神様に嫌われた神官でしたが、高位神に愛されました

土広真丘

文字の大きさ
330 / 601
第4章

46.葬邪神のトラウマ

しおりを挟む
 ◆◆◆

『アレク』

 天界にある共有領域の一角。難しい顔で佇む葬邪神に、ゴムボールのように跳ねる幼児がぴょんぴょんと近付いた。

『確認、できた?』
『ああ。……ディスはどう見る?』
『アレクと同じ。五分五分ごぶごぶ

 甲高い声がケラケラ笑う。

『なーにが五分五分なんですかね?』
『お呼びがかかりましたので参じました。何の御用ですか?』

 続けてやって来たフレイムが険相を浮かべて言う。隣にいるラミルファは、にっこりとして小首を傾げた。

『おぉ、来てくれたか。急に呼び立ててすまんなぁ』
『いきなり念話が来たんでちょっと驚きましたよ』

 何事が起こったのかと目で問いかけるフレイムに、うねる長髪をかき上げて苦笑いする葬邪神。ラミルファが腕組みして長兄を見上げた。

『もしや、兄上方が降臨された理由と関係のあることですか? 兄上方は何故地上にお越しになったのです? 気分転換だとか羽を伸ばしたいだとか、意味不明な御託は結構です』
『丸っきり嘘じゃないぞ。俺も永年皆のお兄ちゃんをやって来たからな、色々大変で肩が凝るんだ』

 ほー、と気の無い声で相槌を打ったのはフレイムだ。両手をワキワキさせながらジト目で言う。

『んじゃ俺が揉んであげましょうか? 人間の世界では温めたら凝りに効くとかで、灸を据えたりするそうですよ。火神一族特製のスーパーキラキラクリーンパウダー熱々バージョンをたっぷり纏わせた手で揉んで差し上げますよ』
『やめてくれ、あのおぞましいモノに触れたら悪神は大絶叫だ』
『この際なので教えてあげます、二の兄上。一の兄上は18年ほど前、煉神様の火をぶっかけられてガチ泣きしたのですよ。あれは中々面白かったです』
『ブレイに? アレク、何でそこまで怒らせた?』
『セインがフレイムの領域で修行していた時、狼神様に会いに行こうと天界の共有領域を通ったのです。その途中で一の兄上と行き合い、ちょっかいをかけられたのです』


 ――お前は本当に純粋な魂をしているなぁ。もう少し俗世に染まらんか。人間界に戻ったら花街にでも行ってみろ。……ん、何だって? 花街とは何ですか? 花がいっぱいある綺麗な所ですかって? あー、そうそう。すごく綺麗な花がたくさん咲いてるんだ。まぁお前に比べれば、どの花も大したことはないがな。そうだ、お前も美しく咲いてみたくはないか?


 そこまで話したところで、凄まじい形相で爆走して来たブレイズが、手の平から葬邪神の顔面に怒りの火炎放射を浴びせた。彼の女神はフルードのことを、『フレイムの義弟は私の義弟』と公言して大切にしており、この時も様子を視ていた。ゆえに、可愛い義弟の貞操の危機だと思って駆け付けたらしい。

『あの時は悶絶級のショックだった……俺だって本気じゃなかったんだ、ちょっとふざけただけだったのに……』

 葬邪神が遠い目をして呟いた。火神一族が駆使する神炎は、聖なる御稜威を宿す浄化の忌火。悪神がそれをかけられるということは、人間で言えば、大量のゴキブリにたかられるに等しい。それも、潰れかけて体液やら腐敗臭やらでジュクジュクになっているゴキブリだ。

『アレク、カッコ悪い。ぷぷぷっ』
『自業自得ですよ、一の兄上』

 なお、騒ぎを聞き付けてやって来たラミルファは、状況が飲み込めていないフルードを連れてさっさと自分の領域に引き籠もった。それを察知した狼神が、大慌てで愛し子を取り戻しに飛んで来たのだが、道中で顔を抑えてのたうち回っていた葬邪神を思い切り踏んでいった。

『焔神様は怒らなかった?』
『あー、俺はあん時天界にいなかったんすよ。ちょっと用事で地上の聖威師の所に行ってまして』

 フルードの修行の進捗報告なども含め、色々と話すことがあったのだ。
 長い話を終えて天に戻ると、どうにかこうにかフルードを返してもらった狼神が愛し子を尻尾でくるんで離さない状態になっており、土下座して小さくなっている葬邪神の前では、腕を組んだブレイズが炎を背後に仁王立ちしていた。

『あの時は必死に謝って謝って謝り倒して、どうにかブレイに許してもらえたんだったなぁ』
『火神一族、激情家。いったん火が付く、ボーボー燃える』
『それを言えば、フレイムは突然変異並みに温厚ですね』
『うるせぇ誰が突然変異だ!』

 反射的に言い返したフレイムが、ハッと目をさ迷わせて咳払いする。

『つーか話が逸れてます。何で俺たちを呼び出したのか、貴方々は何で降臨したんですかって聞いてたんですけど』
『ああ、そうだったなぁ。俺も思いがけず苦い記憶を思い出してしまった』

 葬邪神が苦笑いし、つと表情を改めた。精悍な面から緩さが消える。

『シュナに――遊運命神に、僅かだが覚醒の兆候が見えた』
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

結婚十年目の夫から「結婚契約更新書」なるものが届いた。彼は「送り間違えた」というけれど、それはそれで問題なのでは?

ぽんた
恋愛
レミ・マカリスター侯爵夫人は、夫と政略結婚をして十周年。侯爵夫人として、義父母の介護や領地経営その他もろもろを完ぺきにこなしている。そんなある日、王都に住む夫から「結婚契約更新書」なるものが届いた。義弟を通じ、夫を追求するも夫は「送り間違えた。ほんとうは金を送れというメモを送りたかった」という。レミは、心から思った。「それはそれで問題なのでは?」、と。そして、彼女の夫にたいするざまぁがはじまる。 ※ハッピーエンド確約。ざまぁあり。ご都合主義のゆるゆる設定はご容赦願います。

婚約破棄から50年後

あんど もあ
ファンタジー
王立学園の卒業パーティーで、王子が婚約者に婚約破棄を宣言した。王子は真に愛する女性と結ばれ、めでたしめでたし。 そして50年後、王子の孫の王子は、婚約破棄された女性の孫と婚約する事に。そこで明かされた婚約破棄の真実とは。

できない子に転生しましたが、家族と食卓があれば十分です ―人間不信だった私が、ゆっくり育つ異世界生活―

愛朱ひいろ
ファンタジー
人の顔色ばかり伺い、心を壊した26歳の会社員女性。 彼女は死後、異世界で「できない子」として転生する。 魔法は使えない。 体は不器用で、成長も人より遅い。 前世の記憶のせいで、人と関わることが少し怖い。 けれどこの世界には、 見守り支えてくれる両親と、 あたたかい食卓があった。 泣いて、つまずいて、できないことに落ち込みながら、 彼女は少しずつ「できないままでも、生きていていい」と知っていく。 これは、 最強でもチートでもない主人公が、 家族と食事に支えられながら、ゆっくり育ち直す 生活密着型・異世界転生×成長×グルメファンタジー。 ……の、予定です。 毎日更新できるように執筆がんばります!

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。 すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。 だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。 イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。 変わり果てた現実を前に、 夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。 深い後悔と悲しみに苛まれながら、 失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。 しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。 贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。 そして、母の心を知っていく子供たち。 イネスが求める愛とは、 そして、幸せとは――。

幼馴染みの婚約者が「学生時代は愛する恋人と過ごさせてくれ」と言ってきたので、秒で婚約解消を宣言した令嬢の前世が、社畜のおっさんだった件。

灯乃
ファンタジー
子爵家の総領娘である令嬢の前に、巨乳美少女と腕を組んだ婚約者がやってきた。 曰く、「学生時代くらいは、心から愛する恋人と自由に過ごしたい。それくらい、黙って許容しろ」と。 婚約者を甘やかし過ぎていたことに気付いた彼女は、その場で婚約解消を宣言する。 前半はたぶん普通の令嬢もの、後半はおっさんコメディーです。

ローザリンデの第二の人生

梨丸
恋愛
伯爵令嬢、ローザリンデの夫はいつも彼女より仕事を優先させ、彼女を無碍にしている。 彼には今はもういない想い人がいた。 私と結婚したことにいい思いをしていないことは知っていた。 けれど、私の命が懸かっていた時でさえも、彼の精神は変わらなかった。 あなたが愛してくれないのなら、私は勝手に幸せになります。 吹っ切れたローザリンデは自分自身の幸せのために動くことにした。 ※投稿してから、誤字脱字などの修正やわかりにくい部分の補足をすることがあります。(話の筋は変わらないのでご安心ください。) 1/10 HOTランキング2位、ありがとうございます。

侯爵令嬢ソフィアの結婚

今野綾
恋愛
ソフィアは希少なグリーンアイを持つヴィンセントと結婚したが、これは金が欲しいソフィアの父の思惑と高い爵位が欲しいヴィンセントの思惑が一致したからに過ぎない そもそもヴィンセントには美しい恋人がいる 美男美女と名高いヴィンセントとその恋人は身分に大きな差があるために結婚することは叶わないのだ その事をソフィアも耳にしており、この結婚が形ばかりのものであることを知っていた 結婚して早々、ソフィアは実家から連れてきた侍女夫婦とあばら家に住むように言われて… 表紙はかなさんです✨ ありがとうございます😊 2024.07.05

なぜ、私に関係あるのかしら?

シエル
ファンタジー
「初めまして、アシュフォード公爵家一女、セシリア・アシュフォードと申します」 彼女は、つい先日までこの国の王太子殿下の婚約者だった。 そして今日、このトレヴァント辺境伯家へと嫁いできた。 「…レオンハルト・トレヴァントだ」 非道にも自らの実妹を長年にわたり虐げ、婚約者以外の男との不適切な関係を理由に、王太子妃に不適格とされ、貴族学院の卒業式で婚約破棄を宣告された。 そして、新たな婚約者として、その妹が王太子本人から指名されたのだった。 「私は君と夫婦になるつもりはないし、辺境伯夫人として扱うこともない」 この判断によって、どうなるかなども考えずに… ※ 中世ヨーロッパ風の世界観です。 ※ ご都合主義ですので、ご了承下さい、 ※ 画像はAIにて作成しております

処理中です...