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第2章
74.真の神格
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◆◆◆
「戻りました」
フルードとアリステルが転移で現れる。
「お帰りなさい」
アマーリエは会釈して出迎えた。少し前にそろそろ戻れる、と念話が来たので、まだイチャイチャしたいとゴネるフレイムを宥めすかし、一時お預けをしてもらったところだ。
「想定より時間がかかってしまいました。申し訳ありません」
いつも通りの微笑みを見せるフルードの元に駆け寄ろうとしたが、つと足を止める。二人の大神官の側に、見知らぬ神がいたからだ。
年の頃は20代前半頃か。呼吸するのも忘れるほどに美しい青年の神だった。全身に戦慄が走るほど艶めかしく妖絶な美貌。完璧な均整を誇る長身痩躯。涅色の双眸と髪。陶器のような白肌。紅く濡れた唇。優美に動くたび、神衣に絡む生絹の領巾がふわりと揺らめく。
(……誰?)
神威を読んでみると、焦茶色がかった黒の気が視えた。色を帯びた御稜威を纏っているので、高位神だ。
――いや、違う。見知らぬ神ではない。よく見てみれば、どこか既視感がある。だが、以前にも会ったとすれば一体どこで。
アマーリエが首を傾げながら見つめていると、深い涅の眼がこちらに据えられた。
『燁神アマーリエ・ユフィー・サード。雫神リーリア・レアナ・アヴェント。葬邪神の神器をよくぞ鎮めた。そなたらの偉業、しかと我が胸に刻んでおこう』
蠱惑の美声が紡がれる。何かに弾かれたように一歩足を引いたアマーリエとリーリアは、床に両膝を付いて拝礼した。
「セイン――アリステルも、怪我はなかったか」
「パパさ……二人とも大丈夫?」
フレイムとフロースがレシス兄弟に近付いた。フルードを見て、何故か奥歯にものが挟まったような言い方をしている。
「はい、大丈夫です」
だが、フルードが静かに、そしてきっぱりと返すと、何も言わずに頷いた。
『私が側にいた。何の危険があろうものか』
青年神がうっすらと魔笑を浮かべて言う。
《アマーリエ様、あの大神様はどなたですの?》
《分からないわ……高位の神ということは間違いないけれど》
そそそと下がったアマーリエとリーリアは身を寄せ合い、青年神を横目にしながら念話で話す。どなた? どなた? と口パクで繰り返していると、当事者がそれに気が付いた。
『もしやそなたらは私が誰だか分からぬのか』
「「えっ!?」」
二人してギクリと硬直していると、青年神は上品な仕草で、神衣の袖をゆったりと口元に当てた。隠した唇は笑みを刻んでいるのだろう、艶を含んで向けられる流し目が緩く弧を描いている。そして、再び声を発した。
『ふふ、酷いなぁ君たち。先ほどまで僕と一緒にいたじゃないか。高貴なるこの僕の至尊の姿を見られたことを光栄に思うが良いよ』
飄々とした口調と軽薄な台詞回しの一部は、覚えがあるものだった。一瞬で回答が閃いたアマーリエは目を剥く。
「も、もしかしてラミルファ様ですか!?」
「ラ、ラミルファ? では邪神様ですの?」
アマーリエの脳裏に、アリステルが見せてくれた人形の一体が去来した。骸骨から変じた青年の人形だ。フルードを模した人形を宝玉と呼んで抱きしめていた。同時に既視感の正体を悟る。この神の容姿は、あの人形と似通っているのだ。
そして、人形を見た時、その髪と瞳に覚えがあった理由も分かった。フルードが纏う上衣が、そっくり同じ彩なのだ。
『あーそうか、神威の色も変わるから分かんねえのか。そうだよな、説明してなくてごめんな』
ポンと手を打ったフレイムが申し訳なさそうに頭をかき、フロースが解説してくれた。
『この方は、真の神格を解放した邪神様――つまり邪禍神様だよ。もっと細かく言うなら骸邪禍神様か。親神である禍神様と同じ権能と御稜威を持つ。涅色の神威は禍神の色だ』
ラミルファは父神から直に分かれ出た存在なので、親神と同じ色の神威を有する。
「ええと……つまり、フレイムが焔火神になるのと同じということですね」
『そう考えると一番スムーズかな』
邪神は仮の神格であり、真の神格はこちらの邪禍神の方なのだという。ということは、兄である一の邪神も真の神格は邪禍神だ。より細密には葬邪禍神になるので、そこでラミルファと区別するのだろう。
『ちなみに、大元の親神たち――普段は水神様とか火神様とか禍神様とか呼ばれている神々は、細分すれば原火神、原水神、原禍神になるんだよ』
選ばれし神が真の神格を出すことはそう無いので、普段は区別する存在がいない。ゆえに、常時の親神たちはただ水神、火神と呼ばれている。
狼神や運命神、時空神などは地水火風禍の最高神から寵愛されているが、正確に言えば、原地神、原水神、原火神、原風神、そして原禍神の五柱から寵を受けているということになる。
袖越しにクスクス笑っているラミルファに、フレイムとフロースが話しかけた。
『んで、その姿ってことは禍神様の神器はもう移管許可を出したのか?』
『ああ』
『私と焔神様も許可時には真性を出すべきかな?』
『随意にされよ』
『しっかし、相変わらずスカした形だなぁ』
『左様か』
真の神格を表出したラミルファは、あまり言葉を発さない。フレイムが冗談混じりに小突いても、薄笑いと共に流している。
今の自身は、紛うかたなき禍神として最高神の領域に到達した状態となっている。ならば、その一挙一足一動にはいかほどの重みがあるか。それを理解しているのだ。
フレイムがクルリと振り返ってアマーリエたちを見た。
『アリステルみたいな元人間を除けば、悪神のほとんどはまともじゃない姿をしてる。けど、選ばれし神である悪神の場合、真の神格を解放したら逆に美麗になるんだよ。醜悪を極めに極め尽くしたら一転して美になるっつーか』
「ええ、本当にお綺麗ね」
(フレイムの方が美形だけれど)
本心から同意しながらも、内心ではこっそりフレイム贔屓を発動する。
(狼神様も人型を取られた時は信じられないほど麗しいお姿になられるのよね。フルード様が前に自慢なさっていたわ)
選ばれし神の容姿は、全柱とも甲乙付け難いのだろう。ぼんやりとそう考えていると、フルードとアリステルが惚れ惚れする所作でフレイムとフロースの前に膝を付いた。
「戻りました」
フルードとアリステルが転移で現れる。
「お帰りなさい」
アマーリエは会釈して出迎えた。少し前にそろそろ戻れる、と念話が来たので、まだイチャイチャしたいとゴネるフレイムを宥めすかし、一時お預けをしてもらったところだ。
「想定より時間がかかってしまいました。申し訳ありません」
いつも通りの微笑みを見せるフルードの元に駆け寄ろうとしたが、つと足を止める。二人の大神官の側に、見知らぬ神がいたからだ。
年の頃は20代前半頃か。呼吸するのも忘れるほどに美しい青年の神だった。全身に戦慄が走るほど艶めかしく妖絶な美貌。完璧な均整を誇る長身痩躯。涅色の双眸と髪。陶器のような白肌。紅く濡れた唇。優美に動くたび、神衣に絡む生絹の領巾がふわりと揺らめく。
(……誰?)
神威を読んでみると、焦茶色がかった黒の気が視えた。色を帯びた御稜威を纏っているので、高位神だ。
――いや、違う。見知らぬ神ではない。よく見てみれば、どこか既視感がある。だが、以前にも会ったとすれば一体どこで。
アマーリエが首を傾げながら見つめていると、深い涅の眼がこちらに据えられた。
『燁神アマーリエ・ユフィー・サード。雫神リーリア・レアナ・アヴェント。葬邪神の神器をよくぞ鎮めた。そなたらの偉業、しかと我が胸に刻んでおこう』
蠱惑の美声が紡がれる。何かに弾かれたように一歩足を引いたアマーリエとリーリアは、床に両膝を付いて拝礼した。
「セイン――アリステルも、怪我はなかったか」
「パパさ……二人とも大丈夫?」
フレイムとフロースがレシス兄弟に近付いた。フルードを見て、何故か奥歯にものが挟まったような言い方をしている。
「はい、大丈夫です」
だが、フルードが静かに、そしてきっぱりと返すと、何も言わずに頷いた。
『私が側にいた。何の危険があろうものか』
青年神がうっすらと魔笑を浮かべて言う。
《アマーリエ様、あの大神様はどなたですの?》
《分からないわ……高位の神ということは間違いないけれど》
そそそと下がったアマーリエとリーリアは身を寄せ合い、青年神を横目にしながら念話で話す。どなた? どなた? と口パクで繰り返していると、当事者がそれに気が付いた。
『もしやそなたらは私が誰だか分からぬのか』
「「えっ!?」」
二人してギクリと硬直していると、青年神は上品な仕草で、神衣の袖をゆったりと口元に当てた。隠した唇は笑みを刻んでいるのだろう、艶を含んで向けられる流し目が緩く弧を描いている。そして、再び声を発した。
『ふふ、酷いなぁ君たち。先ほどまで僕と一緒にいたじゃないか。高貴なるこの僕の至尊の姿を見られたことを光栄に思うが良いよ』
飄々とした口調と軽薄な台詞回しの一部は、覚えがあるものだった。一瞬で回答が閃いたアマーリエは目を剥く。
「も、もしかしてラミルファ様ですか!?」
「ラ、ラミルファ? では邪神様ですの?」
アマーリエの脳裏に、アリステルが見せてくれた人形の一体が去来した。骸骨から変じた青年の人形だ。フルードを模した人形を宝玉と呼んで抱きしめていた。同時に既視感の正体を悟る。この神の容姿は、あの人形と似通っているのだ。
そして、人形を見た時、その髪と瞳に覚えがあった理由も分かった。フルードが纏う上衣が、そっくり同じ彩なのだ。
『あーそうか、神威の色も変わるから分かんねえのか。そうだよな、説明してなくてごめんな』
ポンと手を打ったフレイムが申し訳なさそうに頭をかき、フロースが解説してくれた。
『この方は、真の神格を解放した邪神様――つまり邪禍神様だよ。もっと細かく言うなら骸邪禍神様か。親神である禍神様と同じ権能と御稜威を持つ。涅色の神威は禍神の色だ』
ラミルファは父神から直に分かれ出た存在なので、親神と同じ色の神威を有する。
「ええと……つまり、フレイムが焔火神になるのと同じということですね」
『そう考えると一番スムーズかな』
邪神は仮の神格であり、真の神格はこちらの邪禍神の方なのだという。ということは、兄である一の邪神も真の神格は邪禍神だ。より細密には葬邪禍神になるので、そこでラミルファと区別するのだろう。
『ちなみに、大元の親神たち――普段は水神様とか火神様とか禍神様とか呼ばれている神々は、細分すれば原火神、原水神、原禍神になるんだよ』
選ばれし神が真の神格を出すことはそう無いので、普段は区別する存在がいない。ゆえに、常時の親神たちはただ水神、火神と呼ばれている。
狼神や運命神、時空神などは地水火風禍の最高神から寵愛されているが、正確に言えば、原地神、原水神、原火神、原風神、そして原禍神の五柱から寵を受けているということになる。
袖越しにクスクス笑っているラミルファに、フレイムとフロースが話しかけた。
『んで、その姿ってことは禍神様の神器はもう移管許可を出したのか?』
『ああ』
『私と焔神様も許可時には真性を出すべきかな?』
『随意にされよ』
『しっかし、相変わらずスカした形だなぁ』
『左様か』
真の神格を表出したラミルファは、あまり言葉を発さない。フレイムが冗談混じりに小突いても、薄笑いと共に流している。
今の自身は、紛うかたなき禍神として最高神の領域に到達した状態となっている。ならば、その一挙一足一動にはいかほどの重みがあるか。それを理解しているのだ。
フレイムがクルリと振り返ってアマーリエたちを見た。
『アリステルみたいな元人間を除けば、悪神のほとんどはまともじゃない姿をしてる。けど、選ばれし神である悪神の場合、真の神格を解放したら逆に美麗になるんだよ。醜悪を極めに極め尽くしたら一転して美になるっつーか』
「ええ、本当にお綺麗ね」
(フレイムの方が美形だけれど)
本心から同意しながらも、内心ではこっそりフレイム贔屓を発動する。
(狼神様も人型を取られた時は信じられないほど麗しいお姿になられるのよね。フルード様が前に自慢なさっていたわ)
選ばれし神の容姿は、全柱とも甲乙付け難いのだろう。ぼんやりとそう考えていると、フルードとアリステルが惚れ惚れする所作でフレイムとフロースの前に膝を付いた。
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