』
そう言葉を発すると、従神の一柱が動いた。『ちっす、えーと次どうするんすか?』と軽妙な口調でおちゃらけている常の姿とは打って変わり、鋭い表情で精霊数体に目配せを送ると、やはり即応した彼らを伴ってかき消える。
「名前が四つ出て来たけれど……四体がかりで襲ったの?」
『記憶を視た限りではな。チラッと過去も視たが、間違いなさそうだ。アイツらが素直に聞き取りに応じてくれれば良いんだが』
記憶や過去を全て視てしまわないのは、トライコーンの時と同様、精霊たちに自分の口で自供して欲しいからだろう。
「フレイムの従神も行っているのだから、ごまかしたくても無理よ。この子も言っていた通り、言い逃れようとしたところで、神威で全部見透かされてしまうもの」
『だな。全員気弱で従順な性格だから、神に逆らうことはしないだろう』
(気が弱くておとなしい精霊たちが、寄ってたかってトライコーンを押さえ付けて角を取ろうとしたの? 一体どうして……)
アマーリエは首を捻るが、今まさに、フレイムの従神たちがそれを確認しに行っている。きっと間もなく概要が分かるだろう。所在無げに佇む霊獣に、山吹色の流し目が送られた。
『お前はとりあえず、俺の領域に拘留だ。まだ事実確認の最中だからな。攻撃の意思や害意は感じられねえから体の拘束はしないが、処置を待つ身だということは覚えておけ』
『はい』
アマーリエが瞠目して反芻し、フレイムの山吹色の眼が剣呑さを帯びる。ランドルフが顎に手を当てた。
「ユニコーンやバイコーンの角は、不治の難病に効く妙薬の素材として高値で取り引きされていますねー。上位種であるトライコーンの角になれば、死者を蘇らせる秘薬も作れると言われていますー」
「一角獣と二角獣は、角を取られそうになったら興奮状態が誘発されて、攻撃性が増すのではなかった? 反射的に臨戦態勢に入る上、理性も飛んでしまうから話もできなくなると習ったわ」
(自分から角を差し出すのは、神格を持つ者か自分が認めた者に対してだけなのよね。強引に角を奪おうとした場合は激怒すると聞いたわ。角自体は、切られても抜かれてもすぐに生えて来るから、取られても不都合が生じるわけではないようだけれど)
『お前の話を真実だと仮定するなら、お前がここに駆け込んだのは、角を守ろうとする本能に理性を呑まれたのが理由のようだな』
フレイムが嘆息した。無我夢中で突っ走っている内に森を抜けて神々の共有領域に入り、門が開いていたフレイムの神域に飛び込んだということだろうか。
黙って成り行きを見守っていた聖獣たちが、二頭で顔を見合わせている。その双眸から警戒の色が薄れていた。トライコーンのことを、アマーリエを害そうとする敵だと認識していたものの、どうやら違うようだと思い直したらしい。
『お前の言い分通りだとすれば、最初に押し入って来たのは精霊たちの方だったってことか。けど、何で精霊がそんなことするんだ。神に命令されたのか……いや、地神様の飼い獣だぜ。そもそも、神がトライコーンの角を欲することなんかねえだろうし』
三角獣は強大な力を持つが、それは人間基準での話だ。神の基準で考えれば、ただの繊弱な霊獣でしかない。角の治癒能力にしても、神々の御稜威に及ぶはずもない。死者蘇生ごとき、最下位の神でも造作無くできる芸当だ。わざわざトライコーンの角を求めたりしない。
『仮に何かの理由で角が必要だったとしても、無理矢理奪う必要はない。トライコーンは、神には無条件で角を差し出すんだからな』
「神々は関与も関知もしていない、精霊側の事情が何かあったんじゃないですかねー?」
『俺もそう思うぜ。あくまでコイツの話を鵜呑みにするなら、だが』
『神に対して嘘を申し上げることなどございません。偽りを述べたとしても、神威で視られれば全て分かってしまうのですから』
『分かってる分かってる、お前を疑ってるわけじゃねえよ。けど、嘘は言ってなくても記憶違いとか思い込みとか、精霊側との認識の差異とかはあるかもだろ。精霊の方の話も聞かねえとな』
懸命に言い募るトライコーンを片手を振って宥め、フレイムは右目をキラリと光らせた。
『今、お前の記憶を少しだけ覗いた。角を取られそうになったってのは本当みたいだな。襲った精霊たちの顔も確認した。ビドスとコリール、センディアとトウキだ。俺の従神と精霊たちに話を聞いて来させる』
そう言葉を発すると、従神の一柱が動いた。『ちっす、えーと次どうするんすか?』と軽妙な口調でおちゃらけている常の姿とは打って変わり、鋭い表情で精霊数体に目配せを送ると、やはり即応した彼らを伴ってかき消える。
「名前が四つ出て来たけれど……四体がかりで襲ったの?」
『記憶を視た限りではな。チラッと過去も視たが、間違いなさそうだ。アイツらが素直に聞き取りに応じてくれれば良いんだが』
記憶や過去を全て視てしまわないのは、トライコーンの時と同様、精霊たちに自分の口で自供して欲しいからだろう。
「フレイムの従神も行っているのだから、ごまかしたくても無理よ。この子も言っていた通り、言い逃れようとしたところで、神威で全部見透かされてしまうもの」
『だな。全員気弱で従順な性格だから、神に逆らうことはしないだろう』
(気が弱くておとなしい精霊たちが、寄ってたかってトライコーンを押さえ付けて角を取ろうとしたの? 一体どうして……)
アマーリエは首を捻るが、今まさに、フレイムの従神たちがそれを確認しに行っている。きっと間もなく概要が分かるだろう。所在無げに佇む霊獣に、山吹色の流し目が送られた。
『お前はとりあえず、俺の領域に拘留だ。まだ事実確認の最中だからな。攻撃の意思や害意は感じられねえから体の拘束はしないが、処置を待つ身だということは覚えておけ』
『はい』
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