神様に嫌われた神官でしたが、高位神に愛されました

土広真丘

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第3章

63.大神官の返礼

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「お姉様、私たちが受けます!」
「あなたは急いで署名をなさい、もう朝日が出てしまうわ!」
「は、はい!」

 ルルアージュと恵奈の声に押され、アマーリエはペンを持った。近くの石柱をボード代わりに、紙にペン先を走らせる。

「年齢が若い者から書くのだよ。まだ寿命がたくさん残っているのだから!」
「私やオーネリア様の名前は最後にしなさい!」

 聖威師たちが神威を受け止めるために一斉に虚空へと舞い上がり、当波と佳良が声を飛ばす。

「ですが、私とアリステルの余命は……」

 そう告げかけたフルードが、チラと自身の子どもたちを見る。逡巡するように言葉を止めた隙間を縫い、ライナスがきっぱりと言った。

「焔の神器を有するフルードと、奇跡の聖威師であるアリステルには、一日でも長くいてもらった方が良い。アマーリエ、年齢順に書け」
「はい!」

 アマーリエは白雪の用紙を見据え、まずはルルアージュとランドルフのフルネームを書く。恵奈と当真の子どもたちの名前も。なお、ラモスとディモスは主たるアマーリエと一連托生の滞留という特別規定になっているため、アマーリエの名を書けば芋づる式に二頭の滞留も延長される。
 透けるほどに薄い紙は、鋭いペン先を走らせても全く傷む様子を見せない。記入した名前は、一瞬だけ五色の鱗粉を放って煌めくと、すぐに溶け消えるように用紙の中に吸い込まれて消えていく。

(次は私とリーリア様ね。それからアシュトン様たち……)

 いつもであれば頼もしく思う聖威師の数の多さが、今この時だけは恨めしい。

(駄目だわ、何人か間に合わない。日が出てしまうわ……!)

 地平線の彼方から陽光が昇り来る兆しを感じ、絶望的な思いを抱きながら必死でペンを動かす。と、虹色を帯びた紅の力が迸り、今にも頭を出しかけていた太陽が動きを止めた。

《はいはーい、朝日さんにはおはようをちょっと待ってもらってまーす!》
《日香が太陽を抑えてくれている。アマーリエ、急ぎながら落ち着いて一字一字はっきり書くのだ》

 日香と秀峰の声が弾けた。まだ念話を繋いでいたため、アマーリエが脳内で強く考えたことの一部が伝わっており、こちらの概況を把握したのだろう。

《た、太陽に干渉するのって有りなのですか? 天威師の制約的な面で……》
《へへ、ほんとは無しだよ。でも、自分が司ってるものへの干渉制限はちょっとだけ緩いから、そこを突いてるの~》
《とはいえ、あまり長く留めておくことはできぬ。祖神から警告を食らってしまう。ゆえにアマーリエ、急ぎつつも落ち着いて更新しろ。私たちも援護する》

 秀峰の言葉を皮切りに、天威師たちが上空を翔け、聖威師と共に神威を受け始めた。目が合うと、頑張れという感情を乗せた視線を送られる。それに励まされ、アマーリエは次々に署名を書き込んでいった。ペンを滑らせるたび、赤青黄緑涅の五光の粉が弾けて消える。

(な、何とかいけるかも……!)

 フルードが降下し、主神の前へと降り立った。

「狼神様。神々より祝意をいただいた以上、お返しをしなくてはなりません。私を天の近くまで連れて行っていただけませんか?」
『……一応言っておくが、聖威師が天に弓引くことはならぬぞ、セイン』
「滅相もない、ただ返礼をお届けするだけです。何なら、弓ではなく槍にいたしましょうか」
『いや、そういうことではなくてだな……まあ良い、お乗り』

 身を伏せて背を差し出した狼神の背に、フルードがひらりと飛び乗る。空色がかった灰銀の巨躯が高速で天空へと翔け昇った。

「大いなる神々に申し上げます。我ら一同、天よりの神恩をしかとお受け取りいたしました」

 フサフサした毛並みの上に危なげなく片膝を付き、大神官は破顔して言い放つ。神官衣の袖を美しく捌いて右腕を掲げると、紅蓮の火柱が迸る。瞬く間に長大な槍と化した灼熱を掌中で華麗に水平回転させれば、鮮やかな飛び火が踊った。

「この度の神々の御高配に、心より感謝申し上げます」

 にこりと口元を緩める大神官は、しかし、目の奥が全く笑っていない。


 ――あんたら、ええ加減にせんかい


 そんな本音を鉄壁の笑顔で押し隠している。

 狼神がさらに速度を上げた。流星が翔けるように蒼天を旋回し、肢体を一回転させる。愛し子の気を散らそうとしたのかもしれないが、フルードは動じなかった。些かもバランスを崩すことのないまま仁王立ちになると、燃える槍を頭上に掲げてやや引き気味に構える。

「こちらは返礼です。どうかお受け取り下さい」

 豪快に投擲された炎槍が、凄まじい神威と共に一直線に空を灼く。そして、次元の壁を超えながら天の奥へと吸い込まれていった。

 人間が住む世界とは次元を隔てた階層にある天界を神炎が駆け抜け、爆光が炸裂した。

『『「「…………………」」』』

 無音の時が流れた。無我夢中で書いているアマーリエを除けば、全員が硬直している。静まり返った場に、ペンを走らせるカリカリという音だけが響く。同時に、降り注いでいた神威がピタリと止んだ。
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