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第一話 全てを失った私は、修道女になる
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「火の魔法も使えるんですか?」
「当たり前でしょ。誰だと思ってんの」
平然と言い放つ少女が咥えている煙草から、灰がポロリと落ちていく。
ふぅと吐く息は白く、甘い香りを漂わせる。
その神々しい女神の見た目とは相反する、とてもダーティーな姿。
「……大丈夫なんですか?」
そう私が問いかけると、少女は煙草を左手の指先で挟み、唇から離す。
そして煙草をこちらへスッと向けてきた。
「――女神様が煙草を吸うわけないでしょ?」
――これは、女神の顔をして煙草をふかす、
とんでもない英雄との旅を記した、歴史冒険譚だ――
◇ ◇
ミア・マラコイデス。
それは、彼が名付けてくれた私の名前。
私には、五歳より前の記憶が全く存在しない。
自分の本当の名前も分からない。
年齢は、何故か彼は知っていた。
あの時の事も、彼に教わったから知っているに過ぎない。
当時、私はまだ幼い五歳の少女だった。
私は、燃え盛る家の前で泣き喚いていて、目の前に両親と思われる人が血塗れで倒れていた。
そこへ、一人のカウボーイハットをかぶった男が、私に手を差し伸べてきた。
ロードリックと名乗った彼は、故郷の村で唯一生き残っていた私を救い出してくれた。
歴史学者だった彼は、偶然調査の為に村へ訪れたそうだ。
訪れた時には、既に騎士団によってメチャクチャにされた後だったらしい。
彼は私を連れて旅に出た。
そして、色んな所に冒険へ連れて行ってくれた。
森に埋もれた遺跡や未知のダンジョン、神話の時代の古代遺跡などなど。
更に旅の間に聴かせてくれた、英雄の冒険譚や神話の数々。
特に私は二千年前の《神々の聖戦》のお話がお気に入りで、何度も彼に聞かせてとせがんだ。
全てが初めての未知の体験。
私は目を輝かせていた。
ずっとこんな楽しい事が続けば良いのに。
そう思っていた。
けど――別れは突然訪れた。
――ロードリックと出会って一年後。
その日は、ロードリックに連れられて名も知れぬとても深い森へとやってきていた。
そこは誰も足を踏み入れない禁足地のような深い森で、道などは当然のごとく無い。
けれど、今まで様々な所へ冒険してきた私にとって、それはとても普通なこと。
私は文句一つ言わず彼の後ろへ付いていき、道なき道をただひたすらと歩いていった。
私たちは、深い森の奥へ奥へと歩き続けた。
そして丸一日歩いた頃、突然目の前に修道院が現れた。
私は修道院を見て、これまたいつものように目を輝かせると、彼は待ってましたかのように「中を見学させて貰おうぜ」と突撃した。
修道院の人にお願いすると快く案内してもらえる事になり、中を見学させてもらった。
そして修道院の中を一通り見て回ると、ロードリックは突然修道院の人に言った。
「彼女を……ここで引き受けて貰えませんか?」
私は、彼が言っている意味が分からなかった。
けど彼が修道院の人と話をしていることを聞いている内に、私はこの修道院へと置いていかれるのだと気付いた。
そして、捨てられるのだと思った。
「私を捨てないで!」
私は瞳を潤ませロードリックに抱きついた。
絶対に離すもんかと思いっきり。
けど彼はそんな私へ微笑みかけ、頭を撫でた。
「バカお前、捨てるんじゃねぇよ」
「嘘! 私が邪魔になったんでしょ!」
「そうじゃねぇ……」
彼はそう言うと、その場でしゃがんで私の頭をワシッと撫で、瞳をじっと見つめた。
「いいか、俺の旅はメチャクチャ危険なんだ。今までとは比べ物にならねぇくらいヤベェ事もある。だから、お前はここで安全に暮らした方が良いんだ」
大きくなった今になれば分かる。
彼の言っている事は正しい。
六歳の子供を連れて世界を旅することが、どれほど危険か。
遺跡を求めて旅をしている道中には、野盗は居るし魔物だってウジャウジャ居た。
そんな中、私を守りながら旅をしていたのだ。
けど当時の私は、そんなに聞き分けの良い子では無かった。
何時間も駄々をこねて泣き叫び、散々困らせた。
それでも彼の決意は変わらない。
結局私はその真っ赤に腫らした目で、立ち去る彼の背中を見つめる事になった。
けど、別れ際に何も言わないなんて事は出来ない。
「ロードリック!」
もう今生の別れになんてしたくない。
「また……会えるよね!」
そう言うと彼は立ち止まり、少し考えるように天を仰いだ。
そして言った。
「……俺は《初代エルフ王の書記の原本》と、それに出てくる《世界の監視者》を探してる。お前も俺と同じ道を志せば、きっと会えるさ――」
――そして十年後。
私は、修道院のベッドの上で目が覚めた。
ここは、私に与えられた個室。
窓の外は、まだ薄暗い。
それは夜がまだ明けず、空が明るくなり始めたばかりの暁の時である事をあらわしていた。
「うう……眠い……」
こんな朝早くに起きる人なんて、聖職者くらいだろう。
本当はもう少し寝ていたい。
けれど朝の聖務をやらなければならない。
私は眠気で沈むまぶたを必死に開けながら、気合いで身体を起こす。
そしてベッドから足を下ろし、ベッドの横にある小さなタンスの上へ置いてある手鏡を手に取った。
……ロードリックと別れて十年。
泣き虫だった少女の姿は、もうそこにはいない。
手鏡に映り込んだその姿は、碧色の瞳の下にクマ、肩の下まで伸びた栗色の髪は寝癖で乱れていて、寝間着として着ているシュミーズははだけて、豊かな乳房が半分ほど覗いていた。
なんて酷い姿だ。
とても他人様には見せられない。
私は手鏡をタンスの上へ置くと、着ていたシュミーズを下からガバっと上へ引っ張り上げて脱ぎ、タンスのそばへ置かれた籠へ放り込む。
露わになった乳房がたゆんで揺れる。忌々しい胸だ。
私はタンスの中から白い布と修道服を取り出すと、乳房を抱えるように白い布をバストへ巻き付けて、動かないように背中でキツくとめる。
もう十六になったのだから恐らく年相応に育ってはいるのだろうが、この無駄に育った胸は本当に鬱陶しい。風紀的にもよろしくない。
そのくせ、身長は152から伸びていない。
成人の儀は十四の時に執り行った。
世間では十六で成人とみなされるが、ルクナ教では十四歳で成人とみなされる。
そして成人の儀では女神様への信仰を堅く誓い、同時に生まれついて持っている加護属性を調べられた。
その時に私は、光の加護を授かっていた事が分かった。
加護属性は火、水、地、風、光、闇の六属性があるが、光と闇魔法はその加護を受けていないと使えない希少なもの。
光の加護を持つ人は数十万人に一人の割合らしいので、光の加護者は貴重な存在として聖職者の中でも特別扱いされる。
「エリートコース……か……」
私は立ち上がると、修道服を頭からかぶって袖を通し、腰に革のベルトを巻いて服を引き締めた。
「………………」
私は自分の右袖をじっと眺める。
もうこの服を着るのも、そう多くはないだろう。
私はここ最近、修道院を出て還俗する事ばかり考えていた。
その理由は……ロードリックに会うため。
今の私にとってロードリックは、新たな人生の始まりの象徴であり、敬愛する父のような存在。
――もう一度会いたい。
その気持ちが日に日に積み重なり、どんどんと募っていっていた。
還俗ではなく、大きな街の教会へ行って司祭をしながら探すという手もある。
光の加護者は出世を約束されているので、そのまま大司教にまで上りつめて下の者に探させることだって出来る。
けどそんなのでは……仮に会えたとしてもロードリックは良く思わないだろう。
「……髪をとかなきゃ」
私はタンスの引き出しを開け、その中からオリーブオイルと櫛を取り出した。
オイルを髪へ丁寧に浸透させるようにつけて、櫛で乱れた髪を整えていく。
髪をといていても、頭に浮かぶのはロードリックのことばかり。
この修道院で色々と勉強や魔法の修行をさせてもらっているが、その時に修道院長から教えられた。
どうやらロードリックは冒険者が本職で、歴史学者はモグリらしい。
彼はかなり危ない橋を渡って情報を集め、権力者が隠したがるような過去の出来事を暴いて本にしたりして様々な人たちから反感を買い、学会からも爪弾きにされている。彼をお尋ね者にしている国すらある。
『歴史とは――時の権力者によって作られるものだ』
彼はいつもそう口癖のように言っていたっけ……。
それを思い起こしながら、髪をとく。
ふわりとオリーブの香りがあたりへ漂う。
オリーブオイルは整髪料。乱れた髪を整えると共に保護をする。
髪を整え終わると、後ろ髪を左右に分け、それぞれの髪の先端を星飾りのついたリボンでくくり、前に回して胸へと垂らす。
「……よし」
私はオイルと櫛を引き出しへしまい、今度はピンク色の白粉を取り出す。
最後に鏡とにらめっこだ。
私はベッドへ腰を掛けると、手鏡を片手に白粉を手に取る。
そして目の下のクマへ軽くポンポンと付けて、クマを目立たなくする。
……この程度にしておきましょうか。
本当はもう少し付けたいけど、あまり付けすぎると化粧が目立ってしまう。
私は聖職者である以上、あまり化粧や派手な格好は出来ない。
だけど同時にうら若き乙女。
教義に反しない程度には、オシャレをしたい年頃なのだ。
最後に頭巾を頭へかぶって動かないように髪とピンでとめ、服や髪が乱れていないか鏡でチェック。
よし。身だしなみ完了!
これで女神様への朝のお祈りと修道院の掃除、洗濯などといった聖務に取りかかれる。
私は礼拝の間へと向かうために個室を出て、廊下を足早に歩を進める。
その道中でも、ずっとロードリックのことが頭に浮かぶ。
何が彼を動かすのか、今でも私は分からない。
けど、恐らく今も世界のどこかで真実の歴史を求めて旅をしているに違いない。
そうだとしたら、私は……聖職者として生きていても何も進展しない。
彼と同じ道を辿るなら選択肢は一つ。
――冒険者だ。
私は礼拝の間で、女神像に祈りを捧げる。
そして祈りを終えて女神像を見上げる。
女神様の表情は、いつもと変わらない。
――ここに居続けてはいけない。
そう思った。
「当たり前でしょ。誰だと思ってんの」
平然と言い放つ少女が咥えている煙草から、灰がポロリと落ちていく。
ふぅと吐く息は白く、甘い香りを漂わせる。
その神々しい女神の見た目とは相反する、とてもダーティーな姿。
「……大丈夫なんですか?」
そう私が問いかけると、少女は煙草を左手の指先で挟み、唇から離す。
そして煙草をこちらへスッと向けてきた。
「――女神様が煙草を吸うわけないでしょ?」
――これは、女神の顔をして煙草をふかす、
とんでもない英雄との旅を記した、歴史冒険譚だ――
◇ ◇
ミア・マラコイデス。
それは、彼が名付けてくれた私の名前。
私には、五歳より前の記憶が全く存在しない。
自分の本当の名前も分からない。
年齢は、何故か彼は知っていた。
あの時の事も、彼に教わったから知っているに過ぎない。
当時、私はまだ幼い五歳の少女だった。
私は、燃え盛る家の前で泣き喚いていて、目の前に両親と思われる人が血塗れで倒れていた。
そこへ、一人のカウボーイハットをかぶった男が、私に手を差し伸べてきた。
ロードリックと名乗った彼は、故郷の村で唯一生き残っていた私を救い出してくれた。
歴史学者だった彼は、偶然調査の為に村へ訪れたそうだ。
訪れた時には、既に騎士団によってメチャクチャにされた後だったらしい。
彼は私を連れて旅に出た。
そして、色んな所に冒険へ連れて行ってくれた。
森に埋もれた遺跡や未知のダンジョン、神話の時代の古代遺跡などなど。
更に旅の間に聴かせてくれた、英雄の冒険譚や神話の数々。
特に私は二千年前の《神々の聖戦》のお話がお気に入りで、何度も彼に聞かせてとせがんだ。
全てが初めての未知の体験。
私は目を輝かせていた。
ずっとこんな楽しい事が続けば良いのに。
そう思っていた。
けど――別れは突然訪れた。
――ロードリックと出会って一年後。
その日は、ロードリックに連れられて名も知れぬとても深い森へとやってきていた。
そこは誰も足を踏み入れない禁足地のような深い森で、道などは当然のごとく無い。
けれど、今まで様々な所へ冒険してきた私にとって、それはとても普通なこと。
私は文句一つ言わず彼の後ろへ付いていき、道なき道をただひたすらと歩いていった。
私たちは、深い森の奥へ奥へと歩き続けた。
そして丸一日歩いた頃、突然目の前に修道院が現れた。
私は修道院を見て、これまたいつものように目を輝かせると、彼は待ってましたかのように「中を見学させて貰おうぜ」と突撃した。
修道院の人にお願いすると快く案内してもらえる事になり、中を見学させてもらった。
そして修道院の中を一通り見て回ると、ロードリックは突然修道院の人に言った。
「彼女を……ここで引き受けて貰えませんか?」
私は、彼が言っている意味が分からなかった。
けど彼が修道院の人と話をしていることを聞いている内に、私はこの修道院へと置いていかれるのだと気付いた。
そして、捨てられるのだと思った。
「私を捨てないで!」
私は瞳を潤ませロードリックに抱きついた。
絶対に離すもんかと思いっきり。
けど彼はそんな私へ微笑みかけ、頭を撫でた。
「バカお前、捨てるんじゃねぇよ」
「嘘! 私が邪魔になったんでしょ!」
「そうじゃねぇ……」
彼はそう言うと、その場でしゃがんで私の頭をワシッと撫で、瞳をじっと見つめた。
「いいか、俺の旅はメチャクチャ危険なんだ。今までとは比べ物にならねぇくらいヤベェ事もある。だから、お前はここで安全に暮らした方が良いんだ」
大きくなった今になれば分かる。
彼の言っている事は正しい。
六歳の子供を連れて世界を旅することが、どれほど危険か。
遺跡を求めて旅をしている道中には、野盗は居るし魔物だってウジャウジャ居た。
そんな中、私を守りながら旅をしていたのだ。
けど当時の私は、そんなに聞き分けの良い子では無かった。
何時間も駄々をこねて泣き叫び、散々困らせた。
それでも彼の決意は変わらない。
結局私はその真っ赤に腫らした目で、立ち去る彼の背中を見つめる事になった。
けど、別れ際に何も言わないなんて事は出来ない。
「ロードリック!」
もう今生の別れになんてしたくない。
「また……会えるよね!」
そう言うと彼は立ち止まり、少し考えるように天を仰いだ。
そして言った。
「……俺は《初代エルフ王の書記の原本》と、それに出てくる《世界の監視者》を探してる。お前も俺と同じ道を志せば、きっと会えるさ――」
――そして十年後。
私は、修道院のベッドの上で目が覚めた。
ここは、私に与えられた個室。
窓の外は、まだ薄暗い。
それは夜がまだ明けず、空が明るくなり始めたばかりの暁の時である事をあらわしていた。
「うう……眠い……」
こんな朝早くに起きる人なんて、聖職者くらいだろう。
本当はもう少し寝ていたい。
けれど朝の聖務をやらなければならない。
私は眠気で沈むまぶたを必死に開けながら、気合いで身体を起こす。
そしてベッドから足を下ろし、ベッドの横にある小さなタンスの上へ置いてある手鏡を手に取った。
……ロードリックと別れて十年。
泣き虫だった少女の姿は、もうそこにはいない。
手鏡に映り込んだその姿は、碧色の瞳の下にクマ、肩の下まで伸びた栗色の髪は寝癖で乱れていて、寝間着として着ているシュミーズははだけて、豊かな乳房が半分ほど覗いていた。
なんて酷い姿だ。
とても他人様には見せられない。
私は手鏡をタンスの上へ置くと、着ていたシュミーズを下からガバっと上へ引っ張り上げて脱ぎ、タンスのそばへ置かれた籠へ放り込む。
露わになった乳房がたゆんで揺れる。忌々しい胸だ。
私はタンスの中から白い布と修道服を取り出すと、乳房を抱えるように白い布をバストへ巻き付けて、動かないように背中でキツくとめる。
もう十六になったのだから恐らく年相応に育ってはいるのだろうが、この無駄に育った胸は本当に鬱陶しい。風紀的にもよろしくない。
そのくせ、身長は152から伸びていない。
成人の儀は十四の時に執り行った。
世間では十六で成人とみなされるが、ルクナ教では十四歳で成人とみなされる。
そして成人の儀では女神様への信仰を堅く誓い、同時に生まれついて持っている加護属性を調べられた。
その時に私は、光の加護を授かっていた事が分かった。
加護属性は火、水、地、風、光、闇の六属性があるが、光と闇魔法はその加護を受けていないと使えない希少なもの。
光の加護を持つ人は数十万人に一人の割合らしいので、光の加護者は貴重な存在として聖職者の中でも特別扱いされる。
「エリートコース……か……」
私は立ち上がると、修道服を頭からかぶって袖を通し、腰に革のベルトを巻いて服を引き締めた。
「………………」
私は自分の右袖をじっと眺める。
もうこの服を着るのも、そう多くはないだろう。
私はここ最近、修道院を出て還俗する事ばかり考えていた。
その理由は……ロードリックに会うため。
今の私にとってロードリックは、新たな人生の始まりの象徴であり、敬愛する父のような存在。
――もう一度会いたい。
その気持ちが日に日に積み重なり、どんどんと募っていっていた。
還俗ではなく、大きな街の教会へ行って司祭をしながら探すという手もある。
光の加護者は出世を約束されているので、そのまま大司教にまで上りつめて下の者に探させることだって出来る。
けどそんなのでは……仮に会えたとしてもロードリックは良く思わないだろう。
「……髪をとかなきゃ」
私はタンスの引き出しを開け、その中からオリーブオイルと櫛を取り出した。
オイルを髪へ丁寧に浸透させるようにつけて、櫛で乱れた髪を整えていく。
髪をといていても、頭に浮かぶのはロードリックのことばかり。
この修道院で色々と勉強や魔法の修行をさせてもらっているが、その時に修道院長から教えられた。
どうやらロードリックは冒険者が本職で、歴史学者はモグリらしい。
彼はかなり危ない橋を渡って情報を集め、権力者が隠したがるような過去の出来事を暴いて本にしたりして様々な人たちから反感を買い、学会からも爪弾きにされている。彼をお尋ね者にしている国すらある。
『歴史とは――時の権力者によって作られるものだ』
彼はいつもそう口癖のように言っていたっけ……。
それを思い起こしながら、髪をとく。
ふわりとオリーブの香りがあたりへ漂う。
オリーブオイルは整髪料。乱れた髪を整えると共に保護をする。
髪を整え終わると、後ろ髪を左右に分け、それぞれの髪の先端を星飾りのついたリボンでくくり、前に回して胸へと垂らす。
「……よし」
私はオイルと櫛を引き出しへしまい、今度はピンク色の白粉を取り出す。
最後に鏡とにらめっこだ。
私はベッドへ腰を掛けると、手鏡を片手に白粉を手に取る。
そして目の下のクマへ軽くポンポンと付けて、クマを目立たなくする。
……この程度にしておきましょうか。
本当はもう少し付けたいけど、あまり付けすぎると化粧が目立ってしまう。
私は聖職者である以上、あまり化粧や派手な格好は出来ない。
だけど同時にうら若き乙女。
教義に反しない程度には、オシャレをしたい年頃なのだ。
最後に頭巾を頭へかぶって動かないように髪とピンでとめ、服や髪が乱れていないか鏡でチェック。
よし。身だしなみ完了!
これで女神様への朝のお祈りと修道院の掃除、洗濯などといった聖務に取りかかれる。
私は礼拝の間へと向かうために個室を出て、廊下を足早に歩を進める。
その道中でも、ずっとロードリックのことが頭に浮かぶ。
何が彼を動かすのか、今でも私は分からない。
けど、恐らく今も世界のどこかで真実の歴史を求めて旅をしているに違いない。
そうだとしたら、私は……聖職者として生きていても何も進展しない。
彼と同じ道を辿るなら選択肢は一つ。
――冒険者だ。
私は礼拝の間で、女神像に祈りを捧げる。
そして祈りを終えて女神像を見上げる。
女神様の表情は、いつもと変わらない。
――ここに居続けてはいけない。
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