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第2章
89.確かめたかったこと
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フレイムが表情を変え、ラミルファが口端を上げた。
「今までは、神々の一部が眠っているからと後回しにされて来た案件が、一気に話し合われるだろう。上位となる高次会議で発言権と議決権を持つのは、高位神たる色持ちの神のみ。現役の聖威師たちは、全員がそれに該当する」
「……票決に参加できる貴重な一握りの神なんだから、とっとと還って来るべきってことか」
「うん。父神によると、強硬派の神々の中には、力ずくで強制昇天させると言い出す者たちも出ているらしい」
神格を押し秘めている聖威師たちは、天の神の命令に逆らえない。ゆえに、神命を下して否応なく還らせようと主張する神もいるそうだ。とはいえ、ただ命令するだけでは聖威師たちも抵抗するだろう。自身の主神に命令を撤回してもらえるよう懇願するかもしれない。
ならば、力ずくで息の根を止めた方が確実だ。回避策を考じる間を与えず命を絶ってしまえば、聖威師は天に還るしかない。
「そういやそんな神もいたな。だが、当代の聖威師たちは、神格を押さえているとはいえ色持ちの神だ。しかも数が多い。数名を襲ってる間に、残りに逃げられて全力で警戒されるかもって話になってたはずだぜ」
かつての記憶を遡るように、虚空に視線を投げたフレイムが言った。
「少なくとも、セインをどうこうするのは無理だってのは満場一致の見解だった。俺に……俺の神器に守られてて、ラミルファの髪で織った上衣まで着込んでる。手にかけるのは不可能ってことで、その案は立ち消えになった気がするが」
「そこで私の出番だよ。普通にパパさんに手を出そうとしたら、速攻で焔の神器に撃退される。邪神様が授けた鎧にも阻まれるだろう。だけど、私ならそういうのをすり抜けて、パパさんの懐に入りやすいからって」
「なるほど……超絶ビビりな泡神様なら、単独で降臨したから不安だの怖いだの言ってピーピー泣きながらへばり付けるか。確かに至近距離まで接近できるな」
フレイムの完全複製である焔の神器も、天界一といえるフロースの臆病さを知っている。彼の神器に警戒されず懐に潜り込めさえすれば、上衣の内側にしまい込まれている滞留書へと一気に近付ける。
「だけど、降臨した邪神様が鉄壁のガードを敷いていたから、滞留書に手を出すのは無理だと早い段階で分かったよ。パパさんに少し近付こうとしただけで止められてしまった。接近は阻まれるし、邸に泊まることも阻止されたし」
もし都合が合えばで良いので、フルードの様子を近くで見守ってくれ。一の邪神と狼神からそう頼まれていたフロース。それとは別に、水神からの指示を果たそうという思惑もあった。フルードの気が緩みやすい自邸内でならば、近付くことはより容易くなるからだ。運が良ければ、上衣も脱いでくれるかもしれない。
だが、常時フルードにへばり付いていたラミルファが、フロースに必要以上の接触をさせなかった。
「当然だ。あの時のセインがどれだけ追い詰められていたか。心安らぐ場である自邸にまで押しかけて、神の世話を強いらせるなど問題外だ。この子の精神的負担になる者は、誰であろうと近付けない」
邪神がきっぱりと言い切る。いつもの人を食ったような微笑の下に、苛烈なまでの意思が潜んでいた。フロースが細い眉を下げて苦笑いした。
「邪神様がいる限り、パパさんには指一本触れられないと痛感したよ」
フレイムが腕組みして目を眇めた。
「ならあれか。さっき、もはや隠そうともせず滞留書を出せと迫ったのは、こっそり懐に入るのは無理だと思って開き直ったのか?」
「それは違うよ。あなたの出方を見たかったんだ、焔神様。あなたがここでパパさんを助けに来るか確かめたかった」
リーリアが聖威師になった直後から、フルードの体調は悪化の一途を辿り始めた。加えて、追い討ちをかけるようにガルーンの一件まで起こったのだ。弟を案じるフレイムは、常に遠視で様子を見守っている。
「そんなモンすっ飛んで来るに決まってんだろ。何言ってんだ? つか、どういうことだ?」
「……私はレアナを得て初めて、主神の気持ちが理解できた。愛し子とは離れたくない、絶対に」
「そりゃそうだな」
「あなたも主神の一柱だ。聖威師を、つまりアマーリエを天に還してしまいたいという方に心が揺らいでいたら、私を見逃すと思った。そうすれば、焔の神器も連動して停止するか、動きが鈍くなると思ったんだ」
山吹色が胡乱な気を纏い、きっちり二回瞬きする。
「それは分かんねえだろ。俺が来なかったとしても、お前を見逃すつもりじゃなくて、ラミルファや神器がいるから大丈夫だとタカをくくってるだけかもしれねえし」
「だからこそ、邪神様に先に事情を話して協力してもらったんだ。パパさんを助けないでただ見ていて欲しいと。邪神様が動かなければ、焔神様か神器が助けるしかないだろう。もし私を見過ごすなら、見ないフリをして神器も一時停止させると思った」
「…………」
「逆に、焔神様が来るか焔の神器が動いた場合は、聖威師を強制昇天させる気はないということになる」
「結果は後者が当たったわけだ。フレイムは超速で駆け付けたからね」
細い肩を小さく震わせ、邪神がクスクスと笑った。
「今までは、神々の一部が眠っているからと後回しにされて来た案件が、一気に話し合われるだろう。上位となる高次会議で発言権と議決権を持つのは、高位神たる色持ちの神のみ。現役の聖威師たちは、全員がそれに該当する」
「……票決に参加できる貴重な一握りの神なんだから、とっとと還って来るべきってことか」
「うん。父神によると、強硬派の神々の中には、力ずくで強制昇天させると言い出す者たちも出ているらしい」
神格を押し秘めている聖威師たちは、天の神の命令に逆らえない。ゆえに、神命を下して否応なく還らせようと主張する神もいるそうだ。とはいえ、ただ命令するだけでは聖威師たちも抵抗するだろう。自身の主神に命令を撤回してもらえるよう懇願するかもしれない。
ならば、力ずくで息の根を止めた方が確実だ。回避策を考じる間を与えず命を絶ってしまえば、聖威師は天に還るしかない。
「そういやそんな神もいたな。だが、当代の聖威師たちは、神格を押さえているとはいえ色持ちの神だ。しかも数が多い。数名を襲ってる間に、残りに逃げられて全力で警戒されるかもって話になってたはずだぜ」
かつての記憶を遡るように、虚空に視線を投げたフレイムが言った。
「少なくとも、セインをどうこうするのは無理だってのは満場一致の見解だった。俺に……俺の神器に守られてて、ラミルファの髪で織った上衣まで着込んでる。手にかけるのは不可能ってことで、その案は立ち消えになった気がするが」
「そこで私の出番だよ。普通にパパさんに手を出そうとしたら、速攻で焔の神器に撃退される。邪神様が授けた鎧にも阻まれるだろう。だけど、私ならそういうのをすり抜けて、パパさんの懐に入りやすいからって」
「なるほど……超絶ビビりな泡神様なら、単独で降臨したから不安だの怖いだの言ってピーピー泣きながらへばり付けるか。確かに至近距離まで接近できるな」
フレイムの完全複製である焔の神器も、天界一といえるフロースの臆病さを知っている。彼の神器に警戒されず懐に潜り込めさえすれば、上衣の内側にしまい込まれている滞留書へと一気に近付ける。
「だけど、降臨した邪神様が鉄壁のガードを敷いていたから、滞留書に手を出すのは無理だと早い段階で分かったよ。パパさんに少し近付こうとしただけで止められてしまった。接近は阻まれるし、邸に泊まることも阻止されたし」
もし都合が合えばで良いので、フルードの様子を近くで見守ってくれ。一の邪神と狼神からそう頼まれていたフロース。それとは別に、水神からの指示を果たそうという思惑もあった。フルードの気が緩みやすい自邸内でならば、近付くことはより容易くなるからだ。運が良ければ、上衣も脱いでくれるかもしれない。
だが、常時フルードにへばり付いていたラミルファが、フロースに必要以上の接触をさせなかった。
「当然だ。あの時のセインがどれだけ追い詰められていたか。心安らぐ場である自邸にまで押しかけて、神の世話を強いらせるなど問題外だ。この子の精神的負担になる者は、誰であろうと近付けない」
邪神がきっぱりと言い切る。いつもの人を食ったような微笑の下に、苛烈なまでの意思が潜んでいた。フロースが細い眉を下げて苦笑いした。
「邪神様がいる限り、パパさんには指一本触れられないと痛感したよ」
フレイムが腕組みして目を眇めた。
「ならあれか。さっき、もはや隠そうともせず滞留書を出せと迫ったのは、こっそり懐に入るのは無理だと思って開き直ったのか?」
「それは違うよ。あなたの出方を見たかったんだ、焔神様。あなたがここでパパさんを助けに来るか確かめたかった」
リーリアが聖威師になった直後から、フルードの体調は悪化の一途を辿り始めた。加えて、追い討ちをかけるようにガルーンの一件まで起こったのだ。弟を案じるフレイムは、常に遠視で様子を見守っている。
「そんなモンすっ飛んで来るに決まってんだろ。何言ってんだ? つか、どういうことだ?」
「……私はレアナを得て初めて、主神の気持ちが理解できた。愛し子とは離れたくない、絶対に」
「そりゃそうだな」
「あなたも主神の一柱だ。聖威師を、つまりアマーリエを天に還してしまいたいという方に心が揺らいでいたら、私を見逃すと思った。そうすれば、焔の神器も連動して停止するか、動きが鈍くなると思ったんだ」
山吹色が胡乱な気を纏い、きっちり二回瞬きする。
「それは分かんねえだろ。俺が来なかったとしても、お前を見逃すつもりじゃなくて、ラミルファや神器がいるから大丈夫だとタカをくくってるだけかもしれねえし」
「だからこそ、邪神様に先に事情を話して協力してもらったんだ。パパさんを助けないでただ見ていて欲しいと。邪神様が動かなければ、焔神様か神器が助けるしかないだろう。もし私を見過ごすなら、見ないフリをして神器も一時停止させると思った」
「…………」
「逆に、焔神様が来るか焔の神器が動いた場合は、聖威師を強制昇天させる気はないということになる」
「結果は後者が当たったわけだ。フレイムは超速で駆け付けたからね」
細い肩を小さく震わせ、邪神がクスクスと笑った。
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