神様に嫌われた神官でしたが、高位神に愛されました

土広真丘

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第8章

27.押し込みします

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 鼻を鳴らしたフレイムが、従神に視線を送った。頷いた従神が堅牢な門の前に進み出ると、ノックを打ち付けて声を上げる。

『こら、シルファール! いるんだろうシルファール! 念話に出ないから直接来たぞ、開けるんだ!』

 それを眺めながら、フレイムが形良い眉を顰めた。

『にしても、あの両親から生まれた子がこうなっちまうとはなぁ。父親は大精霊で、母親は……』

 だが言い切る前に、門がヴンと震えながら輝いた。閃光と共に掃射されたのは、幾筋もの熱線。従神が腕を振るい、フレイムとアマーリエに向かうものも含めた全てを神威で弾き飛ばした。そして、真顔で門を睨み付ける。

『うっわ、あっぶな!』
『使役の霊威じゃ対応できずに焼かれてただろう。俺たちが来て良かったな』

 フレイムも同調した。焦げた臭いが周囲の緑から漂い、アマーリエはキッと眦をつり上げる。

(そうよ、もし私たちではなくて精霊だったら大怪我をしていたかもしれないじゃない)

 まだ見えぬシルファールに向かって小言を繰り出していると、従神が首を横に振ってフレイムを見た。

『これは埒があかないっすね。転移で行っちゃいますか?』
『そうしたいが、形式的には大精霊の殿舎を訪問してるわけだからな。門から入るのが筋だろ』
『んじゃ強行突破します』
『分かった』

 事前申告の後、神威が炸裂した。重厚な扉を固く閉ざしていた霊威を吹き飛ばし、透明な輝きが大精霊の屋敷内を駆け抜ける。

「…………」

 アマーリエは無言で目を逸らした。こんな乱雑な『訪問』をするくらいなら、大人しく転移で入った方が親切だったと思う。

『どぞっす』

 ぶち開けた門の脇に退いた従神が手を差し出し、主神たちを招き入れた。

『でも、また霊威ビームが来るかもですね。露払いした方が良いっすか?』
『いや、俺が先頭で良い。……シルファールの気配はあっちにあるな。よし、ユフィーとお前は俺の後から来い』
「分かったわ」
『うぃっす』

 フレイムが先陣を切って歩き出した。転移は使わず、ズンズン歩いて殿舎の奥を目指す。

『こらー、悪ガキ!』

 やがて辿り着いた一室の前で、ノックもせずドアを開ける。一応ノブを掴んではいたが、蹴り開けるか体当たりでもしそうな雰囲気だった。扉に張られていた霊威の結界が、紅蓮の神威で粉微塵にされる。

(もう押し込み強盗かカチコミだわ……)

 内心で呻きつつ、アマーリエも雛鳥のごとく夫の背を追って入室する。そして、フレイムの背中からひょいと顔を出し、瞬きした。

 室内は広々としていたが、内装はシンプルだった。白い壁に高い天井、ソファ、テーブル、デスク、棚など基本的な家具。部屋の奥にはベッドがある。全て上質な品だろうが華美ではなく、幼い内から奢侈しゃしな生活をさせまいとする大精霊の意向を反映しているようだった。

 だが、棚やテーブル、壁などに置かれている装飾品がケバケバしい。眩い宝石でゴテゴテと飾り立てられた小物や置物、華やかな彩色が施された壺や絵画、錦の衣や菓子箱などが所狭しと置かれている。なまじ部屋の基本内装が上品なだけに、かえってチグハグな印象になっていた。

(これはもしかしなくても、甘やかし隊が貢いだ品々かしら……)

 そして、ベッドサイドに座っていた子どもが、肩を跳ねさせてこちらを見ている。薄い水色の髪にラピスラズリのごとき双眸。肩に付かないくらいの髪はふわふわで、瞳は切れ長だ。まだあどけなさが残る姿は、ウェイブと同じくらい――10歳程度に見えた。

(……あら?)

 その姿を見た途端、アマーリエの脳裏に既視感が走る。何だろうかと首を捻っていると、先に子どもが口を開いた。

『っ……焔神様……来てく……あービックリした!』
『そりゃこっちの台詞だ、悪ガキ。何で俺がここに来たか分かってるな。いきなりトライコーンが神域の門ぶち抜いてやって来て、ビックリしたぜはこっちが言いたいんだよ』

 腕組みして部屋の入口に仁王立ちしたフレイムが、半眼で子ども――シルファールを見据えた。

『あ、トライコーンね。焔神様の領域に入っちゃって手出しができなくなりましたけど、あの霊獣の角、僕のなんで。早くこっちに渡して下さい』
『お前のじゃねえよ、ありゃ地神様の飼い獣だぞ』
『霊獣本体じゃなく角が僕のモノだって言ったんです。言葉はちゃんと理解して下さいよ、あなた神様でしょ』
『理解してるわ、角も含めて全部地神様に所有権があるに決まってんだろ!』
『僕が頼めばくれますって』
『じゃあ奪い取ろうとする前に頼めよ! それが礼儀ってモンじゃねえか』
『事後報告で大丈夫でしょ。僕は今すぐ角が欲しいんですって。そーだ、焔神様が角だけ切って渡してくれたら良いんじゃないですか』
『良くねえよ火神一族と地神一族のバチバチ勃発だわ!』
「フレイム、フレイム……」
  
 アマーリエは、シルファールと睨み合う夫の袖をちょんちょんと引いた。

(高位神が子どもと対等に喧嘩しないでよ……)
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