神様に嫌われた神官でしたが、高位神に愛されました

土広真丘

文字の大きさ
12 / 603
第1章

12.唯一の味方

しおりを挟む
『主、戻ったぞ』
『ただいま帰りました、ご主人様』

 フサフサした黄金の毛並みを持つ獅子ししが二頭、空間を割って出現する。アマーリエは顔を輝かせた。

「ラモス、ディモス! お帰りなさい」
「おー、戻ったのか」

 フレイムも親しげにヒラヒラ手を振っている。ラモスとディモスは、言語を解する獅子型の霊獣だ。一定以上の霊威を持つ動物は霊獣と呼ばれ、高い知能と奇跡を起こす力を持つ。霊威師の獣版のようなものだ。

 彼らとの出会いは、アマーリエが7歳の時。まだ子どもだった二頭が親と生き別れ、空腹で倒れているところを見つけて介抱したのが始まりだった。恩義を感じた彼らはアマーリエを主と定め、専属の霊獣として付き従ってくれている。雪の日も猛暑も、共に寄り添い支え合って乗り越えて来た、アマーリエの唯一ともいえる味方だった。

『朝に頼まれたお使いを済ませて来た』

 額に三日月型の白毛が生えたラモスが、首かけていた籠から器用に頭を引き抜く。籠の中には、真っ白な花弁を持つ丸い花がいくつも収まっていた。

『夕暮れ時の一瞬にしか咲かない、月光草の花だ』
『この前、場所を見付けておいて正解でしたね』

 四肢の先が白いディモスが嬉しそうに言った。彼もまた、白い花が詰まった籠を下げている。

「ありがとう。これがあれば料理のレパートリーが増えるわ』

 月光草の花は、粉末加工すれば調味料になる。加工法によって味が変わるため、甘味料にも辛味料にもなる優れものだ。店に流通しているものは値が張るが、先日運良く自生群を見付けたのだ。

『元貴族の家の娘である主が、何故自ら厨房に立たされねばならないのか』

 アマーリエにすり寄ったラモスが、憤慨したように言う。

『ご主人様、今日はあやつらに理不尽なことをされませんでしたか? 私かラモス、どちらかがお側に付いていればよかったのですが』

 ディモスが気遣いの眼差しを浮かべた。

「いいのよ、そうしたらお父様たちの機嫌がもっと悪くなるから」

 主を慕う二頭は、当然ながらダライたちをよく思っていない。アマーリエが罵倒されると唸りながら睨み付けるため、ダライたちもこの霊獣をうとんでいた。

『霊獣とは言っても、貧弱な霊威しか持たぬ最下級ではないか! 役立たずが役立たずとつるんで何になる、こんな生意気な獣はさっさと捨てて来い!』

 度々そう怒鳴りつけるため、なるべく家族の前には出ないようにさせている。ラモスとディモスまでが能無し扱いされるのは我慢ならないのだ。

「お前ら聞けよ、今日もバカ父が絶好調で――」
「フレイム!」

 余計なことを言おうとするフレイムを睨んで止める。

『何かあったのですか?』
『あの父親が何か?』

 二匹はすぐに食い付いた。アマーリエに対して好意的なフレイムのことは受け入れているようで、仲良く話している場面を見たこともある。

「何でもないの、いつもの嫌味よ。もう慣れっこだわ」

 両腕を振ってアピールするが、ラモスとディモスは我がことのように辛そうな顔になった。

『主、また暴言を吐かれたのか。手は上げられなかったか?』
『こんな家、さっさと出てしまえばよろしいのです』

 主を思っての言葉に、しかし、アマーリエは身震いした。

「無理よ……お金も伝手つてもないし、失敗したらもっと酷い目に遭うもの」

 神官として得た給金は、ダライに管理されている。アマーリエの自由になる金はほとんどなかった。

 属国にいた頃には、何度か神官府や役所に駆け込み、家出も試したが、ダライの妨害でことごとく挫折した。宗主国の神官であるダライは属国の各所に顔が聞く。万一アマーリエが来ても訴えを握り潰せるよう、方々にあらかじめ根回ししていた。また、霊威と霊具で作り出した使役数体にアマーリエを監視させ、少しでも不審な動きをすればすぐに報告させていたのだ。

 告発も逃亡も失敗して捕まり、その度に邸に監禁され激しく怒鳴られ折檻された。それを何回も繰り返せば完全にトラウマとなり、今では逃げようという気持ち自体を挫かれてしまっている。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。 すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。 だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。 イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。 変わり果てた現実を前に、 夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。 深い後悔と悲しみに苛まれながら、 失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。 しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。 贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。 そして、母の心を知っていく子供たち。 イネスが求める愛とは、 そして、幸せとは――。

結婚十年目の夫から「結婚契約更新書」なるものが届いた。彼は「送り間違えた」というけれど、それはそれで問題なのでは?

ぽんた
恋愛
レミ・マカリスター侯爵夫人は、夫と政略結婚をして十年目。侯爵夫人として、義父母の介護や領地経営その他もろもろを完ぺきにこなしている。そんなある日、王都に住む夫から「結婚契約更新書」なるものが届いた。義弟を通じ、夫を追求するも夫は「送り間違えた。ほんとうは金を送れというメモを送りたかった」という。レミは、心から思った。「それはそれで問題なのでは?」、と。そして、彼女の夫にたいするざまぁがはじまる。 ※ハッピーエンド確約。ざまぁあり。ご都合主義のゆるゆる設定はご容赦願います。

侯爵令嬢ソフィアの結婚

今野綾
恋愛
ソフィアは希少なグリーンアイを持つヴィンセントと結婚したが、これは金が欲しいソフィアの父の思惑と高い爵位が欲しいヴィンセントの思惑が一致したからに過ぎない そもそもヴィンセントには美しい恋人がいる 美男美女と名高いヴィンセントとその恋人は身分に大きな差があるために結婚することは叶わないのだ その事をソフィアも耳にしており、この結婚が形ばかりのものであることを知っていた 結婚して早々、ソフィアは実家から連れてきた侍女夫婦とあばら家に住むように言われて… 表紙はかなさんです✨ ありがとうございます😊 2024.07.05

婚約破棄から50年後

あんど もあ
ファンタジー
王立学園の卒業パーティーで、王子が婚約者に婚約破棄を宣言した。王子は真に愛する女性と結ばれ、めでたしめでたし。 そして50年後、王子の孫の王子は、婚約破棄された女性の孫と婚約する事に。そこで明かされた婚約破棄の真実とは。

幼馴染みの婚約者が「学生時代は愛する恋人と過ごさせてくれ」と言ってきたので、秒で婚約解消を宣言した令嬢の前世が、社畜のおっさんだった件。

灯乃
ファンタジー
子爵家の総領娘である令嬢の前に、巨乳美少女と腕を組んだ婚約者がやってきた。 曰く、「学生時代くらいは、心から愛する恋人と自由に過ごしたい。それくらい、黙って許容しろ」と。 婚約者を甘やかし過ぎていたことに気付いた彼女は、その場で婚約解消を宣言する。 前半はたぶん普通の令嬢もの、後半はおっさんコメディーです。

ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。 前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。 ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。 「この家は、もうすぐ潰れます」 家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。 手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。

最初からここに私の居場所はなかった

kana
恋愛
死なないために媚びても駄目だった。 死なないために努力しても認められなかった。 死なないためにどんなに辛くても笑顔でいても無駄だった。 死なないために何をされても怒らなかったのに⋯⋯ だったら⋯⋯もう誰にも媚びる必要も、気を使う必要もないでしょう? だから虚しい希望は捨てて生きるための準備を始めた。 二度目は、自分らしく生きると決めた。 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇ いつも稚拙な小説を読んでいただきありがとうございます。 私ごとですが、この度レジーナブックス様より『後悔している言われても⋯⋯ねえ?今さらですよ?』が1月31日頃に書籍化されることになりました~ これも読んでくださった皆様のおかげです。m(_ _)m これからも皆様に楽しんでいただける作品をお届けできるように頑張ってまいりますので、よろしくお願いいたします(>人<;)

愛してもいないのに

豆狸
恋愛
どうして前と違うのでしょう。 この記憶は本当のことではないのかもしれません。 ……本当のことでなかったなら良いのに。 ※子どもに関するセンシティブな内容があります。

処理中です...