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第3章
30.大神官は怒る
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◆◆◆
《滞留書の件、大雑把にだが全容的なモンが分かったぜ》
熱を帯びた空気に冷や水をかけて冷ますように、フレイムから念話が入る。
「「「…………!」」」
すっかり話に夢中になっていたフルードとアリステル、自分の知らないフレイムを知ることができるのが嬉しくて聞き入っていたアマーリエは、そろって我に返る。何故かずっと心ここにあらずの状態であったラミルファもだ。
《ありがとうございます、焔神様。話をお聞かせ願えますか?》
即座に仕事モードの笑みを貼り付けたフルードが告げる。
《おう。つか、何か声が元気になったな、お前。落ち込んでなくて良かったぜ。俺の方は何かさっきからくしゃみが出るんだが、何かもらって来たのかなぁ》
冗談混じりに言うフレイムに、フルードは笑顔のまま固まった。あなたの思い出話をしまくっていたので、そのせいじゃないですかね――とは言えないようだ。
《……そ、そうですか。お大事に》
《ま、神は馬鹿でも賢くても風邪なんか引かねえんだけどな。……で、本件だが》
さらりと流し、フレイムは天界で見聞きしたことを話し始めた。現在、聖威師を巡って強硬派と穏健派、そして尊重派が拮抗していることも含めてだ。
《……ってことで、滞留書に細工したのは水神様だ。正確には、滞留書を入れてある箱の結界をこっそり無効化して、原紙を出しちまったんだな》
言いながら、フルードへのフォローも忘れない。
《セイン、お前のことを知り尽くしてる主神が直々に動いて工作してたんだ。しかも天界随一の経験値を持つ最古神が。だったら首尾よく目を眩まされるのは当然だ。相手が悪すぎる。滞留書の異変に気付けなかったのはお前のせいじゃねえ。分かったな》
《……ありがとうございます》
若干沈んだ声ながら、フルードが返した。聞いていたラミルファが苦笑する。
《やはりそうか。狼神様の落ち着きようがおかしいと思っていた。僕はわざと地上に行くよう仕向けられたのだな》
都合よく利用されたというのに、愉快そうな表情から憤りは感じられない。
《それにしても、二の兄上が起きる、か。とにかく遊び好きな神だと聞いている。だが、理性がないわけではなく同胞のことは何より大切に想っているから、向こうが聞く気になってくれさえすれば話はできるそうだ》
《お前もその暴れ神と面識はないのか?》
《ない。以前、一の兄上が夢を経由して会わせようとしてくれたが、向こうが一の兄上の気配を感じた瞬間に接触を拒絶したようなのだよ》
どうやら葬邪神とはあまり仲がよろしくないらしい。元々そうなのか、一時的に仲違い中なのかと思いながら、アマーリエは情報を整理する。
《つまり、フレイムとラミルファ様は尊重派で、しかもフルード様と深い繋がりを持っているから……原紙の細工に気付かれないよう、地上に行かせて神威を抑えさせたということですね》
フレイムは元から特別降臨していたので、そのままで良い。後はラミルファを降ろすだけだ。この二神は、水神たちの計画を知ればフルードやアマーリエに教えてしまうので、天界にいて欲しくなかったのだ。
《そういうことだな。さっき、リーリアに念話して泡神様の説得を頼んだ。速攻で快諾してくれたぜ。今、泡神様と一緒にいるが、さっそく泣き落としにかかられてるらしくて焦ってやがる。これで多分攻略できるし、息子が頼めば水神様も揺れるだろ》
そこで押せば何とかなるかもしれねえと言うフレイムに、フルードが言葉を挟んだ。
《ですが、焔神様。アマーリエも私の側で起こる異変に気が付く可能性があったのですか? アリステルなら分かります。彼は私と同じで、呪われていますから》
刹那だけ暗い陰を宿した美貌は、すぐに平静さを取り戻した。
《しかし、アマーリエは違うでしょう。確かに、大神官補佐として最も私の近くにいた者ではありますが……》
聖威師は一人一人に邸を与えられるため、フルードは妻子とは別に居を構えている。ゆえに、家族よりも補佐であり指導対象であるアマーリエと多くの時を共にしていた。
《だからと言って、わざわざオーブリーを利用してまで意識を逸らそうとするなどあんまりです。オーブリーの件では、アマーリエもとても傷付きました》
優しい青が苦渋の色を宿して伏せられる。
《アマーリエが私の近くで起こる変事に気付くことは難しかったはず。大きな異変ではなく、ほんの僅かな……私自身ですら見逃してしまいかねない些少な違和感だったなら尚更です》
オーブリーは帝都入りする前にさっさと懲罰を食らわせてしまえば良かった。フレイムは、ガルーンが聖威師になった報を流してフルードのことを心配させ、そちらで注意を引き付けておくこともできたはずだ。
アマーリエにあのような思いをさせてまで思考を遮断する必要など無かっただろうと、優しい瞳が訴えている。
《オーブリーの事には、波神様も深く関わってただろ。似非聖威師たちの騒動では、幾柱もの神々の事情と思惑が、複雑に入り組んでいた。だから、どのみちあのタイミングでの懲罰になっていたのかもしれねえ》
フレイムが落ち着かせるように穏やかな声音で言うが、フルードは厳しい顔付きを崩さない。
《だとしても、過度に不安にさせるあの方法はやりすぎだったと思います。狼神様のことは心よりお慕いしておりますが、本件に関しては是が非でもアマーリエに謝罪していただかなくては》
《い、いえ、私は良いですから。謝罪なら以前お会いした際にしていただいているので、それで十分です》
《ですが……》
慌てて手を振るアマーリエと、眉を顰めるフルードの耳に、ポツンとフレイムの呟きが滑り込んだ。
《ユフィーが気付けないっていうその前提が違うんだぜ》
《滞留書の件、大雑把にだが全容的なモンが分かったぜ》
熱を帯びた空気に冷や水をかけて冷ますように、フレイムから念話が入る。
「「「…………!」」」
すっかり話に夢中になっていたフルードとアリステル、自分の知らないフレイムを知ることができるのが嬉しくて聞き入っていたアマーリエは、そろって我に返る。何故かずっと心ここにあらずの状態であったラミルファもだ。
《ありがとうございます、焔神様。話をお聞かせ願えますか?》
即座に仕事モードの笑みを貼り付けたフルードが告げる。
《おう。つか、何か声が元気になったな、お前。落ち込んでなくて良かったぜ。俺の方は何かさっきからくしゃみが出るんだが、何かもらって来たのかなぁ》
冗談混じりに言うフレイムに、フルードは笑顔のまま固まった。あなたの思い出話をしまくっていたので、そのせいじゃないですかね――とは言えないようだ。
《……そ、そうですか。お大事に》
《ま、神は馬鹿でも賢くても風邪なんか引かねえんだけどな。……で、本件だが》
さらりと流し、フレイムは天界で見聞きしたことを話し始めた。現在、聖威師を巡って強硬派と穏健派、そして尊重派が拮抗していることも含めてだ。
《……ってことで、滞留書に細工したのは水神様だ。正確には、滞留書を入れてある箱の結界をこっそり無効化して、原紙を出しちまったんだな》
言いながら、フルードへのフォローも忘れない。
《セイン、お前のことを知り尽くしてる主神が直々に動いて工作してたんだ。しかも天界随一の経験値を持つ最古神が。だったら首尾よく目を眩まされるのは当然だ。相手が悪すぎる。滞留書の異変に気付けなかったのはお前のせいじゃねえ。分かったな》
《……ありがとうございます》
若干沈んだ声ながら、フルードが返した。聞いていたラミルファが苦笑する。
《やはりそうか。狼神様の落ち着きようがおかしいと思っていた。僕はわざと地上に行くよう仕向けられたのだな》
都合よく利用されたというのに、愉快そうな表情から憤りは感じられない。
《それにしても、二の兄上が起きる、か。とにかく遊び好きな神だと聞いている。だが、理性がないわけではなく同胞のことは何より大切に想っているから、向こうが聞く気になってくれさえすれば話はできるそうだ》
《お前もその暴れ神と面識はないのか?》
《ない。以前、一の兄上が夢を経由して会わせようとしてくれたが、向こうが一の兄上の気配を感じた瞬間に接触を拒絶したようなのだよ》
どうやら葬邪神とはあまり仲がよろしくないらしい。元々そうなのか、一時的に仲違い中なのかと思いながら、アマーリエは情報を整理する。
《つまり、フレイムとラミルファ様は尊重派で、しかもフルード様と深い繋がりを持っているから……原紙の細工に気付かれないよう、地上に行かせて神威を抑えさせたということですね》
フレイムは元から特別降臨していたので、そのままで良い。後はラミルファを降ろすだけだ。この二神は、水神たちの計画を知ればフルードやアマーリエに教えてしまうので、天界にいて欲しくなかったのだ。
《そういうことだな。さっき、リーリアに念話して泡神様の説得を頼んだ。速攻で快諾してくれたぜ。今、泡神様と一緒にいるが、さっそく泣き落としにかかられてるらしくて焦ってやがる。これで多分攻略できるし、息子が頼めば水神様も揺れるだろ》
そこで押せば何とかなるかもしれねえと言うフレイムに、フルードが言葉を挟んだ。
《ですが、焔神様。アマーリエも私の側で起こる異変に気が付く可能性があったのですか? アリステルなら分かります。彼は私と同じで、呪われていますから》
刹那だけ暗い陰を宿した美貌は、すぐに平静さを取り戻した。
《しかし、アマーリエは違うでしょう。確かに、大神官補佐として最も私の近くにいた者ではありますが……》
聖威師は一人一人に邸を与えられるため、フルードは妻子とは別に居を構えている。ゆえに、家族よりも補佐であり指導対象であるアマーリエと多くの時を共にしていた。
《だからと言って、わざわざオーブリーを利用してまで意識を逸らそうとするなどあんまりです。オーブリーの件では、アマーリエもとても傷付きました》
優しい青が苦渋の色を宿して伏せられる。
《アマーリエが私の近くで起こる変事に気付くことは難しかったはず。大きな異変ではなく、ほんの僅かな……私自身ですら見逃してしまいかねない些少な違和感だったなら尚更です》
オーブリーは帝都入りする前にさっさと懲罰を食らわせてしまえば良かった。フレイムは、ガルーンが聖威師になった報を流してフルードのことを心配させ、そちらで注意を引き付けておくこともできたはずだ。
アマーリエにあのような思いをさせてまで思考を遮断する必要など無かっただろうと、優しい瞳が訴えている。
《オーブリーの事には、波神様も深く関わってただろ。似非聖威師たちの騒動では、幾柱もの神々の事情と思惑が、複雑に入り組んでいた。だから、どのみちあのタイミングでの懲罰になっていたのかもしれねえ》
フレイムが落ち着かせるように穏やかな声音で言うが、フルードは厳しい顔付きを崩さない。
《だとしても、過度に不安にさせるあの方法はやりすぎだったと思います。狼神様のことは心よりお慕いしておりますが、本件に関しては是が非でもアマーリエに謝罪していただかなくては》
《い、いえ、私は良いですから。謝罪なら以前お会いした際にしていただいているので、それで十分です》
《ですが……》
慌てて手を振るアマーリエと、眉を顰めるフルードの耳に、ポツンとフレイムの呟きが滑り込んだ。
《ユフィーが気付けないっていうその前提が違うんだぜ》
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