66 / 237
6章
8
しおりを挟む
「無力化……言い得て妙だな……」
テオバルドの揶揄に、言い返す気力もない。確かに無力化されている、と志貴は思ったが、奮い起こす力も残っていなかった。
ジェイムズは確実に、抗う気力を吸い尽くしている。
「一体何をされたんだ。疲れてるようにも見えるが、――無防備で、いつもに増して可愛いぞ、あんた。途方に暮れた子供みたいだ」
「上手いことを言う。その通りだ……」
子供扱いされて、途方に暮れているのだから、その通りだ。頭を机の上に戻して、横を向いたまま呟く。
社会人としての面目も気概も奪われている、と志貴は冷静に被害を分析する。分析したところで対策の立てようもないが、何もせず奪われたままというのも情けなく、無為と知りつつ足掻いているのだ。
「どうにもグダグダだな……拗ねているように見える」
「拗ねてなどいない。第一拗ねる理由がない」
「その言い草が拗ねていると言うんだ。前にも思ったが、あんたは拗ねると可愛らしさが跳ね上がるな」
「君の目は腐っている。そんな戯れ言を言う前に、一度君も彼に襲われてみたらいいんだ……」
ぺたりと机に懐いたまま、起き上がる気配もない志貴に、困惑しながらもテオバルドが近づく。机の横に立つと、やさしげな声音で、しかし断固とした調子で質してくる。
「可愛いのはそのままでいいから、そろそろあの男との関係を教えてもらおうか。上等な見た目に貴族の英語。あんなに熱く抱き合って、――イギリス時代の、あんたのオトコか」
「何をされたんだ」と訊ねておきながら、殆ど一部始終を覗いていたんじゃないか、と志貴は口をへの字に曲げる。
寒くなり、『スペイン語』の時間は喫茶店や志貴の執務室に場所を移していたが、約束の時間にはまだしばらくある。テオバルドはたまたま早く来て、志貴の遭難現場に出くわしたのだろう。
「オトコって何だ……私も男だ」
「はいはい、力一杯拗ねちまって。こんなに可愛い男、そうはいないけどな」
すっかり不貞腐れている志貴に、慰めようとテオバルドが手を伸ばす。拗ねて身を丸めた子供にするように、頭を撫でようとしたその時、
「無事か、志貴!」
鋭い問い掛けとともに部屋に飛び込んできたのは、一洋だった。
弾かれたように志貴は起き上がり、背筋を伸ばして座り直す。直前までのじっとりとした低空飛行ぶりは瞬時に霧散し、その変化にテオバルドが眉を上げる。
「黒木さんから、お前が金髪の美形に襲われていると電話があって駆け付けたんだが――何があった」
腕を掴まれ、立ち上がったところをすかさず抱き寄せられた。腕の中に捕らわれたまま指先で顎をすくわれ、上向いた顔を見つめられる。穏やかだが真剣な眼差しは、偽りも傷も見逃がすまいという強い意思を秘めている。昔、近所の悪童に突き飛ばされて肘を打ち、涙を堪えて帰ったのに、すぐに傷に気付かれた時とまるで変わらない。やさしい幼馴染の顔――つまりは、またも子供扱いだ。
テオバルドの揶揄に、言い返す気力もない。確かに無力化されている、と志貴は思ったが、奮い起こす力も残っていなかった。
ジェイムズは確実に、抗う気力を吸い尽くしている。
「一体何をされたんだ。疲れてるようにも見えるが、――無防備で、いつもに増して可愛いぞ、あんた。途方に暮れた子供みたいだ」
「上手いことを言う。その通りだ……」
子供扱いされて、途方に暮れているのだから、その通りだ。頭を机の上に戻して、横を向いたまま呟く。
社会人としての面目も気概も奪われている、と志貴は冷静に被害を分析する。分析したところで対策の立てようもないが、何もせず奪われたままというのも情けなく、無為と知りつつ足掻いているのだ。
「どうにもグダグダだな……拗ねているように見える」
「拗ねてなどいない。第一拗ねる理由がない」
「その言い草が拗ねていると言うんだ。前にも思ったが、あんたは拗ねると可愛らしさが跳ね上がるな」
「君の目は腐っている。そんな戯れ言を言う前に、一度君も彼に襲われてみたらいいんだ……」
ぺたりと机に懐いたまま、起き上がる気配もない志貴に、困惑しながらもテオバルドが近づく。机の横に立つと、やさしげな声音で、しかし断固とした調子で質してくる。
「可愛いのはそのままでいいから、そろそろあの男との関係を教えてもらおうか。上等な見た目に貴族の英語。あんなに熱く抱き合って、――イギリス時代の、あんたのオトコか」
「何をされたんだ」と訊ねておきながら、殆ど一部始終を覗いていたんじゃないか、と志貴は口をへの字に曲げる。
寒くなり、『スペイン語』の時間は喫茶店や志貴の執務室に場所を移していたが、約束の時間にはまだしばらくある。テオバルドはたまたま早く来て、志貴の遭難現場に出くわしたのだろう。
「オトコって何だ……私も男だ」
「はいはい、力一杯拗ねちまって。こんなに可愛い男、そうはいないけどな」
すっかり不貞腐れている志貴に、慰めようとテオバルドが手を伸ばす。拗ねて身を丸めた子供にするように、頭を撫でようとしたその時、
「無事か、志貴!」
鋭い問い掛けとともに部屋に飛び込んできたのは、一洋だった。
弾かれたように志貴は起き上がり、背筋を伸ばして座り直す。直前までのじっとりとした低空飛行ぶりは瞬時に霧散し、その変化にテオバルドが眉を上げる。
「黒木さんから、お前が金髪の美形に襲われていると電話があって駆け付けたんだが――何があった」
腕を掴まれ、立ち上がったところをすかさず抱き寄せられた。腕の中に捕らわれたまま指先で顎をすくわれ、上向いた顔を見つめられる。穏やかだが真剣な眼差しは、偽りも傷も見逃がすまいという強い意思を秘めている。昔、近所の悪童に突き飛ばされて肘を打ち、涙を堪えて帰ったのに、すぐに傷に気付かれた時とまるで変わらない。やさしい幼馴染の顔――つまりは、またも子供扱いだ。
21
あなたにおすすめの小説
あなたと過ごせた日々は幸せでした
蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。
逃げた弟のかわりに溺愛アルファに差し出されました。初夜で抱かれたら身代わりがばれてしまいます💦
雪代鞠絵/15分で萌えるBL小説
BL
逃げた弟の身代わりとなり、
隣国の国王である溺愛アルファに嫁いだオメガ。
しかし実は、我儘で結婚から逃げ出した双子の弟の身代わりなのです…
オメガだからと王宮で冷遇されていたので、身代わり結婚にも拒否権が
なかたのでした。
本当の花嫁じゃない。
だから何としても初夜は回避しなければと思うのですが、
だんだん王様に惹かれてしまい、苦しくなる…という
お話です。よろしくお願いします<(_ _)>
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
借金のカタで二十歳上の実業家に嫁いだΩ。鳥かごで一年過ごすだけの契約だったのに、氷の帝王と呼ばれた彼に激しく愛され、唯一無二の番になる
水凪しおん
BL
名家の次男として生まれたΩ(オメガ)の青年、藍沢伊織。彼はある日突然、家の負債の肩代わりとして、二十歳も年上のα(アルファ)である実業家、久遠征四郎の屋敷へと送られる。事実上の政略結婚。しかし伊織を待ち受けていたのは、愛のない契約だった。
「一年間、俺の『鳥』としてこの屋敷で静かに暮らせ。そうすれば君の家族は救おう」
過去に愛する番を亡くし心を凍てつかせた「氷の帝王」こと征四郎。伊織はただ美しい置物として鳥かごの中で生きることを強いられる。しかしその瞳の奥に宿る深い孤独に触れるうち、伊織の心には反発とは違う感情が芽生え始める。
ひたむきな優しさは、氷の心を溶かす陽だまりとなるか。
孤独なαと健気なΩが、偽りの契約から真実の愛を見出すまでの、切なくも美しいシンデレラストーリー。
あなたの隣で初めての恋を知る
彩矢
BL
5歳のときバス事故で両親を失った四季。足に大怪我を負い車椅子での生活を余儀なくされる。しらさぎが丘養護施設で育ち、高校卒業後、施設を出て一人暮らしをはじめる。
その日暮らしの苦しい生活でも決して明るさを失わない四季。
そんなある日、突然の雷雨に身の危険を感じ、雨宿りするためにあるマンションの駐車場に避難する四季。そこで、運命の出会いをすることに。
一回りも年上の彼に一目惚れされ溺愛される四季。
初めての恋に戸惑いつつも四季は、やがて彼を愛するようになる。
表紙絵は絵師のkaworineさんに描いていただきました。
BL 男達の性事情
蔵屋
BL
漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。
漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。
漁師の仕事は多岐にわたる。
例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。
陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、
多彩だ。
漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。
漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。
養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。
陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。
漁業の種類と言われる仕事がある。
漁師の仕事だ。
仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。
沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。
日本の漁師の多くがこの形態なのだ。
沖合(近海)漁業という仕事もある。
沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。
遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。
内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。
漁師の働き方は、さまざま。
漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。
出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。
休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。
個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。
漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。
専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。
資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。
漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。
食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。
地域との連携も必要である。
沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。
この物語の主人公は極楽翔太。18歳。
翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。
もう一人の主人公は木下英二。28歳。
地元で料理旅館を経営するオーナー。
翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。
この物語の始まりである。
この物語はフィクションです。
この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる