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第五話 神話と現実
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『アルシア』
その名前にはとても聞き馴染みがあった。
それはかつて、ロードリックに何度も聞かせてとせがんだ『神々の聖戦』の神話に出てくる神の使徒の名前。
――それは今から二千年前、創造の女神ルクナの祝福を受けた二人の人間と破壊神ソルスとの戦い。
一人は、リンという名前の異世界からの訪問者。
そしてもう一人が、アルシアという名前の少女。
破壊神ソルスが人類を滅ぼそうと人間界と魔界を統合し、悪魔を全世界へ召喚して世界を滅茶苦茶にした。
それをリンとアルシアの二人で撃退し、破壊神を虚空の彼方へと葬り去ったとされている――
「アルシアさん! あの偉大な神の使徒のお名前を賜っていらっしゃるのですから、とても素晴らしいではないですか!」
思わず私は興奮してアルシアに言う。
けれどアルシアは私のそういった様子を見て顔をしかめる。
「どこがよ。あんな神話の登場人物と同じにされたら堪ったもんじゃないわ」
「どうしてですか? 私はとても羨ましいくらいですよ?」
「……アンタ、神話の中のアルシアがどういう人物か知ってる?」
「勿論です! 光も闇も全てを救う慈悲なる心を持ち、神に匹敵する程の強大な魔力で万物の法則すら自在に操る人類史上最強の魔術師。初代エルフ王が遺した書記には、五千年生きてこの目で見てきた人類の歴史上で唯一神殺しを成し遂げた人物であると――」
「……で、私は?」
アルシアはそう言って私の話を遮ってジロリと睨んできた。
どうやら私の物言いが気に食わないようだ。
「『私は?』というと……?」
「アンタは私を見てどう思う?」
「どう思うって……」
私はどう思うと問われて考える。
容姿はとても美しくて惚れ惚れするし、同じ魔術師でさっき見たように強いし、魔力とかも――
そこまで考えて気づく。
アルシアは、ブラッドウルフを倒した際に魔法を使った様子が見受けられなかった。それどころか魔力を一切感じない。
これは言いようのない違和感。
一体どういう事なのだろうか?
「……そういえば、アルシアさんは魔術師と仰いましたが、アルシアさんに魔力を一切感じません。先程ブラッドウルフを倒した際には魔法を使った様子も見受けられませんでした」
「……そういう事よ」
そういう事と言われ、私は一つの可能性に気づく。
そういった人が存在するというのは話には聞いていた。けどそうだとしても――
「……もしかして、アルシアさんは《魔力無し》……なのですか?」
私がアルシアにそう尋ねると、彼女は視線を下に落とした。
「……そうよ。私は生まれつき魔力を持たない魔力無しよ」
私の推測は合っていた。
基本的に魔力はこの世界に普遍的に存在している。
木々や岩、砂、空気にまで魔力が宿る。
私たち人類も個人差はあれど全員が魔力を宿していて、魔力の強さは、体内に溜められる量の違いでしかない。
けど極めて稀に、それこそ数千万人に一人の割合で体内へ魔力を溜められない人も存在している。
それが《魔力無し》
戦士も魔術師も戦闘の際には体内の魔力を使う。
戦士は身体強化に、魔術師は魔法に使う。
その魔力を持たないという事は、何の力も持たない生身の人間という事になる。
「けど、それではどうやってブラッドウルフを……。魔力を使わずにあんな芸当は出来ないはずです」
「……練習したからね」
「練習を? けど練習でどうにかなるものじゃ……」
私がそう言うと、アルシアは左手を私に向けた。
そして手の平を上に向けると、手の平の上に柔らかい光が灯る。
これは……光魔法!
「アルシアさん……それ……」
「幸いな事に……と言って良いのか分からないけど、魔力無しの私も光の加護を持っている。魔力はこの世界のどこにでも存在するから、私はその魔力を利用して魔法を使えるように練習した」
「そ、そんな事が……」
「一番魔力を取り出しやすいのが空気。さっきも空気から魔力を取り込んで身体強化の魔法を使った。常に呼吸しているし、体内にも取り込みやすいから」
「………………」
目の前で見た事が、私の頭では理解が追いつかない。
理屈は理解出来る。
けれど、その難易度がどれ程高いのか想像もつかない。
そもそも魔力無しの人間は魔力を感じる事が極めて困難。
それこそ、生まれつき耳が聞こえない人に音を感じろと言う程に難しい。
そして魔力を掴む感覚を得た所で、その魔力を利用しようとするなんて不可能に近い。
耳の聞こえない人が作曲しようとするくらい難易度が高い。
そもそも、自分以外の魔力を利用するなんて事が出来るという話すら聞いたことがない。
それを練習したからと出来るようになるなんて事は、それこそ一生かかっても無い。
この人は、本物の天才……?
「アルシアさん。貴女はやはり、その名に相応しいです」
「そう? 他の冒険者は皆バカにしてくるけどね」
「それはその人の見る目が無いだけです!」
「そう……」
するとアルシアの顔から険しさが消え、頬が緩んだのが見えた。
「ありがと」
私は、彼女が初めて笑顔を見せた気がした。
◇ ◇
私達三人は深い森を出るべく道なき道を進む。
道中魔物に遭遇しながらも、テオとアルシアがばったばったと倒していく。
私も魔法で援護しようとしたが、全て一撃で倒すものだから私の出る幕は無かった。
森を抜ける頃には日が暮れてきていた。
森を抜けた先はシュライン平原。
この平原まで出てしまえば街道があるので、その街道を二日歩けばシュラインの街がある。
けれどもう日も落ちるので、森と平原の境界付近で野宿をすることになった。
テオによると、木のある所のほうが雨風を防げるし魔物や野盗にも見つかりにくいから最適だそうだ。
これも冒険者の知恵。とても勉強になります。
テオが野宿に最適な場所を見つけ、私とアルシアは焚き火に使える薪木を探してくる。
そして日が暮れた頃には、焚き火をみんなで囲み夕食に。
料理は、テオが干し芋と干し肉のスープを作ってくれた。
シンプルだけど、香草やスパイスも入っていてとても食欲をそそられる。
粗暴な人だから適当に作るかと思ったけど、意外と手際も良い。
食べてみると味付けも絶品。
アルシアも今までずっと仏頂面で居たけど、スープを口へ入れた瞬間に頬が緩んでいた。
どれも人は見かけによらないんだなと驚くものばかりだ。
改めて思う。
本当に二人は凄い。
アルシアとテオの二人は共に身体強化の魔法を使い、魔物を一撃で葬り去っていった。
テオは戦士だから分かるけど、アルシアも身体強化の魔法しか使わなかった。
アルシア曰く、最も魔力消費が少ないから効率が良いらしい。
テオはその話を聞いて「お前だから言えることだな」と、半ば呆れたように言っていた。
この人たちは、こうしてずっと二人でやってきたんだろうな。
それこそ、相棒のような関係。
一体どれくらいの期間をかけてこんな関係を築いたのだろうか?
ふと思った疑問。
私はそれを二人にぶつけてみることに。
「お二人は、いつから仲間として活動してるんですか?」
その言葉を聞いたテオは得意気な表情を見せると、腕を組む。
「そうだな……あれは一年前……」
咄嗟にアルシアが遮る。
「別に仲間じゃないわよ」
え……仲間じゃない?
とても仲良さそうなのですけど、どういうこと?
アルシアを見てみると、テオをジト目でブスーとした表情で睨みつけている。
それにテオが気づくと、明らかに不服そうな顔をしている。
とても我慢ならない様子だ。
「おいおいアルシア、もう俺たち仲間みてぇなもんだろ?」
「は? ストーカーの間違いでしょ」
「誰がストーカーだ!」
「だってそうでしょ。いつギルドに行っても必ずアンタが居て、一人で依頼受けたのにホイホイ着いてくるんだもの」
「それはオメェが心配でだな――」
「無視しても着いてこないでと言っても延々と着いてくるし。これストーカー以外の何ものでもないでしょ」
「だからそれはだな――」
「ミア気をつけなさいよ。冒険者ってこういう奴ばっかだから」
「俺を変態みたいに言うな!」
「違うの?」
「違うわ!」
またコントが始まった。
ギャイギャイ言い合ってるけど、とても楽しそうに見える。
「良いかミア! 俺はだな、アルシアが心配で着いてきてるんだ! そこんところ勘違いすんなよ!」
「は、はぁ……」
「アルシアはなぁ、魔力無しだろ? だから他の冒険者もギルドの連中もアルシアのことを馬鹿にしてんだよ。昇格試験も受けねぇから未だにEランクだし。実力で言えば滅茶苦茶強ぇのにさ」
「アンタに何で心配されなきゃいけないのよ。ただ目立ちたくないから試験受けないだけ」
「それも俺は気に食わねぇ。オメェが魔法を使えるようになる為にとんでもねぇ努力をしてきたってのは俺でも分かる。それを皆何も理解しようとせずにバカにするんだ。見返してやろうとは思わねぇのか」
テオは本当に心配している様子だ。
けれどアルシアは胡座をかいて膝に頬杖を突き、そっぽを向いている。
「……別に」
「俺は腹が立って仕方がねぇ。努力した奴をバカにするなんざ許せねぇ」
「アンタと知り合ってたかだか一年くらいでしょ。私のこと、大して知らないくせに……」
「そうだな。けどこれからもっと知れるだろ?」
「……もしかしてワンチャン狙ってる?」
「狙ってねぇよ!」
「言っておくけどワンチャン無いから」
「だから違ぇって!」
私は二人のやりとりを見ていて、とても楽しそうだと思う。
こういったのって良いな。
思わず「アハハ」と笑い声が出てしまう。
すると、私の笑い声を聞いた二人がコチラを見た。
私が笑っているのが不思議なような顔をしている。
テオは私に問いかける。
「……そんなに面白いか?」
「そうですね……。だって、とても仲が良さそうなんですもの」
そう言うとアルシアが私をジト目で睨んでくる。
「どこが?」
明らかに不服そう。
だけど、そんな様子も可愛らしく思う。
「だって、アルシアさん何だかんだ言ってテオさんから逃げないじゃないですか。本心では嫌じゃないんだなって」
「………………プイッ」
アルシアは私の言葉を聞くと、何も言わずそのままそっぽを向いてしまった。
照れてるのかな?
私の言葉を聞いたテオを見ると、思いっきりニヤけていた。
「へぇぇぇぇ、なるほどそうかぁぁ」
あ、確かにこれは気持ち悪い。
アルシアの気持ちも少し分かった気がする。
そしてアルシアはテオのニヤケ顔をギロリと睨みつける。
「……あによ」
それを見たテオは顔のニヤケが収まっていない。
テオはニヤニヤしながら続ける。
「悪ぃが俺はまだそういうのは早いと――」
「別に今から逃げても良いのよ?」
「は? ふざけんなテメェ!」
「そういうの本当に無理だから」
「だから違ぇって言ってんだろ!」
「どうだか」
「じゃあオメーはどうなんだよ!」
「何でストーカーに言わなきゃいけないの」
「だから何でストーカーに――」
――ギャイギャイ言い合う二人の声が辺りにこだまする。
私は笑い声が抑えられない。
そしていつしか疲れて眠りにつく。
とても楽しい一夜。
冒険者って良いな――。
その名前にはとても聞き馴染みがあった。
それはかつて、ロードリックに何度も聞かせてとせがんだ『神々の聖戦』の神話に出てくる神の使徒の名前。
――それは今から二千年前、創造の女神ルクナの祝福を受けた二人の人間と破壊神ソルスとの戦い。
一人は、リンという名前の異世界からの訪問者。
そしてもう一人が、アルシアという名前の少女。
破壊神ソルスが人類を滅ぼそうと人間界と魔界を統合し、悪魔を全世界へ召喚して世界を滅茶苦茶にした。
それをリンとアルシアの二人で撃退し、破壊神を虚空の彼方へと葬り去ったとされている――
「アルシアさん! あの偉大な神の使徒のお名前を賜っていらっしゃるのですから、とても素晴らしいではないですか!」
思わず私は興奮してアルシアに言う。
けれどアルシアは私のそういった様子を見て顔をしかめる。
「どこがよ。あんな神話の登場人物と同じにされたら堪ったもんじゃないわ」
「どうしてですか? 私はとても羨ましいくらいですよ?」
「……アンタ、神話の中のアルシアがどういう人物か知ってる?」
「勿論です! 光も闇も全てを救う慈悲なる心を持ち、神に匹敵する程の強大な魔力で万物の法則すら自在に操る人類史上最強の魔術師。初代エルフ王が遺した書記には、五千年生きてこの目で見てきた人類の歴史上で唯一神殺しを成し遂げた人物であると――」
「……で、私は?」
アルシアはそう言って私の話を遮ってジロリと睨んできた。
どうやら私の物言いが気に食わないようだ。
「『私は?』というと……?」
「アンタは私を見てどう思う?」
「どう思うって……」
私はどう思うと問われて考える。
容姿はとても美しくて惚れ惚れするし、同じ魔術師でさっき見たように強いし、魔力とかも――
そこまで考えて気づく。
アルシアは、ブラッドウルフを倒した際に魔法を使った様子が見受けられなかった。それどころか魔力を一切感じない。
これは言いようのない違和感。
一体どういう事なのだろうか?
「……そういえば、アルシアさんは魔術師と仰いましたが、アルシアさんに魔力を一切感じません。先程ブラッドウルフを倒した際には魔法を使った様子も見受けられませんでした」
「……そういう事よ」
そういう事と言われ、私は一つの可能性に気づく。
そういった人が存在するというのは話には聞いていた。けどそうだとしても――
「……もしかして、アルシアさんは《魔力無し》……なのですか?」
私がアルシアにそう尋ねると、彼女は視線を下に落とした。
「……そうよ。私は生まれつき魔力を持たない魔力無しよ」
私の推測は合っていた。
基本的に魔力はこの世界に普遍的に存在している。
木々や岩、砂、空気にまで魔力が宿る。
私たち人類も個人差はあれど全員が魔力を宿していて、魔力の強さは、体内に溜められる量の違いでしかない。
けど極めて稀に、それこそ数千万人に一人の割合で体内へ魔力を溜められない人も存在している。
それが《魔力無し》
戦士も魔術師も戦闘の際には体内の魔力を使う。
戦士は身体強化に、魔術師は魔法に使う。
その魔力を持たないという事は、何の力も持たない生身の人間という事になる。
「けど、それではどうやってブラッドウルフを……。魔力を使わずにあんな芸当は出来ないはずです」
「……練習したからね」
「練習を? けど練習でどうにかなるものじゃ……」
私がそう言うと、アルシアは左手を私に向けた。
そして手の平を上に向けると、手の平の上に柔らかい光が灯る。
これは……光魔法!
「アルシアさん……それ……」
「幸いな事に……と言って良いのか分からないけど、魔力無しの私も光の加護を持っている。魔力はこの世界のどこにでも存在するから、私はその魔力を利用して魔法を使えるように練習した」
「そ、そんな事が……」
「一番魔力を取り出しやすいのが空気。さっきも空気から魔力を取り込んで身体強化の魔法を使った。常に呼吸しているし、体内にも取り込みやすいから」
「………………」
目の前で見た事が、私の頭では理解が追いつかない。
理屈は理解出来る。
けれど、その難易度がどれ程高いのか想像もつかない。
そもそも魔力無しの人間は魔力を感じる事が極めて困難。
それこそ、生まれつき耳が聞こえない人に音を感じろと言う程に難しい。
そして魔力を掴む感覚を得た所で、その魔力を利用しようとするなんて不可能に近い。
耳の聞こえない人が作曲しようとするくらい難易度が高い。
そもそも、自分以外の魔力を利用するなんて事が出来るという話すら聞いたことがない。
それを練習したからと出来るようになるなんて事は、それこそ一生かかっても無い。
この人は、本物の天才……?
「アルシアさん。貴女はやはり、その名に相応しいです」
「そう? 他の冒険者は皆バカにしてくるけどね」
「それはその人の見る目が無いだけです!」
「そう……」
するとアルシアの顔から険しさが消え、頬が緩んだのが見えた。
「ありがと」
私は、彼女が初めて笑顔を見せた気がした。
◇ ◇
私達三人は深い森を出るべく道なき道を進む。
道中魔物に遭遇しながらも、テオとアルシアがばったばったと倒していく。
私も魔法で援護しようとしたが、全て一撃で倒すものだから私の出る幕は無かった。
森を抜ける頃には日が暮れてきていた。
森を抜けた先はシュライン平原。
この平原まで出てしまえば街道があるので、その街道を二日歩けばシュラインの街がある。
けれどもう日も落ちるので、森と平原の境界付近で野宿をすることになった。
テオによると、木のある所のほうが雨風を防げるし魔物や野盗にも見つかりにくいから最適だそうだ。
これも冒険者の知恵。とても勉強になります。
テオが野宿に最適な場所を見つけ、私とアルシアは焚き火に使える薪木を探してくる。
そして日が暮れた頃には、焚き火をみんなで囲み夕食に。
料理は、テオが干し芋と干し肉のスープを作ってくれた。
シンプルだけど、香草やスパイスも入っていてとても食欲をそそられる。
粗暴な人だから適当に作るかと思ったけど、意外と手際も良い。
食べてみると味付けも絶品。
アルシアも今までずっと仏頂面で居たけど、スープを口へ入れた瞬間に頬が緩んでいた。
どれも人は見かけによらないんだなと驚くものばかりだ。
改めて思う。
本当に二人は凄い。
アルシアとテオの二人は共に身体強化の魔法を使い、魔物を一撃で葬り去っていった。
テオは戦士だから分かるけど、アルシアも身体強化の魔法しか使わなかった。
アルシア曰く、最も魔力消費が少ないから効率が良いらしい。
テオはその話を聞いて「お前だから言えることだな」と、半ば呆れたように言っていた。
この人たちは、こうしてずっと二人でやってきたんだろうな。
それこそ、相棒のような関係。
一体どれくらいの期間をかけてこんな関係を築いたのだろうか?
ふと思った疑問。
私はそれを二人にぶつけてみることに。
「お二人は、いつから仲間として活動してるんですか?」
その言葉を聞いたテオは得意気な表情を見せると、腕を組む。
「そうだな……あれは一年前……」
咄嗟にアルシアが遮る。
「別に仲間じゃないわよ」
え……仲間じゃない?
とても仲良さそうなのですけど、どういうこと?
アルシアを見てみると、テオをジト目でブスーとした表情で睨みつけている。
それにテオが気づくと、明らかに不服そうな顔をしている。
とても我慢ならない様子だ。
「おいおいアルシア、もう俺たち仲間みてぇなもんだろ?」
「は? ストーカーの間違いでしょ」
「誰がストーカーだ!」
「だってそうでしょ。いつギルドに行っても必ずアンタが居て、一人で依頼受けたのにホイホイ着いてくるんだもの」
「それはオメェが心配でだな――」
「無視しても着いてこないでと言っても延々と着いてくるし。これストーカー以外の何ものでもないでしょ」
「だからそれはだな――」
「ミア気をつけなさいよ。冒険者ってこういう奴ばっかだから」
「俺を変態みたいに言うな!」
「違うの?」
「違うわ!」
またコントが始まった。
ギャイギャイ言い合ってるけど、とても楽しそうに見える。
「良いかミア! 俺はだな、アルシアが心配で着いてきてるんだ! そこんところ勘違いすんなよ!」
「は、はぁ……」
「アルシアはなぁ、魔力無しだろ? だから他の冒険者もギルドの連中もアルシアのことを馬鹿にしてんだよ。昇格試験も受けねぇから未だにEランクだし。実力で言えば滅茶苦茶強ぇのにさ」
「アンタに何で心配されなきゃいけないのよ。ただ目立ちたくないから試験受けないだけ」
「それも俺は気に食わねぇ。オメェが魔法を使えるようになる為にとんでもねぇ努力をしてきたってのは俺でも分かる。それを皆何も理解しようとせずにバカにするんだ。見返してやろうとは思わねぇのか」
テオは本当に心配している様子だ。
けれどアルシアは胡座をかいて膝に頬杖を突き、そっぽを向いている。
「……別に」
「俺は腹が立って仕方がねぇ。努力した奴をバカにするなんざ許せねぇ」
「アンタと知り合ってたかだか一年くらいでしょ。私のこと、大して知らないくせに……」
「そうだな。けどこれからもっと知れるだろ?」
「……もしかしてワンチャン狙ってる?」
「狙ってねぇよ!」
「言っておくけどワンチャン無いから」
「だから違ぇって!」
私は二人のやりとりを見ていて、とても楽しそうだと思う。
こういったのって良いな。
思わず「アハハ」と笑い声が出てしまう。
すると、私の笑い声を聞いた二人がコチラを見た。
私が笑っているのが不思議なような顔をしている。
テオは私に問いかける。
「……そんなに面白いか?」
「そうですね……。だって、とても仲が良さそうなんですもの」
そう言うとアルシアが私をジト目で睨んでくる。
「どこが?」
明らかに不服そう。
だけど、そんな様子も可愛らしく思う。
「だって、アルシアさん何だかんだ言ってテオさんから逃げないじゃないですか。本心では嫌じゃないんだなって」
「………………プイッ」
アルシアは私の言葉を聞くと、何も言わずそのままそっぽを向いてしまった。
照れてるのかな?
私の言葉を聞いたテオを見ると、思いっきりニヤけていた。
「へぇぇぇぇ、なるほどそうかぁぁ」
あ、確かにこれは気持ち悪い。
アルシアの気持ちも少し分かった気がする。
そしてアルシアはテオのニヤケ顔をギロリと睨みつける。
「……あによ」
それを見たテオは顔のニヤケが収まっていない。
テオはニヤニヤしながら続ける。
「悪ぃが俺はまだそういうのは早いと――」
「別に今から逃げても良いのよ?」
「は? ふざけんなテメェ!」
「そういうの本当に無理だから」
「だから違ぇって言ってんだろ!」
「どうだか」
「じゃあオメーはどうなんだよ!」
「何でストーカーに言わなきゃいけないの」
「だから何でストーカーに――」
――ギャイギャイ言い合う二人の声が辺りにこだまする。
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