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第4章
45.消えない傷
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「邪神様で思い出しました」
そこに、何故かフルードまで転移して来ると、アマーリエに手を伸ばす。
「すみません、失礼します」
簡潔に断りを入れ、髪からバレッタを外した。そして、砕けた窓越しに、聞き取り室にいるアリステルにそれを放る。
「邪神様がアマーリエの守護用にと創られた玉が入っています。これも使いましょう!」
「分かった」
打てば響くようにバレッタをキャッチしたアリステルが、自身の聖威を注ぎ込んだ。赤黄色と紫烏色、二つの力が螺旋を描く。だが、霧と短杖のように互いを打ち消し合うのではなく高め合う形で聖威を注入しているため、両者の力が相殺されることはない。
それほど時間はかからず、アリステルはバレッタをアマーリエに投げ返した。
「私の聖威を玉に注ぎ、元々込められていた骸邪神様の神威と同調させて大幅に増幅した。これなら神罰を抑えられる」
「ありがとうございます!」
アマーリエはすぐさまエイリーの元に走った。霧がまたも牙を剥こうとするが、短杖と拮抗した状態にあるので動けない。
(どうかこれで助かって!)
祈る思いで、エイリーの髪にバレッタを装着する。赤黄色の光を帯びた紫烏色の聖威が、霧と、その奥にある神罰の因子自体を抑え込んでいった。霧が晴れ、短杖が床に転がり落ちる。黒霧が消えたことで露わになったエイリーの髪は、真っ白に染まっていた。
「ユフィー、いったん下がれ」
フレイムの指示に従って後退し、彼と葬邪神が見守る中で、短杖を再び結界で包む。それから息を詰めて様子を窺ったが、霧が再び暴れることはなかった。何とか神罰そのものを抑えることができたようだ。
「上手くいったみたいじゃねえか」
フレイムが肩の力を抜き、ポンとアマーリエの背を撫でてくれる。
「ああ、良かった……」
安堵のあまり床にへたり込みそうになるが、再び横抱きにされて聞き取り室に運ばれる。
「ま、頑張ったんじゃねーの? エイリーも助かってめでたしめでたしなんだぜ」
「ちっともめでたくないがね」
額に青筋を立てて腕組みするラミルファが、笑顔で仁王立ちしていた。
「アマーリエ、セイン、ヴェーゼ。君たちときたらまぁ次から次へと、僕の物を勝手に使って……本当に全く」
言いながら片腕を上げ、アマーリエを下ろしたフレイムの右頬をつねる。
「いてて、何すんだ! わざわざ神威込めてつねりやがって、痛いだろ!」
「当たり前だろう、痛くしているのだから。アマーリエたちをつねるのは可哀想だから、お仕置きは君に受けてもらうよ」
プンスカした顔で言うが、それで手打ちにする当たり、言うほど怒ってはいないようだ。
「ラミルファ様、勝手に申し訳ありませんでした」
フレイムの腕から降り、アマーリエは深く頭を下げる。聞き取り室に戻って来たフルードとアリステルもだ。途端にラミルファの声が優しくなった。
「君たちは謝ってくれたらそれで良いのだよ。痛い罰はフレイムが代わりに受けてくれたから、それで終わりだ。後で労ってやると良い」
一方の葬邪神と疫神は、エイリーを覗き込んで状態を確認している。
「神罰、きっちり抑えられてる。もう暴れない」
「そのようだな。考えたものだ、ラミの神器と玉を使うとはなぁ」
「エイリー、髪真っ白。相当怖い夢、見た」
「これはトラウマになるだろうな」
会話を漏れ聞いたアマーリエは、気を失ったまま渾々と眠るエイリーを見た。
(心の傷はできる限り治癒するとして、髪は染めるかカツラを付ければ……いえ、精神とまとめて治療すれば良いんだわ)
17歳で深刻なトラウマと白髪は酷い。そう思って対処法を考えるも、ラミルファは薄く笑った。
「君たちが必死で助けようとしているから、言うタイミングを逃していたがね。あの娘を視たところ、生まれつき心臓が脆弱だ。どのみち長くは生きられないだろう」
「え……」
目を見開いてフレイムを見上げると、無言のまま小さな頷きが返って来た。
「聖威ならば完治させられるが、聖威師が特定の人間に肩入れしすぎるのは禁止だ。もう既に、神罰から救うという形で彼女個人に大きく干渉している。周囲への影響も鑑みてのことだからお目こぼしされているが、これ以上のことは、心臓の治療にせよ心のケアにせよ天に止められるだろう」
それに、と、邪神の形良い唇が動く。
「それに、エイリー自身も治癒を望まないかもしれない。これから先、今日見せられた恐怖を思い出しながら生き長らえるくらいなら、天寿に従って逝くことを選ぶ可能性もある」
反論できず、アマーリエは黙り込んだ。再びエイリーに目をやると、穏やかになったと思っていた彼女の目元には涙が光っており、頰はぐっしょりと濡れていた。
「…………」
(あの子の心の傷は、今後ずっと消えないわ)
言いようのないやり切れなさを覚え、アマーリエはじっとその場に佇んだ。
そこに、何故かフルードまで転移して来ると、アマーリエに手を伸ばす。
「すみません、失礼します」
簡潔に断りを入れ、髪からバレッタを外した。そして、砕けた窓越しに、聞き取り室にいるアリステルにそれを放る。
「邪神様がアマーリエの守護用にと創られた玉が入っています。これも使いましょう!」
「分かった」
打てば響くようにバレッタをキャッチしたアリステルが、自身の聖威を注ぎ込んだ。赤黄色と紫烏色、二つの力が螺旋を描く。だが、霧と短杖のように互いを打ち消し合うのではなく高め合う形で聖威を注入しているため、両者の力が相殺されることはない。
それほど時間はかからず、アリステルはバレッタをアマーリエに投げ返した。
「私の聖威を玉に注ぎ、元々込められていた骸邪神様の神威と同調させて大幅に増幅した。これなら神罰を抑えられる」
「ありがとうございます!」
アマーリエはすぐさまエイリーの元に走った。霧がまたも牙を剥こうとするが、短杖と拮抗した状態にあるので動けない。
(どうかこれで助かって!)
祈る思いで、エイリーの髪にバレッタを装着する。赤黄色の光を帯びた紫烏色の聖威が、霧と、その奥にある神罰の因子自体を抑え込んでいった。霧が晴れ、短杖が床に転がり落ちる。黒霧が消えたことで露わになったエイリーの髪は、真っ白に染まっていた。
「ユフィー、いったん下がれ」
フレイムの指示に従って後退し、彼と葬邪神が見守る中で、短杖を再び結界で包む。それから息を詰めて様子を窺ったが、霧が再び暴れることはなかった。何とか神罰そのものを抑えることができたようだ。
「上手くいったみたいじゃねえか」
フレイムが肩の力を抜き、ポンとアマーリエの背を撫でてくれる。
「ああ、良かった……」
安堵のあまり床にへたり込みそうになるが、再び横抱きにされて聞き取り室に運ばれる。
「ま、頑張ったんじゃねーの? エイリーも助かってめでたしめでたしなんだぜ」
「ちっともめでたくないがね」
額に青筋を立てて腕組みするラミルファが、笑顔で仁王立ちしていた。
「アマーリエ、セイン、ヴェーゼ。君たちときたらまぁ次から次へと、僕の物を勝手に使って……本当に全く」
言いながら片腕を上げ、アマーリエを下ろしたフレイムの右頬をつねる。
「いてて、何すんだ! わざわざ神威込めてつねりやがって、痛いだろ!」
「当たり前だろう、痛くしているのだから。アマーリエたちをつねるのは可哀想だから、お仕置きは君に受けてもらうよ」
プンスカした顔で言うが、それで手打ちにする当たり、言うほど怒ってはいないようだ。
「ラミルファ様、勝手に申し訳ありませんでした」
フレイムの腕から降り、アマーリエは深く頭を下げる。聞き取り室に戻って来たフルードとアリステルもだ。途端にラミルファの声が優しくなった。
「君たちは謝ってくれたらそれで良いのだよ。痛い罰はフレイムが代わりに受けてくれたから、それで終わりだ。後で労ってやると良い」
一方の葬邪神と疫神は、エイリーを覗き込んで状態を確認している。
「神罰、きっちり抑えられてる。もう暴れない」
「そのようだな。考えたものだ、ラミの神器と玉を使うとはなぁ」
「エイリー、髪真っ白。相当怖い夢、見た」
「これはトラウマになるだろうな」
会話を漏れ聞いたアマーリエは、気を失ったまま渾々と眠るエイリーを見た。
(心の傷はできる限り治癒するとして、髪は染めるかカツラを付ければ……いえ、精神とまとめて治療すれば良いんだわ)
17歳で深刻なトラウマと白髪は酷い。そう思って対処法を考えるも、ラミルファは薄く笑った。
「君たちが必死で助けようとしているから、言うタイミングを逃していたがね。あの娘を視たところ、生まれつき心臓が脆弱だ。どのみち長くは生きられないだろう」
「え……」
目を見開いてフレイムを見上げると、無言のまま小さな頷きが返って来た。
「聖威ならば完治させられるが、聖威師が特定の人間に肩入れしすぎるのは禁止だ。もう既に、神罰から救うという形で彼女個人に大きく干渉している。周囲への影響も鑑みてのことだからお目こぼしされているが、これ以上のことは、心臓の治療にせよ心のケアにせよ天に止められるだろう」
それに、と、邪神の形良い唇が動く。
「それに、エイリー自身も治癒を望まないかもしれない。これから先、今日見せられた恐怖を思い出しながら生き長らえるくらいなら、天寿に従って逝くことを選ぶ可能性もある」
反論できず、アマーリエは黙り込んだ。再びエイリーに目をやると、穏やかになったと思っていた彼女の目元には涙が光っており、頰はぐっしょりと濡れていた。
「…………」
(あの子の心の傷は、今後ずっと消えないわ)
言いようのないやり切れなさを覚え、アマーリエはじっとその場に佇んだ。
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