神様に嫌われた神官でしたが、高位神に愛されました

土広真丘

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第8章

28.上級神使の命令書

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 精霊の子の実年齢が外見と比例するかは分からないが、悪ガキと呼ぶくらいなのでフレイムよりは年下のはずだ。声なき思いが通じたか、山吹色の双眸をハッとさ迷わせたフレイムが瞬きし、軽く咳払いした。

『……とにかくだ。お前、トライコーンの角を取れって命令書まで書いたんだってな。命令書の意味は講習で教わったはずだ。なら、自分が何をしたかは分かってるな』
(へえ、精霊にも講習があるのね)

 人間の神官たち同様、マナーや言葉遣いを学ぶのだろうか。その疑問が顔に出ていたのか、アマーリエを一瞥したフレイムが説明してくれた。

『上級の使役は高位の神に仕える確率が上がる。特にコイツは元々霊威が強くて、最初から上級の精霊として生まれたからなおさらだ。神格持ちになる可能性も高い。だから特別の教育課程が用意されてるんだ。礼儀作法に学問、武術、座学、とにかく全てを教え込まれる』

 成長するまでは教養の習得が優先になるため、今は特定の神に仕えていないという。

『前は真面目に指導を受けてたのに、ここ数年はろくな態度じゃないんだってな。講習に行かず部屋に籠って遊び呆けてるとか、大精霊に引きずって行かれて出席はしてもずっと寝てるとか、色々と風の噂が聞こえて来るんだぜ』

 下級精霊たちが羨む贅沢な環境にいる癖にワガママだ、と呟くフレイムに、シルファールがそっぽを向いた。

『僕、勉強嫌い。あんな講習、面白くも何ともない。遊んでた方がずっと楽しいもん』

 アマーリエは頭痛を感じて額に手を当てた。これは絵に描いたようなダメダメ生徒だ。

『だが、命令書に関しては重要なことだから、初期段階で教わる。お前がまだきちんと講義を受けていた頃に習ったはずだ。覚えてるか? それともダラダラしてる間に忘れちまったか?』

 鋭い光を放つ山吹色の眼で紺瑠璃の瞳を睥睨したフレイムは、唐突に従神に視線を移した。

『なぁなぁ、使役の命令書って何だっけ?』
『上級の使役が持つ、下級使役への指示権限と強制権をもって発布する書面です。専用の様式で命令内容を記した上で自身の署名をしたため、霊威で自紋を捺印することで完成するっす』

 従神が即答した。フレイムも彼も元精霊。こういった話題は専門分野だろう。

『正式な体裁を整えた命令書を作成した場合、そこに記された内容に関しては、署名捺印をした上級神使が権利と責任の双方を全て抱えることになりまっす』
『だよな。つまりトライコーンの件に関しては、命令書を出したお前が全責任を負うってことだ、シルファール。しかもお前、実行役の精霊が必死で拒否してんのに、霊威で操って力ずくで出撃させただろ。それも加味すれば、ますますお前の咎がデカくなる』

 拒否権を奪われた状況で、当事者の意思に反して犯罪行為をやらされた場合、処罰の対象範囲や内容はケースバイケースで多岐に渡る。ただ、本件に関して言えば、トライコーンを襲撃した精霊たちではなく、命令を出したシルファールに責が問われるという。
 実行役も全くの無罪放免とはいかないが、今回の場合であれば彼らもまた被害者と見なされるため、ほぼお咎めなしで済むそうだ。巻き添えを食ったアマーリエやランドルフが死傷していたり、フレイムが神域を荒らされたことに激怒していれば、話は違ったが。

『命令書は強制効果が絶大な分、出した側が負う責任も大きい。最初は他の上級精霊の助言と指導を受けながら作成して、連名で署名捺印するよう習ったはずだろ』

 フレイムが低い声で告げた。切れ長の双眸が痛みを孕んで細められる。

『お前が書いた命令書を見たぜ。トライコーンの角を取れと指示を書いて、単独で署名捺印したろ。あの書き方じゃお前だけが責任を負うことになる。なぁ、分かるか。今回の件で生じた咎は、お前が一切合切抱えるんだ。実行役の精霊に転嫁することも、大精霊に庇ってもらうこともできねえんだよ』
『――――そう』

 数拍の沈黙の後、シルファールが呟いた。奇妙なほど落ち着いた静謐な声。紺瑠璃の双眸に宿るのは――

(……安堵? 今この子、安心した?)

 アマーリエは思わず子どもを凝視した。隣ではフレイムも眉を顰めている。アマーリエが察した違和感にフレイムが気付かないはずがない。だが、シルファールはすぐにふてぶてしい態度に戻った。ゴロンとベッドに寝転がり、フンと言わんばかりの流し目を向ける。

『別に責任負っても良いもん。だって僕、いずれ神格をもらって神々の身内になるんですよ。だから何をしても許されるんです』
『心得違いをするな。神格持ちの使役は神じゃねえ。しかもお前はまだ神性を賜ってねえだろ。今は単なる一精霊にすぎねえんだよ。一介の精霊が四大高位神の霊獣に手を出してタダで済むと思うのか。最悪、悪神の神使にされる可能性だってあるんだぞ』

 幼稚な主張を一蹴したフレイムが、叱咤というより訴えかけるように言う。

『媚を売る奴らの甘言に染まるな。お前の両親も、ちゃんとお前を見てる精霊たちも、皆心配してるんだぞ、心の底から』

 小さな双肩が微かに震えた気がした。
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