神様に嫌われた神官でしたが、高位神に愛されました

土広真丘

文字の大きさ
130 / 602
第2章

27.オーブリーの独白

しおりを挟む
 ◆◆◆

「クソッ、どうなっている」

 宿泊用にあてがわれた個室で、ドサリとソファに腰掛けたオーブリーは毒づいた。照覧祭のリハーサルが早めに終わったため、自室に戻って来たのだ。

《おい、聞こえるか。俺だ俺。ほら俺俺、俺だよ》

 フルードが聞けば、『あの時の要領を得ない詐欺もどき念話はあなたでしたか』と笑顔でキレるだろう台詞をぶっ放しながら、マキシム家の使用人に念話する。

《俺の部屋まで酒を転送しろ。ほらアレだ、アレを持って来い。マキシム邸のあそこに寝かせてあるだろう、俺の気に入りの赤いアレが》

 余談だが、オーブリーの指示は主語や具体性がなく分かりにくい、というのがテスオラ神官たちの評価だ。霊威の強さと侯爵家の威光を恐れ、表立っては言わないだけで。

 それでも、使用人たちは長年の経験と勘でどうにか酒を見付け出し、転送霊具で送って来た。礼も言わずに念話を切ると、部屋に備え付けられていたグラスにトクトクとワインを注ぎ、忌々しげに呻く。

「認証で俺を聖威師とご認定いただき、世界中から賞賛されるはずだったのに」
(やっと頂上に立てると思っていたら……何故だ!)

 予想外の展開に不快感が溢れ、胃の辺りが熱くなる。

(俺は父上の愛人との間に生まれた子だ。正妻が子をもうけず亡くなり、俺に徴が発現したことで侯爵家の跡取りになれた。しかし、どれほど努力しようとも、4つも年下のリーリアに及ばなかった)

 いくら神官として研鑽を重ね、侯爵家の嫡男として邁進しても、常にリーリアの後塵を拝していた。

(霊威の強さは生まれ付きのものだから致し方ない。だが、実践技能、操作技術、卓上知識、事務能力、統率力、判断力……全てがあと一歩届かない)

 次こそは一番を取れと父に言われながら、期待に応えられず二番手に甘んじる年月。加えて、その苛立ちをぶつけていたアマーリエが、あろうことか焔神に見初められてしまった。彼女に自分の仕打ちを暴露されれば、万事休すだ。

 苛立ちと焦燥に焼かれる日々は、ある時終わりを迎える。

(その屈辱の期間は先日をもって終わった。俺は聖威師になった。神になった。リーリアどころか中央本府の頂に並んだのだ)

 テスオラ神官府の要職者のみが参加した儀式中に、色を帯びた神威を纏う神が降臨し、オーブリーに寵を授けてくれたのだ。

 あの瞬間の歓喜と高揚、泣きながら手放しで褒めてくれた父、老侯の愕然とした顔、リーリアの驚いた表情は忘れられない。初めてアヴェント家の娘に完勝したのだ。

(残念なことに、翌日にはリーリアも寵を受けてしまったが……それでも追いつかれただけだ。今までのように負けているわけではない。今日の認証で、俺は真の頂点に上り詰めるはずだったのに)

 ここに来て、事態が思っても見なかった方向に転がった。ガン、とテーブルを叩く。

(何故だ。何故焔神様は、大神官は、俺をお認め下さらなかった)

 腹の底から震え上がるほどの美貌で、ただこちらを睥睨していた焔神。凄まじいまでに蠱惑的な容貌から感情を削ぎ落とし、透明な眼差しを向けていた大神官。
 そして――

(そうだ、アマーリエ・サード……あの場にはアイツもいた。――見違えるように美しくなっていた)

 かつては八つ当たりの対象でしかなかった小娘は、一年足らずの内に激変していた。紅葉と紅蓮のドレスに身を包み、背筋を真っ直ぐに伸ばして立つその姿は、凛と咲く神華のごとき佇まいだった。

(あの娘はあれほど美麗だったのか。朝に見た時も衝撃だったが、間近で見るといっそう驚いた)

 実はオーブリーは、父のマキシム当主と共に、朝ぼらけには帝都に到着していた。いずれオーブリーが栄転する地をゆっくり見ておこうと、父が言っためだ。

 そこで、高貴なる神々を見た。

 今朝方のことを思い返しながら、オーブリーは回想の波に沈んでいった。

 ◆◆◆

「父上、よろしいのですか。ここから先は立入禁止だそうですが」
「構うものか。聖威師になったお前ならば入っても問題あるまい」

 朝日が燦々と照り付ける空の下、立入禁止の看板を無視した父がズンズンと進んでいく。進入防止の結界は、マキシム家に代々伝わる家宝の神器の力ですり抜けていた。自分たちの気配も消し、侵入者感知用の霊具にも引っかからないようにしている。

「ここが帝都郊外にある火山フェーレルか。見事な山体だと、テスオラでも有名な場所だ。中央本府の主任神官が管理しているそうだが……岩石だらけだな」

 地面には大小様々な岩があちこちに転がっている。うっかりしていると、すぐに足を取られそうになる。

「ええい、目障りな。岩など全て吹き飛ばしてくれる」

 舌打ちした父が神器を発動し、高出力で辺りの地面を薙ぎ払った。神威が放射され、ある方角からバキンと嫌な音が響く。

「ん?」
(何だ、今の音は?)

 オーブリーは父と共にそちらに目を向けた。
 視線の先に映ったのは、岩肌に固定して設置されている台座。そして、その上に乗っている玉が、火花を上げてひび割れている光景だった。台座の横には立て板があった。

『火山の噴火を停止させている神器である。衝撃を与えることは厳禁』

 板に目を走らせた父が青ざめる。オーブリーもだ。台座の周囲には霊威の防壁が張り巡らされていたが、神器の一撃に貫通されてしまっていた。

 同時に、火山が不気味な地鳴りを上げ、頂上からブスブスと不穏な煙が上がり始めた。

「ふ、噴火するのか!? オーブリー逃げるぞ、転移を使え!」
「は、はい!」

 父子が避難しかけた時、天から降ってきた稲妻が近くの地面に突き刺さった。

(な、何だ!?)

 オーブリーと父は動きを止める。稲妻が神威を帯びていたからだ。同時に警報が鳴り響いた。

《中央本府より帝都の住民に緊急連絡! 属国の神官府にて高位の神が荒れました。雷神系統の神です》

 霊威で拡声した声が、帝都全体に響く。

《神は移動が可能な状態であったため、お鎮めするために中央本府にお連れしましたが、転送霊具の不具合により到着地点がずれ、フェーレル火山のふもとにご来臨されました》
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

結婚十年目の夫から「結婚契約更新書」なるものが届いた。彼は「送り間違えた」というけれど、それはそれで問題なのでは?

ぽんた
恋愛
レミ・マカリスター侯爵夫人は、夫と政略結婚をして十周年。侯爵夫人として、義父母の介護や領地経営その他もろもろを完ぺきにこなしている。そんなある日、王都に住む夫から「結婚契約更新書」なるものが届いた。義弟を通じ、夫を追求するも夫は「送り間違えた。ほんとうは金を送れというメモを送りたかった」という。レミは、心から思った。「それはそれで問題なのでは?」、と。そして、彼女の夫にたいするざまぁがはじまる。 ※ハッピーエンド確約。ざまぁあり。ご都合主義のゆるゆる設定はご容赦願います。

幼馴染みの婚約者が「学生時代は愛する恋人と過ごさせてくれ」と言ってきたので、秒で婚約解消を宣言した令嬢の前世が、社畜のおっさんだった件。

灯乃
ファンタジー
子爵家の総領娘である令嬢の前に、巨乳美少女と腕を組んだ婚約者がやってきた。 曰く、「学生時代くらいは、心から愛する恋人と自由に過ごしたい。それくらい、黙って許容しろ」と。 婚約者を甘やかし過ぎていたことに気付いた彼女は、その場で婚約解消を宣言する。 前半はたぶん普通の令嬢もの、後半はおっさんコメディーです。

君といるのは疲れると言われたので、婚約者を追いかけるのはやめてみました

水谷繭
恋愛
メイベル・ホワイトは目立たない平凡な少女で、美人な姉といつも比べられてきた。 求婚者の殺到する姉とは反対に、全く縁談のなかったメイベル。 そんなある日、ブラッドという美少年が婚約を持ちかけてくる。姉より自分を選んでくれたブラッドに感謝したメイベルは、彼のために何でもしようとひたすら努力する。 しかしそんな態度を重いと告げられ、君といると疲れると言われてしまう。 ショックを受けたメイベルは、ブラッドばかりの生活を改め、好きだった魔法に打ち込むために魔術院に入ることを決意するが…… ◆なろうにも掲載しています

愛してもいないのに

豆狸
恋愛
どうして前と違うのでしょう。 この記憶は本当のことではないのかもしれません。 ……本当のことでなかったなら良いのに。 ※子どもに関するセンシティブな内容があります。

『外見しか見なかったあなたへ。私はもう、選ぶ側です』

鷹 綾
恋愛
「お前のようなガキは嫌いだ」 幼く見える容姿を理由に、婚約者ライオネルから一方的に婚約を破棄された 公爵令嬢シルフィーネ・エルフィンベルク。 その夜、嫉妬に狂った伯爵令嬢に突き落とされ、 彼女は一年もの間、意識不明の重体に陥る――。 目を覚ました彼女は、大人びた美貌を手に入れていた。 だが、中身は何ひとつ変わっていない。 にもかかわらず、 かつて彼女を「幼すぎる」と切り捨てた元婚約者は態度を一変させ、 「やり直したい」とすり寄ってくる。 「見かけが変わっても、中身は同じです。 それでもあなたは、私の外見しか見ていなかったのですね?」 静かにそう告げ、シルフィーネは過去を見限る。 やがて彼女に興味を示したのは、 隣国ノルディアの王太子エドワルド。 彼が見ていたのは、美貌ではなく―― 対話し、考え、異論を述べる彼女の“在り方”だった。 これは、 外見で価値を決められた令嬢が、 「選ばれる人生」をやめ、 自分の意思で未来を選び直す物語。 静かなざまぁと、 対等な関係から始まる大人の恋。 そして―― 自分の人生を、自分の言葉で生きるための物語。 ---

最初からここに私の居場所はなかった

kana
恋愛
死なないために媚びても駄目だった。 死なないために努力しても認められなかった。 死なないためにどんなに辛くても笑顔でいても無駄だった。 死なないために何をされても怒らなかったのに⋯⋯ だったら⋯⋯もう誰にも媚びる必要も、気を使う必要もないでしょう? だから虚しい希望は捨てて生きるための準備を始めた。 二度目は、自分らしく生きると決めた。 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇ いつも稚拙な小説を読んでいただきありがとうございます。 私ごとですが、この度レジーナブックス様より『後悔している言われても⋯⋯ねえ?今さらですよ?』が1月31日頃に書籍化されることになりました~ これも読んでくださった皆様のおかげです。m(_ _)m これからも皆様に楽しんでいただける作品をお届けできるように頑張ってまいりますので、よろしくお願いいたします(>人<;)

ローザリンデの第二の人生

梨丸
恋愛
伯爵令嬢、ローザリンデの夫はいつも彼女より仕事を優先させ、彼女を無碍にしている。 彼には今はもういない想い人がいた。 私と結婚したことにいい思いをしていないことは知っていた。 けれど、私の命が懸かっていた時でさえも、彼の精神は変わらなかった。 あなたが愛してくれないのなら、私は勝手に幸せになります。 吹っ切れたローザリンデは自分自身の幸せのために動くことにした。 ※投稿してから、誤字脱字などの修正やわかりにくい部分の補足をすることがあります。(話の筋は変わらないのでご安心ください。) 1/10 HOTランキング2位、ありがとうございます。

ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。 前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。 ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。 「この家は、もうすぐ潰れます」 家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。 手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。

処理中です...