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「帰るところでしたっ」
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今日は大晦日。
今年最後の日、だ。
先日も、工藤の事で揉めたばっかだけど……あの、顔を合わせて話した事で、何となく落ち着いて年越しを迎えられそうな感じ。
気になってない事は無いけど……飲み会のあの別れ際のまま放置してるよりは、数段スッキリしてる。
慶は少し…工藤と会った後、元気が無かったんだけど……今は、だいぶいつもの慶に戻って来た。
そりゃ、頭の隅っこでは考えてると思う。
嫌でも、会社で会うんだから。
だけど……もう、時は進んで行くんだし、それを今考えてても仕方ない。
特に今日みたいに……新しい年を迎える日なんかはさ……慶には、余計な事考えてて欲しくない。
むしろ、俺の事だけ考えてて欲しいわ、マジで。
「えへへ」
さっきから、助手席で慶が変な笑いを零してる。
BIRTHでのカウントダウンに慶を呼んだ。
新しい年を迎える時に、一緒に居たいって思った俺の我儘で。
バンドの人が来てくれてて、最初にライブやってすげぇ盛り上がったままカウントダウンに突入したから、店内はお客もスタッフも異常にハイテンション。
知らない人らで乾杯して意気投合して…みたいな。
慶は、その盛り上がり具合にちょっと戸惑ってたけど、一緒にカウントダウン出来たって事が後々嬉しくなって来たみたいで、さっきから助手席で上機嫌。
「何、機嫌良いの?」
「え、そりゃあ」
「何」
「…だって、侑利くん、一緒に居たくて呼んでくれたんでしょ?」
そうだよ。
それ以外ねぇよ。
「侑利くんと一緒に年越しなんてさぁ~~………へへ」
何だよ……へへ、が妙に可愛いじゃねぇか。
「寝て起きたらさぁ、初詣行こうぜ」
「うんっ」
俺の提案に嬉しそうな顔で返事する。
元旦の初詣なんてさ……人が鬱陶しいだけなんだけど……でも、何か……新年って感じするし、お詣りしておみくじ引いたりお守り買ったりしてさぁ……正月気分に浸っても良いか…とか思ったり……
「侑利くん……今年もよろしくね」
急にしおらしくそんな事を言う。
「じゃあ、俺も…よろしくな」
少し照れたように「うん」と頷くと、俺の左手を取ってそっと握る。
俺もそれに応えるように握り返す。
~~~~~~~~
起きたのは昼過ぎ。
昨日は3時に帰宅して、その後、新年って事にテンション上がってベッドで1回、風呂で1回やってしまい……寝たのはもう5時近く…。
そりゃ昼過ぎまで寝るわな……。
「何か食いに行ってからにすっか」
「うん、お腹空いたね」
準備して出かける前。
朝方まであんな事やってた自分らをクスクスと笑いながら、アウターを着込んで玄関に向かう。
何食う?とか言いながら靴を履こうとしてたら………突然……
ガチャガチャと外から物音。
「え…」
俺も慶も息を潜めてその音に集中する。
鍵穴に鍵を突っ込んでる音。
ちょっと待てよ………ここの合い鍵を持ってんのは、俺と、慶と……それと……
そこまで考えた所で勢いよくドアが開けられる。
「侑利っ、ハッピーニューイヤー!」
…そう言って、ちょうど運良く玄関に居た俺に飛び付いて来た。
…………親が帰って来た。
それも、行き成り。
チラッと慶を見ると…………完全に硬直してる。
声も出ないし、瞬きも忘れてる。
「すんげぇ……急だな」
飛び付いてたのが母さん。
「侑利、元気そうだな」
後ろで呑気にそんな事を言ってるのが父さん。
「長い事帰って来て無かったから、今年のお正月は絶対帰るからってだいぶ前から言ってたらOKになっちゃってね、それで急いで帰って来たのよ。3日には帰るんだけどね」
そう言いながら俺から離れると、改めて俺の頭を軽く撫でた。
高1で離れてから、会うのはこれで……5~6回目くらいだな…。
連絡はたまに取ってるけど、会うのはほんとに久しぶりだから、親からしたら俺はまだガキのままで止まってんのかもな。
「お友達?」
母さんが改めて、後ろで突っ立ったまま硬直してる慶を見て言った。
「どこか出かけるところだった?」
「あぁ、」
「い、いえっ」
行き成り慶が俺を遮って……
「帰るところでしたっ」
とか言うから……正直、めっちゃビビった。
「ちょ、慶、」
慶は俺に喋る隙を与えないくらいの速さで靴を履くと、そのまま親と入れ替わりで外へ出た。
俺も急いで靴をつっかけて外へ出る。
「ちょっと、中入ってて」
親にそう言って、中に押し込むようにしてドアを閉めると、先に歩いて行っている慶を追いかけた。
「ちょっと、慶っ」
直ぐに追い付いて腕を掴んで止まらせる。
「お前、帰るところって何だよ」
慶には、さっきまでのご機嫌な顔はもう無くて、突然の俺の両親の登場に完全にパニクってる感じの困り顔。
「分かんないけどっ…言っちゃったんだもん」
「だもん、じゃねぇだろ。何だよ、どこ帰るんだよ」
「無いけどっ……でも…他に何て言うのっ」
「一緒に住んでるって言やぁ良いじゃねぇか」
俺の言葉に思いっきり首を振る。
「ダメだよっ、絶対ダメ」
「何で」
「そんなのダメだよ…」
「だから何がダメなんだよ」
慶が黙る。
俺も、掴んでた力を少し弱めた。
「……とにかくダメ」
ダメだと言って譲らねぇ…。
「家ん中見りゃ一緒に住んでる事ぐらいすぐ分かんだろっ」
ハッとしたように慶が顔を上げる。
気付くの遅ぇだろ…。
お前のもん、山ほどあるじゃねぇか。
「俺は別に隠すつもりねぇし」
「だけど…」
「何だよ、…言ったら困んのか?」
「…久しぶりに帰って来たのに……びっくりさせるじゃん」
…そうかも知れねぇけど……そんなの考えてなくて良くねぇか?
そもそも、お前との事、隠すつもりなら付き合ってねぇし…。
「とにかく、戻ろう。俺がちゃんと説明する」
「ダメだよ…」
「何でだよ」
少し、イラついた口調になってしまった。
慶がいつまでもダメだとしか言わないから…。
「……家族で…話した方が良いよ」
慶に「家族」と言われて……何か複雑な気持ちになった。
俺の両親は多分………慶の両親とは性格的にも真逆だろう…。
俺は両親からの俺に対する愛は、普通に感じてる。
普段は放置されてるけど……それでもやっぱり繋がってる事は感じるし、時々電話も来る。
今だって、久々に会った息子に年甲斐もなく抱き付いて来るような親だ。
愛情をかけられてない訳が無い。
「どこ行くんだよ」
「……分かんないけど……どっかで時間潰す」
「…でも、やっぱり、」
「ちゃんと…3人で話して欲しい。久しぶりなんだし」
確かに……こうなった今……もう、慶との事を話す時が来たんだろうけど……俺は別に今まで隠してた訳じゃ無くて…慶と出会ってから今までに両親と連絡を取り合う事が無かっただけで、その時が来たら言うけど、ぐらいに思ってた。
慶がこんなに動揺するとは思って無かったけど……行き成り連絡無しに家に来たんだから、慶の事を考えると……パニクって当たり前だな、とも思う。
親もその場に慶が居たら……話し辛いってのはあるかも知れないけど……。
だからって、慶に席を外させるなんて選択肢は俺の中には無かったんだけど……慶がどうにも折れてくれそうにない…。
「終わったら連絡してね」
そう言って、エレベーターの方へと歩き出そうとする。
「慶、…話すから、お前との事、全部。ちゃんと話して、納得させる」
慶は少し微笑んで、そのまま歩いて行った。
俺はその背中を見送るしか無かった。
*慶side*
目の前に置いたホットカフェオレが……もう…完全に冷めた事には気付いてる…。
とりあえず……時間を潰そうと思って入ったファーストフード店。
お腹が空いてたはずなのに……もう何も食べる気がしなくて……ホットカフェオレを注文しただけで、窓際のこの席にずっと座ってる。
周りはすごく煩いけど……あまり耳に入らないくらい……ずっと考え事してる。
明るくて楽しそうなお母さんと…温厚で優しそうなお父さん……
改めて………侑利くんとの違いが分かって………やるせない気持ちで一杯になる。
今頃……何話してるのかな……
俺の事聞いて……両親はびっくりしてるかな………
久しぶりに会った息子に男の恋人が居るって知ったら……
家族も家も無くて…侑利くんちにずっと住んでるって聞かされたら……
もしも……反対されて……別れて欲しいとか言われてたとしても…俺は……何も言えないな……。
侑利くんと別れるなんて…出来そうにないけど……だけど……侑利くんの親が強くそれを望んだら……
侑利くんは優しいから…俺に気を遣ってくれると思うけど……俺が別れない事で、侑利くんの家族が上手く行かなくなるんなら……きっと…終わりにしなきゃいけないんだろうな……
侑利くんと別れたら…………俺は…生きて行けるかな………
侑利くんの居ない毎日に…………意味なんてあるのかな…………
気付かない内に………泣いてた。
涙が落ちた感覚がしてハッと顔を上げると、近くのテーブルの高校生と目が合って……急いで窓の方を向いて涙を拭いた。
高校生は多分、泣いてる俺の事を話してる。
恥ずかしくて…しばらくそっち向けないな……
もう嫌だ…何か……
コンコンッ
突然、外から窓が叩かれた。
ボーッとしてたから全然見えてなかった視界をそちらに集中させると、そこに立ってたのはリベルテの三上さんだった。
三上さんは、そのまま店内に入って来て……俺のテーブルの脇に立った。
「羽柴さんっ、こんにちは」
「こ…こんにちは」
にっこりと笑ってくれる。
三上さんはいつも明るい。
「1人ですか?」
周りを少し見回してそう言った三上さんに「はい」と答えると、前の席に座って良いか尋ねられる。
俺の返事を聞いて、三上さんが座った。
「三上さんは…1人ですか?」
「はい。店も年末休みで、さっきまで友達と居たんですけど今別れたところで……そこで信号待ちしてて、何となく見た店ん中にすっげぇ美人が居ると思ったら羽柴さんでした」
はっきりそう言われて、何となく恥ずかしくなる…。
きっと俺は今泣いた顔してて……バレてるんだろうな、って思う…。
「羽柴さん…何かあったんですか?」
「え?」
「久我さんと…ケンカでもしたんですか?」
「…何でですか…?」
「……すごく……辛そうな顔してるから」
やっぱり……そう見えるんだね……今の俺はきっと…。
侑利くんとのこれからの事を考えて……1人泣いてるんだから…。
「……ケンカした訳じゃないんですけど………」
それ以上は言葉が出て来ない俺に、三上さんはその先を聞かないで居てくれた。
「それ、飲まないんですか?」
注文したまま一口も飲んでいないカフェオレを指差す。
「ホットのカップに入ってるけど……どう見ても温かいようには見えませんね」
長い事…ボーッとしてたのもバレてるんだな…。
「あのぉ……羽柴さん…この後、予定ありますか?」
「えっ?」
急に聞かれてびっくりした。
「…連絡が来るまでは……大丈夫ですけど…」
三上さんは俺の返事を聞くと立ち上がり、カウンターから持ち帰り用のカップを持って来て、口をつけていないカフェオレをソレに移し替えた。
「飲んで無いのに、勿体無いですからねっ」
「はい」と笑顔で差し出されたカップに、何故か……少し…可笑しくなって笑ってしまった。
「笑ったらやっぱ美人ですね」
「え…」
「さ、行きますよっ」
「えっ、行くってどこに…」
先に立ち上がった三上さんに、急いで付いて行く。
1人で居たら押し潰されそうだったから……明るい、三上さんに会って……少しだけ楽になったって思えた。
「って言っても、どこ行くか考えては無かったんですけどね、あはは」
と言って、店先で笑う三上さんにつられて俺も笑う。
「でも、あそこでずっとじっとしてるよりは良いでしょ?ただただ明るい奴と一緒にブラブラするだけでも気分転換になると思うし」
そう言って二ッと笑う。
「優しいですね、三上さん」
「あ~それよく言われます。優しい人止まりなんですよね、俺って」
「えっ、そんな事ないですよっ」
「や、そのフォローも虚しいだけなんで、いいです…」
あからさまに落ち込んだ感じで言うから、また可笑しくなる。
「あっ、そうだ」
そう言って、思いついたように三上さんが指さす。
「あそこのショッピングモールの屋上からの景色が良いんですよっ」
「えっ、そうなんですか?」
「夜だったらもっと良いんですけどね、でも、昼間でも絶景なんですっ……って雑誌に書いてました」
「……ふっ、あははっ」
見て来たみたいに言うけど、雑誌の情報だった事にまた笑う。
「ほんとかどうか確かめに行きませんか?」
「…はい」
きっとこれは三上さんの優しさで………俺を元気づけてくれてるのかも、って……ちょっと思った。
「ほんとだ~~……すご~~い…」
ショッピングモールの屋上に立って、思わず言った。
雑誌の情報は確かで……ビル、その先の海、空…全部が何か……うまく調合されてる。
夜はもっと良い、って言うのもすごく分かる気がする。
「天気良くて良かった」
「ほんとですねっ」
嬉しくなって、そう返す。
「羽柴さん…やっぱ可愛いですね」
思っても無かった答えが返って来て、途端に恥ずかしくなってちょっと俯いてしまった。
「久我さんにクリスマスプレゼントを選んでる羽柴さん見た時は……まぁ、正直、ショックでした」
「え、?」
そう言いながら、先にあるフェンスに向かって歩く三上さんに付いて、俺も歩く。
「付き合ってるのは…今までの言動で大体分かってましたけど、あの時…はっきり、羽柴さんの口から付き合ってるって聞いたし、」
……何て返せば良いのか…
「羽柴さんみたいな人だったら俺…全然付き合いたいって思うし、正直、今まで俺が出会って来た女の人よりもキレイだし……ほんとに……見た事ないくらい…羽柴さんはキレイです」
これは……コメントし辛いものがあるよ…
「このまま突っ走って、羽柴さんを本気で好きになる事も出来たと思います」
「え…?」
何か…すごい事を言われた気がするけど…
「俺…男の人とか好きになった事無いんですけどね。…でも、羽柴さんは何か…違ってて」
……すごくはっきり言われて、何か擽ったい。
「でも……久我さんに勝てる気が……全くしないから……勝手に撃沈したんですけどね」
ははは、と笑うけど……さすがに今は笑えない。
「でも、ファンとしては俺…誰にも負けないって思ってます」
「え、ファン…?」
……どういう存在なの…俺って…
「だから…羽柴さんが辛そうだと……何とかして笑わせたくなります」
やっぱり……優しさだったんだ…。
「俺と居る間だけでも……辛い事、少しでも忘れてくれたら良いなって思ってます」
……優しいんだな……ほんとに…。
俺の事なんか……そんな風に思ってくれて……
RRRRR…RRRRR…RRRRR…
しばらく、屋上のベンチに座って景色を眺めてたら……鞄の中で携帯が鳴った。
侑利くんだって分かる。
『話したから帰って来い。親も待ってる』
電話から聞こえた侑利くんの声が、すごく優しくて……泣きそうになった。
電話を終わらせて、三上さんに向かい合う。
「俺は……優しくされる事に…慣れてません…」
「…え?」
「…そんな…人生でした、…彼と出会うまでは」
……侑利くんが変えてくれた、俺の辛かっただけの人生……
死にたかっただけの毎日……
「今日……1人で色々考えて……あのまま居たら、すごく落ち込んでたと思います。………ありがとうございました、笑わせてくれて」
「ファンなんで当然ですよっ」
最後までそう言ってくれる三上さんに、ほんとに感謝してる。
「きっと大丈夫ですよっ、俺はそう思います」
別れ際に、三上さんがそう言ってくれた。
何があったか知らないのに…自信満々の顔でそう言われると……何となく……大丈夫なような気がして来る…。
泣いてた理由を聞かなかったのも、きっと三上さんの優しさなんだろうな……。
~~~~~~~~
*侑利side*
ガチャ、と玄関のドアが開く音がして……俺はそこへ急ぐ。
慶が帰って来た。
ゆっくりと入って来たその顔は、もう既に泣きそうなくらい不安一杯な感じで……
久々に……こんなに…不安そうな顔を見た。
最初の頃は…こんな感じだったな…とか、意外と冷静に考える。
俺について歩いて来たけど、リビングのドアの手前で立ち止まった。
小さく、深呼吸してる。
そんなに気負わなくて良いよ。
ドアを開けて一緒にリビングへ入ると、同時にうちの親も立ち上がって慶を見る。
慶は……完全に足が止まってしまった。
父さんと母さんが慶の前に立つと……慶は、顔を上げられずじっと床を見つめて小さく震えてた。
「…初めまして、慶くん」
「…っ、」
母さんがそう言ったのと同時に……慶の目から涙が落ちたのが分かった。
いつもみたいに…表情を変えず、涙だけを零して泣く。
母さんは泣き出した慶を見て少し困ったように微笑むと、父さんに視線を投げかけた。
きっと助けを求めたんだろう…。
父さんが、少し慶に近付いて…俯いてるその顔を覗き込むようにして言う。
「慶くん……すごく…不安に思ってると思うから…結果から言うね」
慶は一瞬驚いたように目を開けたけど……すぐに硬く目を閉じた。
何を言われるか…すごく不安なんだろうな……緊張してんのが伝わって来る。
「…僕も妻も、君を否定なんかしないよ」
慶が閉じてた目をゆっくりと開ける。
まだ…あまり理解出来てないような…そんな表情。
「侑利から…全部聞いたよ。君との事も、君の今まで生きて来た人生の事も。……同じ親として…君の両親のした事は…理解に苦しむし……何より…許せないと思った。…君がどれだけ傷付いたか…多分…僕たちの想像を遥かに超えてるんだろうなって思う」
涙は止まらず、その目からずっと零れ落ちている。
「…侑利がね……君が居ない人生には意味が無いって言うんだ」
「…え…、」
慶が俺の方を見る。
そんな事思いっ切り言うなよな……。
……まぁ、でも……俺は自分の気持ちを素直に言ったまでで…。
「君は色々考えて悩んでるのかも知れない……でも、僕たちは侑利の親だから…親バカかも知れないけど、侑利が幸せで居てくれる事を願ってる。…だから、君と居る侑利の今の生活を、壊すような事は絶対にしないよ」
父さんの語り掛けるような言葉に…慶は何も言えずただ涙を流すだけだった。
「ね。」と言って母さんにバトンタッチする。
「慶くんはきっと……自分が男で、って気にしてるのかも知れないけど……実は、私たちの周りに結構居るの、同性で付き合ってるって人達。一緒に働いてるスタッフの中にも居るくらい。……向こうじゃそんなに珍しくないからね。…侑利だって…そんな事気にするんだったらあなたと付き合わないんじゃないかしら。……あなたの居ない人生に意味が無い、なんて……侑利がそんな事言うなんて信じられないくらい。…きっと、今までのどの彼女よりもあなたとは真剣に付き合ってると思うしか無いくらい」
慶はまだ、何も言えず……ただ突っ立って泣いてる。
ほんとは……抱きしめてやりてぇって思ってるけどさ…。
「あの……俺…………ご……ごめんなさいっ」
やっと喋り出した慶が、思いっ切り頭を下げた。
「…帰るとこ、だなんて……嘘吐いて……逃げて…………侑利くんは……ちゃんと話せば良いって言ってくれたのに……俺が……逃げたんです…」
母さんが慶に近付いた。
「何で…逃げたの?」
慶は困ったように一度俺を見たけど……震える声で少しずつ話し出す。
「……俺なんかと一緒に居るの……許してもらえる訳ない、って思って………俺は……男だし……子供が産める訳じゃ無いから……やっぱり……侑利くんには…普通に女の人と結婚して…孫の面倒見たりして……そういうのを…望んでるだろうな、って思って」
やっぱりそんな事心配してたんだな…。
「久しぶりに帰って来たら……男の俺が…一緒に住んでて……侑利くんとは……過ごして来た環境も…全く違うし……俺には………何も無くて…………何で、俺なんかとって思われるんじゃないかって……」
……慶はネガティブだから……そんな事ばっかが浮かんで来るんだ。
「侑利くんの為にも………友達のフリしなきゃって……………ごめんなさい…」
俺は……ちゃんと慶を見て来たつもり。
だからこそ…親にだってちゃんと紹介したいって思った。
ただ、唐突にその日が来ると思わなかったから……俺も焦ったけど………だけど、まさか慶が「帰るとこ」とか言うとは……俺も想定外。
「息子は、普通に女の人と結婚して子供が出来て、親は孫の面倒見て、それが一番幸せで何よりの親孝行…って……勿論それも正しいと思うし、多くはそうだと思う。……だけど、それって価値観の問題だと思うの。…色んな形があって、色んな人達が居て、感じ方もそれぞれでしょ?」
慶はゆっくり視線を上げて両親を見る。
「そうだよ、慶くん」
続きは父さんが喋り出す。
「君が侑利を好きで、侑利も君を必要としてるんなら、それは誰もとやかく言う権利は無いと僕は思う。…男の恋人が居るって事を、驚かなかった訳じゃないよ?…僕たちは侑利が女の子と付き合ってるのしか知らないからね。……だけど…女の子と付き合ってたって上手く行かない時もある。侑利なんか特にさ…今までの彼女は、誰とも上手く行って無いんだしな」
ちょっと……笑いを含めた感じで俺を見る。
「…何だよ…」
反論も出来ねぇけどさ。
まぁ、する気もねぇけど。
「そんな侑利が、どうやら、君が居ない生活は考えられないくらい君との事を真剣に考えてるみたいなんだ」
「それはっ、」
慶が突然言った。
勢いよく出た声に、自分でちょっと困ってる……慶らしいな、って思って愛おしくなった。
「…それは…俺も同じです……侑利くんが……俺の…最悪だった人生を…変えてくれました……この先……生きてて良い事なんて何も無いって思ってたから……だけど………侑利くんにとって……重い存在になりたくないな、って……どっかで思ってます…」
ん?…何だ?
「……侑利くんが俺の人生を変えてくれた……俺には侑利くんしか居ない、って……もしかしたらすごく……重いんじゃないかって……思う時があって……」
お前、何言ってんの?
「侑利くんは…すごく優しいから……自分が居なくなったら、俺がまた…死ぬ事考えたりするんじゃないかって思って……それで…もしも、他に気になる人が出来ても……俺を1人に出来なくて……結局……侑利くんの幸せを……俺が邪魔する事になるんじゃないか、とか……」
そんな事考えてんの?
「……だけど……考えても…考えても……いつも、最後は……侑利くんが居ないとダメだってなっちゃって……やっぱり……俺には、侑利くんしか居なくて……重いと思われても、邪魔だって思われても……………侑利くんの近くで居たい、って思ってしまうんです…」
そもそも…重いとか邪魔だとか、そんな事思わねぇし。
ほんとマジでそんな事考えてんだとしたら、ほんとにバカだよ、お前。
「慶くんは……そんなに侑利が好きなの?」
母さんが、侑利の前に立つ。
「……はい……すごく……」
慶が震えた声で答える。
「だったら、それで良いじゃない。もう泣かないで」
慶は、涙を止めようと…服の袖で何度も目を擦ってる。
「男って事を気にしてるのかも知れないけど、私たち夫婦はそういう考えだから、嫁とか孫とかそういうのは気にしないで。それに、私、まだ47歳よ。まだお祖母ちゃんにはなりたくないのっ。向こうでも40代前半で通ってるから」
「えっ、それは無理があんだろ」
思わず突っ込んで、すんげぇ悪い顔で睨まれた。
「侑利がお嫁さん貰った所で、私、上手く付き合える気がしないしねっ。昔付き合ってた彼女なんか、私の事『おばさん』呼ばわりだからねっ」
「…そう見えたんじゃねぇの?」
「うるさいわよ、侑利っ」
また睨まれる。
「とにかく、慶くんが男だからとか、辛い人生を送って来たとかは一切気にならないし、知ったからって気にするつもりもないわ。だけど……私たちは侑利の親だから、やっぱり侑利の幸せだけは気になるの」
面と向かってそう言う事を言われるのは初めてで……少し、照れる。
「だから、侑利の為にも……あなたには、侑利の傍で居て貰わないと困る」
母さん………カッコいいじゃん。
「僕からもお願いするよ。侑利がフラフラしないように見てて欲しい」
父さんも付け加えて来た。
「俺はフラフラしねぇよ」
「そう?…昔はかなり蛇行してたけどな…」
親のクセに息子をバカにしてんな。
母さんに、泣かないで、と言われたけど……慶の涙はいつまでも止まる事は無くて……取ってやったティッシュで拭きまくってる姿を見て、やっぱ大事なんだなって再確認した…。
とにかく……俺の傍で居てくれたらそれで良い。
重いだの邪魔だのって…しょうもない事考えないでさ…。
今年最後の日、だ。
先日も、工藤の事で揉めたばっかだけど……あの、顔を合わせて話した事で、何となく落ち着いて年越しを迎えられそうな感じ。
気になってない事は無いけど……飲み会のあの別れ際のまま放置してるよりは、数段スッキリしてる。
慶は少し…工藤と会った後、元気が無かったんだけど……今は、だいぶいつもの慶に戻って来た。
そりゃ、頭の隅っこでは考えてると思う。
嫌でも、会社で会うんだから。
だけど……もう、時は進んで行くんだし、それを今考えてても仕方ない。
特に今日みたいに……新しい年を迎える日なんかはさ……慶には、余計な事考えてて欲しくない。
むしろ、俺の事だけ考えてて欲しいわ、マジで。
「えへへ」
さっきから、助手席で慶が変な笑いを零してる。
BIRTHでのカウントダウンに慶を呼んだ。
新しい年を迎える時に、一緒に居たいって思った俺の我儘で。
バンドの人が来てくれてて、最初にライブやってすげぇ盛り上がったままカウントダウンに突入したから、店内はお客もスタッフも異常にハイテンション。
知らない人らで乾杯して意気投合して…みたいな。
慶は、その盛り上がり具合にちょっと戸惑ってたけど、一緒にカウントダウン出来たって事が後々嬉しくなって来たみたいで、さっきから助手席で上機嫌。
「何、機嫌良いの?」
「え、そりゃあ」
「何」
「…だって、侑利くん、一緒に居たくて呼んでくれたんでしょ?」
そうだよ。
それ以外ねぇよ。
「侑利くんと一緒に年越しなんてさぁ~~………へへ」
何だよ……へへ、が妙に可愛いじゃねぇか。
「寝て起きたらさぁ、初詣行こうぜ」
「うんっ」
俺の提案に嬉しそうな顔で返事する。
元旦の初詣なんてさ……人が鬱陶しいだけなんだけど……でも、何か……新年って感じするし、お詣りしておみくじ引いたりお守り買ったりしてさぁ……正月気分に浸っても良いか…とか思ったり……
「侑利くん……今年もよろしくね」
急にしおらしくそんな事を言う。
「じゃあ、俺も…よろしくな」
少し照れたように「うん」と頷くと、俺の左手を取ってそっと握る。
俺もそれに応えるように握り返す。
~~~~~~~~
起きたのは昼過ぎ。
昨日は3時に帰宅して、その後、新年って事にテンション上がってベッドで1回、風呂で1回やってしまい……寝たのはもう5時近く…。
そりゃ昼過ぎまで寝るわな……。
「何か食いに行ってからにすっか」
「うん、お腹空いたね」
準備して出かける前。
朝方まであんな事やってた自分らをクスクスと笑いながら、アウターを着込んで玄関に向かう。
何食う?とか言いながら靴を履こうとしてたら………突然……
ガチャガチャと外から物音。
「え…」
俺も慶も息を潜めてその音に集中する。
鍵穴に鍵を突っ込んでる音。
ちょっと待てよ………ここの合い鍵を持ってんのは、俺と、慶と……それと……
そこまで考えた所で勢いよくドアが開けられる。
「侑利っ、ハッピーニューイヤー!」
…そう言って、ちょうど運良く玄関に居た俺に飛び付いて来た。
…………親が帰って来た。
それも、行き成り。
チラッと慶を見ると…………完全に硬直してる。
声も出ないし、瞬きも忘れてる。
「すんげぇ……急だな」
飛び付いてたのが母さん。
「侑利、元気そうだな」
後ろで呑気にそんな事を言ってるのが父さん。
「長い事帰って来て無かったから、今年のお正月は絶対帰るからってだいぶ前から言ってたらOKになっちゃってね、それで急いで帰って来たのよ。3日には帰るんだけどね」
そう言いながら俺から離れると、改めて俺の頭を軽く撫でた。
高1で離れてから、会うのはこれで……5~6回目くらいだな…。
連絡はたまに取ってるけど、会うのはほんとに久しぶりだから、親からしたら俺はまだガキのままで止まってんのかもな。
「お友達?」
母さんが改めて、後ろで突っ立ったまま硬直してる慶を見て言った。
「どこか出かけるところだった?」
「あぁ、」
「い、いえっ」
行き成り慶が俺を遮って……
「帰るところでしたっ」
とか言うから……正直、めっちゃビビった。
「ちょ、慶、」
慶は俺に喋る隙を与えないくらいの速さで靴を履くと、そのまま親と入れ替わりで外へ出た。
俺も急いで靴をつっかけて外へ出る。
「ちょっと、中入ってて」
親にそう言って、中に押し込むようにしてドアを閉めると、先に歩いて行っている慶を追いかけた。
「ちょっと、慶っ」
直ぐに追い付いて腕を掴んで止まらせる。
「お前、帰るところって何だよ」
慶には、さっきまでのご機嫌な顔はもう無くて、突然の俺の両親の登場に完全にパニクってる感じの困り顔。
「分かんないけどっ…言っちゃったんだもん」
「だもん、じゃねぇだろ。何だよ、どこ帰るんだよ」
「無いけどっ……でも…他に何て言うのっ」
「一緒に住んでるって言やぁ良いじゃねぇか」
俺の言葉に思いっきり首を振る。
「ダメだよっ、絶対ダメ」
「何で」
「そんなのダメだよ…」
「だから何がダメなんだよ」
慶が黙る。
俺も、掴んでた力を少し弱めた。
「……とにかくダメ」
ダメだと言って譲らねぇ…。
「家ん中見りゃ一緒に住んでる事ぐらいすぐ分かんだろっ」
ハッとしたように慶が顔を上げる。
気付くの遅ぇだろ…。
お前のもん、山ほどあるじゃねぇか。
「俺は別に隠すつもりねぇし」
「だけど…」
「何だよ、…言ったら困んのか?」
「…久しぶりに帰って来たのに……びっくりさせるじゃん」
…そうかも知れねぇけど……そんなの考えてなくて良くねぇか?
そもそも、お前との事、隠すつもりなら付き合ってねぇし…。
「とにかく、戻ろう。俺がちゃんと説明する」
「ダメだよ…」
「何でだよ」
少し、イラついた口調になってしまった。
慶がいつまでもダメだとしか言わないから…。
「……家族で…話した方が良いよ」
慶に「家族」と言われて……何か複雑な気持ちになった。
俺の両親は多分………慶の両親とは性格的にも真逆だろう…。
俺は両親からの俺に対する愛は、普通に感じてる。
普段は放置されてるけど……それでもやっぱり繋がってる事は感じるし、時々電話も来る。
今だって、久々に会った息子に年甲斐もなく抱き付いて来るような親だ。
愛情をかけられてない訳が無い。
「どこ行くんだよ」
「……分かんないけど……どっかで時間潰す」
「…でも、やっぱり、」
「ちゃんと…3人で話して欲しい。久しぶりなんだし」
確かに……こうなった今……もう、慶との事を話す時が来たんだろうけど……俺は別に今まで隠してた訳じゃ無くて…慶と出会ってから今までに両親と連絡を取り合う事が無かっただけで、その時が来たら言うけど、ぐらいに思ってた。
慶がこんなに動揺するとは思って無かったけど……行き成り連絡無しに家に来たんだから、慶の事を考えると……パニクって当たり前だな、とも思う。
親もその場に慶が居たら……話し辛いってのはあるかも知れないけど……。
だからって、慶に席を外させるなんて選択肢は俺の中には無かったんだけど……慶がどうにも折れてくれそうにない…。
「終わったら連絡してね」
そう言って、エレベーターの方へと歩き出そうとする。
「慶、…話すから、お前との事、全部。ちゃんと話して、納得させる」
慶は少し微笑んで、そのまま歩いて行った。
俺はその背中を見送るしか無かった。
*慶side*
目の前に置いたホットカフェオレが……もう…完全に冷めた事には気付いてる…。
とりあえず……時間を潰そうと思って入ったファーストフード店。
お腹が空いてたはずなのに……もう何も食べる気がしなくて……ホットカフェオレを注文しただけで、窓際のこの席にずっと座ってる。
周りはすごく煩いけど……あまり耳に入らないくらい……ずっと考え事してる。
明るくて楽しそうなお母さんと…温厚で優しそうなお父さん……
改めて………侑利くんとの違いが分かって………やるせない気持ちで一杯になる。
今頃……何話してるのかな……
俺の事聞いて……両親はびっくりしてるかな………
久しぶりに会った息子に男の恋人が居るって知ったら……
家族も家も無くて…侑利くんちにずっと住んでるって聞かされたら……
もしも……反対されて……別れて欲しいとか言われてたとしても…俺は……何も言えないな……。
侑利くんと別れるなんて…出来そうにないけど……だけど……侑利くんの親が強くそれを望んだら……
侑利くんは優しいから…俺に気を遣ってくれると思うけど……俺が別れない事で、侑利くんの家族が上手く行かなくなるんなら……きっと…終わりにしなきゃいけないんだろうな……
侑利くんと別れたら…………俺は…生きて行けるかな………
侑利くんの居ない毎日に…………意味なんてあるのかな…………
気付かない内に………泣いてた。
涙が落ちた感覚がしてハッと顔を上げると、近くのテーブルの高校生と目が合って……急いで窓の方を向いて涙を拭いた。
高校生は多分、泣いてる俺の事を話してる。
恥ずかしくて…しばらくそっち向けないな……
もう嫌だ…何か……
コンコンッ
突然、外から窓が叩かれた。
ボーッとしてたから全然見えてなかった視界をそちらに集中させると、そこに立ってたのはリベルテの三上さんだった。
三上さんは、そのまま店内に入って来て……俺のテーブルの脇に立った。
「羽柴さんっ、こんにちは」
「こ…こんにちは」
にっこりと笑ってくれる。
三上さんはいつも明るい。
「1人ですか?」
周りを少し見回してそう言った三上さんに「はい」と答えると、前の席に座って良いか尋ねられる。
俺の返事を聞いて、三上さんが座った。
「三上さんは…1人ですか?」
「はい。店も年末休みで、さっきまで友達と居たんですけど今別れたところで……そこで信号待ちしてて、何となく見た店ん中にすっげぇ美人が居ると思ったら羽柴さんでした」
はっきりそう言われて、何となく恥ずかしくなる…。
きっと俺は今泣いた顔してて……バレてるんだろうな、って思う…。
「羽柴さん…何かあったんですか?」
「え?」
「久我さんと…ケンカでもしたんですか?」
「…何でですか…?」
「……すごく……辛そうな顔してるから」
やっぱり……そう見えるんだね……今の俺はきっと…。
侑利くんとのこれからの事を考えて……1人泣いてるんだから…。
「……ケンカした訳じゃないんですけど………」
それ以上は言葉が出て来ない俺に、三上さんはその先を聞かないで居てくれた。
「それ、飲まないんですか?」
注文したまま一口も飲んでいないカフェオレを指差す。
「ホットのカップに入ってるけど……どう見ても温かいようには見えませんね」
長い事…ボーッとしてたのもバレてるんだな…。
「あのぉ……羽柴さん…この後、予定ありますか?」
「えっ?」
急に聞かれてびっくりした。
「…連絡が来るまでは……大丈夫ですけど…」
三上さんは俺の返事を聞くと立ち上がり、カウンターから持ち帰り用のカップを持って来て、口をつけていないカフェオレをソレに移し替えた。
「飲んで無いのに、勿体無いですからねっ」
「はい」と笑顔で差し出されたカップに、何故か……少し…可笑しくなって笑ってしまった。
「笑ったらやっぱ美人ですね」
「え…」
「さ、行きますよっ」
「えっ、行くってどこに…」
先に立ち上がった三上さんに、急いで付いて行く。
1人で居たら押し潰されそうだったから……明るい、三上さんに会って……少しだけ楽になったって思えた。
「って言っても、どこ行くか考えては無かったんですけどね、あはは」
と言って、店先で笑う三上さんにつられて俺も笑う。
「でも、あそこでずっとじっとしてるよりは良いでしょ?ただただ明るい奴と一緒にブラブラするだけでも気分転換になると思うし」
そう言って二ッと笑う。
「優しいですね、三上さん」
「あ~それよく言われます。優しい人止まりなんですよね、俺って」
「えっ、そんな事ないですよっ」
「や、そのフォローも虚しいだけなんで、いいです…」
あからさまに落ち込んだ感じで言うから、また可笑しくなる。
「あっ、そうだ」
そう言って、思いついたように三上さんが指さす。
「あそこのショッピングモールの屋上からの景色が良いんですよっ」
「えっ、そうなんですか?」
「夜だったらもっと良いんですけどね、でも、昼間でも絶景なんですっ……って雑誌に書いてました」
「……ふっ、あははっ」
見て来たみたいに言うけど、雑誌の情報だった事にまた笑う。
「ほんとかどうか確かめに行きませんか?」
「…はい」
きっとこれは三上さんの優しさで………俺を元気づけてくれてるのかも、って……ちょっと思った。
「ほんとだ~~……すご~~い…」
ショッピングモールの屋上に立って、思わず言った。
雑誌の情報は確かで……ビル、その先の海、空…全部が何か……うまく調合されてる。
夜はもっと良い、って言うのもすごく分かる気がする。
「天気良くて良かった」
「ほんとですねっ」
嬉しくなって、そう返す。
「羽柴さん…やっぱ可愛いですね」
思っても無かった答えが返って来て、途端に恥ずかしくなってちょっと俯いてしまった。
「久我さんにクリスマスプレゼントを選んでる羽柴さん見た時は……まぁ、正直、ショックでした」
「え、?」
そう言いながら、先にあるフェンスに向かって歩く三上さんに付いて、俺も歩く。
「付き合ってるのは…今までの言動で大体分かってましたけど、あの時…はっきり、羽柴さんの口から付き合ってるって聞いたし、」
……何て返せば良いのか…
「羽柴さんみたいな人だったら俺…全然付き合いたいって思うし、正直、今まで俺が出会って来た女の人よりもキレイだし……ほんとに……見た事ないくらい…羽柴さんはキレイです」
これは……コメントし辛いものがあるよ…
「このまま突っ走って、羽柴さんを本気で好きになる事も出来たと思います」
「え…?」
何か…すごい事を言われた気がするけど…
「俺…男の人とか好きになった事無いんですけどね。…でも、羽柴さんは何か…違ってて」
……すごくはっきり言われて、何か擽ったい。
「でも……久我さんに勝てる気が……全くしないから……勝手に撃沈したんですけどね」
ははは、と笑うけど……さすがに今は笑えない。
「でも、ファンとしては俺…誰にも負けないって思ってます」
「え、ファン…?」
……どういう存在なの…俺って…
「だから…羽柴さんが辛そうだと……何とかして笑わせたくなります」
やっぱり……優しさだったんだ…。
「俺と居る間だけでも……辛い事、少しでも忘れてくれたら良いなって思ってます」
……優しいんだな……ほんとに…。
俺の事なんか……そんな風に思ってくれて……
RRRRR…RRRRR…RRRRR…
しばらく、屋上のベンチに座って景色を眺めてたら……鞄の中で携帯が鳴った。
侑利くんだって分かる。
『話したから帰って来い。親も待ってる』
電話から聞こえた侑利くんの声が、すごく優しくて……泣きそうになった。
電話を終わらせて、三上さんに向かい合う。
「俺は……優しくされる事に…慣れてません…」
「…え?」
「…そんな…人生でした、…彼と出会うまでは」
……侑利くんが変えてくれた、俺の辛かっただけの人生……
死にたかっただけの毎日……
「今日……1人で色々考えて……あのまま居たら、すごく落ち込んでたと思います。………ありがとうございました、笑わせてくれて」
「ファンなんで当然ですよっ」
最後までそう言ってくれる三上さんに、ほんとに感謝してる。
「きっと大丈夫ですよっ、俺はそう思います」
別れ際に、三上さんがそう言ってくれた。
何があったか知らないのに…自信満々の顔でそう言われると……何となく……大丈夫なような気がして来る…。
泣いてた理由を聞かなかったのも、きっと三上さんの優しさなんだろうな……。
~~~~~~~~
*侑利side*
ガチャ、と玄関のドアが開く音がして……俺はそこへ急ぐ。
慶が帰って来た。
ゆっくりと入って来たその顔は、もう既に泣きそうなくらい不安一杯な感じで……
久々に……こんなに…不安そうな顔を見た。
最初の頃は…こんな感じだったな…とか、意外と冷静に考える。
俺について歩いて来たけど、リビングのドアの手前で立ち止まった。
小さく、深呼吸してる。
そんなに気負わなくて良いよ。
ドアを開けて一緒にリビングへ入ると、同時にうちの親も立ち上がって慶を見る。
慶は……完全に足が止まってしまった。
父さんと母さんが慶の前に立つと……慶は、顔を上げられずじっと床を見つめて小さく震えてた。
「…初めまして、慶くん」
「…っ、」
母さんがそう言ったのと同時に……慶の目から涙が落ちたのが分かった。
いつもみたいに…表情を変えず、涙だけを零して泣く。
母さんは泣き出した慶を見て少し困ったように微笑むと、父さんに視線を投げかけた。
きっと助けを求めたんだろう…。
父さんが、少し慶に近付いて…俯いてるその顔を覗き込むようにして言う。
「慶くん……すごく…不安に思ってると思うから…結果から言うね」
慶は一瞬驚いたように目を開けたけど……すぐに硬く目を閉じた。
何を言われるか…すごく不安なんだろうな……緊張してんのが伝わって来る。
「…僕も妻も、君を否定なんかしないよ」
慶が閉じてた目をゆっくりと開ける。
まだ…あまり理解出来てないような…そんな表情。
「侑利から…全部聞いたよ。君との事も、君の今まで生きて来た人生の事も。……同じ親として…君の両親のした事は…理解に苦しむし……何より…許せないと思った。…君がどれだけ傷付いたか…多分…僕たちの想像を遥かに超えてるんだろうなって思う」
涙は止まらず、その目からずっと零れ落ちている。
「…侑利がね……君が居ない人生には意味が無いって言うんだ」
「…え…、」
慶が俺の方を見る。
そんな事思いっ切り言うなよな……。
……まぁ、でも……俺は自分の気持ちを素直に言ったまでで…。
「君は色々考えて悩んでるのかも知れない……でも、僕たちは侑利の親だから…親バカかも知れないけど、侑利が幸せで居てくれる事を願ってる。…だから、君と居る侑利の今の生活を、壊すような事は絶対にしないよ」
父さんの語り掛けるような言葉に…慶は何も言えずただ涙を流すだけだった。
「ね。」と言って母さんにバトンタッチする。
「慶くんはきっと……自分が男で、って気にしてるのかも知れないけど……実は、私たちの周りに結構居るの、同性で付き合ってるって人達。一緒に働いてるスタッフの中にも居るくらい。……向こうじゃそんなに珍しくないからね。…侑利だって…そんな事気にするんだったらあなたと付き合わないんじゃないかしら。……あなたの居ない人生に意味が無い、なんて……侑利がそんな事言うなんて信じられないくらい。…きっと、今までのどの彼女よりもあなたとは真剣に付き合ってると思うしか無いくらい」
慶はまだ、何も言えず……ただ突っ立って泣いてる。
ほんとは……抱きしめてやりてぇって思ってるけどさ…。
「あの……俺…………ご……ごめんなさいっ」
やっと喋り出した慶が、思いっ切り頭を下げた。
「…帰るとこ、だなんて……嘘吐いて……逃げて…………侑利くんは……ちゃんと話せば良いって言ってくれたのに……俺が……逃げたんです…」
母さんが慶に近付いた。
「何で…逃げたの?」
慶は困ったように一度俺を見たけど……震える声で少しずつ話し出す。
「……俺なんかと一緒に居るの……許してもらえる訳ない、って思って………俺は……男だし……子供が産める訳じゃ無いから……やっぱり……侑利くんには…普通に女の人と結婚して…孫の面倒見たりして……そういうのを…望んでるだろうな、って思って」
やっぱりそんな事心配してたんだな…。
「久しぶりに帰って来たら……男の俺が…一緒に住んでて……侑利くんとは……過ごして来た環境も…全く違うし……俺には………何も無くて…………何で、俺なんかとって思われるんじゃないかって……」
……慶はネガティブだから……そんな事ばっかが浮かんで来るんだ。
「侑利くんの為にも………友達のフリしなきゃって……………ごめんなさい…」
俺は……ちゃんと慶を見て来たつもり。
だからこそ…親にだってちゃんと紹介したいって思った。
ただ、唐突にその日が来ると思わなかったから……俺も焦ったけど………だけど、まさか慶が「帰るとこ」とか言うとは……俺も想定外。
「息子は、普通に女の人と結婚して子供が出来て、親は孫の面倒見て、それが一番幸せで何よりの親孝行…って……勿論それも正しいと思うし、多くはそうだと思う。……だけど、それって価値観の問題だと思うの。…色んな形があって、色んな人達が居て、感じ方もそれぞれでしょ?」
慶はゆっくり視線を上げて両親を見る。
「そうだよ、慶くん」
続きは父さんが喋り出す。
「君が侑利を好きで、侑利も君を必要としてるんなら、それは誰もとやかく言う権利は無いと僕は思う。…男の恋人が居るって事を、驚かなかった訳じゃないよ?…僕たちは侑利が女の子と付き合ってるのしか知らないからね。……だけど…女の子と付き合ってたって上手く行かない時もある。侑利なんか特にさ…今までの彼女は、誰とも上手く行って無いんだしな」
ちょっと……笑いを含めた感じで俺を見る。
「…何だよ…」
反論も出来ねぇけどさ。
まぁ、する気もねぇけど。
「そんな侑利が、どうやら、君が居ない生活は考えられないくらい君との事を真剣に考えてるみたいなんだ」
「それはっ、」
慶が突然言った。
勢いよく出た声に、自分でちょっと困ってる……慶らしいな、って思って愛おしくなった。
「…それは…俺も同じです……侑利くんが……俺の…最悪だった人生を…変えてくれました……この先……生きてて良い事なんて何も無いって思ってたから……だけど………侑利くんにとって……重い存在になりたくないな、って……どっかで思ってます…」
ん?…何だ?
「……侑利くんが俺の人生を変えてくれた……俺には侑利くんしか居ない、って……もしかしたらすごく……重いんじゃないかって……思う時があって……」
お前、何言ってんの?
「侑利くんは…すごく優しいから……自分が居なくなったら、俺がまた…死ぬ事考えたりするんじゃないかって思って……それで…もしも、他に気になる人が出来ても……俺を1人に出来なくて……結局……侑利くんの幸せを……俺が邪魔する事になるんじゃないか、とか……」
そんな事考えてんの?
「……だけど……考えても…考えても……いつも、最後は……侑利くんが居ないとダメだってなっちゃって……やっぱり……俺には、侑利くんしか居なくて……重いと思われても、邪魔だって思われても……………侑利くんの近くで居たい、って思ってしまうんです…」
そもそも…重いとか邪魔だとか、そんな事思わねぇし。
ほんとマジでそんな事考えてんだとしたら、ほんとにバカだよ、お前。
「慶くんは……そんなに侑利が好きなの?」
母さんが、侑利の前に立つ。
「……はい……すごく……」
慶が震えた声で答える。
「だったら、それで良いじゃない。もう泣かないで」
慶は、涙を止めようと…服の袖で何度も目を擦ってる。
「男って事を気にしてるのかも知れないけど、私たち夫婦はそういう考えだから、嫁とか孫とかそういうのは気にしないで。それに、私、まだ47歳よ。まだお祖母ちゃんにはなりたくないのっ。向こうでも40代前半で通ってるから」
「えっ、それは無理があんだろ」
思わず突っ込んで、すんげぇ悪い顔で睨まれた。
「侑利がお嫁さん貰った所で、私、上手く付き合える気がしないしねっ。昔付き合ってた彼女なんか、私の事『おばさん』呼ばわりだからねっ」
「…そう見えたんじゃねぇの?」
「うるさいわよ、侑利っ」
また睨まれる。
「とにかく、慶くんが男だからとか、辛い人生を送って来たとかは一切気にならないし、知ったからって気にするつもりもないわ。だけど……私たちは侑利の親だから、やっぱり侑利の幸せだけは気になるの」
面と向かってそう言う事を言われるのは初めてで……少し、照れる。
「だから、侑利の為にも……あなたには、侑利の傍で居て貰わないと困る」
母さん………カッコいいじゃん。
「僕からもお願いするよ。侑利がフラフラしないように見てて欲しい」
父さんも付け加えて来た。
「俺はフラフラしねぇよ」
「そう?…昔はかなり蛇行してたけどな…」
親のクセに息子をバカにしてんな。
母さんに、泣かないで、と言われたけど……慶の涙はいつまでも止まる事は無くて……取ってやったティッシュで拭きまくってる姿を見て、やっぱ大事なんだなって再確認した…。
とにかく……俺の傍で居てくれたらそれで良い。
重いだの邪魔だのって…しょうもない事考えないでさ…。
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