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第2章
10.にじむ違和感
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アマーリエが抱いたのと同じ疑問を皆が感じているだろうが、答えが分かるはずもない。ライナスが淡々と続ける。
《先方の要望としては、2日後の帝都入りで中央本府の主任神官に挨拶をする際、聖威師と神にも同席してもらい、リーリアを認証して欲しいそうだ》
照覧祭の開始は3日後。そこから15日間ほどかけて行われる。テスオラの催しは7日目にあるので、照覧祭開始日の前日に帝都入りしても十分間に合う。
《てか、そもそもリーリアの主神は何で愛し子のことを秘密にしたがってたんだ。目立つのが嫌って……そんなことビビリの泡神様でも言わねえだろ》
《う、うん。私だって愛し子を持ったらすぐ中央本府に連絡する。何か事情があれば別だけど、自分が目立ちたくないという私情だけで隠すことはしない》
毛布から頭を出したフロースがおずおずと、しかしはっきりと言う。ラミルファも意味が分からないと言いたげに追随した。
《しかも、隠し切れないからやはり伝えて良いと、いきなり言質を翻したのだろう。何がしたいのだろうね、その主神は》
《リーリアはどの道、照覧祭でユフィーと対面する予定だったんだろ。その時に見抜かれると踏んで、これ以上隠し続けるのは無理だって観念したのか?》
《アマーリエは、テスオラ王国にもテスオラ神官府にも良い思い出が少ないでしょう。リーリアが中央本府に転属することで、過去の傷口が開いてしまわないでしょうか》
穏和な美貌に憂慮を乗せるフルードに、ライナスも同調した。
《そうだな。聖威師同士は同胞だ。互いに対して確実に親愛の念が芽生えるが――それはそれとして、どうしても反りが合わない者が出ることもある》
《アマーリエ。まずは私たちと共にリーリアを確認してくれますか。直に相手を見れば、大体の印象が掴めるかもしれません》
《分かりました》
元々、リーリアとは照覧祭で見える予定だった。それが少し早まるだけだ。空気が重くなる中、フロースがポツリと言葉を発した。
《……おかしい》
《え? どうかされましたか?》
《私の内から返って来る反応が変なんだよ、アマーリエ。通常、聖威師が誕生したという報を聞けば、神格を持つ者は喜びを感じる。新たな同胞を得た嬉しさに心を踊らせる》
アマーリエは、自身が寵を受けた際、フルードとラミルファがすぐに祝福を述べて来たことを思い出した。その後で目通りした火神一族や運命神も、他の神々も、一様に歓迎と喜色を浮かべて接してくれた。
包まっていた毛布を脱ぎ捨て、冷静な目をしたフロースが続ける。
《だけど、今の私は違う。大切な身内が顕現したはずなのに、全く喜びを感じていない》
滔々とした指摘にフレイムとラミルファも頷いた。
《確かにな。俺もそれは気になってた》
《どうにも釈然としないとは思っていたよ。聖威師たちは今、嬉しいと感じているかい?》
フルードとライナスがそれぞれ即答した。
《いいえ、全く。アマーリエが傷付かないかということだけが心配です。これはおかしいですね》
《私も、自分の感覚に違和感を覚えてはおりました》
会話に付いていけないアマーリエに、フロースが視線を移す。
《アマーリエはまだ神格を得て浅いから、ピンと来ないかもしれない。だけど、これは普通の反応じゃないんだよ。本当ならまず歓喜の念が湧き上がっているはずだ。相手の国に良い思い出が無かったとしても関係なく》
《そ……そうなのですか》
だが、プラスの感情は一切起こっていない。むしろ不安と困惑しかない。
《もしかして……実は寵を与えた神が悪神だったのでしょうか?》
悪神の聖威師は、神々に同胞と認識されない。単なる生き餌でしかないからだ。
(まさか、ミリエーナの時と同じパターン?)
星降の儀の焼き直しが起こったのかと危ぶむも、ラミルファが首を横に振った。
《それはない。今、気配を確認した。地上にいる高位の悪神は僕とヴェーゼだけだ》
《……も、もう一柱いるのですか!? では、そのヴェーゼという悪神がリーリア様に寵を与えたのでは》
《え? ヴェーゼが? 何故?》
《いいえアマーリエ、違います》
意味が分からないという顔で聞き返した邪神に代わり、推測を否定したのはフルードだった。
《申し訳ありません、邪神様。まだ彼のことを話せていないのです。アマーリエは実親に情報を制限された環境で育ったようですし、おそらく知らないでしょう》
《ああ、そうだったのか。だからさっき、ヴェーゼの名が出た時に不思議そうな顔をしていたのだな》
(どういうこと?)
納得した様子のラミルファとは裏腹に、アマーリエは疑問符を大量に飛ばす。表情を消したフルードが言った。
《こうなるのであれば、もっと早く話しておけば良かったですね。先に聖威師の基本事項から伝えていこうと思っていたのが、裏目に出てしまいました。簡単にですがここで説明します。邪神様が仰ったもう一柱の悪神とは、アリステル・ヴェーゼ・レシスのことです》
《……レシス?》
アリステル。先ほども出てきた単語だ。やはり名前だったらしい。だが、それよりも最後の家名が引っかかり、目の前の大神官を見つめる。確か彼の正式名は、フルード・セイン・レシスだったはずだ。
《選ばれし高位神である悪神、鬼神様の寵を受けた奇跡の聖威師。この帝国神官府における、もう一人の当代大神官。そして私の実兄にあたる者。それがアリステル・ヴェーゼ・レシスです》
《……え、ええぇっ!?》
《先方の要望としては、2日後の帝都入りで中央本府の主任神官に挨拶をする際、聖威師と神にも同席してもらい、リーリアを認証して欲しいそうだ》
照覧祭の開始は3日後。そこから15日間ほどかけて行われる。テスオラの催しは7日目にあるので、照覧祭開始日の前日に帝都入りしても十分間に合う。
《てか、そもそもリーリアの主神は何で愛し子のことを秘密にしたがってたんだ。目立つのが嫌って……そんなことビビリの泡神様でも言わねえだろ》
《う、うん。私だって愛し子を持ったらすぐ中央本府に連絡する。何か事情があれば別だけど、自分が目立ちたくないという私情だけで隠すことはしない》
毛布から頭を出したフロースがおずおずと、しかしはっきりと言う。ラミルファも意味が分からないと言いたげに追随した。
《しかも、隠し切れないからやはり伝えて良いと、いきなり言質を翻したのだろう。何がしたいのだろうね、その主神は》
《リーリアはどの道、照覧祭でユフィーと対面する予定だったんだろ。その時に見抜かれると踏んで、これ以上隠し続けるのは無理だって観念したのか?》
《アマーリエは、テスオラ王国にもテスオラ神官府にも良い思い出が少ないでしょう。リーリアが中央本府に転属することで、過去の傷口が開いてしまわないでしょうか》
穏和な美貌に憂慮を乗せるフルードに、ライナスも同調した。
《そうだな。聖威師同士は同胞だ。互いに対して確実に親愛の念が芽生えるが――それはそれとして、どうしても反りが合わない者が出ることもある》
《アマーリエ。まずは私たちと共にリーリアを確認してくれますか。直に相手を見れば、大体の印象が掴めるかもしれません》
《分かりました》
元々、リーリアとは照覧祭で見える予定だった。それが少し早まるだけだ。空気が重くなる中、フロースがポツリと言葉を発した。
《……おかしい》
《え? どうかされましたか?》
《私の内から返って来る反応が変なんだよ、アマーリエ。通常、聖威師が誕生したという報を聞けば、神格を持つ者は喜びを感じる。新たな同胞を得た嬉しさに心を踊らせる》
アマーリエは、自身が寵を受けた際、フルードとラミルファがすぐに祝福を述べて来たことを思い出した。その後で目通りした火神一族や運命神も、他の神々も、一様に歓迎と喜色を浮かべて接してくれた。
包まっていた毛布を脱ぎ捨て、冷静な目をしたフロースが続ける。
《だけど、今の私は違う。大切な身内が顕現したはずなのに、全く喜びを感じていない》
滔々とした指摘にフレイムとラミルファも頷いた。
《確かにな。俺もそれは気になってた》
《どうにも釈然としないとは思っていたよ。聖威師たちは今、嬉しいと感じているかい?》
フルードとライナスがそれぞれ即答した。
《いいえ、全く。アマーリエが傷付かないかということだけが心配です。これはおかしいですね》
《私も、自分の感覚に違和感を覚えてはおりました》
会話に付いていけないアマーリエに、フロースが視線を移す。
《アマーリエはまだ神格を得て浅いから、ピンと来ないかもしれない。だけど、これは普通の反応じゃないんだよ。本当ならまず歓喜の念が湧き上がっているはずだ。相手の国に良い思い出が無かったとしても関係なく》
《そ……そうなのですか》
だが、プラスの感情は一切起こっていない。むしろ不安と困惑しかない。
《もしかして……実は寵を与えた神が悪神だったのでしょうか?》
悪神の聖威師は、神々に同胞と認識されない。単なる生き餌でしかないからだ。
(まさか、ミリエーナの時と同じパターン?)
星降の儀の焼き直しが起こったのかと危ぶむも、ラミルファが首を横に振った。
《それはない。今、気配を確認した。地上にいる高位の悪神は僕とヴェーゼだけだ》
《……も、もう一柱いるのですか!? では、そのヴェーゼという悪神がリーリア様に寵を与えたのでは》
《え? ヴェーゼが? 何故?》
《いいえアマーリエ、違います》
意味が分からないという顔で聞き返した邪神に代わり、推測を否定したのはフルードだった。
《申し訳ありません、邪神様。まだ彼のことを話せていないのです。アマーリエは実親に情報を制限された環境で育ったようですし、おそらく知らないでしょう》
《ああ、そうだったのか。だからさっき、ヴェーゼの名が出た時に不思議そうな顔をしていたのだな》
(どういうこと?)
納得した様子のラミルファとは裏腹に、アマーリエは疑問符を大量に飛ばす。表情を消したフルードが言った。
《こうなるのであれば、もっと早く話しておけば良かったですね。先に聖威師の基本事項から伝えていこうと思っていたのが、裏目に出てしまいました。簡単にですがここで説明します。邪神様が仰ったもう一柱の悪神とは、アリステル・ヴェーゼ・レシスのことです》
《……レシス?》
アリステル。先ほども出てきた単語だ。やはり名前だったらしい。だが、それよりも最後の家名が引っかかり、目の前の大神官を見つめる。確か彼の正式名は、フルード・セイン・レシスだったはずだ。
《選ばれし高位神である悪神、鬼神様の寵を受けた奇跡の聖威師。この帝国神官府における、もう一人の当代大神官。そして私の実兄にあたる者。それがアリステル・ヴェーゼ・レシスです》
《……え、ええぇっ!?》
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