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第二話 命の恩人を追って
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「還俗しようと考えています」
冒険者となるのを決意した数日後、私は修道院長へと切り出した。
冒険者となるには街へと出て冒険者ギルドに加入しなければならない。そうするには修道院を離れる必要がある。
別にこの生活に嫌気が差したわけではないが、修道女という立場上、自由に行動できない。
自由に行動出来るようにするには還俗――つまり教団を退団してそれまでの身分を捨て、俗世に還るしかない。
だから、これは必要な事。
そんな覚悟で発した私の言葉を聞いた修道院長は少し驚いたような表情を一瞬浮かべると、一つ息を吐く。
そして言った。
「やっぱり……」
やはり修道院長には、お見通しだったのだろう。
私は、修道院長にいつもロードリックの事を話していた。
それを聞いていた修道院長が、私がいつかロードリックを追いかけて出ていくと考えるのは想像に難くない。
「ミアさん……彼を追うのね?」
「はい。ロードリックを追いかけます」
私は、ハッキリと彼を追う決意を伝える。
それを聞いた修道院長は渋い顔をしていた。
「けど……俗人に還ってどうするのですか」
どうやら修道院長は私の還俗を止めたいようだ。
ま、光の加護を受けた私は貴重な存在だし、当然と言えば当然か。
けど、もう決めたこと。何とか説得しなければ。
「彼を追って冒険者として世界を回ろうと考えています。そして、それをするには修道女という立場では不可能ですので、還俗しようと思いました」
「……なるほど。そして街へ出て教会の司祭になったとしても、その街を離れられない。だから還俗すると」
「……その通りです」
私がそう答えると、修道院長は両手を前で合わせた。
そして言った。
「でしたら、貴女は《伝道師》となりなさい」
伝道師――それは様々な場所へ赴いてルクナ教の未信者へ教えを説いてまわり導く者。いわゆる宣教師。伝道師は教団には所属するが特定の教会へ所属する事は無く、自由に行動する事を許される。
私は、還俗ではなく伝道師になる選択肢も考えていた。
けれど修道士が伝道師へとなるのに認められる年齢は、二十五歳以上と規則で定められている。
なので、伝道師になるにはあと九年も待たなければならない。
私は――そんなにも待っていられない!
「先生、私はまだ十六です。なので伝道師などには……」
そこで修道院長はフッと笑った。
「大丈夫です。私には儀礼を行う権限があります。私が儀礼を行い貴女を認めれば、正式に伝道師となれます」
教団規則では、修道院長にその権限が確かにある。
けれど……。
「ですがそれは規則に反します。そんな事をしたら……」
「心配するような事には絶対になりません。貴女なら誰が見ても絶対に認められます。何故なら貴女は光の加護を受けているのだから」
そう言って修道院長は、私へと笑いかけた。
光の加護を受けているから認められる。
逆に言えば、教団にとって絶対に手放したくない存在という事なのだろう。
私は変なしがらみを持ちたくないから離れるというのもあるのだが、どうしても手放してくれなさそうだ。
「貴女にとって悪い話ではありませんよ。それに、教団を抜ければ貴女を護る物は何も無くなります。ですが教団に所属していれば、相手がどこの誰であろうとも教団が全力で貴女を護ります」
確かにそれは心強い。
ルクナ教団――それは世界最大の宗教団体でありもっとも影響力のある組織。その力は、国家間の紛争でさえも法王の鶴の一声で治まってしまうほど。
そんな教団の者に手を出すという事は、教団そのものに喧嘩を売るに等しい。
故に教団へ身を置くという事は、自分の身を守る最善の方法ではある。
教団は意地でも私を手放してはくれなさそうだし、利点はある。
ならば……仕方がないか。
「……分かりました。伝道師の拝命、お受けいたします」
「そうですか! 納得して頂けて良かったです」
修道院長はそう言って満面の笑みを浮かべた。
◇ ◇
――私が伝道師になることが決まり、早速拝命の儀礼が執り行われた。
拝礼の間で、礼装を纏った修道院長から拝命の言葉を賜るだけの簡単な儀式。
儀礼では、伝道師の証である聖具『天玲の鎖』を与えられる。
天玲の鎖はルクナ神を象徴する光を象った紋章が付いたネックレスで、ルクナ教団の一員であるという証でもある。
これを首から下げているだけで、誰も手出しはできない。
旅に必要な物は冒険者になると決めた日から全て揃えている。服装は、還俗しない事になったので修道女の服の上に防寒対策でフード付きマントを羽織る事にした。
最初の目標は、この修道院から歩いて三日の位置にある《シュラインの街》。
この街には教会と冒険者ギルドがあるので、まずは冒険者ギルドへ行って登録を済ませて、教会で寝泊まりさせてもらえるように頼もう。
私は修道院の皆と別れの挨拶を済ませると、足早に修道院を後とする事にした。
私が旅立つ為に修道院の門へと立つと、修道院の皆が見送りの為に集まってくる。
恐らく、もう私はここへ戻ってくることはない。
皆とは今生の別れ。
それでも私は、涙を見せない。
未来という歴史の為に笑顔で、ここを出る。
「みんな、さようなら!」
そう言って私は、笑顔で別れをみんなに告げた。
――私は修道院の皆と別れを告げ、ルンルン気分で修道院を囲んでいる森の中を歩いていた。森の抜け方は、ロードリックに連れられて来た時の事を覚えているから何とかなる。
だが――早速めげ始めていた。
「……足が痛い」
修道院は俗世と隔離した環境を作るために、敢えて辿り着くのが困難な場所に作られている。私が居た修道院も深い森の奥地に存在し、当然の如く道など無い。
なので森を抜けるには、道なき道を一日かけて歩き続けなければならない。
修道院を出て数時間。私は道なき道を歩き続けて早くも足が痛くなってきていた。
この調子で今日中に森を抜けられるのか不安になる。
足の痛さも相まって、この森が永遠に続くかのような錯覚を覚えてしまう。
「もう嫌……」
思わず口から愚痴がこぼれる。
その時、目の前に何かが倒れているのを見つけた。
一体何だろう?
気になってそろりそろりと近づくと、それは魔物、ブラッドウルフの遺体だった。
何故こんな所に魔物の遺体が?
魔物同士の争いがあったのだろうか。
遺体をよく見ると、まるで鈍器のようなもので打ち付けられたかのように腹部が凹んでいた。
「……明らかに人の手によって倒されてる。こんな深い森の中に人なんか居るはずが……」
遺体の周りを観察していると、足跡のようなものと、そのそばに焦げた燃えカスのような物が落ちているのを見つけた。
燃えカスのような物に近づいてよく見てみると、それは甘く焦げたような香りを漂わせ、燃えて短くなった細い紙の筒。
「……吸い殻?」
何故こんな所に?
吸い殻を拾い上げると形が崩れ、宙へと灰と煙草の葉が散らばって風に溶けるように消えた。
次に足跡へ顔を近づけて見ると、それは人の足跡のように見える。
それが、森の奥深くまで続いていた。
やはり、人が居る。
気にはなるけど、そのまま放っておいても良い。
私は早く森を抜け出したい。
けれど私の脳裏には、かつての故郷の風景が浮かび上がった。
もしも修道院に仇なす者だったら放っておくと不味いかもしれない。
また同じ事になるかも……。
そう思ったら足跡の正体を確かめずにはいられなかった。
私は、足跡を追って森の奥へと歩を進めた。
追いかける道中、何度もブラッドウルフの遺体を目にする。
その全てが鈍器のような物で殴られていた。
もしかすると足跡の正体は屈強な戦士なのだろうか。
私は、万が一敵意を持つ存在に出会った時に備えて身構えつつ、足跡を追い続ける。
――しばらく進んでいると、小さな人影が木々の間から覗いた。
足跡は人影へと続いている。
きっと足跡の正体はこれだ。
私は足跡の正体を早く突き止めようと、木々を掻き分けるように人影へと突撃した。
すると――目の前に木のそばへとしゃがみ込んだ少女が映った。
その少女は、亜麻色の肩まで伸びた綺麗な髪をしていて、美しく整った顔立ちに黄金の瞳、そしてそれを隠すかのように紺色の大きなフード付きローブを羽織っている。
それは、まるで神話に出てくる女神様。
女神のように美しいその姿を見ると、私は思わず言葉を漏らした。
「綺麗……」
あっといけない、初対面の人に失礼な。
けれどいつまでも見ていたい程の神々しさを感じる。
こんなに綺麗な人は見た事がない。
私はそんな少女をじっと見つめてしまうが、少女は私に気づいているのか無視しているのか分からない。ずっとしゃがんで何か地面をゴソゴソしている。
少女の手元をよく見ると薬草のような物を掘り出していた。
何故あれを採取しているんだろう?
もしかして――
その時――すぐ近くの茂みから唸り声が聞こえた。
あれはブラッドウルフの唸り声?
まさか近くに居るんじゃ――。
そう思った刹那、ブラッドウルフが茂みから飛び出してきた!
ブラッドウルフが飛び出してきた先には――あの少女!
その瞳には怒りに狂った明確な殺意が映っており、間髪をいれず一気に少女の背中へと襲いかかる!
「危ない!」
私は少女を守るべく、慌ててブラッドウルフへと光魔法を放つ。
『聖槍!』
聖槍は、光の魔力を凝縮させて敵を撃ち抜く光魔法の基礎攻撃魔法。
私はブラッドウルフへ右手をかざし魔力を込め、一本の光線を放つ!
そして光線は、目標を追尾するように弧を描きながらブラッドウルフへと向かう――が、聖槍はブラッドウルフの足元へ着弾! 当たった地面が土埃をあげて弾け飛んだ。
外した!
いきなりの実戦になって慌てて魔法を放った結果がコレだ!
このままじゃ少女が――
『ゴスッ』
――一瞬何が起こったか分からなかった。
骨を砕く鈍い音が森の中にこだまする。
そしてドサッというブラッドウルフが落ちる音――
――少女は左拳を横へ掲げている。ブラッドウルフの頭は潰れ、地面へ落ちている。
それを見た私は、理解するほかなかった。背後へ飛びかかってきたブラッドウルフを彼女は、しゃがんだまま振り向きもせずに裏拳をお見舞いした、と。
……何なのこの少女?
もしかして今まで倒れていた魔物は全てこの子が倒したの?
傍目には華奢でか弱い少女に見えるのに、どこにそんな力が……?
この少女は私の理解を超えている。
少女からは魔力を一切感じず、身体を鍛えている様子もみられない。
なのに魔物を一撃で倒してしまうほどの力を持っている。
あり得ない。
意味が分からない。
私は目の前で起きた事が信じられず、少女へ声を掛けようにもその場で立ち尽くしてしまった。
少女はそんな私に気づいていないかのように、そして何事も無かったかのように再び薬草を採取しだす。
一体この子は何者なの……?
冒険者となるのを決意した数日後、私は修道院長へと切り出した。
冒険者となるには街へと出て冒険者ギルドに加入しなければならない。そうするには修道院を離れる必要がある。
別にこの生活に嫌気が差したわけではないが、修道女という立場上、自由に行動できない。
自由に行動出来るようにするには還俗――つまり教団を退団してそれまでの身分を捨て、俗世に還るしかない。
だから、これは必要な事。
そんな覚悟で発した私の言葉を聞いた修道院長は少し驚いたような表情を一瞬浮かべると、一つ息を吐く。
そして言った。
「やっぱり……」
やはり修道院長には、お見通しだったのだろう。
私は、修道院長にいつもロードリックの事を話していた。
それを聞いていた修道院長が、私がいつかロードリックを追いかけて出ていくと考えるのは想像に難くない。
「ミアさん……彼を追うのね?」
「はい。ロードリックを追いかけます」
私は、ハッキリと彼を追う決意を伝える。
それを聞いた修道院長は渋い顔をしていた。
「けど……俗人に還ってどうするのですか」
どうやら修道院長は私の還俗を止めたいようだ。
ま、光の加護を受けた私は貴重な存在だし、当然と言えば当然か。
けど、もう決めたこと。何とか説得しなければ。
「彼を追って冒険者として世界を回ろうと考えています。そして、それをするには修道女という立場では不可能ですので、還俗しようと思いました」
「……なるほど。そして街へ出て教会の司祭になったとしても、その街を離れられない。だから還俗すると」
「……その通りです」
私がそう答えると、修道院長は両手を前で合わせた。
そして言った。
「でしたら、貴女は《伝道師》となりなさい」
伝道師――それは様々な場所へ赴いてルクナ教の未信者へ教えを説いてまわり導く者。いわゆる宣教師。伝道師は教団には所属するが特定の教会へ所属する事は無く、自由に行動する事を許される。
私は、還俗ではなく伝道師になる選択肢も考えていた。
けれど修道士が伝道師へとなるのに認められる年齢は、二十五歳以上と規則で定められている。
なので、伝道師になるにはあと九年も待たなければならない。
私は――そんなにも待っていられない!
「先生、私はまだ十六です。なので伝道師などには……」
そこで修道院長はフッと笑った。
「大丈夫です。私には儀礼を行う権限があります。私が儀礼を行い貴女を認めれば、正式に伝道師となれます」
教団規則では、修道院長にその権限が確かにある。
けれど……。
「ですがそれは規則に反します。そんな事をしたら……」
「心配するような事には絶対になりません。貴女なら誰が見ても絶対に認められます。何故なら貴女は光の加護を受けているのだから」
そう言って修道院長は、私へと笑いかけた。
光の加護を受けているから認められる。
逆に言えば、教団にとって絶対に手放したくない存在という事なのだろう。
私は変なしがらみを持ちたくないから離れるというのもあるのだが、どうしても手放してくれなさそうだ。
「貴女にとって悪い話ではありませんよ。それに、教団を抜ければ貴女を護る物は何も無くなります。ですが教団に所属していれば、相手がどこの誰であろうとも教団が全力で貴女を護ります」
確かにそれは心強い。
ルクナ教団――それは世界最大の宗教団体でありもっとも影響力のある組織。その力は、国家間の紛争でさえも法王の鶴の一声で治まってしまうほど。
そんな教団の者に手を出すという事は、教団そのものに喧嘩を売るに等しい。
故に教団へ身を置くという事は、自分の身を守る最善の方法ではある。
教団は意地でも私を手放してはくれなさそうだし、利点はある。
ならば……仕方がないか。
「……分かりました。伝道師の拝命、お受けいたします」
「そうですか! 納得して頂けて良かったです」
修道院長はそう言って満面の笑みを浮かべた。
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――私が伝道師になることが決まり、早速拝命の儀礼が執り行われた。
拝礼の間で、礼装を纏った修道院長から拝命の言葉を賜るだけの簡単な儀式。
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これを首から下げているだけで、誰も手出しはできない。
旅に必要な物は冒険者になると決めた日から全て揃えている。服装は、還俗しない事になったので修道女の服の上に防寒対策でフード付きマントを羽織る事にした。
最初の目標は、この修道院から歩いて三日の位置にある《シュラインの街》。
この街には教会と冒険者ギルドがあるので、まずは冒険者ギルドへ行って登録を済ませて、教会で寝泊まりさせてもらえるように頼もう。
私は修道院の皆と別れの挨拶を済ませると、足早に修道院を後とする事にした。
私が旅立つ為に修道院の門へと立つと、修道院の皆が見送りの為に集まってくる。
恐らく、もう私はここへ戻ってくることはない。
皆とは今生の別れ。
それでも私は、涙を見せない。
未来という歴史の為に笑顔で、ここを出る。
「みんな、さようなら!」
そう言って私は、笑顔で別れをみんなに告げた。
――私は修道院の皆と別れを告げ、ルンルン気分で修道院を囲んでいる森の中を歩いていた。森の抜け方は、ロードリックに連れられて来た時の事を覚えているから何とかなる。
だが――早速めげ始めていた。
「……足が痛い」
修道院は俗世と隔離した環境を作るために、敢えて辿り着くのが困難な場所に作られている。私が居た修道院も深い森の奥地に存在し、当然の如く道など無い。
なので森を抜けるには、道なき道を一日かけて歩き続けなければならない。
修道院を出て数時間。私は道なき道を歩き続けて早くも足が痛くなってきていた。
この調子で今日中に森を抜けられるのか不安になる。
足の痛さも相まって、この森が永遠に続くかのような錯覚を覚えてしまう。
「もう嫌……」
思わず口から愚痴がこぼれる。
その時、目の前に何かが倒れているのを見つけた。
一体何だろう?
気になってそろりそろりと近づくと、それは魔物、ブラッドウルフの遺体だった。
何故こんな所に魔物の遺体が?
魔物同士の争いがあったのだろうか。
遺体をよく見ると、まるで鈍器のようなもので打ち付けられたかのように腹部が凹んでいた。
「……明らかに人の手によって倒されてる。こんな深い森の中に人なんか居るはずが……」
遺体の周りを観察していると、足跡のようなものと、そのそばに焦げた燃えカスのような物が落ちているのを見つけた。
燃えカスのような物に近づいてよく見てみると、それは甘く焦げたような香りを漂わせ、燃えて短くなった細い紙の筒。
「……吸い殻?」
何故こんな所に?
吸い殻を拾い上げると形が崩れ、宙へと灰と煙草の葉が散らばって風に溶けるように消えた。
次に足跡へ顔を近づけて見ると、それは人の足跡のように見える。
それが、森の奥深くまで続いていた。
やはり、人が居る。
気にはなるけど、そのまま放っておいても良い。
私は早く森を抜け出したい。
けれど私の脳裏には、かつての故郷の風景が浮かび上がった。
もしも修道院に仇なす者だったら放っておくと不味いかもしれない。
また同じ事になるかも……。
そう思ったら足跡の正体を確かめずにはいられなかった。
私は、足跡を追って森の奥へと歩を進めた。
追いかける道中、何度もブラッドウルフの遺体を目にする。
その全てが鈍器のような物で殴られていた。
もしかすると足跡の正体は屈強な戦士なのだろうか。
私は、万が一敵意を持つ存在に出会った時に備えて身構えつつ、足跡を追い続ける。
――しばらく進んでいると、小さな人影が木々の間から覗いた。
足跡は人影へと続いている。
きっと足跡の正体はこれだ。
私は足跡の正体を早く突き止めようと、木々を掻き分けるように人影へと突撃した。
すると――目の前に木のそばへとしゃがみ込んだ少女が映った。
その少女は、亜麻色の肩まで伸びた綺麗な髪をしていて、美しく整った顔立ちに黄金の瞳、そしてそれを隠すかのように紺色の大きなフード付きローブを羽織っている。
それは、まるで神話に出てくる女神様。
女神のように美しいその姿を見ると、私は思わず言葉を漏らした。
「綺麗……」
あっといけない、初対面の人に失礼な。
けれどいつまでも見ていたい程の神々しさを感じる。
こんなに綺麗な人は見た事がない。
私はそんな少女をじっと見つめてしまうが、少女は私に気づいているのか無視しているのか分からない。ずっとしゃがんで何か地面をゴソゴソしている。
少女の手元をよく見ると薬草のような物を掘り出していた。
何故あれを採取しているんだろう?
もしかして――
その時――すぐ近くの茂みから唸り声が聞こえた。
あれはブラッドウルフの唸り声?
まさか近くに居るんじゃ――。
そう思った刹那、ブラッドウルフが茂みから飛び出してきた!
ブラッドウルフが飛び出してきた先には――あの少女!
その瞳には怒りに狂った明確な殺意が映っており、間髪をいれず一気に少女の背中へと襲いかかる!
「危ない!」
私は少女を守るべく、慌ててブラッドウルフへと光魔法を放つ。
『聖槍!』
聖槍は、光の魔力を凝縮させて敵を撃ち抜く光魔法の基礎攻撃魔法。
私はブラッドウルフへ右手をかざし魔力を込め、一本の光線を放つ!
そして光線は、目標を追尾するように弧を描きながらブラッドウルフへと向かう――が、聖槍はブラッドウルフの足元へ着弾! 当たった地面が土埃をあげて弾け飛んだ。
外した!
いきなりの実戦になって慌てて魔法を放った結果がコレだ!
このままじゃ少女が――
『ゴスッ』
――一瞬何が起こったか分からなかった。
骨を砕く鈍い音が森の中にこだまする。
そしてドサッというブラッドウルフが落ちる音――
――少女は左拳を横へ掲げている。ブラッドウルフの頭は潰れ、地面へ落ちている。
それを見た私は、理解するほかなかった。背後へ飛びかかってきたブラッドウルフを彼女は、しゃがんだまま振り向きもせずに裏拳をお見舞いした、と。
……何なのこの少女?
もしかして今まで倒れていた魔物は全てこの子が倒したの?
傍目には華奢でか弱い少女に見えるのに、どこにそんな力が……?
この少女は私の理解を超えている。
少女からは魔力を一切感じず、身体を鍛えている様子もみられない。
なのに魔物を一撃で倒してしまうほどの力を持っている。
あり得ない。
意味が分からない。
私は目の前で起きた事が信じられず、少女へ声を掛けようにもその場で立ち尽くしてしまった。
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