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第1章
24.囁く声
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「声? ……神官なのだから、お声が聞こえることもあるとは思うけれど。あなたを選ぶと言われたの?」
それならそれで良いと、アマーリエは思った。ミリエーナは幸せになれるだろうし、両親も万々歳だろう。
「ええ。私のことを褒めて下さったわ。とても美しい気を持っているって。本当に綺麗なお声だった。聞いているだけで夢見心地になるくらい」
「それはいつの話なの? お声が聞こえたら神官府に報告を上げることになっているわよね。報告したの?」
「したわよ。でも、大神官たちはこちらで精査すると言うばかり。きっと信じてくれていないわ。霊具爆発の責任逃れを言っていると思われてるのよ」
悔しそうに唇を噛み締める妹を見て、アマーリエは軽く目を見開いた。
「霊具爆発って……まさか、神の思し召しとか言っていたあれ?」
火の霊具が暴走したあの日、勝手に水の霊具を持ち出したことを言及されたミリエーナは、こう言っていた。
『私は神の御意思に従って事態を解決しようとしただけですわ! 神の思し召しだったんですのぉ!』
「あれは本気で言っていたの?」
「当たり前でしょう! 火炎霊具が暴走したのを見て、この私が何とか鎮めてあげなきゃと思った時に、あのお声がしたのよ。『とても美しい気を持つ者よ。火を消したいなら水の霊具を使いなさい』って」
「私が鎮めてあげなきゃって――どうして上から目線なのよ」
ボソリと突っ込むアマーリエだが、ミリエーナは聞いていない。
「二等の霊具がある保管庫の鍵も、その神が開けてくれたわ。『我が力で鍵を開けてあげよう』って。懲罰房で、どうやって施錠を外したのか聞かれたから、そのことも伝えたのに。皆、信じてくれないのよ」
神を騙る悪戯好きな妖精や邪悪な悪霊などもいるため、聞こえた声が本当に神の声だったか判別することは重要だ。だが、ミリエーナは眦を吊り上げて続けた。
「神官府のど真ん中で聞こえた声が偽物なわけないじゃない! 変な邪霊なんか、結界で弾かれて干渉すらできないわよ」
「……それはそうね」
その言い分にはアマーリエも反論できなかった。とはいえ、その神の声とやらのせいで、あの霊具爆発事件が発生してしまったのであれば、神は何故そのような教唆をしたのかという疑問が生まれる。
「けれど、あなたを信じていないわけではないと思うわ。精査すると仰っているんでしょう」
「それが疑っているということよ! どうせ、属国から来た神官だと見下されてるんだわ!」
両親の期待の星であったミリエーナは、属国にいる間も帝国の神官府に関する情報を大量に与えられていた。ダライは元々帝国神官府の所属なので、本国からあらゆる情報を取り寄せてはミリエーナに教えていたのだ。
アマーリエにその恩恵が与えられるはずもなく、ミリエーナとは知識面で大きな差が開いている。佳良が聖威師だということを知っていたか否かなどは、そのいい例だ。
ミリエーナは会話を打ち切るように視線を下に向け、ネックレスの仕上げに取り掛かった。
「ふん、きっと近いうちに信じざるを得なくなるわ。霊具が爆発して、身を伏せた時もお声が聞こえたのよ。『君を選ぶ。必ず迎えに行く。だからもう少し待っていておくれ』って。もちろん、その場ではいと応えたわ。お待ちしていますってね」
手を細かく動かしながら、独り言のように続ける。
「それにね、実はそれからも度々お声が聞こえるの。懲罰房の中で、誰も私の言うことを信じてくれないと嘆いたら、『きっと、君が神に見出されることを脅威に思って、握り潰そうとしているのだろう』と仰って下さったわ」
(それは……おかしくないかしら。ミリエーナが神使に選ばれたとして、どうして聖威師の脅威になるのよ)
アマーリエはこっそりと突っ込んだ。だが、ミリエーナは熱に浮かされたように言う。
「本当は、私は今日も懲罰房から出られない予定だったのよ。それで泣いていたら、『君が出られるように力を貸してあげよう。君は我が声だけを信じて待っていておくれ』と仰って、その後すぐに出られることになったわ」
夢見る乙女のごとく滔々と語り続ける妹の瞳からは、冷静に現実を見つめようとする判断力が根こそぎ消えていた。
「今日の儀式はね、参加させるけど目立つことをせず隅で大人しくしてろって厳命されてるの。でも、誰がそんなこと聞くもんですか。私は神に選んでいただける人間なのよ。神使になれるの」
「ああ、レフィーならきっと選ばれるさ」
蚊帳の外にいたシュードンが、さっと割り込んだ。
「それに、今日の星降の儀には皇帝方もご臨席される。もしかしたら目をかけていただけるかもしれない」
アマーリエは額に手を当てたくなるのを堪え、口を開いた。
「そんなはずがないじゃない。皇帝方は天威師なのよ」
それならそれで良いと、アマーリエは思った。ミリエーナは幸せになれるだろうし、両親も万々歳だろう。
「ええ。私のことを褒めて下さったわ。とても美しい気を持っているって。本当に綺麗なお声だった。聞いているだけで夢見心地になるくらい」
「それはいつの話なの? お声が聞こえたら神官府に報告を上げることになっているわよね。報告したの?」
「したわよ。でも、大神官たちはこちらで精査すると言うばかり。きっと信じてくれていないわ。霊具爆発の責任逃れを言っていると思われてるのよ」
悔しそうに唇を噛み締める妹を見て、アマーリエは軽く目を見開いた。
「霊具爆発って……まさか、神の思し召しとか言っていたあれ?」
火の霊具が暴走したあの日、勝手に水の霊具を持ち出したことを言及されたミリエーナは、こう言っていた。
『私は神の御意思に従って事態を解決しようとしただけですわ! 神の思し召しだったんですのぉ!』
「あれは本気で言っていたの?」
「当たり前でしょう! 火炎霊具が暴走したのを見て、この私が何とか鎮めてあげなきゃと思った時に、あのお声がしたのよ。『とても美しい気を持つ者よ。火を消したいなら水の霊具を使いなさい』って」
「私が鎮めてあげなきゃって――どうして上から目線なのよ」
ボソリと突っ込むアマーリエだが、ミリエーナは聞いていない。
「二等の霊具がある保管庫の鍵も、その神が開けてくれたわ。『我が力で鍵を開けてあげよう』って。懲罰房で、どうやって施錠を外したのか聞かれたから、そのことも伝えたのに。皆、信じてくれないのよ」
神を騙る悪戯好きな妖精や邪悪な悪霊などもいるため、聞こえた声が本当に神の声だったか判別することは重要だ。だが、ミリエーナは眦を吊り上げて続けた。
「神官府のど真ん中で聞こえた声が偽物なわけないじゃない! 変な邪霊なんか、結界で弾かれて干渉すらできないわよ」
「……それはそうね」
その言い分にはアマーリエも反論できなかった。とはいえ、その神の声とやらのせいで、あの霊具爆発事件が発生してしまったのであれば、神は何故そのような教唆をしたのかという疑問が生まれる。
「けれど、あなたを信じていないわけではないと思うわ。精査すると仰っているんでしょう」
「それが疑っているということよ! どうせ、属国から来た神官だと見下されてるんだわ!」
両親の期待の星であったミリエーナは、属国にいる間も帝国の神官府に関する情報を大量に与えられていた。ダライは元々帝国神官府の所属なので、本国からあらゆる情報を取り寄せてはミリエーナに教えていたのだ。
アマーリエにその恩恵が与えられるはずもなく、ミリエーナとは知識面で大きな差が開いている。佳良が聖威師だということを知っていたか否かなどは、そのいい例だ。
ミリエーナは会話を打ち切るように視線を下に向け、ネックレスの仕上げに取り掛かった。
「ふん、きっと近いうちに信じざるを得なくなるわ。霊具が爆発して、身を伏せた時もお声が聞こえたのよ。『君を選ぶ。必ず迎えに行く。だからもう少し待っていておくれ』って。もちろん、その場ではいと応えたわ。お待ちしていますってね」
手を細かく動かしながら、独り言のように続ける。
「それにね、実はそれからも度々お声が聞こえるの。懲罰房の中で、誰も私の言うことを信じてくれないと嘆いたら、『きっと、君が神に見出されることを脅威に思って、握り潰そうとしているのだろう』と仰って下さったわ」
(それは……おかしくないかしら。ミリエーナが神使に選ばれたとして、どうして聖威師の脅威になるのよ)
アマーリエはこっそりと突っ込んだ。だが、ミリエーナは熱に浮かされたように言う。
「本当は、私は今日も懲罰房から出られない予定だったのよ。それで泣いていたら、『君が出られるように力を貸してあげよう。君は我が声だけを信じて待っていておくれ』と仰って、その後すぐに出られることになったわ」
夢見る乙女のごとく滔々と語り続ける妹の瞳からは、冷静に現実を見つめようとする判断力が根こそぎ消えていた。
「今日の儀式はね、参加させるけど目立つことをせず隅で大人しくしてろって厳命されてるの。でも、誰がそんなこと聞くもんですか。私は神に選んでいただける人間なのよ。神使になれるの」
「ああ、レフィーならきっと選ばれるさ」
蚊帳の外にいたシュードンが、さっと割り込んだ。
「それに、今日の星降の儀には皇帝方もご臨席される。もしかしたら目をかけていただけるかもしれない」
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