トゥモロウ・スピーチ

音羽夏生

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3章

7

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 テオバルドは立ち上がり、芝居掛かった口調で詩のように言葉を紡ぐ。馴染みのあるその英語のフレーズに、志貴は目を瞠った。

「時は小刻みな足取りで一日一日をのろのろ歩み、ついには歴史の最後の一瞬へと辿り着く」

 知っているだろう、と眼差しでテオバルドが先を促してくる。操られるように、親しんだ台詞が口を突いて出る。

「……昨日という日はすべて愚かな人間が塵と化す、死への道を照らしてきた」
「消えろ、消えてしまえ、束の間の燈火など! 人生は歩き回る影、人は哀れな役者に過ぎない」
「出番の間は大見得を切って騒ぎ立てても、袖に入ればもうそれきりだ」

 パンパンパン、と乾いた拍手が鳴った。
 南欧の初秋の眩しい青空に、陰鬱なスコットランドの簒奪者の独白が溶けていく。
 手を打ったテオバルドの顔は茶目っ気に溢れ、さきほど見せた冷たい影は微塵も残っていない。別人のような変貌ぶりと、突然押し付けられた戯曲の暗唱に、志貴はしばらくの間言葉を失った。

「……君という人は、意外性の塊だな」
「惚れ直したか?」
「君の教養には一目置く価値があるとわかったよ」

 『明日、また明日、そしてまた明日』――。有名な『マクベス』の一幕、愛する妻の死を知らされたマクベスの長い独白だ。
 元は勇猛果敢で周囲の尊敬を集める将軍であったマクベスは、荒野で出会った三人の魔女の予言に惑い、妻に唆されて、善政を敷く主君を殺し王冠を手に入れる。しかし小心なところもあるマクベスは、自らが殺した者たちの幻影に悩まされ、その暴政によって国は乱れて民心は離れ、罪への呵責から夢遊病に冒された妻も狂乱の中に死んでいく。

『バーナムの森が動かない限り安泰だ』
『女の股から生まれた者には殺されない』

 マクベスの世の安泰を裏付けると思われた予言は、彼を滅ぼす敵とその軍勢を正しく言い当てていた。木の枝を隠れ蓑にして進軍していたイングランド軍、女の腹を破って生まれた敵将。
 予言にも裏切られたマクベスは、自分の運命は自分で切り開く、と最後の戦いを挑み、敗死する。――そして終劇。

「元は小さな種火に過ぎなかった野心を、業火に育つように薪をくべる女たち。それに踊らされただけの卑小な男。雪崩のようなカタストロフィの中に、男を男たらしめる弱さが凝縮されていると思わないか」
「興味深い見解だ。君は、男はすべて救いがたい卑小さを持ち、女性より弱い生き物だと考えているように聞こえる」
「事実そうだろう。どれほど力で威圧したところで、女たちの芯の強さ、したたかさに太刀打ちできる男はいない」
「異を唱えるつもりはないよ。私がこの世で一番容赦なく強いと思っている人は、女性だから」
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