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第2章
26.最古の邪神
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ハタと思い付いて言うと、皆が頷いた。
「私もそんな気がするよ。ライナスとアシュトンと恵奈、それに佳良様と当真からそろそろ連絡があると思う」
当波が名を出した聖威師たちは、ここには来ていない。違う場所でガルーンと残り二名の認証を行っている。彼らの主神も共に確認してくれているという。
「邪神様、あの神威は……」
硬い表情のフロースが絞り出すように言う。
「そうだな、一の兄上の色だった」
ようやく笑いが止まったらしいラミルファが、首を縦に振った。アマーリエは思わず口を挟む。
「ラミルファ様のお兄様ですか?」
「ああ、禍神の長子にして一の邪神だよ。悠久の昔に顕現した最古の邪神さ。神々全体の長男的な立場にもいる。ちなみに僕は三の邪神で、今のところは末の邪神でもある」
ラミルファは222歳だというが、邪神の名は数千年以上前の古代文書にも記されている。彼が顕現するよりずっと前から存在している、別の邪神がいるということだ。
「大分類した際に同じ神格を持つ神は複数いるだろう。だが、細分類すれば異なる神格になる」
例えば、当代の天威師の一柱である紅日皇后は、その称号の通り『紅日神』の神格を持つ。そして、皇国の初代皇帝が有していた神格は、『緋日神』だ。どちらも大枠では同じ『日神』だが、神にも個体差のようなものがあるため、細かく分けていくと『紅日神』『緋日神』と異なる神格になる。
「厳密に言えば、兄上……一の邪神は『葬邪神』が正式な神格だ。僕は『骸邪神』。同じ邪神でも、その中で更に細分化できるのだよ。リーリアとオーブリーにへばりついていた邪霊は、葬邪神の神威を纏っていた」
(だから、ラミルファ様とよく似ているけれど、微妙に異なる神威だったのね)
こちらが納得したことを感じ取ったか、優しく微笑んだラミルファは言葉を続けた。
「邪神は地上の駒として邪霊を使うことがある。ガルーンを遠視しようとした時に力が弾かれたのは、一の兄上が邪魔をしていたのだな。僕たちは神威を抑えているから、その阻害を破れなかったわけだ」
薄い唇に指を当てて考え込むようにしながら、うぅんと呟く。
「通常なら、邪霊を殺しても問題はない。蚊を潰されて怒る蚊神や、雑草を引き抜かれて怒る草神がいないように、神は己が司るものを害されたからといって機嫌を損ねたりはしない。――だが、その邪霊が兄上の神命を受けて動いていたなら、話は別だ」
下手な真似をすれば、葬邪神の邪魔をしたと捉えられかねない。リーリアやオーブリーたち、引いては彼らの背後にいるであろう邪霊に、現時点で迂闊に手を出すことは危険だった。
「一の兄上に念話しているが、繋がらないね。伝言も飛ばしておくが、いつ聞いてくれるか分からない。いっそこちらに勧請してみるか、天界に還って確認した方が良いかもしれないな。今は特別降臨中だから、天地を自由に行き来できるのだし」
「んじゃ、そっちは任せて良いか。俺は邪霊をとっ捕まえて事情を聞き出す。このまま似非聖威師たちを泳がせて周囲を張ってりゃ、そのうち尻尾を見せるだろ」
「今はまだ手荒な真似はするなよ」
「ああ、分かってるさ」
手早く打ち合わせをしたフレイムとラミルファが、フロースを見る。
「泡神様も一緒に調べてくれるだろ?」
「……え……あぁ、すまない。何の話だったかな」
上の空で宙を見ていたフロースが、キョトキョトと視線を揺らして首肯した。ラミルファが忍び笑いしながらその長身を小突く。
「ふふふ、どうしたのだい泡神様。君は常に挙動不審だが今は特にひどいよ、ねぇ?」
「う、うん……頑張って認証の場にいたから、疲れてしまったようだ」
「お前、いつも疲れてるよな。そろそろ疲れることに疲れねえか?」
フレイムが呆れ顔で溜め息を吐いた時、念話網が張られ、ライナスと佳良から立て続けに念話が入った。
《ガルーンの認証が終わりました》
《こちらも夫婦を確認しました。と言ってもこの二名は形式上だけの認証です》
フレイムとラミルファがすぐに応じた。
《おー、どうだったんだ?》
《当ててみせようか。聖威師ではなく邪霊憑きだったのだろう。僕とは違う邪神の神威を感じたのではないか?》
はい
返事は簡潔かつ明瞭だった。やはり、という空気が満ち、続きを引き取ったアシュトンと当真が報告を上げる。
《ガルーンは独房へ戻しました。本件には神々のご意向が関与している可能性が高いため、先方にはまだ認証の結果を伝えていません》
《夫婦にも何も話しておりません。結果は後日伝えるので、それまでは聖威師だと吹聴したり、軽はずみな行動などはしないよう厳命しておきました。今は専用の宿泊棟に滞留させ、密かに監視を付けています。後はアリステルが動くでしょう》
《そうか。リーリアとオーブリーも邪霊憑きだ。多分、ラミルファの兄貴の葬邪神様が関わってる。俺が邪霊を見付け出して話を聞く》
《僕も一の兄上……葬邪神に事情を確認してみるよ。フルード、神官府の勧請場がどこか空いているだろう。まず一の兄上を勧請してみて欲しい。全ての勧請場が使用中だったなら、空き部屋で喚び出せ》
聖威師ならば、それも高位の神格を持つ特別な聖威師であれば、場所に関わらず色持ちの神を喚ぶことができる。それだけの力を持っている。
《はい、邪神様》
ラミルファに促され、フルードが頷いた。そのままそろって部屋を出ようとするのを、フレイムが呼び止める。
「それなら俺の神殿で勧請しろ。あそこは今、俺の領域になってるから、葬邪神様と対峙しても安全だ」
「分かりました、ありがとうございます」
にこりと微笑み、フルードはラミルファの後を追って部屋を出た。同時に念話網からも抜ける。
《裏が取れ次第、今後の動きを決める。なるべく対応できるようにしといてくれ》
締めくくるフレイムの言葉に、聖威師たちが一斉に応を返した。
(ラミルファ様のお兄様が出て来るなんて)
一体裏で何が起きているのだろうか。アマーリエは内心で唸った。
「私もそんな気がするよ。ライナスとアシュトンと恵奈、それに佳良様と当真からそろそろ連絡があると思う」
当波が名を出した聖威師たちは、ここには来ていない。違う場所でガルーンと残り二名の認証を行っている。彼らの主神も共に確認してくれているという。
「邪神様、あの神威は……」
硬い表情のフロースが絞り出すように言う。
「そうだな、一の兄上の色だった」
ようやく笑いが止まったらしいラミルファが、首を縦に振った。アマーリエは思わず口を挟む。
「ラミルファ様のお兄様ですか?」
「ああ、禍神の長子にして一の邪神だよ。悠久の昔に顕現した最古の邪神さ。神々全体の長男的な立場にもいる。ちなみに僕は三の邪神で、今のところは末の邪神でもある」
ラミルファは222歳だというが、邪神の名は数千年以上前の古代文書にも記されている。彼が顕現するよりずっと前から存在している、別の邪神がいるということだ。
「大分類した際に同じ神格を持つ神は複数いるだろう。だが、細分類すれば異なる神格になる」
例えば、当代の天威師の一柱である紅日皇后は、その称号の通り『紅日神』の神格を持つ。そして、皇国の初代皇帝が有していた神格は、『緋日神』だ。どちらも大枠では同じ『日神』だが、神にも個体差のようなものがあるため、細かく分けていくと『紅日神』『緋日神』と異なる神格になる。
「厳密に言えば、兄上……一の邪神は『葬邪神』が正式な神格だ。僕は『骸邪神』。同じ邪神でも、その中で更に細分化できるのだよ。リーリアとオーブリーにへばりついていた邪霊は、葬邪神の神威を纏っていた」
(だから、ラミルファ様とよく似ているけれど、微妙に異なる神威だったのね)
こちらが納得したことを感じ取ったか、優しく微笑んだラミルファは言葉を続けた。
「邪神は地上の駒として邪霊を使うことがある。ガルーンを遠視しようとした時に力が弾かれたのは、一の兄上が邪魔をしていたのだな。僕たちは神威を抑えているから、その阻害を破れなかったわけだ」
薄い唇に指を当てて考え込むようにしながら、うぅんと呟く。
「通常なら、邪霊を殺しても問題はない。蚊を潰されて怒る蚊神や、雑草を引き抜かれて怒る草神がいないように、神は己が司るものを害されたからといって機嫌を損ねたりはしない。――だが、その邪霊が兄上の神命を受けて動いていたなら、話は別だ」
下手な真似をすれば、葬邪神の邪魔をしたと捉えられかねない。リーリアやオーブリーたち、引いては彼らの背後にいるであろう邪霊に、現時点で迂闊に手を出すことは危険だった。
「一の兄上に念話しているが、繋がらないね。伝言も飛ばしておくが、いつ聞いてくれるか分からない。いっそこちらに勧請してみるか、天界に還って確認した方が良いかもしれないな。今は特別降臨中だから、天地を自由に行き来できるのだし」
「んじゃ、そっちは任せて良いか。俺は邪霊をとっ捕まえて事情を聞き出す。このまま似非聖威師たちを泳がせて周囲を張ってりゃ、そのうち尻尾を見せるだろ」
「今はまだ手荒な真似はするなよ」
「ああ、分かってるさ」
手早く打ち合わせをしたフレイムとラミルファが、フロースを見る。
「泡神様も一緒に調べてくれるだろ?」
「……え……あぁ、すまない。何の話だったかな」
上の空で宙を見ていたフロースが、キョトキョトと視線を揺らして首肯した。ラミルファが忍び笑いしながらその長身を小突く。
「ふふふ、どうしたのだい泡神様。君は常に挙動不審だが今は特にひどいよ、ねぇ?」
「う、うん……頑張って認証の場にいたから、疲れてしまったようだ」
「お前、いつも疲れてるよな。そろそろ疲れることに疲れねえか?」
フレイムが呆れ顔で溜め息を吐いた時、念話網が張られ、ライナスと佳良から立て続けに念話が入った。
《ガルーンの認証が終わりました》
《こちらも夫婦を確認しました。と言ってもこの二名は形式上だけの認証です》
フレイムとラミルファがすぐに応じた。
《おー、どうだったんだ?》
《当ててみせようか。聖威師ではなく邪霊憑きだったのだろう。僕とは違う邪神の神威を感じたのではないか?》
はい
返事は簡潔かつ明瞭だった。やはり、という空気が満ち、続きを引き取ったアシュトンと当真が報告を上げる。
《ガルーンは独房へ戻しました。本件には神々のご意向が関与している可能性が高いため、先方にはまだ認証の結果を伝えていません》
《夫婦にも何も話しておりません。結果は後日伝えるので、それまでは聖威師だと吹聴したり、軽はずみな行動などはしないよう厳命しておきました。今は専用の宿泊棟に滞留させ、密かに監視を付けています。後はアリステルが動くでしょう》
《そうか。リーリアとオーブリーも邪霊憑きだ。多分、ラミルファの兄貴の葬邪神様が関わってる。俺が邪霊を見付け出して話を聞く》
《僕も一の兄上……葬邪神に事情を確認してみるよ。フルード、神官府の勧請場がどこか空いているだろう。まず一の兄上を勧請してみて欲しい。全ての勧請場が使用中だったなら、空き部屋で喚び出せ》
聖威師ならば、それも高位の神格を持つ特別な聖威師であれば、場所に関わらず色持ちの神を喚ぶことができる。それだけの力を持っている。
《はい、邪神様》
ラミルファに促され、フルードが頷いた。そのままそろって部屋を出ようとするのを、フレイムが呼び止める。
「それなら俺の神殿で勧請しろ。あそこは今、俺の領域になってるから、葬邪神様と対峙しても安全だ」
「分かりました、ありがとうございます」
にこりと微笑み、フルードはラミルファの後を追って部屋を出た。同時に念話網からも抜ける。
《裏が取れ次第、今後の動きを決める。なるべく対応できるようにしといてくれ》
締めくくるフレイムの言葉に、聖威師たちが一斉に応を返した。
(ラミルファ様のお兄様が出て来るなんて)
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