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第1章
11.焔神フレイム
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このフレイムは神に仕える御使いだ。それも、かなり特殊な立場にある。
一月前、例の託宣が降りて後。神々は次々に自身の使役を地上に降ろし、見込みのありそうな神官を探させ始めた。神官たちが良い神に見出されたいと願うように、神の方も優秀な霊威師を己付きにしたいと望んでいるからだ。
ただし、神は人間界への干渉を最小限にしているため、自身が降臨することはほぼない。地上を眺めて良い人材がいないか確認することはあるが、だからと言って四六時中下界を見ているわけでもない。
結果、神使の選定を実質的に担っているのは、直接地上に降りて霊威師たちを見定めている使役たちだった。
――そして、フレイムもその使役の一人なのだ。
「ん……そりゃあ悪かったよ。お前が危ないと思ったら反射的に動いちまった。なぁ、俺がただの神使じゃないってこともバレてると思うか?」
「知らないわよ。あなたは神でもあるのでしょう。自分の神眼か何かで分からないの?」
アマーリエは投げやりに言った。このフレイムが特殊である所以。彼は神使だが正真正銘の神でもあるのだ。
「ここには神じゃなく神使として降りてるから、神威は使用禁止なんだよ。聖威しか使えねえ。神威を使ったら天界に強制送還されちまうんだぜ。ついでに母なる火神からこわーいお説教だ」
カラカラと笑うフレイムは、四大高位神の一柱たる火神の使いだが、れっきとした高位神でもある。通常、神の気――神威は無色だが、四大高位神およびそれに近い神の神威は色を帯びている。火神は赤だ。四大高位神直属の御使いは、通常の神使とは一線を画す存在であり、寵を得ずとも神格を授かることができる。
フレイムも上記の栄誉に浴した存在だ。彼の基は、火神の気が荒ぶった際に弾けた火の粉が精霊化したものであるという。ゆえに目をかけられて直属の神使となり、神格を与えられた。加えて、彼は火神の神威から生まれ出た分け身であり、火神の御子だ。火神もフレイムをお気に召しており、ついには寵を与えさらに上の神格を授けた。それによりフレイムの神威には色が宿り、焔神として高位神の仲間入りを果たした。
最高神の使徒であり寵児であり御子であり、そして自らも高位神である存在。それがフレイムなのだという。
「……今日使ったくらいの力なら問題ないのよね?」
アマーリエは思わず尋ねていた。フレイムがあっさりと頷く。
「ああ、霊具の力の流れをいじるくらいなら聖威で問題なし」
「そう……」
聖威というのは、いわば不完全な神威である。聖威師やフレイムのように己の神格を押し秘めている神の場合、本来の力である神威は振るえない。しかし、抑制している神威の一部を断片的に発現させ、霊威よりも遥かに強力な奇跡を起こすことはできる。それが聖威と呼ばれるものだ。
なお、神威を使って神格を表出させてしまえば、神になったと見なされて天へ還らなければならなくなる。地上は人間の領域という扱いになっているためだ。だからこそ、聖威師たちは強制昇天にならないよう、神格と神威を厳重に自身の中に抑え込み、精密に人に擬態して生きている。
(良かった、フレイムが天に還ることにならなくて)
今回は許容範囲内であったことに安堵し、アマーリエはふっと苦い笑みをこぼした。
(もしかして私は彼に依存しかかっているのかしら)
ひょんなことから出会ったフレイムと接して、久しぶりに温かな空気というものを味わった。ずっとこのまま地上にいてくれればいいのに、とすら思ってしまう。
(いいえ、それはいけないわ。彼は役目を終えれば天界に還るのだから)
アマーリエも遠い未来に死去すれば天に昇るが、末端霊威師の自分など火神直属の焔神であるフレイムには目通りすらも叶わないだろう。今は成り行き上、友人のように気安い口調で話しているが、本来は有り得ないことだ。
(彼は私などとは次元が違うお方なのよ)
自分に言い聞かせていると、部屋の大気が揺らいだ。
一月前、例の託宣が降りて後。神々は次々に自身の使役を地上に降ろし、見込みのありそうな神官を探させ始めた。神官たちが良い神に見出されたいと願うように、神の方も優秀な霊威師を己付きにしたいと望んでいるからだ。
ただし、神は人間界への干渉を最小限にしているため、自身が降臨することはほぼない。地上を眺めて良い人材がいないか確認することはあるが、だからと言って四六時中下界を見ているわけでもない。
結果、神使の選定を実質的に担っているのは、直接地上に降りて霊威師たちを見定めている使役たちだった。
――そして、フレイムもその使役の一人なのだ。
「ん……そりゃあ悪かったよ。お前が危ないと思ったら反射的に動いちまった。なぁ、俺がただの神使じゃないってこともバレてると思うか?」
「知らないわよ。あなたは神でもあるのでしょう。自分の神眼か何かで分からないの?」
アマーリエは投げやりに言った。このフレイムが特殊である所以。彼は神使だが正真正銘の神でもあるのだ。
「ここには神じゃなく神使として降りてるから、神威は使用禁止なんだよ。聖威しか使えねえ。神威を使ったら天界に強制送還されちまうんだぜ。ついでに母なる火神からこわーいお説教だ」
カラカラと笑うフレイムは、四大高位神の一柱たる火神の使いだが、れっきとした高位神でもある。通常、神の気――神威は無色だが、四大高位神およびそれに近い神の神威は色を帯びている。火神は赤だ。四大高位神直属の御使いは、通常の神使とは一線を画す存在であり、寵を得ずとも神格を授かることができる。
フレイムも上記の栄誉に浴した存在だ。彼の基は、火神の気が荒ぶった際に弾けた火の粉が精霊化したものであるという。ゆえに目をかけられて直属の神使となり、神格を与えられた。加えて、彼は火神の神威から生まれ出た分け身であり、火神の御子だ。火神もフレイムをお気に召しており、ついには寵を与えさらに上の神格を授けた。それによりフレイムの神威には色が宿り、焔神として高位神の仲間入りを果たした。
最高神の使徒であり寵児であり御子であり、そして自らも高位神である存在。それがフレイムなのだという。
「……今日使ったくらいの力なら問題ないのよね?」
アマーリエは思わず尋ねていた。フレイムがあっさりと頷く。
「ああ、霊具の力の流れをいじるくらいなら聖威で問題なし」
「そう……」
聖威というのは、いわば不完全な神威である。聖威師やフレイムのように己の神格を押し秘めている神の場合、本来の力である神威は振るえない。しかし、抑制している神威の一部を断片的に発現させ、霊威よりも遥かに強力な奇跡を起こすことはできる。それが聖威と呼ばれるものだ。
なお、神威を使って神格を表出させてしまえば、神になったと見なされて天へ還らなければならなくなる。地上は人間の領域という扱いになっているためだ。だからこそ、聖威師たちは強制昇天にならないよう、神格と神威を厳重に自身の中に抑え込み、精密に人に擬態して生きている。
(良かった、フレイムが天に還ることにならなくて)
今回は許容範囲内であったことに安堵し、アマーリエはふっと苦い笑みをこぼした。
(もしかして私は彼に依存しかかっているのかしら)
ひょんなことから出会ったフレイムと接して、久しぶりに温かな空気というものを味わった。ずっとこのまま地上にいてくれればいいのに、とすら思ってしまう。
(いいえ、それはいけないわ。彼は役目を終えれば天界に還るのだから)
アマーリエも遠い未来に死去すれば天に昇るが、末端霊威師の自分など火神直属の焔神であるフレイムには目通りすらも叶わないだろう。今は成り行き上、友人のように気安い口調で話しているが、本来は有り得ないことだ。
(彼は私などとは次元が違うお方なのよ)
自分に言い聞かせていると、部屋の大気が揺らいだ。
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