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第2章
71.少女たちの健闘
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(それもどうかと思うわ……)
嵐のような剣戟の応酬を繰り広げて大剣の刃を弾きながら、アマーリエは遠い目をした。横目で確認すると、フレイムの手はフロースの衣を握っている。そうでなければ、急激に不快度指数を上昇させている彼が、自らゲイルに――さらに言えば神器に――引導を渡してしまうからだ。
『よくも私のリーリアに……下劣な邪霊風情が』
ボソリと呟かれた声は、常の静かなものより数段低い。フレイムが強めに袖を引き、抑えろと促している。普段は怖がりで臆病なこの泡神は、その気にさえなれば最高神にも匹敵する戦闘力を披露できるのだ。
「性格が悪いだけでなく、暴力まで振るっていたなんて。あなた、最っ低ね」
アマーリエはジロリとゲイルを睨み上げた。コイツの取り柄はもはや顔だけだが、それすらもフレイムたち神の美貌と比較すれば遠く及ばない。
刃と刃が激しい鍔迫り合いとぶつかり合いを繰り返し、甲高い金属音が絶え間なく木霊する。互いの剣を弾き弾かれるたび、瞬く火花と手首に伝わる衝撃。神威と聖威が起こす旋風が髪を大きくそよがせる。
「そうですわよ! この……ええと、馬鹿王子っ! ……ば、馬鹿! 馬鹿っ!」
つかの間視線を泳がせたリーリアが言い放つ。この状況だというのに、一瞬場がホワンとした。
(高位貴族のお嬢様だものね、悪口なんか言い慣れていないわよね)
馬鹿は彼女が知っている数少ない罵声語の一つかもしれない。シンプルイズベストである。
「今まで好き勝手にしておいて、窮地に陥れば必死で自己保身に走り……最後は自我を失って暴走し、魂消滅の危機ですって?」
長大な槍を生き物のようにしなやかに振るいながら、リーリアが神器の神威をあしらう。
「消え逃げなど冗談ではありませんわ。あなたはあなたの意識と存在を保ったまま罰をお受けなさいまし!」
アマーリエはリーリアと一瞬だけ目を合わせた。今まで一度も共闘したことがない相手だが、不思議と念話を使わずとも意思疎通ができる。
「――はっ!」
細剣を横薙ぎに振るい、神威を弾きつつゲイルへ得物越しの剣打を叩き込み、間髪入れずに後方へと下がる。同時に、リーリアも後退しながら槍を高速で旋回させ、攻撃の隙間を縫うようにしながら引き際の一撃を入れた。
前後からタイミングを合わせて挟撃されたゲイルが、ガクリとバランスを崩す。
一度距離を取ったアマーリエは、その一瞬を見計らい、足を踏み込むと刹那の速さで再度前に出た。紅葉色の華が大気を彩る。
リーリアはさらに大きく後ろに跳躍し、槍を脇に挟んで固定すると、地面を蹴って疾走する。自身の体重と助走の勢い、そして聖威を乗せ、流れ落ちる清水のように一直線に突貫した。輝く涙の滴を纏うように、水色の聖威が飛散する。
紅葉とアクアマリン。二色の輝きが星のように大地を流れる。
『……ほぅ』
手出しをせず静観していた狼神が、感嘆の吐息を漏らした。
『これはまた、中々に素晴らしい』
別方向から駆けたアマーリエとリーリアが、動きをそろえてゲイルに肉薄する。
「これでどう!?」
焔の華が赤い閃光を放つ。聖威を大量に注ぎ込んで放たれた渾身の一刀が半円を描き、肉厚の大剣を真っ二つに切り裂いた。
「お仕置きですわ、馬鹿王子!」
重なるように、アクアマリンの煌きが宙を滑る。リーリアが疾走と共に繰り出した槍の渾身の一突きが、ゲイルの纏う神器の鎧を背後から打ち砕いた。
大剣と鎧が音を立てて割れ、大きな破片となってバラバラと零れ落ちる。ゲイルが仰け反り、その場に倒れ伏した。
半瞬後、紅葉とアクアマリンの残像が、前へ駆け抜ける勢いのまま交差する。
「「鎮静化!」」
素早く半回転して振り向いた二人の聖威師の声が、ピタリと唱和した。聖威が炸裂し、神器の破片が動きを止める。
「「正常化!!」」
赤と水色の閃光が走る。砕けた神器が寄り集まり、玉の形になると、ゴロンと大地に転がった。これが本来の形状なのだろう。神器は玉型が多いのだ。
『上出来だユフィー、頑張ったな』
『すごいじゃないかリーリア』
まだ油断はできないと、自身の武器を神器に向けて身構えていたアマーリエとリーリアは、そっと己の主神を見た。
「フレイム、もう大丈夫なの?」
「神器はきちんと鎮められましたでしょうか?」
『おう、バッチリだぜ!』
『もう心配ないよ』
(……よ、良かった!)
にこやかに返された返事を聞き、腰が抜けそうな安堵で膝を崩す。細剣がシュンと消えた。
嵐のような剣戟の応酬を繰り広げて大剣の刃を弾きながら、アマーリエは遠い目をした。横目で確認すると、フレイムの手はフロースの衣を握っている。そうでなければ、急激に不快度指数を上昇させている彼が、自らゲイルに――さらに言えば神器に――引導を渡してしまうからだ。
『よくも私のリーリアに……下劣な邪霊風情が』
ボソリと呟かれた声は、常の静かなものより数段低い。フレイムが強めに袖を引き、抑えろと促している。普段は怖がりで臆病なこの泡神は、その気にさえなれば最高神にも匹敵する戦闘力を披露できるのだ。
「性格が悪いだけでなく、暴力まで振るっていたなんて。あなた、最っ低ね」
アマーリエはジロリとゲイルを睨み上げた。コイツの取り柄はもはや顔だけだが、それすらもフレイムたち神の美貌と比較すれば遠く及ばない。
刃と刃が激しい鍔迫り合いとぶつかり合いを繰り返し、甲高い金属音が絶え間なく木霊する。互いの剣を弾き弾かれるたび、瞬く火花と手首に伝わる衝撃。神威と聖威が起こす旋風が髪を大きくそよがせる。
「そうですわよ! この……ええと、馬鹿王子っ! ……ば、馬鹿! 馬鹿っ!」
つかの間視線を泳がせたリーリアが言い放つ。この状況だというのに、一瞬場がホワンとした。
(高位貴族のお嬢様だものね、悪口なんか言い慣れていないわよね)
馬鹿は彼女が知っている数少ない罵声語の一つかもしれない。シンプルイズベストである。
「今まで好き勝手にしておいて、窮地に陥れば必死で自己保身に走り……最後は自我を失って暴走し、魂消滅の危機ですって?」
長大な槍を生き物のようにしなやかに振るいながら、リーリアが神器の神威をあしらう。
「消え逃げなど冗談ではありませんわ。あなたはあなたの意識と存在を保ったまま罰をお受けなさいまし!」
アマーリエはリーリアと一瞬だけ目を合わせた。今まで一度も共闘したことがない相手だが、不思議と念話を使わずとも意思疎通ができる。
「――はっ!」
細剣を横薙ぎに振るい、神威を弾きつつゲイルへ得物越しの剣打を叩き込み、間髪入れずに後方へと下がる。同時に、リーリアも後退しながら槍を高速で旋回させ、攻撃の隙間を縫うようにしながら引き際の一撃を入れた。
前後からタイミングを合わせて挟撃されたゲイルが、ガクリとバランスを崩す。
一度距離を取ったアマーリエは、その一瞬を見計らい、足を踏み込むと刹那の速さで再度前に出た。紅葉色の華が大気を彩る。
リーリアはさらに大きく後ろに跳躍し、槍を脇に挟んで固定すると、地面を蹴って疾走する。自身の体重と助走の勢い、そして聖威を乗せ、流れ落ちる清水のように一直線に突貫した。輝く涙の滴を纏うように、水色の聖威が飛散する。
紅葉とアクアマリン。二色の輝きが星のように大地を流れる。
『……ほぅ』
手出しをせず静観していた狼神が、感嘆の吐息を漏らした。
『これはまた、中々に素晴らしい』
別方向から駆けたアマーリエとリーリアが、動きをそろえてゲイルに肉薄する。
「これでどう!?」
焔の華が赤い閃光を放つ。聖威を大量に注ぎ込んで放たれた渾身の一刀が半円を描き、肉厚の大剣を真っ二つに切り裂いた。
「お仕置きですわ、馬鹿王子!」
重なるように、アクアマリンの煌きが宙を滑る。リーリアが疾走と共に繰り出した槍の渾身の一突きが、ゲイルの纏う神器の鎧を背後から打ち砕いた。
大剣と鎧が音を立てて割れ、大きな破片となってバラバラと零れ落ちる。ゲイルが仰け反り、その場に倒れ伏した。
半瞬後、紅葉とアクアマリンの残像が、前へ駆け抜ける勢いのまま交差する。
「「鎮静化!」」
素早く半回転して振り向いた二人の聖威師の声が、ピタリと唱和した。聖威が炸裂し、神器の破片が動きを止める。
「「正常化!!」」
赤と水色の閃光が走る。砕けた神器が寄り集まり、玉の形になると、ゴロンと大地に転がった。これが本来の形状なのだろう。神器は玉型が多いのだ。
『上出来だユフィー、頑張ったな』
『すごいじゃないかリーリア』
まだ油断はできないと、自身の武器を神器に向けて身構えていたアマーリエとリーリアは、そっと己の主神を見た。
「フレイム、もう大丈夫なの?」
「神器はきちんと鎮められましたでしょうか?」
『おう、バッチリだぜ!』
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