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『ばんごはんはんばーぐ』
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慶は、バイトに出かけている。
昨日は、あの後ソファで1時間くらい居たら……
慶も俺もそのまま寝てしまっていて……ソファでの寝苦しさに4時頃目が覚めて……布団も無いままだったから……全体力を使って慶を寝室へ運んでベッドに寝かせ、俺もそのまま直ぐに寝た。
慶は……多分、朝まで寝れてたと思う。
俺と居る事で、少しでも安心して寝てくれたんなら素直に嬉しい。
朝、先に起きたのは慶だったみたいで……俺は、爆睡してた。
持ったばかりの携帯で、アラームのセットの仕方を教えてやったから、きっと鳴ったであろうその音にも気付かないくらい、爆睡してた…。
目が覚めてリビングに出て行くと、慶は準備を済ませてバイトに出て行こうとしてたところだった。
完全にまだ覚醒していない頭で玄関まで行くと、よろけて壁にぶつかった俺を見て慶は可笑しそうに笑った。
「行って来るね」
「…お、」
寝起きすぎて声出ねぇし。
「あはは、めっちゃ眠そうっ。もう1回寝なよ」
そう言って、この前の朝と同じようにドアの隙間から俺に手を振って、出かけて行った。
また、下から俺を見るかも知れない、と……ベランダに出ると、下に出て来た慶は予想通りこちらを振り返り、この前と同じ様にブンブンと手を振る。
…すんげぇ振ってるし…。
あいつも…寝不足だよな、今日……
そんな事を考えながら、慶が見えなくなるまで見送って部屋に入る。
ふと目についたダイニングテーブルの上に、俺に宛てたメモがあった。
『おはよう。 昨日はどうもありがとう。 となりでいてやるって言ってくれて、すごくうれしかった。 じゃあ、行ってきます。 慶』
ひらがなの多い文面が、慶らしいって思えて少し口元が緩んだ。
そんなに上手じゃないけど、優しい雰囲気の文字。
食パンをトースターに入れてタイマーを回す。
焼きあがるまでの時間、何となく慶にメッセージを送ってみる。
『バイト、頑張ってな』
少しして……既読になった。
待つ事、1分。
『うん』
短っ。
うん、を打つのにどんだけかかってんだよ。
『晩ご飯、リクエストある?』
既読には直ぐになるけど……返事が一向に無い。
すでにトースターはチン、と鳴り、携帯を見つつトーストにバターを塗り終えた辺りで返事が来た。
『ゆうり』
え……
何だ…?
『まちがえた』
ウケる。
さては、パニクってんな。
『ゆうりくんにまかせ』
………面白ぇじゃねぇか。
コーヒーも作り終えて、ダイニングに座る。
全部ひらがなだし……最後の『る』はどうした。
鳴れない携帯で、めっちゃ焦ってんのが分かる。
『了解』
と送って話を終わらせた。
もっと何か送っても良かったけど、バイト前に疲れさせてしまうと思って止めておいた。
10時頃、桐ケ谷さんから連絡が来た。
『皆、元気にしてるか?いける奴、昼飯食いに行くから、12時にBIRTHに集合。俺の奢り。』
桐ケ谷さんらしい誘い方。
BIRTHの連絡網として、全スタッフが参加してるグループLINE。
次々と既読が付いて、参加者がどんどん返事してる。
…もちろん、俺も参加。
BIRTHの工事の進行も見たかったし。
vvv…
また、LINE受信。
天馬からだった。
『奏太乗っけてBIRTH行くけど、侑利んち経由しようか?』
付き合ってから2人一緒に見るの初めてだな…などと考えながら返信する。
『頼む~』
『おけー。 あ、慶ちゃん、居るなら会わせてよ』
……それ、言うと思ったわ。
『残念ながら、バイト行ってて居ない』
すぐに、盛大に泣き崩れてるスタンプが送られて来た。
そんなにショックじゃねぇだろう…。
『じゃあ経由しない』
『何でだよっ』
『(笑)』
『笑ってんじゃねぇよ』
『面白ぇなぁ、侑利は』
『面白くねぇし』
『じゃ、近く来たら連絡するわ~』
『はいよ』
いつもの感じ。
vvv…
置いた携帯が再び鳴った。
『ばんごはんはんばーぐ』
慶だ。
「あっはは」
思わず、1人で笑ってしまった。
俺に任せるんじゃ無かったのかよ…んで、今までずっと考えてたのかよ……そして、やっぱりひらがなかよっ。
何かの呪文かと思ったじゃねぇか…。
…ヤバい……ツボだ。
『おっけ。終わったら早く帰って来な』
呪文に対して、優しすぎる返事を返す。
慶と居ると何か調子狂うけど……それもそれで、嫌いじゃないな…。
もうすぐ着く、と天馬から連絡があったので、マンションの下まで降りて来た。
何となくここから、俺の部屋のベランダを見上げてみる。
いつも慶がやってるように。
……意外と遠い。
この距離でブンブン手ぇ振ってんのか、あいつ…。
恥ずかしい奴…。
そんな事を考えてたら、マンション前に天馬の車が到着した。
近付いて行くと、助手席には奏太の姿。
「おす~」
「よ」
いつもの緩い挨拶を交わして後部座席へ乗り込むと、助手席から奏太が俺を振り返った。
「久我さん」
少し、恥ずかしそうな表情。
「お、奏太、良かったな」
先に言ってやる。
「…はい…ありがとうございました」
「いや、別に、礼言われるような事はなんもしてないけど」
「相談したから……」
天馬が居るから少し言い辛そうに奏太が言う。
「相談ってほどでもなかったけどな」
立ち話程度だったしさ。
奏太の作戦勝ちだよ、罠にハマったって天馬言ってたし。
「んで、どうなの?」
2人の状況を聞く。
付き合い始めだしさ……そりゃ、色々楽しいんだろ?
「奏太がね、想像以上に家庭的」
天馬が言う。
「そうなの?」
「家事得意っぽいわ」
「へぇ~、奏太、料理出来んの?」
慶は全然だけどな…。
「まぁ…一応は。僕も一人暮らしなんで」
「自炊してたの?」
「してますよ~、外食もそんなにしないし」
意外だ。
奏太は、何となく、友達とランチとか行くタイプだと思ってた。
「え、じゃあ、休みの日は何してんの?」
「部屋の掃除とか、買い出しとかですかね」
「……家庭的すぎんだろ」
あんまり想像つかないけどね、買い出ししてるとことか…。
奏太は、イマドキ、って感じの美意識高め男子だからさ……休みの日は自分磨きしてます、とか言ってそうなんだけどな…。
ギャップにやられる感じかもな…。
「天馬、何もしねぇだろ?」
「……はい」
少し遠慮気味に奏太が言う。
「おいおい、待て待て、俺だってやってるよ」
「何やってんだよ、例えば」
例えば……と、しばらく考えて……
「洗剤詰め替えたりとか」
後ろから少し見えてる後頭部を小突く。
「いて、何だよ」
「他には」
「他?」
う~~ん…と、考えて…。
「洗濯の予約、セットしてるわ」
隣で奏太がクスクス笑ってる。
そんなとこも可愛い、とか思ってんだろ、どうせ。
「良いんです、天馬さんは何もしなくても」
奏太が俺に言う。
好きな相手が、自分の方を向いたって自信に包まれてるっていうか……そんな、幸せそうな顔。
俺が見たのは、あの、辛そうにしてた奏太が最後だったから……幸せそうにしててくれると、俺まで嬉しくなって来る感じ。
天馬だって、何だかんだで楽しそうだしさ。
「俺が何かしたら、結局奏太の仕事を増やす事になるからさ」
「だからしないの?」
「そうだよ?知らなかった?」
「知らないしっ。って言うか、僕の仕事増やす事になる、ってどんだけ家事苦手なのっ」
奏太は、いつの間にか天馬への敬語は無くなってて……距離が近付いたんだなって思わされる。
……親友と後輩のデレデレした会話聞いてるのも、こっ恥ずかしくなるけど……まぁ、付き合い始めだし、って事で許してやろう…。
BIRTHに着いたら、もうみんな来てた。
「おーっす」
久々に巴流と大和に会ったら、行き成り突進して来た2人に揉みくちゃにされた。
「侑利っ、会いたかったぞ」
「ちょっと、巴流ばっかずるいわ、退いて退いて」
……こいつらに、俺は人気だ。
何か、いじられてる。
ここに天馬も加わると、鬱陶しいったらない。
まぁ、仲が良い故の事だから別に良いんだけどさ…。
工事は進んでて、前のBIRTHの面影はあまり無い。
まぁ、まだ中もグチャグチャで完成のイメージも沸かねぇけど。
「おー、じゃあ、行くか」
珍しい、完全オフモードの桐ケ谷さんが言った。
いつもは、スーツでビシッとしてるけど、今日はラフな格好。
総勢、14人。
桐ケ谷さんと巴流の車がデカいから、それに分かれて乗り込んで出発した。
桐ケ谷さんの同級生の友達がやってるらしい隠れ家的な定食屋。
ちょっとした宴会に使うような大部屋もあるらしく、そこへ通される。
昼間だけど少し暗くて雰囲気も良くて、定食屋とは思えない造り。
この店のご主人も桐ケ谷さんの友達ってだけあって、すごく感じが良くてこれまた35歳には見えない人だった。
俺も35歳の時には、こういう感じに歳取ってたら良いな…などと漠然と考える。
全員が注文して、料理が来るまでの間。
皆それぞれに喋ってたんだけど……
「あの、どうせすぐ気付くと思うから言っときます」
突然、天馬が発して場を静めた。
……この流れは……
「俺、奏太と付き合ってます」
…言うんかいっ。
すっっげぇ静まったし!!
まぁ、そりゃ、確かに、すぐバレるわな…。
「「「「「えーーーーーーっっ!!!」」」」」
何人同時の絶叫だったか……。
何気に、桐ケ谷さんも一緒に叫んでたし…。
「おい、天馬っ、お前唐突すぎんだよっ」
飲んでた水で咽込みながら桐ケ谷さんが言う。
「付き合ってるって、どういう事?」
「好きって事??」
巴流と大和がバカ丸出しの質問してる。
「や、まぁ、そういう事になるね」
天馬も真剣に答えてるし。
「何なの、いつからっ」
「奏太、天馬の何処がいいのっ」
「俺の方が良い男なのにっ」
代わる代わる色んな事を言う。
他のスタッフも、
「奏太くん、俺のアイドルだったのに~」
「俺も告っときたかった~」
「男同士って、そんなジャンル有りなのっ?」
「だったら、俺、侑利狙うわ」
おいおい、誰だ今言ったの。
「ダメだっ、有利は俺んだからな」
「おい、巴流どした」
「お前とは絶対付き合わねぇよ」
流れに乗って振ってやった。
「お前、シレッと撃沈させてんじゃねーよ」
「あはは、巴流、一瞬で振られたね」
「うっせ、黙れ大和」
何なんだよ、お前らは…。
「天馬、奏太、付き合うのは良いけど、仕事中はくっ付くのナシな」
咽込みから脱出出来たらしい桐ケ谷さんが言った。
「そこは、分かってます」
天馬がしっかりと返事をすると、横で奏太も頷いた。
「お前らも相手が男でも女でも、誰と付き合っても自由だけど、仕事は別。ちゃんとやんねぇ奴は全員に飯奢らせるぞ」
桐ケ谷さんらしい発言だ。
ふざけてるようだけど…ちゃんと、俺らの事を信頼してくれてるんだって、分かる。
だから、付いて行きたくなるんだ、きっと。
信頼されると、自信になる。
「あ、そうだ、皆来週の旅行、大丈夫?」
帰りの巴流の車で、大和が助手席から言った。
巴流の車に乗ってる面子は、全員参加予定してる奴らだ。
桐ケ谷さんの車の方にも数名、それから、今日来れてない奴も居る。
全員が揃って休みなんて機会無いから、都合の合う奴だけで旅行を計画した。
言い出しっぺは巴流と大和。
この2人はイベント事などが好きだから、今までも日帰り旅行は何度も企画してる。
とにかく、スタッフの関係は非常に良好で、プライベートもけっこうみんな連絡を取り合っている。
男だらけの職場では珍しい事かも知れないけど、それがBIRTHでは普通だ。
旅行は沖縄3泊4日を予定してる。
早くから予約してて、俺も沖縄は行った事無かったから直ぐに参加の返事をした。
……ただ、今になって少し、気になってる事がある。
慶の寝不足が…引っかかってる。
家族の命日は来週って言ってた。
今でさえ寝れてないのに、来週なんか一睡も出来ないんじゃないか、って……すごく心配になる。
「じゃ、みんな予定通りオッケーね」
大和が確認するように言った。
昨日は、あの後ソファで1時間くらい居たら……
慶も俺もそのまま寝てしまっていて……ソファでの寝苦しさに4時頃目が覚めて……布団も無いままだったから……全体力を使って慶を寝室へ運んでベッドに寝かせ、俺もそのまま直ぐに寝た。
慶は……多分、朝まで寝れてたと思う。
俺と居る事で、少しでも安心して寝てくれたんなら素直に嬉しい。
朝、先に起きたのは慶だったみたいで……俺は、爆睡してた。
持ったばかりの携帯で、アラームのセットの仕方を教えてやったから、きっと鳴ったであろうその音にも気付かないくらい、爆睡してた…。
目が覚めてリビングに出て行くと、慶は準備を済ませてバイトに出て行こうとしてたところだった。
完全にまだ覚醒していない頭で玄関まで行くと、よろけて壁にぶつかった俺を見て慶は可笑しそうに笑った。
「行って来るね」
「…お、」
寝起きすぎて声出ねぇし。
「あはは、めっちゃ眠そうっ。もう1回寝なよ」
そう言って、この前の朝と同じようにドアの隙間から俺に手を振って、出かけて行った。
また、下から俺を見るかも知れない、と……ベランダに出ると、下に出て来た慶は予想通りこちらを振り返り、この前と同じ様にブンブンと手を振る。
…すんげぇ振ってるし…。
あいつも…寝不足だよな、今日……
そんな事を考えながら、慶が見えなくなるまで見送って部屋に入る。
ふと目についたダイニングテーブルの上に、俺に宛てたメモがあった。
『おはよう。 昨日はどうもありがとう。 となりでいてやるって言ってくれて、すごくうれしかった。 じゃあ、行ってきます。 慶』
ひらがなの多い文面が、慶らしいって思えて少し口元が緩んだ。
そんなに上手じゃないけど、優しい雰囲気の文字。
食パンをトースターに入れてタイマーを回す。
焼きあがるまでの時間、何となく慶にメッセージを送ってみる。
『バイト、頑張ってな』
少しして……既読になった。
待つ事、1分。
『うん』
短っ。
うん、を打つのにどんだけかかってんだよ。
『晩ご飯、リクエストある?』
既読には直ぐになるけど……返事が一向に無い。
すでにトースターはチン、と鳴り、携帯を見つつトーストにバターを塗り終えた辺りで返事が来た。
『ゆうり』
え……
何だ…?
『まちがえた』
ウケる。
さては、パニクってんな。
『ゆうりくんにまかせ』
………面白ぇじゃねぇか。
コーヒーも作り終えて、ダイニングに座る。
全部ひらがなだし……最後の『る』はどうした。
鳴れない携帯で、めっちゃ焦ってんのが分かる。
『了解』
と送って話を終わらせた。
もっと何か送っても良かったけど、バイト前に疲れさせてしまうと思って止めておいた。
10時頃、桐ケ谷さんから連絡が来た。
『皆、元気にしてるか?いける奴、昼飯食いに行くから、12時にBIRTHに集合。俺の奢り。』
桐ケ谷さんらしい誘い方。
BIRTHの連絡網として、全スタッフが参加してるグループLINE。
次々と既読が付いて、参加者がどんどん返事してる。
…もちろん、俺も参加。
BIRTHの工事の進行も見たかったし。
vvv…
また、LINE受信。
天馬からだった。
『奏太乗っけてBIRTH行くけど、侑利んち経由しようか?』
付き合ってから2人一緒に見るの初めてだな…などと考えながら返信する。
『頼む~』
『おけー。 あ、慶ちゃん、居るなら会わせてよ』
……それ、言うと思ったわ。
『残念ながら、バイト行ってて居ない』
すぐに、盛大に泣き崩れてるスタンプが送られて来た。
そんなにショックじゃねぇだろう…。
『じゃあ経由しない』
『何でだよっ』
『(笑)』
『笑ってんじゃねぇよ』
『面白ぇなぁ、侑利は』
『面白くねぇし』
『じゃ、近く来たら連絡するわ~』
『はいよ』
いつもの感じ。
vvv…
置いた携帯が再び鳴った。
『ばんごはんはんばーぐ』
慶だ。
「あっはは」
思わず、1人で笑ってしまった。
俺に任せるんじゃ無かったのかよ…んで、今までずっと考えてたのかよ……そして、やっぱりひらがなかよっ。
何かの呪文かと思ったじゃねぇか…。
…ヤバい……ツボだ。
『おっけ。終わったら早く帰って来な』
呪文に対して、優しすぎる返事を返す。
慶と居ると何か調子狂うけど……それもそれで、嫌いじゃないな…。
もうすぐ着く、と天馬から連絡があったので、マンションの下まで降りて来た。
何となくここから、俺の部屋のベランダを見上げてみる。
いつも慶がやってるように。
……意外と遠い。
この距離でブンブン手ぇ振ってんのか、あいつ…。
恥ずかしい奴…。
そんな事を考えてたら、マンション前に天馬の車が到着した。
近付いて行くと、助手席には奏太の姿。
「おす~」
「よ」
いつもの緩い挨拶を交わして後部座席へ乗り込むと、助手席から奏太が俺を振り返った。
「久我さん」
少し、恥ずかしそうな表情。
「お、奏太、良かったな」
先に言ってやる。
「…はい…ありがとうございました」
「いや、別に、礼言われるような事はなんもしてないけど」
「相談したから……」
天馬が居るから少し言い辛そうに奏太が言う。
「相談ってほどでもなかったけどな」
立ち話程度だったしさ。
奏太の作戦勝ちだよ、罠にハマったって天馬言ってたし。
「んで、どうなの?」
2人の状況を聞く。
付き合い始めだしさ……そりゃ、色々楽しいんだろ?
「奏太がね、想像以上に家庭的」
天馬が言う。
「そうなの?」
「家事得意っぽいわ」
「へぇ~、奏太、料理出来んの?」
慶は全然だけどな…。
「まぁ…一応は。僕も一人暮らしなんで」
「自炊してたの?」
「してますよ~、外食もそんなにしないし」
意外だ。
奏太は、何となく、友達とランチとか行くタイプだと思ってた。
「え、じゃあ、休みの日は何してんの?」
「部屋の掃除とか、買い出しとかですかね」
「……家庭的すぎんだろ」
あんまり想像つかないけどね、買い出ししてるとことか…。
奏太は、イマドキ、って感じの美意識高め男子だからさ……休みの日は自分磨きしてます、とか言ってそうなんだけどな…。
ギャップにやられる感じかもな…。
「天馬、何もしねぇだろ?」
「……はい」
少し遠慮気味に奏太が言う。
「おいおい、待て待て、俺だってやってるよ」
「何やってんだよ、例えば」
例えば……と、しばらく考えて……
「洗剤詰め替えたりとか」
後ろから少し見えてる後頭部を小突く。
「いて、何だよ」
「他には」
「他?」
う~~ん…と、考えて…。
「洗濯の予約、セットしてるわ」
隣で奏太がクスクス笑ってる。
そんなとこも可愛い、とか思ってんだろ、どうせ。
「良いんです、天馬さんは何もしなくても」
奏太が俺に言う。
好きな相手が、自分の方を向いたって自信に包まれてるっていうか……そんな、幸せそうな顔。
俺が見たのは、あの、辛そうにしてた奏太が最後だったから……幸せそうにしててくれると、俺まで嬉しくなって来る感じ。
天馬だって、何だかんだで楽しそうだしさ。
「俺が何かしたら、結局奏太の仕事を増やす事になるからさ」
「だからしないの?」
「そうだよ?知らなかった?」
「知らないしっ。って言うか、僕の仕事増やす事になる、ってどんだけ家事苦手なのっ」
奏太は、いつの間にか天馬への敬語は無くなってて……距離が近付いたんだなって思わされる。
……親友と後輩のデレデレした会話聞いてるのも、こっ恥ずかしくなるけど……まぁ、付き合い始めだし、って事で許してやろう…。
BIRTHに着いたら、もうみんな来てた。
「おーっす」
久々に巴流と大和に会ったら、行き成り突進して来た2人に揉みくちゃにされた。
「侑利っ、会いたかったぞ」
「ちょっと、巴流ばっかずるいわ、退いて退いて」
……こいつらに、俺は人気だ。
何か、いじられてる。
ここに天馬も加わると、鬱陶しいったらない。
まぁ、仲が良い故の事だから別に良いんだけどさ…。
工事は進んでて、前のBIRTHの面影はあまり無い。
まぁ、まだ中もグチャグチャで完成のイメージも沸かねぇけど。
「おー、じゃあ、行くか」
珍しい、完全オフモードの桐ケ谷さんが言った。
いつもは、スーツでビシッとしてるけど、今日はラフな格好。
総勢、14人。
桐ケ谷さんと巴流の車がデカいから、それに分かれて乗り込んで出発した。
桐ケ谷さんの同級生の友達がやってるらしい隠れ家的な定食屋。
ちょっとした宴会に使うような大部屋もあるらしく、そこへ通される。
昼間だけど少し暗くて雰囲気も良くて、定食屋とは思えない造り。
この店のご主人も桐ケ谷さんの友達ってだけあって、すごく感じが良くてこれまた35歳には見えない人だった。
俺も35歳の時には、こういう感じに歳取ってたら良いな…などと漠然と考える。
全員が注文して、料理が来るまでの間。
皆それぞれに喋ってたんだけど……
「あの、どうせすぐ気付くと思うから言っときます」
突然、天馬が発して場を静めた。
……この流れは……
「俺、奏太と付き合ってます」
…言うんかいっ。
すっっげぇ静まったし!!
まぁ、そりゃ、確かに、すぐバレるわな…。
「「「「「えーーーーーーっっ!!!」」」」」
何人同時の絶叫だったか……。
何気に、桐ケ谷さんも一緒に叫んでたし…。
「おい、天馬っ、お前唐突すぎんだよっ」
飲んでた水で咽込みながら桐ケ谷さんが言う。
「付き合ってるって、どういう事?」
「好きって事??」
巴流と大和がバカ丸出しの質問してる。
「や、まぁ、そういう事になるね」
天馬も真剣に答えてるし。
「何なの、いつからっ」
「奏太、天馬の何処がいいのっ」
「俺の方が良い男なのにっ」
代わる代わる色んな事を言う。
他のスタッフも、
「奏太くん、俺のアイドルだったのに~」
「俺も告っときたかった~」
「男同士って、そんなジャンル有りなのっ?」
「だったら、俺、侑利狙うわ」
おいおい、誰だ今言ったの。
「ダメだっ、有利は俺んだからな」
「おい、巴流どした」
「お前とは絶対付き合わねぇよ」
流れに乗って振ってやった。
「お前、シレッと撃沈させてんじゃねーよ」
「あはは、巴流、一瞬で振られたね」
「うっせ、黙れ大和」
何なんだよ、お前らは…。
「天馬、奏太、付き合うのは良いけど、仕事中はくっ付くのナシな」
咽込みから脱出出来たらしい桐ケ谷さんが言った。
「そこは、分かってます」
天馬がしっかりと返事をすると、横で奏太も頷いた。
「お前らも相手が男でも女でも、誰と付き合っても自由だけど、仕事は別。ちゃんとやんねぇ奴は全員に飯奢らせるぞ」
桐ケ谷さんらしい発言だ。
ふざけてるようだけど…ちゃんと、俺らの事を信頼してくれてるんだって、分かる。
だから、付いて行きたくなるんだ、きっと。
信頼されると、自信になる。
「あ、そうだ、皆来週の旅行、大丈夫?」
帰りの巴流の車で、大和が助手席から言った。
巴流の車に乗ってる面子は、全員参加予定してる奴らだ。
桐ケ谷さんの車の方にも数名、それから、今日来れてない奴も居る。
全員が揃って休みなんて機会無いから、都合の合う奴だけで旅行を計画した。
言い出しっぺは巴流と大和。
この2人はイベント事などが好きだから、今までも日帰り旅行は何度も企画してる。
とにかく、スタッフの関係は非常に良好で、プライベートもけっこうみんな連絡を取り合っている。
男だらけの職場では珍しい事かも知れないけど、それがBIRTHでは普通だ。
旅行は沖縄3泊4日を予定してる。
早くから予約してて、俺も沖縄は行った事無かったから直ぐに参加の返事をした。
……ただ、今になって少し、気になってる事がある。
慶の寝不足が…引っかかってる。
家族の命日は来週って言ってた。
今でさえ寝れてないのに、来週なんか一睡も出来ないんじゃないか、って……すごく心配になる。
「じゃ、みんな予定通りオッケーね」
大和が確認するように言った。
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