laugh~笑っていて欲しいんだ、ずっと~

seaco

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「何で泣いてるのか分かんない……」

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慶が………もう、どうしようもないくらい緊張してる。

親から、今日の夜4人で食事しよう、と誘われた。

ああいう仕事をしてると、日本にも幾つも知り合いがやってる店があるみたいで、昔からの付き合いがある人の店もあったりする。

今日行くのは、普段は絶対行かないようなコース料理の店だけど、親が店を決めたからこっちは文句言えない。

正直…………慶のロボット化が心配すぎて、料理を楽しめそうにないなって思ってるけどな。

親は明日向こうに帰ってしまうから、その前に4人で話がしたかったんだろう。
慶は…緊張で上手く喋れないと思うけど。


昨日、親がマンションを去った後、


「認めて貰えないと思った………侑利くんと…別れてって言われるって思ってた……」


と言った。

そして、


「…俺だって………侑利くんの居ない人生に……意味なんて無い」


と言って、しばらく泣いた。


俺の両親は……慶と付き合ってる俺を咎める事もなく、現状を受け入れた。

理解はして貰えると思ってたけど……こんなに、すんなり受け入れて貰えるとは思って無かった。少しは……「それで良いのか」みたいな事を聞かれるかと思ってた。

やっぱり親って……想像の上を行ってる。




~~~~~~~~


「こっちこっち」

どっかの雑誌で見た事のあるような、高級ホテルのエントランス。
到着した俺と慶に向かって、母さんが立ち上がって手を振ってる。

飲むかな、って思ってタクシーで来たけど……慶は、そのタクシーの中で既に泣きそうなくらい緊張してて……「はぁ…倒れそう」…みたいな感じのネガティブ発言を50回はしただろう。

現にタクシーから降りた今も、硬直気味だもんな…。

「すんげぇホテル」
「あー、ここのレストランのオーナーが日本に居た時から親しくしてる人でね、帰ってるって連絡したら食事に招待してくれたのよ」

招待って……何か、自分の親ながら、ほんとにすげぇんじゃないかって思えて来る。

「慶くん、今日は遠慮なく食べてね」
「……は…、…はい…」

……………ダメだな、こりゃ…。

「あのさぁ……コイツ、とにかく緊張が酷いからあんまりプレッシャーかけないでやって」
「知り合いの店だからね、気軽に」
「高級ホテルとかハードル高すぎて、来る前から倒れそうになってんだからさ」
「大丈夫大丈夫、そんなの気にしないで」

母さんは良い意味で大雑把。
父さんは良い意味で呑気。

………だからあっちで成功してんのかもな…。

「じゃ、行こうか」

父さんの一声で歩き出す。
俺の隣で一言も喋らない慶。

「大丈夫か?」と聞くと、緩く首を振った。
…そりゃ、大丈夫じゃねぇわな、その顔色じゃ……今きっとかなりの心拍数を叩き出してんだろうな…。

レストランは15階。
乗り込んだエレベーターに、そこそこ人が乗ってて一番奥に立ったのを良い事に、緊張で冷え切ってる慶の手をそっと握ると、ピク、とその手が跳ねた。

不安満載な目で俺を見てる慶と目が合う。
そんなに緊張しないで良いんだって…ただのレストランだしさ。
ちゃんと座って食ってりゃ誰も何も文句言わねぇよ。



いかにも……上位ランクのレストランです感半端ねぇ入口。

予約時間ちょうどに行くと、そこに立ってた人物がこちらに気付いて手を上げた。
どうやら知り合いのオーナーらしく、再開の挨拶がしばらく続く。

「侑利、こちらがオーナーの前野さん。小さい頃に何回か会った事あるのよ」
「え…、」

そう言われても………記憶ねぇわ……

「覚えてないよねぇ、そんな昔の事。でも、侑利くんは昔から可愛いかったけど、大人になったらこんな男前になって、驚きだな」

明るい、嫌味の無い感じの人だ。
そのまま、慶へと視線を移す。


「あ、彼は侑利の大切な人なの」


サラッと言ったな、今…。

慶が完全に硬直。
瞬きもしばらくしてない。


「今日は彼と侑利のための食事会でもあるから、そんな日に前野さんの所に来れてほんとに嬉しいわ~」


親ってすげぇな……。
一旦受け入れたら、無敵じゃん。


「じゃあ、何か特別な物を用意するよ」

俺と慶を見て、全てを悟ったかのように微笑むと、前野さんはそう言った。
慶を見ると……やっと思い出したように瞬きをして……困った様に俯いた。


通されたのは、窓際で夜景が一望出来る最高な席。

「素敵~」
「特別感すごいね」

などと、嬉しそうに話してる親を後目に、俺は隣に座ってるロボットが気になってる。

「慶」
「…ん、」

唇の色ねぇしっ。

「普通にしてりゃ良いんだよ」
「………う、うん」

慶の様子に「あはは」と親が笑って、それを見て慶がぎこちなく笑う。








コース料理も中盤。

メインは2種類。
肉と魚。

どっちもやっぱりすんげぇ美味い。

慶は、ナイフもフォークも全く使い慣れてなくて、俺のを見ながら頑張って食ってる。
だけど、正直俺だってそんなに知ってる訳じゃねぇからさ…食べたい物を食べたい様に切って食ってるだけだし。

そんなに気にしなくて良いんだよ。



その時……レストラン内の照明が緩く落とされ、数本のロウソクをさした可愛らしいケーキが運ばれて来た。

少し前の家族のテーブルにケーキが置かれる。

「お食事中の皆様、本日、こちらのご家族のお嬢様のお誕生日でございます」

と、店員が言う。

誕生日を祝うサプライズ演出。
一般的な飲食店でも最近よく見かける。店員が出て来て歌を歌ったりして、その場に居る全員で誕生日を祝う、みたいなやつ。

「この後ロウソクが消えましたら、皆さまも拍手でお祝いをお願いいたします」


目の前にケーキが置かれた主役の女の子。
小学校低学年くらいかな……嬉しそうな顔でケーキと両親を交互に見てる。
両親も娘の喜ぶ顔を見て幸せそうに笑う…………きっと、仲の良い幸せな家庭なんだろう。


……ふと……慶が気になった。


慶は………どんな気持ちだろう…。


慶の兄と両親は……まさに今目の前に居るこの家族の様に、幸せな誕生日を毎年過ごしてたんだろう。

ほんとなら、慶だってその場に居たはずなのに……現実は、慶だけ置き去りだ。

大好きなじいちゃんと過ごせて楽しかったって慶は言ったけど……それは、ほんとにそうなんだろうけど………だけど…………


慶だって……親と兄と一緒に居たかったに違いない。


慶は、誕生日が嫌いだったって言ってた。

……自分が生まれた日が……一番自分を苦しめる日だったんだもんな…。


慶は拍手の用意をして、流れ出したピアノ伴奏の誕生日の歌を聴いてる。


そんな慶を見てたら……何だか………不意に、胸の奥の方が痛くなって……慶から目を反らすと、同じ様に少し心配そうに慶を眺めてた親と目が合って……何故か泣きそうになるのをどうにか堪えた。

誕生日が嫌いだった子供の頃の慶は………その日……どんな気持ちだったんだろう…。


ふぅ、と女の子がロウソクを吹き消して、レストラン全体に拍手が起こる。
周りにお祝いされて、親も立ち上がり他のテーブルに向かってお辞儀してる。

普通はこうやって………祝福されんだよ……。

慶は、パチパチと拍手を送ってる。
そして「すごいね~」といつもの口癖を言って俺を振り返った。

その顔を見たら………今すぐ……抱きしめたくなった…。



前野さんが来て、食後に明日からレストランに出す新作のケーキを特別に用意すると言ってくれた。

少しして、パティシエ直々に持って来てくれた、まだ何処にも発表していない、芸術品のようなケーキ。


「……ぁ、」


小さな声で慶がそう言った。

さっきから、誕生日の歌がまたピアノ演奏されてる事に、俺は気付いてた。
少し遅れて気付いた慶は、キョロキョロと他のテーブルを見回してる。

きっと……またどこかのテーブルでサプライズ演出があるって思ったんだろう。


だけど、慶…………これはきっと、お前にだよ。


そして、そのケーキが慶の前に置かれた。


「……え、?」


慶が驚いて見てる。

さっき、母さんが前野さんに何か耳打ちしてたのを見た。
親は親なりに……慶の不安を取り除いてくれようとする。


「慶くん、君が生まれて来た事に感謝してるよ」

「慶くん、生きて来てくれて、侑利に出会ってくれてありがとう」


父さんと母さんがそう言うと……慶は堪え切れなくなって泣き出した。

他のテーブルの人が見てるけど………俺はそんな慶が愛しくて仕方なくて…。

今までの酷い人生が……慶には重くのしかかってる。
だけど……少しずつ…軽くなって行ってるって……俺は信じたい。

慶は……愛されるべき人だよ。


「侑利、何か言ってあげなさいよ」

母さんが、俺に振って来た。
慶は止められない涙と格闘してる。

そんな事したって、しばらく止まんねぇよ。

だけどきっと、この食事の席で泣いてしまった事を、すげぇ気にしてるんだろうな…。
そんなの、誰も思ってねぇのにさ。


「慶、」

俺の声に、慶が泣きながらこっちを向く。
いつもはキレイに泣くけど……今はもう……どうしようもないぐらいグズグズだ。


「…お前の事は、マジですげぇ好きだけど………今は、びっくりするぐらい不細工になってんぞ」


一瞬の沈黙の後、慶に肩をバシッと叩かれた。

「っ、た」

マジで痛い。
慶は指も細くて骨っぽいから、叩かれると何か痛い。

泣いてるくせにそう言う事は突っ込んで来るんだな…。

「今のは侑利が悪いわよ」

母さんにも突っ込まれる。


だけど、慶の涙が止まりかけてるのは、俺の一言があったからじゃねぇ?





~~~~~~~~

もう1人会いたい同業の人が居るらしく、親とはレストランを出て別れた。

……で、俺と慶は帰宅した訳だけど…。


帰りのタクシーでは、高級レストランの事を興奮気味に喋ってた慶が、マンションが近付くにつれて少しずつ口数が減り、帰宅したら行き成り……泣き出した。

中々入って来ねぇと思って振り返ったら、玄関で立ち尽くしたまま泣いてた。


「…どした?」

そこまで行って、聞いてやる。
慶はそのまま…何も喋らずシクシクと泣き続けてる。

「靴、脱ぎな?中入ろうぜ」

そう言った俺の腕を掴んで、抱き付いて来た。

「…何泣いてんの」

泣かれると……落ち着かねぇ。
慶の体を抱きしめる。

そう言えば、レストランに居る時から抱きしめたいって思ってた。何度も。

「何で泣いてるのか分かんない……」

ボソッと聞こえた。

「はは、…何だそれ」

慶の小さな頭を抱え込む。


きっと……色んな感情がごちゃ混ぜなんだろう。
昨日から……緊張しっ放しだしな、お前。


「………嬉しかった……」


涙声で慶が言う。

「分かったよ」

背中を何回か摩ってやる。
慶が落ち着く様に。

「慶…」
「ん、…」
「…俺、お前の事、大事にする」
「……………」

慶は何も言わなかったけど、俺の服を握る手の力が強くなったのが分かったから……よしとする。


「慶」
「………ん」

少し掠れた声。


「抱かせて」


はっきり言った。
少しして、小さく「うん」と聞こえて……何だか、堪らない気持ちになる。

やっと靴を脱いだ慶は、やっぱりシクシクと泣きながら俺に引っ張られ素直に寝室に付いて来る。

俺の親が来た事で、きっと要らねぇ事まで散々考えて不安で一杯だったんだろ、どうせ。


ベッドに寝かせても、行為を始めても、慶はずっと泣いていた。
よくそんだけ涙が出るもんだな、とか思うけど……きっと今は、それで良い。

とりあえず今は、目の前の慶に集中。


涙は後で、止めてやる。
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