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第2章
90.水神の囁き
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フレイムは納得がいかないとばかりに口を開く。
「仮に俺が来なかった場合、どうやって場を収拾する気だったんだ。俺と神器が動かねえなら滞留書を奪う絶好の機会だが、お前はセインに手を出せねえだろ。ラミルファにそう約束してるんだからな」
「うん、滞留書に手を出すことは降臨してすぐに諦めたよ。邪神様がパパさんをがっちり守ってるから」
ラミルファは、宝玉を早く昇天させたいからとフロースを見逃すことはない。どこまでもフルードの心に寄り添う。今回の一連の件で彼が取った行動を見ても、そのことは明らかだった。
「それも含めてパパさんにはちゃんと説明して、今も今後も手荒なことはしないと明言して事を収めるつもりだった。今回は、焔神様の考えが分かればそれで良しにしようと思っていた」
答えたフロースは、これは父神からこっそり聞いた話なのだけど、と前置きして続ける。
「実は、強制帰還派まではいかない穏健派にも、神会議で滞留書の廃止を諮ろうとしている神々がいるらしい。神に寵を受けた者は即時に天に昇るべきで、聖威師という特異な状態になるのは好ましくないと言うんだ」
「そんな……」
フルードの表情が強張った。滞留書が廃止されれば、聖威師は地上にいられない。聖威師が消えれば、神器の暴走などに対応できる者がいなくなる。天威師は神相手にしか動けないからだ。そうなれば、地上は遠からず壊滅するだろう。
「滞留書の今後を決めるとすれば、高次会議での議論及び票決になる。それもあって、父神は焔神様の考えを知っておきたかったんだ」
「僕の考えは気にならないのかい?」
「邪神様はパパさんの意思を尊重して継続に入れる。けど、焔神様は分からなかったから確かめた」
普通に考えれば、大事な弟の意向に添うだろう。だが、アマーリエという愛し子を得た今、彼女を僅かな期間も手放したくないという衝動を優先させるかもしれなかった。
「なら直接俺に聞いてくれよ。そうすりゃセインを脅すような真似なんかしなくて良かっただろ」
「ごめん、焔神様、パパさん。だけど、口での回答と実際に取る動きが違うこともあるから。理性と感情は常に一致するわけではない。……今の行動を見て分かった。焔神様も邪神様と同じく、聖威師の側に立つんだね」
「ああ。俺はユフィーとセインの味方だ」
即答したフレイムは、ふと苦笑いした。
「それから――泡神様は一つ勘違いしてるぜ。俺が焔の神器の制御権と命令権を持ってると思ってるんだろ。それは違う」
「え?」
「焔の神器は、もう完全に独立した。今となっては俺の命令さえ聞かない。停止も含めた制御も無理だ。仮定の話、俺がお前を見逃すことにしても、神器はセインを守っていた。見ないフリをしろ、動くなと指示を出しても聞かねえだろうな。アレはそういう存在だ」
焔の神器は、フレイム自身であると同時に、別の自我を持つ別の神でもある。誰の支配下にも制御下にもない。
フロースが初めて本気で驚いた顔になった。
「そうなのか? ……本当にとんでもない超常神器だ」
思わずといった口調で呟き、軽く溜め息を吐き出す。
「……パパさんの滞留書に手出しできそうか試して欲しい。難しい場合は無理しなくて良い。それと並行して、聖威師の強制昇天について焔神様の意向を探って欲しい。父神からはそんな感じの依頼を受けた」
現在、力ずくで命を断ってでも還らせたい強硬派と、滞留書を破いて自ずと昇天以外の道を閉ざそうとする穏健派、そして聖威師の意向を汲んで滞留書を継続しようという尊重派が、ほぼ拮抗しているという。水神が密かに教えてくれた情報だ。だからこそ一柱の意向が重みを増す。なお、水神は強硬派寄りの穏健派である。
「そんなことだろうと思ってたぜ。見付かるかどうかも分からん愛し子を探したいなんて理由だけで、特別降臨の許可が下りるとは思えねえからな」
フレイムが納得した声音で頷いた。が、すぐに思い直したように続ける。
「いや、水神様なら6年前にお前とリーリアの間にあったことを知っててもおかしくねえか。お前に芽生えた想いも把握した上で、あの時の子を見初めて来いって意向で送り出したのかもしれねえ。滞留書をどうこうしろだの俺の動きを探れだのは、ちょうど良いから後付けただけだったのかもな」
「さあ? 父神の御深慮は私には分からない」
肩を竦めてかわしたフロースは、この場にいる全員を順繰りに見た。掴んでも消えてしまう泡のような微笑を浮かべ、父神との交信で伝えられた言葉を思い出す。
――そんなに気負わなくても良い。内気で引っ込み思案のお前が、全部を上手くできるとは思っていないから
――そうか、やはり末の邪神が降臨したか。では手はず通り、焔神だけでなく邪神にも頼っておくれ。あの二柱はとても優しい同胞想いの子たちだ。不安がっているお前のために心を砕き、世話をしてくれるだろう
――だから、フロース。お前はただ、数日間だけ焔神と邪神の注意を引き付けておいてくれれば、それだけで良いんだよ。それが最優先だ。他の頼み事は忘れても良い。後は、邪神がフルードのために神官府を探ろうとしていたら上手く阻害するとか。そうすれば、その間に、動くべきが動いて、私たちの真の目的が果たされるから
「仮に俺が来なかった場合、どうやって場を収拾する気だったんだ。俺と神器が動かねえなら滞留書を奪う絶好の機会だが、お前はセインに手を出せねえだろ。ラミルファにそう約束してるんだからな」
「うん、滞留書に手を出すことは降臨してすぐに諦めたよ。邪神様がパパさんをがっちり守ってるから」
ラミルファは、宝玉を早く昇天させたいからとフロースを見逃すことはない。どこまでもフルードの心に寄り添う。今回の一連の件で彼が取った行動を見ても、そのことは明らかだった。
「それも含めてパパさんにはちゃんと説明して、今も今後も手荒なことはしないと明言して事を収めるつもりだった。今回は、焔神様の考えが分かればそれで良しにしようと思っていた」
答えたフロースは、これは父神からこっそり聞いた話なのだけど、と前置きして続ける。
「実は、強制帰還派まではいかない穏健派にも、神会議で滞留書の廃止を諮ろうとしている神々がいるらしい。神に寵を受けた者は即時に天に昇るべきで、聖威師という特異な状態になるのは好ましくないと言うんだ」
「そんな……」
フルードの表情が強張った。滞留書が廃止されれば、聖威師は地上にいられない。聖威師が消えれば、神器の暴走などに対応できる者がいなくなる。天威師は神相手にしか動けないからだ。そうなれば、地上は遠からず壊滅するだろう。
「滞留書の今後を決めるとすれば、高次会議での議論及び票決になる。それもあって、父神は焔神様の考えを知っておきたかったんだ」
「僕の考えは気にならないのかい?」
「邪神様はパパさんの意思を尊重して継続に入れる。けど、焔神様は分からなかったから確かめた」
普通に考えれば、大事な弟の意向に添うだろう。だが、アマーリエという愛し子を得た今、彼女を僅かな期間も手放したくないという衝動を優先させるかもしれなかった。
「なら直接俺に聞いてくれよ。そうすりゃセインを脅すような真似なんかしなくて良かっただろ」
「ごめん、焔神様、パパさん。だけど、口での回答と実際に取る動きが違うこともあるから。理性と感情は常に一致するわけではない。……今の行動を見て分かった。焔神様も邪神様と同じく、聖威師の側に立つんだね」
「ああ。俺はユフィーとセインの味方だ」
即答したフレイムは、ふと苦笑いした。
「それから――泡神様は一つ勘違いしてるぜ。俺が焔の神器の制御権と命令権を持ってると思ってるんだろ。それは違う」
「え?」
「焔の神器は、もう完全に独立した。今となっては俺の命令さえ聞かない。停止も含めた制御も無理だ。仮定の話、俺がお前を見逃すことにしても、神器はセインを守っていた。見ないフリをしろ、動くなと指示を出しても聞かねえだろうな。アレはそういう存在だ」
焔の神器は、フレイム自身であると同時に、別の自我を持つ別の神でもある。誰の支配下にも制御下にもない。
フロースが初めて本気で驚いた顔になった。
「そうなのか? ……本当にとんでもない超常神器だ」
思わずといった口調で呟き、軽く溜め息を吐き出す。
「……パパさんの滞留書に手出しできそうか試して欲しい。難しい場合は無理しなくて良い。それと並行して、聖威師の強制昇天について焔神様の意向を探って欲しい。父神からはそんな感じの依頼を受けた」
現在、力ずくで命を断ってでも還らせたい強硬派と、滞留書を破いて自ずと昇天以外の道を閉ざそうとする穏健派、そして聖威師の意向を汲んで滞留書を継続しようという尊重派が、ほぼ拮抗しているという。水神が密かに教えてくれた情報だ。だからこそ一柱の意向が重みを増す。なお、水神は強硬派寄りの穏健派である。
「そんなことだろうと思ってたぜ。見付かるかどうかも分からん愛し子を探したいなんて理由だけで、特別降臨の許可が下りるとは思えねえからな」
フレイムが納得した声音で頷いた。が、すぐに思い直したように続ける。
「いや、水神様なら6年前にお前とリーリアの間にあったことを知っててもおかしくねえか。お前に芽生えた想いも把握した上で、あの時の子を見初めて来いって意向で送り出したのかもしれねえ。滞留書をどうこうしろだの俺の動きを探れだのは、ちょうど良いから後付けただけだったのかもな」
「さあ? 父神の御深慮は私には分からない」
肩を竦めてかわしたフロースは、この場にいる全員を順繰りに見た。掴んでも消えてしまう泡のような微笑を浮かべ、父神との交信で伝えられた言葉を思い出す。
――そんなに気負わなくても良い。内気で引っ込み思案のお前が、全部を上手くできるとは思っていないから
――そうか、やはり末の邪神が降臨したか。では手はず通り、焔神だけでなく邪神にも頼っておくれ。あの二柱はとても優しい同胞想いの子たちだ。不安がっているお前のために心を砕き、世話をしてくれるだろう
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