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「それでさぁ……送らせてくれないかな」
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*工藤side *
マジで……
羽柴くんが、大ケガをしてしまったんじゃ無いかと思った。
こんな事が起きるとは………
それが起きたのは、今から1時間ほど前。
初めて、休憩を一緒にした日……羽柴くんは、男の恋人が居ると俺に言った。
もちろん、俺は誰にも言ってなくて…俺の胸の中だけに留めてる。
こんな話、どっかで漏らしたら、すぐ広まるに違いない。
そうでなくとも、羽柴くんは女子たちの注目を浴びている存在だから…。
あの日から、羽柴くんは少し俺に心を開いてくれたようで、それまでは割と身構えてる感じがあったけど、それがだいぶ無くなり、会話も緊張感が良い意味で取れて来た。
俺に、慣れて来てくれたんだなぁ、って単純に嬉しくなる。
羽柴くんの、大きな秘密を知ってるって事が……一歩近付いた気がして……何となく心地良かった。
…と言うのも……ちょっと困りもんで……
羽柴くんから、男の恋人が居るって聞いた後から………
何か……少し……上手く言えないけど……
同性なんだけど、異性のような………男なんだけど……女の子のような…………とにかく、普通の人とは違う所に羽柴くんを位置付けしてる自分が居る…。
だってさ、恋人が男って事は……まぁ、その、そういうエッチ的な事も……男同士でする訳であって……
そうした場合、羽柴くんは……彼女みたいな、って言うか……その……受け身的な感じで居るのか…とか…
とにかく、悶々とした妄想で頭がグチャグチャになる。
しかも、余りにそんな事を妄想しすぎて………つい、ちょっとした興味本位もあって、そういう動画的なものを見てしまい……男同士でその……何て言うか……エッチしてしまうような世界を覗いてしまった…。
羽柴くんは、見た目がほんとにキレイだから、そういう場面も容易に想像出来てしまう所が、そもそもの失敗だろう…。
動画で見た男の子に羽柴くんを重ねたりして……危ない俺が少し顔を出してんだ…。
とにかく俺は……あの日以来、羽柴くんの事を……そういう、モヤモヤとした目線で見てしまっている。
普通に接してはいるものの、羽柴くんと話す時は少なからず心拍数が上がってるのが分かる。
救いなのは、羽柴くんが全くそう言う事を勘繰ったりする性格じゃないってとこ。
そんな、俺のモヤモヤが引き起こした事件……いや、事故だ。
1時間ほど前、羽柴くん達の所の完成品を回収に行った。
裏に溜まってたコンテナを幾つか積み上げて持ち、それを羽柴くんの隣へ下ろそうとしてる時だった。
完全なる俺の不注意で、その事故は起きた。
俺の場所から見えた羽柴くんの横顔が凄くキレイで…
ほんとに……女優さんにも負けないようなキレイな輪郭。
正直、完全に見惚れてしまってた。
ちょっとぼんやりしてしまった。
羽柴くんの方へ踏み出そうとした俺の足を、何かが遮った。
コードだ!……と思った時は既に遅かった。
「ぅ、わっ」
俺の右足は、完全にそのコードを掬い上げていて、次の一歩を踏み出した左足がコードに引っ掛かる形になった。
羽柴くんにぶつかる!!って思ったけど、人間、咄嗟の瞬間には大した声が出ないもんで…。
「え、」
俺の中途半端な声に気付いた羽柴くんが振り返ったけど……もう、体勢を立て直すのは無理で……
俺の体はもう前につんのめった感じになってて、まるでロックオンしたように羽柴くんめがけてゆっくり倒れた。
いや、実際にはゆっくりだったように感じただけだろう…。
振り返ろうとした羽柴くんに突っ込む形。
俺は持ってたコンテナを床へ全て投げ落とした。
更には、俺の半分ぐらいしかない華奢な羽柴くんを簡単に巻き込んで、俺が上から押し倒す形で床に倒れた。
と、言うよりも正確には押し潰した感じ…。
床に落としたコンテナの派手な音。
主に機械音しかしない工場内では、それはすごく異音で……周りのスタッフが何人も駆け寄って来た。
俺はと言うと……
思いっ切り羽柴くんの上に倒れた事で、余り衝撃は無かったんだけど……とにかく、羽柴くんがどうにかなってしまったかも知れないって事だけが気になってた。
後は……
こんな時に不謹慎だけど、倒れた瞬間の羽柴くんの「…あっ、」っていう、……すごく……色気を含んだ声と……
被さるようにして倒れた事で、羽柴くんが着てるネルシャツの襟首の隙間から偶然見えてしまった……………紅い痕………
一瞬にして、顔が熱くなって急いで起き上がった。
瞬時に、動画の中で悶えまくってる男の声と表情が脳内を支配する。
ダメだダメだダメだダメだ…!
これじゃ俺、ただの変態じゃないかっ。
羽柴くんはまだ床に倒れてて、何が起きたのかやっと理解出来た感じ…。
「ごっ…ごめんっ!!羽柴くんっ!!大丈夫っ!?」
起こそうと手を引っ張ったら羽柴くんが大きく顔を顰めた。
「ごめんっ、痛い!?」
手を引っ張るのは止めて背中を抱き起こすようにして、床に座った状態まで起こす。
「どこ痛いのっ?」
上腕部を摩ってる。
俺が聞くと羽柴くんは少し左手を動かして、どうしたら痛むかを確かめてる。
「ちょっと…痛むだけです、大丈夫」
「いや、大丈夫じゃないよ、全然。ほんとごめん、俺の不注意でこんな…」
情けなかった。
羽柴くんに見惚れて、こんなケガさせるような失敗するなんて…。
気が付くと、この騒ぎに事務所のスタッフも沢山集まって来てた。
「大丈夫っ?」
「どうなったのっ?」
色々聞かれる。
「俺がコードに躓いて…羽柴くんにぶつかって倒しちゃって…」
「えーっ!!工藤さんみないなでっかい人がぶつかったら羽柴くん折れちゃいますよっ」
確かに…
ほんとに…折れてないか心配……
上腕部は、手を捻るような動きをした時に痛みが走るみたいだから……少し…筋を傷めたのかも知れない…。
「羽柴くん、顔打ってんじゃない?」
「え?」
他の人に言われて羽柴くんの顔をちゃんと見ると………ほんとだ……目の下の辺り…床にぶつけたと思われる打撲があった。
こんなキレイな顔に……ケガをさせてしまった俺って………
ほんと………情けない以外の何者でも無い……。
「羽柴くん、ほんと……ごめん…俺、」
「もう、そんなに、謝らないで下さい、大丈夫ですっ」
羽柴くんに気遣ってもらって更に情けなさが積もる…。
「他は痛いとこない?立てる」
床に座ったままの羽柴くんを抱き起すようにして立たせようとした……けど……
「ぁ、痛っ、」
左足に力を入れた瞬間、羽柴くんがそう言って俺に掴まって来た。
不意に掴まれて、ちょっとドキドキしてる単純な俺…。
でもダメだ……今はそんな事考えてる場合じゃないな……
「足?痛いの?」
「……捻っちゃったのかも…」
………俺……どんだけケガさせてんだ……
羽柴くんが振り返ってる途中で巻き込んだから、横向きに押し倒した感じになった。
体の左側が下になってたから………左手は咄嗟に床に手を付いたんだろうな……足も変な向きに倒したからきっと傷めたんだ……
挙句の果てには顔にまで傷……
ほんとに………謝っても謝り切れないよ、こんなの…。
集まって来てたスタッフも、少ししてそれぞれの持ち場に戻って貰った。
事務スタッフに、イスと湿布を持って来るよう頼む。
羽柴くんは、謝り続けてる俺をずっと気遣ってくれてる。
「もう、謝るの無しです」
「…いや、でも…」
「無しですっ」
「…………はい」
俺の返事に、ははっ、と明るく笑う。
良い子なんだよ、ほんとに……
彼氏が羨ましい…………………って、おいっ、俺、何想像してんだよっ……。
だけど、頭の奥で倒れた時の羽柴くんの声と、あの…キスマークがチラついて……どんどん羽柴くんをそういう目線で見てしまってる自分に……だいぶ驚く…。
持って来てくれたパイプ椅子と湿布を受け取り、工場の端の方へ移動しそこへ羽柴くんを座らせる。
「足首、見せて貰える?」
「あ、はい」
歩こうとしたら痛む、という左足首。
羽柴くんは言った通りに靴と靴下を脱ぎ、パンツの裾を膝下まで捲り上げた。
あ、……ヤバい……
ヤバいヤバい……言うんじゃなかった……
想像よりも細い、女の人みたいにキレイな足と細い足首が目の前に現れる。
男を思わせるような感じはほとんど無くて……ほんとに……女の子なんじゃないかって思うぐらいで………俺の足とは随分違う……同じ男なのに…。
良からぬ想像が頭にどんどん沸いて来る。
膝上はどうなってんだろう、とか…………変態さながらな事が過った時には思わず頭を振って妄想を打ち消した。
その細い足首が、少し腫れてる。
じっとしてたら痛くないみたいだから、骨には異常無いと思うんだけど……
病院行くにも、今日は日曜だししかも夜だし………
湿布貼るくらいの応急処置しか出来ないけど……
「ちょっとごめんね、湿布貼るよ?」
断ってから貼る。
「冷たっ」
そう言って少し肩を竦めた様子も、可愛いななんて思ってみたり……
彼氏が居る……しかも男にこんな風に思うなんて、俺相当重症だな…とか…。
「羽柴くん……今日はもう上がって良いから」
「え?」
「この状態で仕事はさせらんないよ」
捲り上げてた裾を戻しながら、戸惑った顔してる。
「ほんとは…病院で診て貰った方が良いんだろうけど……今日は病院無理だしね……ほんとごめん」
また謝ってしまった俺に、羽柴くんはフフッと笑ってくれた。
「それでさぁ……送らせてくれないかな」
「えっ?」
「家まで送らせて」
「え、そんなっ、大丈夫です大丈夫ですっ」
思いっ切り遠慮して来る。
「や、でも…羽柴くん最近自転車でしょ?……漕げる?」
「…………………」
漕げるかどうか真剣に考えてる。
……くそー………可愛いな、マジで…。
「腕も傷めてるしさ……ハンドル操作大丈夫?」
「…………………」
「俺の方は大丈夫。俺もこの後休憩だったしさ、俺が抜けても工場がストップする訳でも無いしね。…だから、送らせてよ。ケガさせたお詫び」
俺がどうしてもと頼んだのもあって、羽柴くんは考えた後「じゃあ、お願いします」と言った。
先輩として、そして、現場を預かってる者として、当然だろう…。
「自転車、どうする?」
「あー……」
「車に乗せれない事もないけど」
「あの…えっと、ちょっとだけ待って貰ってて良いですか?」
羽柴くんは俺にそう断って、俺の車から少し離れると電話をかけ始めた。
とりあえず、一旦車に乗り込んで助手席の辺りをキレイに整える。
まさか、羽柴くんを車に乗せる事になるとは思って無かった……
こんな事なら、良い香りのするカーフレグランスでも買っとけば良かったな……
「…よし」
一応、キレイにした。
助手席にほとんど人を乗せない。
彼女でも居たら別なんだろうけど、生憎フリーなので助手席は常に俺の荷物置き場と化している。
チラっと羽柴くんを見ると、誰かと話してる。
大凡、電話の相手が誰か予想はついてるけど
俺は……ノーマルだ。
今までの人生……適度に彼女だって居たし、長くやってるラグビーの方面でも飲み会の席が多々あるけど、そういう場でもそこそこ女の子に人気はある方だと思う。
故に、恋人に男を選んだ事も言い寄られた事も無い。
だから、余計に戸惑ってる。
そもそも、羽柴くんみたいな男子が俺の周りには居なかった。
みんなラグビーやっててマッチョな奴らばっかりで……あんな、女の子みたいに華奢でキレイな男子を今までに見た事がない。
だからきっと免疫が無いんだな……。
普通に……女の子を好きになるみたいに…………羽柴くんの事を考えてる自分が確かに居る。
今だって、きっと……恋人に電話してるであろう、その電話の内容が気になって仕方ない。
恋人の前だとどんな風に喋るのか……どんな表情をするのか………どんな風に……あんな事するのか………
…あーーっ!!ダメだダメだっ……ほんとにこれじゃ、ただの変態だよ……
無理矢理、妄想を打ち消してたら……コツコツと窓を叩く音がした。
ハッとしてそちらを見ると、電話を終えた羽柴くんが立ってた。
「あ、ごめん」
「あの……自転車なんですけど…乗りますか?」
「あぁ、多分乗ると思う。乗せてみようか」
俺は車を降りて、トランクを開ける。
普段は触らない後ろのシートを畳むと、思ったよりも広い空間が出来て、羽柴くんのオレンジの自転車はすんなり積み込めた。
「案外広いね」
「そうですね」
自分の車の広さに改めて驚いていると、羽柴くんにクスクス笑われた。
「じゃあ、乗って」
「はい、失礼します」
礼儀正しい羽柴くんらしく、控え目に乗り込んで来る。
「ごめんね、急いで片付けたけど…」
「いえ、全然。俺の方こそすみません、急にこんな…」
いやいや、謝るのは俺だって。
羽柴くんにこんなケガさせてさ……
ほんと、時間を戻したいって今日ほど思った日無いよ…。
「えっと、じゃあ、道言ってね」
「あ、あの、それなんですけど……家じゃなくて……えっと……彼の仕事場に送って貰って良いですか…?」
『彼の』……ってとこが…胸に刺さる。
ちょっと恥ずかしそうに言った羽柴くんの顔も、その彼が羨ましくて仕方無いくらい可愛くて……
こんな子に想われる人って、どんな人なんだろう……。
って言うか……もしかして俺はその『彼』と対面する事になるんじゃないのか?
恋人がケガして、職場の上司が送って来てんだし……
俺が彼氏だったら……上司の車のとこまで迎えに行くだろう…。
……何か……落ち着かないけど………これは、もう、送るしかないし………とにかく、行こう。
羽柴くんのナビで車を発進させた。
「彼…こんな時間だけどまだ働いてるの?」
カーオーディオの時間を見ると、21時40分。
「バーで働いてるんで、夜中まで仕事です」
「バー?」
…………ホストっぽい感じなのかな……
すっげぇチャラい奴だったらどうしよう……
「あ、バーって言っても、いかにもな感じじゃなくて……何か、若者が沢山集まって来る感じの……何て説明したら良いか……」
説明に悩んでる羽柴くんが可愛くて笑ってしまう。
「若者って…羽柴くんも若者でしょ」
「え、あぁ…そうなんですけど……でも、俺はそんなとこ行った事無いから…」
ほんと、ギャップが凄いよね、羽柴くんってさ…。
言い方悪いけど、羽柴くんなんか、じゃんじゃんお金つぎ込んでくれるお姉様やおじ様が何人も居そうだもんね……。
その界隈歩いたら噂になる、ぐらいのさ……
それが……工場で真面目に箱作ってんだから、ほんと人って見かけじゃないな~って思うよ。
「その彼とは、付き合って長いの?」
俺も相当だな…。
どんだけ羽柴くんの事知りたいんだよ、全く…。
「まだ2ヶ月くらいです」
「えー、じゃあまだ付き合い始めなんだね」
とか言っておきながら、内心、くそーーー!!あと2ヶ月付き合うの遅かったら俺も立候補したのにっ!!…などと思ってる危ない自分…。
「何歳?」
「24です」
「へぇ~」
気になりすぎてどんどん聞いてしまう…。
「羽柴くんの恋人だから相当イケメンなんじゃないの?」
「え?…う~ん、どうですかね~」
答えにくいよね、こんな質問…。
「一緒に住んでんだよね?」
「はい」
「羽柴くん、料理とかするの?」
「や、俺は全然です…食べる専門で」
「じゃあ彼が料理出来る人なの?」
「はい、すごく上手なんです」
聞いといて何だけど………何か……複雑だよ…。
あんまり……彼の事ばかり聞いてても変に思われるだろうから、まだまだ聞きたい事は山ほどあったけど、それ以上聞くのは止めた。
「今事務所でさぁ、新人スタッフの歓迎会兼た忘年会しよう、って話になってんだ」
「忘年会?」
不意にこちらを向いて聞き返して来た顔に、思わず「かわいい」と言いそうになる。
一回意識し始めたらもうダメだ。
一気に気持ちがマックスになってしまう…。
「みんな、新年会より忘年会の方が盛り上がる、とか言うんだよ。その差何なのって思うけどね」
「あはは、ほんとですね」
笑顔、キレイだな…。
ほんと、見惚れるわ…。
「毎年、新年会か忘年会のどっちかは必ずやってるんだ。けっこうみんな参加するから、店の大部屋貸切りでやったりするんだよ」
「へぇ~」
「羽柴くんが参加するかしないかで、参加人数随分変わって来そうだな…」
「えっ?」
もっともな呟きに羽柴くんが反応した。
「そんな事ないです」と言わんばかりにブンブンと首を振ってる。
何でこうも、謙虚なのか…。
「羽柴くん、お酒飲めるの?」
「……あんまり飲めません」
申し訳無さそうに言う。
「そんな感じするわぁ」
「え?そうですか?」
「うん。ちょっとだけでも真っ赤になってそう」
「あはは、そんな感じですね」
ちょっと……酔わせてみたいとか思うのは、俺が変態だからかな…。
助手席の羽柴くんが、携帯を取り出してメッセージを送ってる。
多分だけど……彼に「もうすぐ着く」的な事を送ったんだろう。
……と言う事は……この、羽柴くんとのドライブもそろそろ終わりに近づいて来たって事だ。
「あ…じゃあ、この辺で」
羽柴くんが遠慮がちに言った。
俺は、ハザードを出し、車を歩道に付けて止める。
「自転車、下ろすね」
「あ、はい」
「大丈夫?」
「大丈夫です、降りれます」
とは言うものの、気になって助手席のドアを開けに回る。
「すみません、何か…」
「いや、そんな。俺のせいでこんな事になってんだし」
「そんな事ないですよっ、もう気にしないで下さい」
俺を…フォローしてくれる。
優しいよね、羽柴くんてさ…。
自転車を降ろそうと後ろに移動した俺に、痛い足を庇いながら付いて来てる。
「彼がここまで来てくれるの?」
「はいっ、あ、来ました」
え、ちょっと……心の準備……は、出来てたつもりだったんだけど………自転車を降ろす作業をしながらチラリと見た「彼」があまりにも男前過ぎて、一瞬にして緊張で顔が熱くなった。
「慶」
慶、と名前で呼ばれた羽柴くんが彼を見る。
「侑利くん、ごめんね、また急に来ちゃって」
「いや、それは全然構わねぇけどさぁ、お前、」
「あ、今、工藤さんが自転車下ろしてくれてて、」
何か言いたそうにしてた彼を遮って、俺の事を話す。
男前の彼と目がう合と、すぐにこちらへ近付いて来た。
「初めまして、羽柴くんが働いてる部署のリーダーやってます、工藤です」
「あ、久我と言います」
軽く俺に会釈する。
……ってか、男前過ぎて泣きそうになるわ…ほんと…。
「あ、これ、自転車」
「あ、すみません」
自転車を受け取った彼は、チラッと羽柴くんを見る。
ケガについて何か言いたそうだ…。
「俺の不注意だったんです」
俺の発言に羽柴くんから俺へと目線を戻す。
「俺が、不注意でコードに躓いて…そのまま、目の前に居た羽柴くんに突っ込む感じで転倒してしまって………押し潰したような感じになっちゃって………ケガさせてしまって…」
お前みたいなデカいのがコケて来たら、そりゃケガするわなっ!!…とか内心思われてんだろうか……
恋人にケガを負わせた訳だし……
「左腕と左足首と…顔に…」
手足は服で隠れてるけど、顔は思いっきり冷却シートを貼ってるから、すごく目立つ。
「ほんとに、ごめんね、羽柴くん。何回謝っても謝り切れないよ」
「また謝ってますよ」
「いや…だって、」
「もう大丈夫です、謝らないで下さいっ」
そう言って、悪戯っぽく笑った顔が……やっぱりすごく可愛い。
隣で男前が俺と羽柴くんのやり取りを真顔で聞いてる。
……仕事場での出来事は……俺と羽柴くんしか知らない訳で……
少しだけ……優越感のような気持ちが沸きあがって来る。
「腕も足も、骨には異常無いと思うんですけど……」
男前に向かって言う。
「羽柴くん、明日休みなんで…出来たら一応病院で診て貰って下さい」
「あぁ、分かりました、明日連れて行きます」
連れて行く、とか………恋人らしい発言…。
「病院行ったら、何時でも良いから会社に連絡くれるかな…心配だから」
これは本心。
会社としても、ケガの状態は把握しておく必要があるだろう。
だけど、少し、それだけじゃない……モヤモヤした感情がそう発言させた。
「…はい、分かりました」
羽柴くんの返事を待って、トランクを閉める。
「それじゃ、俺はこれで」
「すみません、ありがとうございました」
彼があまり表情を変えずに言う。
「羽柴くん、じゃあね」
「あ、はい、ありがとうございました」
羽柴くんが笑顔で応える。
「会社戻るんですか?」
「うん、もう少しする事あるから」
「すみません、わざわざ送ってもらって…」
「ううん、当然だよ。さっきの話、また返事ちょうだいね」
「えっ、あ、はい、分かりましたっ」
「じゃあね」
「はい、お疲れ様です」
美人と男前に見送られ、俺は車を発進させた。
………って言うか……彼氏、すんげぇ男前だしっっ。
そりゃ、羽柴くんも惚れるわっ。
でも……会社に居る間は……彼の知らない羽柴くんを見る事が出来るんだなぁ、とか……思ってみたり…。
ま、でも、彼の知ってる羽柴くんのほとんどが、俺の知らない羽柴くんですけどねっ…。
………俺はもう……すっかり、羽柴くんを好きになってしまったんだろうか…。
マジで……
羽柴くんが、大ケガをしてしまったんじゃ無いかと思った。
こんな事が起きるとは………
それが起きたのは、今から1時間ほど前。
初めて、休憩を一緒にした日……羽柴くんは、男の恋人が居ると俺に言った。
もちろん、俺は誰にも言ってなくて…俺の胸の中だけに留めてる。
こんな話、どっかで漏らしたら、すぐ広まるに違いない。
そうでなくとも、羽柴くんは女子たちの注目を浴びている存在だから…。
あの日から、羽柴くんは少し俺に心を開いてくれたようで、それまでは割と身構えてる感じがあったけど、それがだいぶ無くなり、会話も緊張感が良い意味で取れて来た。
俺に、慣れて来てくれたんだなぁ、って単純に嬉しくなる。
羽柴くんの、大きな秘密を知ってるって事が……一歩近付いた気がして……何となく心地良かった。
…と言うのも……ちょっと困りもんで……
羽柴くんから、男の恋人が居るって聞いた後から………
何か……少し……上手く言えないけど……
同性なんだけど、異性のような………男なんだけど……女の子のような…………とにかく、普通の人とは違う所に羽柴くんを位置付けしてる自分が居る…。
だってさ、恋人が男って事は……まぁ、その、そういうエッチ的な事も……男同士でする訳であって……
そうした場合、羽柴くんは……彼女みたいな、って言うか……その……受け身的な感じで居るのか…とか…
とにかく、悶々とした妄想で頭がグチャグチャになる。
しかも、余りにそんな事を妄想しすぎて………つい、ちょっとした興味本位もあって、そういう動画的なものを見てしまい……男同士でその……何て言うか……エッチしてしまうような世界を覗いてしまった…。
羽柴くんは、見た目がほんとにキレイだから、そういう場面も容易に想像出来てしまう所が、そもそもの失敗だろう…。
動画で見た男の子に羽柴くんを重ねたりして……危ない俺が少し顔を出してんだ…。
とにかく俺は……あの日以来、羽柴くんの事を……そういう、モヤモヤとした目線で見てしまっている。
普通に接してはいるものの、羽柴くんと話す時は少なからず心拍数が上がってるのが分かる。
救いなのは、羽柴くんが全くそう言う事を勘繰ったりする性格じゃないってとこ。
そんな、俺のモヤモヤが引き起こした事件……いや、事故だ。
1時間ほど前、羽柴くん達の所の完成品を回収に行った。
裏に溜まってたコンテナを幾つか積み上げて持ち、それを羽柴くんの隣へ下ろそうとしてる時だった。
完全なる俺の不注意で、その事故は起きた。
俺の場所から見えた羽柴くんの横顔が凄くキレイで…
ほんとに……女優さんにも負けないようなキレイな輪郭。
正直、完全に見惚れてしまってた。
ちょっとぼんやりしてしまった。
羽柴くんの方へ踏み出そうとした俺の足を、何かが遮った。
コードだ!……と思った時は既に遅かった。
「ぅ、わっ」
俺の右足は、完全にそのコードを掬い上げていて、次の一歩を踏み出した左足がコードに引っ掛かる形になった。
羽柴くんにぶつかる!!って思ったけど、人間、咄嗟の瞬間には大した声が出ないもんで…。
「え、」
俺の中途半端な声に気付いた羽柴くんが振り返ったけど……もう、体勢を立て直すのは無理で……
俺の体はもう前につんのめった感じになってて、まるでロックオンしたように羽柴くんめがけてゆっくり倒れた。
いや、実際にはゆっくりだったように感じただけだろう…。
振り返ろうとした羽柴くんに突っ込む形。
俺は持ってたコンテナを床へ全て投げ落とした。
更には、俺の半分ぐらいしかない華奢な羽柴くんを簡単に巻き込んで、俺が上から押し倒す形で床に倒れた。
と、言うよりも正確には押し潰した感じ…。
床に落としたコンテナの派手な音。
主に機械音しかしない工場内では、それはすごく異音で……周りのスタッフが何人も駆け寄って来た。
俺はと言うと……
思いっ切り羽柴くんの上に倒れた事で、余り衝撃は無かったんだけど……とにかく、羽柴くんがどうにかなってしまったかも知れないって事だけが気になってた。
後は……
こんな時に不謹慎だけど、倒れた瞬間の羽柴くんの「…あっ、」っていう、……すごく……色気を含んだ声と……
被さるようにして倒れた事で、羽柴くんが着てるネルシャツの襟首の隙間から偶然見えてしまった……………紅い痕………
一瞬にして、顔が熱くなって急いで起き上がった。
瞬時に、動画の中で悶えまくってる男の声と表情が脳内を支配する。
ダメだダメだダメだダメだ…!
これじゃ俺、ただの変態じゃないかっ。
羽柴くんはまだ床に倒れてて、何が起きたのかやっと理解出来た感じ…。
「ごっ…ごめんっ!!羽柴くんっ!!大丈夫っ!?」
起こそうと手を引っ張ったら羽柴くんが大きく顔を顰めた。
「ごめんっ、痛い!?」
手を引っ張るのは止めて背中を抱き起こすようにして、床に座った状態まで起こす。
「どこ痛いのっ?」
上腕部を摩ってる。
俺が聞くと羽柴くんは少し左手を動かして、どうしたら痛むかを確かめてる。
「ちょっと…痛むだけです、大丈夫」
「いや、大丈夫じゃないよ、全然。ほんとごめん、俺の不注意でこんな…」
情けなかった。
羽柴くんに見惚れて、こんなケガさせるような失敗するなんて…。
気が付くと、この騒ぎに事務所のスタッフも沢山集まって来てた。
「大丈夫っ?」
「どうなったのっ?」
色々聞かれる。
「俺がコードに躓いて…羽柴くんにぶつかって倒しちゃって…」
「えーっ!!工藤さんみないなでっかい人がぶつかったら羽柴くん折れちゃいますよっ」
確かに…
ほんとに…折れてないか心配……
上腕部は、手を捻るような動きをした時に痛みが走るみたいだから……少し…筋を傷めたのかも知れない…。
「羽柴くん、顔打ってんじゃない?」
「え?」
他の人に言われて羽柴くんの顔をちゃんと見ると………ほんとだ……目の下の辺り…床にぶつけたと思われる打撲があった。
こんなキレイな顔に……ケガをさせてしまった俺って………
ほんと………情けない以外の何者でも無い……。
「羽柴くん、ほんと……ごめん…俺、」
「もう、そんなに、謝らないで下さい、大丈夫ですっ」
羽柴くんに気遣ってもらって更に情けなさが積もる…。
「他は痛いとこない?立てる」
床に座ったままの羽柴くんを抱き起すようにして立たせようとした……けど……
「ぁ、痛っ、」
左足に力を入れた瞬間、羽柴くんがそう言って俺に掴まって来た。
不意に掴まれて、ちょっとドキドキしてる単純な俺…。
でもダメだ……今はそんな事考えてる場合じゃないな……
「足?痛いの?」
「……捻っちゃったのかも…」
………俺……どんだけケガさせてんだ……
羽柴くんが振り返ってる途中で巻き込んだから、横向きに押し倒した感じになった。
体の左側が下になってたから………左手は咄嗟に床に手を付いたんだろうな……足も変な向きに倒したからきっと傷めたんだ……
挙句の果てには顔にまで傷……
ほんとに………謝っても謝り切れないよ、こんなの…。
集まって来てたスタッフも、少ししてそれぞれの持ち場に戻って貰った。
事務スタッフに、イスと湿布を持って来るよう頼む。
羽柴くんは、謝り続けてる俺をずっと気遣ってくれてる。
「もう、謝るの無しです」
「…いや、でも…」
「無しですっ」
「…………はい」
俺の返事に、ははっ、と明るく笑う。
良い子なんだよ、ほんとに……
彼氏が羨ましい…………………って、おいっ、俺、何想像してんだよっ……。
だけど、頭の奥で倒れた時の羽柴くんの声と、あの…キスマークがチラついて……どんどん羽柴くんをそういう目線で見てしまってる自分に……だいぶ驚く…。
持って来てくれたパイプ椅子と湿布を受け取り、工場の端の方へ移動しそこへ羽柴くんを座らせる。
「足首、見せて貰える?」
「あ、はい」
歩こうとしたら痛む、という左足首。
羽柴くんは言った通りに靴と靴下を脱ぎ、パンツの裾を膝下まで捲り上げた。
あ、……ヤバい……
ヤバいヤバい……言うんじゃなかった……
想像よりも細い、女の人みたいにキレイな足と細い足首が目の前に現れる。
男を思わせるような感じはほとんど無くて……ほんとに……女の子なんじゃないかって思うぐらいで………俺の足とは随分違う……同じ男なのに…。
良からぬ想像が頭にどんどん沸いて来る。
膝上はどうなってんだろう、とか…………変態さながらな事が過った時には思わず頭を振って妄想を打ち消した。
その細い足首が、少し腫れてる。
じっとしてたら痛くないみたいだから、骨には異常無いと思うんだけど……
病院行くにも、今日は日曜だししかも夜だし………
湿布貼るくらいの応急処置しか出来ないけど……
「ちょっとごめんね、湿布貼るよ?」
断ってから貼る。
「冷たっ」
そう言って少し肩を竦めた様子も、可愛いななんて思ってみたり……
彼氏が居る……しかも男にこんな風に思うなんて、俺相当重症だな…とか…。
「羽柴くん……今日はもう上がって良いから」
「え?」
「この状態で仕事はさせらんないよ」
捲り上げてた裾を戻しながら、戸惑った顔してる。
「ほんとは…病院で診て貰った方が良いんだろうけど……今日は病院無理だしね……ほんとごめん」
また謝ってしまった俺に、羽柴くんはフフッと笑ってくれた。
「それでさぁ……送らせてくれないかな」
「えっ?」
「家まで送らせて」
「え、そんなっ、大丈夫です大丈夫ですっ」
思いっ切り遠慮して来る。
「や、でも…羽柴くん最近自転車でしょ?……漕げる?」
「…………………」
漕げるかどうか真剣に考えてる。
……くそー………可愛いな、マジで…。
「腕も傷めてるしさ……ハンドル操作大丈夫?」
「…………………」
「俺の方は大丈夫。俺もこの後休憩だったしさ、俺が抜けても工場がストップする訳でも無いしね。…だから、送らせてよ。ケガさせたお詫び」
俺がどうしてもと頼んだのもあって、羽柴くんは考えた後「じゃあ、お願いします」と言った。
先輩として、そして、現場を預かってる者として、当然だろう…。
「自転車、どうする?」
「あー……」
「車に乗せれない事もないけど」
「あの…えっと、ちょっとだけ待って貰ってて良いですか?」
羽柴くんは俺にそう断って、俺の車から少し離れると電話をかけ始めた。
とりあえず、一旦車に乗り込んで助手席の辺りをキレイに整える。
まさか、羽柴くんを車に乗せる事になるとは思って無かった……
こんな事なら、良い香りのするカーフレグランスでも買っとけば良かったな……
「…よし」
一応、キレイにした。
助手席にほとんど人を乗せない。
彼女でも居たら別なんだろうけど、生憎フリーなので助手席は常に俺の荷物置き場と化している。
チラっと羽柴くんを見ると、誰かと話してる。
大凡、電話の相手が誰か予想はついてるけど
俺は……ノーマルだ。
今までの人生……適度に彼女だって居たし、長くやってるラグビーの方面でも飲み会の席が多々あるけど、そういう場でもそこそこ女の子に人気はある方だと思う。
故に、恋人に男を選んだ事も言い寄られた事も無い。
だから、余計に戸惑ってる。
そもそも、羽柴くんみたいな男子が俺の周りには居なかった。
みんなラグビーやっててマッチョな奴らばっかりで……あんな、女の子みたいに華奢でキレイな男子を今までに見た事がない。
だからきっと免疫が無いんだな……。
普通に……女の子を好きになるみたいに…………羽柴くんの事を考えてる自分が確かに居る。
今だって、きっと……恋人に電話してるであろう、その電話の内容が気になって仕方ない。
恋人の前だとどんな風に喋るのか……どんな表情をするのか………どんな風に……あんな事するのか………
…あーーっ!!ダメだダメだっ……ほんとにこれじゃ、ただの変態だよ……
無理矢理、妄想を打ち消してたら……コツコツと窓を叩く音がした。
ハッとしてそちらを見ると、電話を終えた羽柴くんが立ってた。
「あ、ごめん」
「あの……自転車なんですけど…乗りますか?」
「あぁ、多分乗ると思う。乗せてみようか」
俺は車を降りて、トランクを開ける。
普段は触らない後ろのシートを畳むと、思ったよりも広い空間が出来て、羽柴くんのオレンジの自転車はすんなり積み込めた。
「案外広いね」
「そうですね」
自分の車の広さに改めて驚いていると、羽柴くんにクスクス笑われた。
「じゃあ、乗って」
「はい、失礼します」
礼儀正しい羽柴くんらしく、控え目に乗り込んで来る。
「ごめんね、急いで片付けたけど…」
「いえ、全然。俺の方こそすみません、急にこんな…」
いやいや、謝るのは俺だって。
羽柴くんにこんなケガさせてさ……
ほんと、時間を戻したいって今日ほど思った日無いよ…。
「えっと、じゃあ、道言ってね」
「あ、あの、それなんですけど……家じゃなくて……えっと……彼の仕事場に送って貰って良いですか…?」
『彼の』……ってとこが…胸に刺さる。
ちょっと恥ずかしそうに言った羽柴くんの顔も、その彼が羨ましくて仕方無いくらい可愛くて……
こんな子に想われる人って、どんな人なんだろう……。
って言うか……もしかして俺はその『彼』と対面する事になるんじゃないのか?
恋人がケガして、職場の上司が送って来てんだし……
俺が彼氏だったら……上司の車のとこまで迎えに行くだろう…。
……何か……落ち着かないけど………これは、もう、送るしかないし………とにかく、行こう。
羽柴くんのナビで車を発進させた。
「彼…こんな時間だけどまだ働いてるの?」
カーオーディオの時間を見ると、21時40分。
「バーで働いてるんで、夜中まで仕事です」
「バー?」
…………ホストっぽい感じなのかな……
すっげぇチャラい奴だったらどうしよう……
「あ、バーって言っても、いかにもな感じじゃなくて……何か、若者が沢山集まって来る感じの……何て説明したら良いか……」
説明に悩んでる羽柴くんが可愛くて笑ってしまう。
「若者って…羽柴くんも若者でしょ」
「え、あぁ…そうなんですけど……でも、俺はそんなとこ行った事無いから…」
ほんと、ギャップが凄いよね、羽柴くんってさ…。
言い方悪いけど、羽柴くんなんか、じゃんじゃんお金つぎ込んでくれるお姉様やおじ様が何人も居そうだもんね……。
その界隈歩いたら噂になる、ぐらいのさ……
それが……工場で真面目に箱作ってんだから、ほんと人って見かけじゃないな~って思うよ。
「その彼とは、付き合って長いの?」
俺も相当だな…。
どんだけ羽柴くんの事知りたいんだよ、全く…。
「まだ2ヶ月くらいです」
「えー、じゃあまだ付き合い始めなんだね」
とか言っておきながら、内心、くそーーー!!あと2ヶ月付き合うの遅かったら俺も立候補したのにっ!!…などと思ってる危ない自分…。
「何歳?」
「24です」
「へぇ~」
気になりすぎてどんどん聞いてしまう…。
「羽柴くんの恋人だから相当イケメンなんじゃないの?」
「え?…う~ん、どうですかね~」
答えにくいよね、こんな質問…。
「一緒に住んでんだよね?」
「はい」
「羽柴くん、料理とかするの?」
「や、俺は全然です…食べる専門で」
「じゃあ彼が料理出来る人なの?」
「はい、すごく上手なんです」
聞いといて何だけど………何か……複雑だよ…。
あんまり……彼の事ばかり聞いてても変に思われるだろうから、まだまだ聞きたい事は山ほどあったけど、それ以上聞くのは止めた。
「今事務所でさぁ、新人スタッフの歓迎会兼た忘年会しよう、って話になってんだ」
「忘年会?」
不意にこちらを向いて聞き返して来た顔に、思わず「かわいい」と言いそうになる。
一回意識し始めたらもうダメだ。
一気に気持ちがマックスになってしまう…。
「みんな、新年会より忘年会の方が盛り上がる、とか言うんだよ。その差何なのって思うけどね」
「あはは、ほんとですね」
笑顔、キレイだな…。
ほんと、見惚れるわ…。
「毎年、新年会か忘年会のどっちかは必ずやってるんだ。けっこうみんな参加するから、店の大部屋貸切りでやったりするんだよ」
「へぇ~」
「羽柴くんが参加するかしないかで、参加人数随分変わって来そうだな…」
「えっ?」
もっともな呟きに羽柴くんが反応した。
「そんな事ないです」と言わんばかりにブンブンと首を振ってる。
何でこうも、謙虚なのか…。
「羽柴くん、お酒飲めるの?」
「……あんまり飲めません」
申し訳無さそうに言う。
「そんな感じするわぁ」
「え?そうですか?」
「うん。ちょっとだけでも真っ赤になってそう」
「あはは、そんな感じですね」
ちょっと……酔わせてみたいとか思うのは、俺が変態だからかな…。
助手席の羽柴くんが、携帯を取り出してメッセージを送ってる。
多分だけど……彼に「もうすぐ着く」的な事を送ったんだろう。
……と言う事は……この、羽柴くんとのドライブもそろそろ終わりに近づいて来たって事だ。
「あ…じゃあ、この辺で」
羽柴くんが遠慮がちに言った。
俺は、ハザードを出し、車を歩道に付けて止める。
「自転車、下ろすね」
「あ、はい」
「大丈夫?」
「大丈夫です、降りれます」
とは言うものの、気になって助手席のドアを開けに回る。
「すみません、何か…」
「いや、そんな。俺のせいでこんな事になってんだし」
「そんな事ないですよっ、もう気にしないで下さい」
俺を…フォローしてくれる。
優しいよね、羽柴くんてさ…。
自転車を降ろそうと後ろに移動した俺に、痛い足を庇いながら付いて来てる。
「彼がここまで来てくれるの?」
「はいっ、あ、来ました」
え、ちょっと……心の準備……は、出来てたつもりだったんだけど………自転車を降ろす作業をしながらチラリと見た「彼」があまりにも男前過ぎて、一瞬にして緊張で顔が熱くなった。
「慶」
慶、と名前で呼ばれた羽柴くんが彼を見る。
「侑利くん、ごめんね、また急に来ちゃって」
「いや、それは全然構わねぇけどさぁ、お前、」
「あ、今、工藤さんが自転車下ろしてくれてて、」
何か言いたそうにしてた彼を遮って、俺の事を話す。
男前の彼と目がう合と、すぐにこちらへ近付いて来た。
「初めまして、羽柴くんが働いてる部署のリーダーやってます、工藤です」
「あ、久我と言います」
軽く俺に会釈する。
……ってか、男前過ぎて泣きそうになるわ…ほんと…。
「あ、これ、自転車」
「あ、すみません」
自転車を受け取った彼は、チラッと羽柴くんを見る。
ケガについて何か言いたそうだ…。
「俺の不注意だったんです」
俺の発言に羽柴くんから俺へと目線を戻す。
「俺が、不注意でコードに躓いて…そのまま、目の前に居た羽柴くんに突っ込む感じで転倒してしまって………押し潰したような感じになっちゃって………ケガさせてしまって…」
お前みたいなデカいのがコケて来たら、そりゃケガするわなっ!!…とか内心思われてんだろうか……
恋人にケガを負わせた訳だし……
「左腕と左足首と…顔に…」
手足は服で隠れてるけど、顔は思いっきり冷却シートを貼ってるから、すごく目立つ。
「ほんとに、ごめんね、羽柴くん。何回謝っても謝り切れないよ」
「また謝ってますよ」
「いや…だって、」
「もう大丈夫です、謝らないで下さいっ」
そう言って、悪戯っぽく笑った顔が……やっぱりすごく可愛い。
隣で男前が俺と羽柴くんのやり取りを真顔で聞いてる。
……仕事場での出来事は……俺と羽柴くんしか知らない訳で……
少しだけ……優越感のような気持ちが沸きあがって来る。
「腕も足も、骨には異常無いと思うんですけど……」
男前に向かって言う。
「羽柴くん、明日休みなんで…出来たら一応病院で診て貰って下さい」
「あぁ、分かりました、明日連れて行きます」
連れて行く、とか………恋人らしい発言…。
「病院行ったら、何時でも良いから会社に連絡くれるかな…心配だから」
これは本心。
会社としても、ケガの状態は把握しておく必要があるだろう。
だけど、少し、それだけじゃない……モヤモヤした感情がそう発言させた。
「…はい、分かりました」
羽柴くんの返事を待って、トランクを閉める。
「それじゃ、俺はこれで」
「すみません、ありがとうございました」
彼があまり表情を変えずに言う。
「羽柴くん、じゃあね」
「あ、はい、ありがとうございました」
羽柴くんが笑顔で応える。
「会社戻るんですか?」
「うん、もう少しする事あるから」
「すみません、わざわざ送ってもらって…」
「ううん、当然だよ。さっきの話、また返事ちょうだいね」
「えっ、あ、はい、分かりましたっ」
「じゃあね」
「はい、お疲れ様です」
美人と男前に見送られ、俺は車を発進させた。
………って言うか……彼氏、すんげぇ男前だしっっ。
そりゃ、羽柴くんも惚れるわっ。
でも……会社に居る間は……彼の知らない羽柴くんを見る事が出来るんだなぁ、とか……思ってみたり…。
ま、でも、彼の知ってる羽柴くんのほとんどが、俺の知らない羽柴くんですけどねっ…。
………俺はもう……すっかり、羽柴くんを好きになってしまったんだろうか…。
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