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第8章
25.止める者は誰もいない
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フレイムとフレイムの従神は元精霊なので、堕落していくシルファールの話を聞くたびに気になってはいた。だが、自分たちが直接注意すれば、神からの叱責になる。それは精霊にとって致命的であるため、使役を通じて内々に注意を伝えていた。だが、シルファールの心に届いた様子はなかったそうだ。
『今じゃすっかり、ワガママ放題の威張り散らし放題。反論でもしようものなら即キレ散らかして、圧倒的な霊威を暴発させる始末らしいっす。まだ負傷者は出てないっすけど、このままじゃ誰か大怪我させちゃいますよ』
「ダメっ子の見本のようね……」
遠い眼差しで空虚な呻きを漏らすアマーリエ。異論の声は誰からも上がらなかった。今度はフレイムの使役が口を開く。トライコーンを襲ったという精霊たちに話を聞きに行った内の一体だ。
『此度の件に関しましては、シルファール様が退屈だからと精霊四体を呼び、地神の飼い獣であるトライコーンの角を取って来るよう命じたそうです』
命令を受けた精霊たちは、最高神の愛玩獣に手を出せるはずがないと慄いた。だがシルファールは、自分はいずれ神格持ちになる存在なのだから大丈夫、怒られたりなんかしないだろう、の一点張りだったという。
『上級神使だけが出せる命令書まで書いて投げ付けられ、それでも渋っていると霊威で強制的に体を動かされ、従わざると得なかったと。命令書は押収して来ました』
使役が丸めた紙を差し出した。一目で上質なことが分かる滑らかな用紙を開き、視線を走らせたフレイムが、山吹色の目を眇める。
『アイツ、単独で署名捺印してやがる。こんな命令にサインする奴なんざ他にいねえから当然だろうが、これじゃ……』
忌々しげに唸り、『それで?』と続きを促す。
『やむなくトライコーンの元に向かった――正確には否応なく向かわされた精霊たちですが、先方が抵抗したため、遠視で様子を視ていたシルファール様が何をやっているんだノロマと癇癪を起こし、遠隔で霊威を使って手出しをしたそうです』
『ほーん、で?』
『それがトライコーンの霊威と相互作用し合い、自我を失くして錯乱状態になりました。それを強引に抑え込もうとしたシルファール様がさらに出力を上げられた結果、トライコーンは無意識の内に走り出し、シルファール様も完全には手綱を取れず、この神域に突っ込んでしまったというのが経緯です』
その弾みでシルファールの霊威が解け、操られていた精霊たちは一目散に使役の区域に逃げ帰ったという。とんでもないことをしてしまったと震えていたところに、シルファールから念話があり、『もし神々にバレて責められたら僕の名前と命令書を出せ。そうすれば許してもらえるんだから大丈夫だって!』と、何の根拠もない太鼓判を押されたという。
当然、それを鵜呑みにはできず戦々恐々としていた時、フレイムが遣わした従神たちが聞き取りにやって来た……ということらしい。
『迷惑すぎだろ。ここまでしても、将来の神格持ちってだけで許されると考えてたんなら、見立てが甘いなんてもんじゃねえ』
「まだ神格を得たわけでもない内から、よくそんな能天気な目測が立てられるわね」
『つか、得ていたとしても所詮は箔付けのヤツだ。天の神の所有物を私情で損害する行為はお目こぼししてもらえねえぜ。許してもらえんのは、正真正銘の神格を持つ正式な神だけだ』
とんでもない話だと、アマーリエとフレイムは呆れ果てた声で言う。
「そもそも、シルファールはどうしてトライコーンの角が欲しいなんて言ったのかしら」
『過去に腰巾着の一部がおもねったそうです。シルファール様がいずれ神格を得られれば、あのトライコーンも自らその角を差し出すでしょう、と。それを思い出したシルファール様は、いずれではなく今すぐ角を見たくなったから、取って来いと仰せになったと』
(誰よ、そんな余計なこと吹き込んだのは)
アマーリエは胸の内でツッコんだ。
『角を守ろうとしてトライコーンが暴走したことは、大精霊に報せたのか? 悪ガキへの連絡は? 一応、悪ガキの言い分だってちゃんと聞かねえと』
『うぃっす。大精霊には念話で概略を報告して、詳細説明のために使役の一体を向かわせてます。シルファールの方は何度か念話してるんですけど、繋がらないんすよ』
従神が困ったように頭をかいた。フレイムとよく似た仕草だ。仲良しの主従は所作も似るのだろうか。
『神威を使えば、強引に念話回路をこじ開けるコトはできるっすけど……直接行った方が早そうなんで、先方に乗り込んで首根っこ捕まえてここに連れて来ようかと思ってます』
使役を行かせてはシルファールの霊威で返り討ちに遭いかねないので、自分が行くつもりだと補足する。地神の霊獣を巻き込み、フレイムの神威に実害が出た以上、もはや直接の注意は致命傷などとは言っていられない。
『強制転移をかけて来させる方法もありますけど、押し入った方がインパクト強いでしょうし、向こうのメンタルにガツンと効くかもしれないっすから。……ヴィーダに行ってもらおうかとも考えましたけど、俺の方がまだ優しいでしょ』
『だな。んじゃせっかくだし、俺も一緒に行くかな。大精霊の方は今の対応で良い。行かせた使役から仔細が伝えられるだろ』
『分っかりましたー』
高位神が御自ら動くという事態にも、従神は片手を挙げて即応した。フレイムが精霊だった頃から懇意にしている旧友なので、主神のフットワークの軽さには慣れっこなのだ。同席しているのも、庶民派のアマーリエと聖獣たち、プルプル震えているトライコーンだけなので、止める者は出なかった。
『よし、じゃー行くぜ! ユフィーも来いよ。あんまり大勢で乗り込んでもアレだから、ラモスとディモスは待っててくれ』
「ええ、もちろん行くわ」
『承知いたしました。主をよろしくお願いいたします』
『焔神様がご一緒なので心配無用とは存じておりますが、どうかお気を付けて』
『おう、任しとけ!』
フレイムの元気な掛け声と共に、アマーリエの視界が淡く発光し、寸の間だけ明滅した。
『今じゃすっかり、ワガママ放題の威張り散らし放題。反論でもしようものなら即キレ散らかして、圧倒的な霊威を暴発させる始末らしいっす。まだ負傷者は出てないっすけど、このままじゃ誰か大怪我させちゃいますよ』
「ダメっ子の見本のようね……」
遠い眼差しで空虚な呻きを漏らすアマーリエ。異論の声は誰からも上がらなかった。今度はフレイムの使役が口を開く。トライコーンを襲ったという精霊たちに話を聞きに行った内の一体だ。
『此度の件に関しましては、シルファール様が退屈だからと精霊四体を呼び、地神の飼い獣であるトライコーンの角を取って来るよう命じたそうです』
命令を受けた精霊たちは、最高神の愛玩獣に手を出せるはずがないと慄いた。だがシルファールは、自分はいずれ神格持ちになる存在なのだから大丈夫、怒られたりなんかしないだろう、の一点張りだったという。
『上級神使だけが出せる命令書まで書いて投げ付けられ、それでも渋っていると霊威で強制的に体を動かされ、従わざると得なかったと。命令書は押収して来ました』
使役が丸めた紙を差し出した。一目で上質なことが分かる滑らかな用紙を開き、視線を走らせたフレイムが、山吹色の目を眇める。
『アイツ、単独で署名捺印してやがる。こんな命令にサインする奴なんざ他にいねえから当然だろうが、これじゃ……』
忌々しげに唸り、『それで?』と続きを促す。
『やむなくトライコーンの元に向かった――正確には否応なく向かわされた精霊たちですが、先方が抵抗したため、遠視で様子を視ていたシルファール様が何をやっているんだノロマと癇癪を起こし、遠隔で霊威を使って手出しをしたそうです』
『ほーん、で?』
『それがトライコーンの霊威と相互作用し合い、自我を失くして錯乱状態になりました。それを強引に抑え込もうとしたシルファール様がさらに出力を上げられた結果、トライコーンは無意識の内に走り出し、シルファール様も完全には手綱を取れず、この神域に突っ込んでしまったというのが経緯です』
その弾みでシルファールの霊威が解け、操られていた精霊たちは一目散に使役の区域に逃げ帰ったという。とんでもないことをしてしまったと震えていたところに、シルファールから念話があり、『もし神々にバレて責められたら僕の名前と命令書を出せ。そうすれば許してもらえるんだから大丈夫だって!』と、何の根拠もない太鼓判を押されたという。
当然、それを鵜呑みにはできず戦々恐々としていた時、フレイムが遣わした従神たちが聞き取りにやって来た……ということらしい。
『迷惑すぎだろ。ここまでしても、将来の神格持ちってだけで許されると考えてたんなら、見立てが甘いなんてもんじゃねえ』
「まだ神格を得たわけでもない内から、よくそんな能天気な目測が立てられるわね」
『つか、得ていたとしても所詮は箔付けのヤツだ。天の神の所有物を私情で損害する行為はお目こぼししてもらえねえぜ。許してもらえんのは、正真正銘の神格を持つ正式な神だけだ』
とんでもない話だと、アマーリエとフレイムは呆れ果てた声で言う。
「そもそも、シルファールはどうしてトライコーンの角が欲しいなんて言ったのかしら」
『過去に腰巾着の一部がおもねったそうです。シルファール様がいずれ神格を得られれば、あのトライコーンも自らその角を差し出すでしょう、と。それを思い出したシルファール様は、いずれではなく今すぐ角を見たくなったから、取って来いと仰せになったと』
(誰よ、そんな余計なこと吹き込んだのは)
アマーリエは胸の内でツッコんだ。
『角を守ろうとしてトライコーンが暴走したことは、大精霊に報せたのか? 悪ガキへの連絡は? 一応、悪ガキの言い分だってちゃんと聞かねえと』
『うぃっす。大精霊には念話で概略を報告して、詳細説明のために使役の一体を向かわせてます。シルファールの方は何度か念話してるんですけど、繋がらないんすよ』
従神が困ったように頭をかいた。フレイムとよく似た仕草だ。仲良しの主従は所作も似るのだろうか。
『神威を使えば、強引に念話回路をこじ開けるコトはできるっすけど……直接行った方が早そうなんで、先方に乗り込んで首根っこ捕まえてここに連れて来ようかと思ってます』
使役を行かせてはシルファールの霊威で返り討ちに遭いかねないので、自分が行くつもりだと補足する。地神の霊獣を巻き込み、フレイムの神威に実害が出た以上、もはや直接の注意は致命傷などとは言っていられない。
『強制転移をかけて来させる方法もありますけど、押し入った方がインパクト強いでしょうし、向こうのメンタルにガツンと効くかもしれないっすから。……ヴィーダに行ってもらおうかとも考えましたけど、俺の方がまだ優しいでしょ』
『だな。んじゃせっかくだし、俺も一緒に行くかな。大精霊の方は今の対応で良い。行かせた使役から仔細が伝えられるだろ』
『分っかりましたー』
高位神が御自ら動くという事態にも、従神は片手を挙げて即応した。フレイムが精霊だった頃から懇意にしている旧友なので、主神のフットワークの軽さには慣れっこなのだ。同席しているのも、庶民派のアマーリエと聖獣たち、プルプル震えているトライコーンだけなので、止める者は出なかった。
『よし、じゃー行くぜ! ユフィーも来いよ。あんまり大勢で乗り込んでもアレだから、ラモスとディモスは待っててくれ』
「ええ、もちろん行くわ」
『承知いたしました。主をよろしくお願いいたします』
『焔神様がご一緒なので心配無用とは存じておりますが、どうかお気を付けて』
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