神様に嫌われた神官でしたが、高位神に愛されました

土広真丘

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第8章

22.いっときの上機嫌

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 トライコーンを目で示し、残っている従神と使役に命じたフレイムだが、すぐに語調を和らげて続けた。

『ただし、過去を散見した限り、この霊獣も被害者である可能性は十分残っている。今の段階では不当な拘束や冷遇はするな。それなりに配慮して扱え。食事や水もきちんと与えろ』
『御意のままに』

 従神の一柱が応え、精霊たちがトライコーンを促す。フレイムとアマーリエに深々と最敬礼した霊獣は、恭順の意を示すようにその動きに合わせた。

『お前らももう下がれ。何かあれば念話で連絡を取る』

 大きな体を縮めた三角獣が部屋の外に連れられて行くと、フレイムは全ての従神と使役を解散させた。

『ほら、これで良いだろ? 仕切り直して甘いモンでも食えよ。茶と菓子も復元しといたから』

 フレイムが気さくな笑みを向けて来た。ありがとう、と笑顔を返し、アマーリエはいそいそとテーブルに付いた。

(さっきはほとんど食べられなかったのよね。ガレーンが徴を発現したという報告が衝撃的すぎて、スイーツを楽しむ意識が吹き飛んでしまったから)

 なお、ランドルフはパクパク食べていた。彼は目の前で人体実験や凄惨な拷問、大量虐殺が繰り広げられていたとしても、顔色一つ変えないか満面の笑顔で食事が摂れるそうだ。神寵を得た暁にはそういう胆力を持つ者になるよう、専用の教育を施されて来たという。
 そんな度胸を持たないアマーリエは、ガレーンのことを考えると胃の辺りがズシンと重くなる。それでも、鎮撫の舞で聖威を使ったことで空腹だったので、しっかり食べることにした。

(そういえば、フルード様はガレーンの件をご存知なのかしら。ランドルフ君に聞いておけば良かったわ。……私に口止めしなかったということは、ご存知のような気もするけれど)

 あるいは、口止めする前にトライコーン乱入事件が勃発してしまい、それどころではなくなってしまったか。だがランドルフならば、ここを去る前に念話を使うなどしてきっちり口外禁止の要請をしていきそうだ。それも無かったということは、フルードは既に知っていると考えて良さそうだ。
 それ以前に、ガレーンの徴発現の件に関してはフレイムも承知済みだというので、彼に聞けば分かるだろう。

(後で落ち着いた時に、フレイムに聞いてみましょう。それで、今度フルード様にお会いしてみれば良いのよ。他の聖威師にもガレーンのことを報告しなくてはならないし……聖威師以外の、一般の神官たちにはどうすれば良いのかしら)

 一口サイズのフィナンシェやカナッペを摘みながら、ツラツラと考える。足元では、ラモスとディモスが美味そうに肉を頬張っていた。フレイムがいつの間にか皿を用意してやったらしい。

(誰にいつどこまで伝えるかも含めて、今後ランドルフ君や主任神官と相談だわ。――と言っても、やるべきことはそれほど多くないのよね)

 聖威師は特定の個人に深入りしないので、ガレーンが神官府に来たからといって、これといった干渉や介入ができるわけではない。それは主任神官や副主任神官の領分だ。

 ランドルフと打ち合わせるとすれば、ガレーンのことを誰にどこまでどのように話すかと、聖威師側が取る基本的なスタンスをどうするかくらいだ。だが、前者は主任神官が最終決定することであり、後者は原則不干渉かつ静観を維持することになるだろう。相談するとは言っても、既に結果は見えている。

(冷静に考えれば、ガレーンに対して私たち聖威師にできることはほとんど無いわ。レシスの血筋みたいに、神から直接神罰を刻まれたわけでもないのだから、なおさら手出しも口出しもできないもの。――もうこうなったら、この件はなるようになるしかないわね)

 彩り豊かなプチサンドを咀嚼する合間に紅茶を飲み、半ば自棄っぱちの心境で開き直る。そして、ガレーンのことはいったんポーンと棚上げして、目の前に登場した新事件に意識を移した。

(それより、今はトライコーンのことが先よ。フレイムの従神たちが何とか上手く聞き出してくれれば……)

 内心でうんうん唸りながらも、しっかり口と手を動かすアマーリエ。それを見ているフレイムは笑顔だ。愛妻と聖獣たちの食べっぷりが嬉しいのか、作り手冥利に尽きるといった顔でにこにこしている。


 ――その上機嫌も、精霊から話を聞いた従神と使役が戻って来るまでだったが。
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